月光る、鍋煮込む


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作:煮込みおでん
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 深い深い緑が連綿と続く森の中。

 とある一角に、ぽっかりと空白が刻まれていた。

 

 響くのは剣戟の音。激突する、二つの影。

 

「「おでん二刀流!!」」

 

 空を突き進み、空白の直上。

 

「「桃源十拳!!」」

 

 両の手に握った大刀を体の前で十字に交差させ、空中で激突。衝撃と鋭い剣気が弾けて、周囲の梢を揺らし木の葉を散らす。

 

「――――フンッ!!」

「がっ!?」

 

 押し切ったのは、大柄な男。

 4(メドル)に迫る身長に、惜しげなく搭載された実用的で強靭な筋肉を有した特徴的な髪形の大男だ。その両手に握る大刀もまた体格相応。

 対する吹っ飛ばされたのは、男の半分ほどの身長の黒髪の少年。

 男に倣うようにして両手に携える二振りの刀だったが、今はその刀身は砕け散って最早刀としての体裁を保ててはいなかった。

 

「はぁ……はぁ…………!」

 

 草原に大の字で転がる少年。その傍へと男は着地すると、両手の大刀を腰の鞘へと納めてニンマリと笑みを浮かべた。

 

「わははははは!強くなったじゃねぇか、ボウズ!」

「はぁ……ッ、まだまだ師匠には敵わないか……!」

「当たり前だろ!おれはお前よりも長く剣を振るってきてるし、修羅場も潜ってきた!鍛えてやってるとはいえ、十年ぽっちで追いつかせやしねぇさ。だが、強くなったのは本当だぜ、ゴズキ」

 

 身を起こした少年、ゴズキ・菖蒲(アヤメ)の頭を傍らに膝をついた男は楽しそうに撫でまわす。

 大きな手だ。すっぽりとその頭を掴まれるほどに、大きくそして力強い。

 照れくささがありながらも、ゴズキは撫でられるがままに師匠である男を見上げる。

 

「なあ、師匠」

「なんだ?」

「旅って、そんなに良いものなのか?」

「ああ、最高だぜ」

 

 どすん、とその場に胡坐をかいて座り込んだ男に、少年は問う。

 

「そんなにか?」

「勿論だとも!未知を知り、見聞を広げ、視野を高く持つ。旅はな、おれたちをデッカク育ててくれんだよ」

「……師匠も旅をしたのか?」

「ああ。何物にも代え難い経験をした。友を得て、家族を得て、世界を見た……まあ、面倒を掛けちまったのは良くなかったか」

 

 うん、と男は頷く。

 

 この二人の出会いは、凡そ十年ほど前にまで遡る。

 三歳にして活発に駆け回っていたゴズキが、傷だらけの大男を見つけ、紆余曲折を経て治療を施して命を救ったのだ。

 それから、その礼として剣を教わり、戦い方を教わり、力を身に付けた。

 

 ゴズキが旅について問うたのは、彼が旅に出るための最低条件が男の教授する剣術の奥義を身に付ける事。

 押し負けたが、それはそれ。体格差と、元々の力量差を反映しての事だ。

 

「さて、ボウズ。いや、ゴズキ!」

「お、おう?何だよ、師匠」

「お前に、餞別だ!」

 

 そう言って、男は立ち上がるとこの草原の端まで駆け足で向かい、何やら抱え上げて戻ってくる。

 

「こいつを、お前にくれてやる」

 

 差し出されたのは長方形の箱。赤の飾り紐で封が施されており、上等なものだ。

 瞬きをしたゴズキはこれを受け取り、恐る恐る紐を解き箱のふたへと手を掛ける。

 

「っ……これって……」

「おれが使っていた刀の拵えを模してもらってな。二振り合わせて、六文銭!ってな」

 

 三文銭を模した鍔が特徴的な二振りの刀。

 一つは白、一つは紫がそれぞれに特徴的であり手に握ってみれば、無機物とは思えない“熱”の様なものが感じられた。

 

「…………師匠」

「世界を見て来い。世界は、とてつもなく、広いんだからな!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 世界の中心、オラリオ。

 地下に大迷宮を有し、この迷宮の蓋をするように点にそびえるバベルの塔は存在する。

 

「ここか……」

 

 伸びた黒髪をうなじで纏め、ゴズキ・菖蒲は大通りへと足を踏み入れた。

 萌葱色の袴に、白い着物。更に橙色の羽織を羽織り、足元は素足に下駄。腰の左側には、白と紫がそれぞれ印象的な拵えが施された二振りの刀が差されている。

 現在、14歳。しかし、既にその身長は180センチに迫る長身で、且つがっしりとした筋肉が備えられていた。

 旅に出て、およそ一年ほど。彼は漸く、この世界の中心地へと辿り着いたのだ。

 

「さて、と」

 

 懐へと手を突っ込み、ゴズキは一通の封筒を取り出した。

 

「まずは義理を果たすのが先か」

 

 それは、この一年の旅路で知り合ったとある女神より渡されたもの。

 ゴズキとしては、謝礼が欲しくて助けた訳ではないのだが、それでもその女神は義理堅くオラリオに向かうという事も相まって押し付けられるようにして持たされた。

 気持ちはどうあれ、活用しないのは不義理だろう。ゴズキはそう考える。

 とはいえ、この街には初めて来た。地理はからっきしだ。

 

「…………迷うのも旅の醍醐味、だったか」

 

 旅の始まり。腰に差した二振りの刀と共に、師匠と慕う男からの薫陶を呟き、ゴズキは歩き出す。

 

 そんな少年を文字通り高所から見下ろす者が居た。

 

「何て……輝きなの………」

 

 女神は、その瞳に映った魂の輝きに焼かれていた。

 宛ら、太陽か。轟々と燃え盛る業火とその火に包まれた光球。何より、

 

私たち()の助けなく、位階を駆け上がった魂、ね」

 

 それは、正しく英雄(異端)と呼ぶべき存在。自分たちの敷いた理を壊しかねない存在。

 

 ()()()()()()()()

 

 まず間違いなく、これからのオラリオにおける台風の目となるであろう存在。何より、その燃え盛る魂を自身の手元に置きたいと彼女は考えた。

 であるのなら、策を巡らせねばならない。

 

 そんな面倒くさい女神に目を付けられたなど知る由もないゴズキは、とある施設の前にまでやって来た。

 扉を開き、中へと足を踏み入れれば人のざわめきが出迎えてくれる。

 揃いの制服を着ている者たちと、そんな彼らが対応する性別は愚か種族も違う多くの人々。

 彼らを見やり、ゴズキは空いているカウンターへと歩を進めた。

 

「少し良いか?」

「あ、はい!大丈夫ですよ!」

 

 対応するのは、金髪にそばかすのあるあどけない顔立ちのエルフだ。

 

「実は、探している人……いや、女神が居るんだ。オラリオに居る事は聞いてるんだが、肝心のそれ以上の場所が分からない」

「女神様、ですか?」

「ああ。女神ヘスティアって言うんだが……」

「しょ、少々お待ちください!」

 

 ぱたぱたと離れていく受付嬢。

 その背を見送って、ゴズキは周囲を見渡した。

 

(恩恵、だったか……その割には、パッとしねぇな)

 

 案内状を書いてくれた女神から習った、神より与えられる恩恵とレベルアップ。

 だが、ゴズキの感覚になるが自分よりも強い者は今の所この場には居ない。師匠を引き合いに出すのなら、更にパッとしない。

 戦闘狂のつもりは無いが、それはそれとして戦いに身を置く者として強者との戦いは楽しい。

 

(あの蠍は強かった……お陰で、師匠の言う覇王色も目覚めたしな。やっぱり強敵との戦いが一番面白れぇ)

 

 思い出すのは、旅に出て半年ほど経った頃だろうか。

 気の向くまま、風の向くままに旅をしていた時の事。とある森へと辿り着き、そこで蠍型のモンスターに蹂躙されそうになっている一団を発見する。

 袖すり合うのも多少の縁、という訳ではないが見て見ぬ振りも出来ずに参戦したゴズキ。

 周りとの連携と彼自身の力の目覚めを経て、どうにか打倒する事に成功した。

 

 そうして、今に至る。

 ゴズキが物思いに耽っていれば、ぱたぱたと二つの足音がカウンターの向こう側へと戻ってきた。

 

「お、お待たせいたしました!」

「神の捜索でしたね?」

「ああ……難しいか?」

 

 金髪のエルフが連れてきたのは、赤毛の青年だった。

 彼は顎を撫でて頷く。

 

「そうですね。神々は、我々人類に恩恵を与えてくださりますが、その力の大半を封印して地上へといらっしゃるんです。個神差はありますが、自衛も儘ならない方も珍しくはありません。ですので――――」

「どこの馬の骨とも知れない奴には迂闊に話せないって事だな」

「そうですね」

「うーん………分かった」

 

 赤毛の職員の言葉に少しの考える間を挟んで、ゴズキは頷く。

 そして徐に、懐から一通の封筒を取り出した。

 

「こいつが、俺の身分証代わりだ」

「それは……」

「女神アルテミスが認めた、紹介状……らしい。俺も、その神ヘスティアに見せてくれとしか言われてなくてな」

「!オラリオ外部で活動されているファミリアの主神ですか……失礼いたします」

 

 封筒を受け取り、青年はしげしげとその表面を眺める。

 アルテミス・ファミリアの紋章が刻まれたソレは、成程本物であるらしい。

 同時に考えるのは、カウンターを訪れた少年の事。

 背丈は高く、同時に屈強と呼べるほどに鍛え上げられた体格をした彼は、しかしその顔立ちにはまだまだ幼さが見て取れる。

 長年、多くの冒険者を見てきた青年は独自の審美眼を持っていた。

 

(特大の原石、といったところでしょうかね)

 

 波乱の種がやって来たのかもしれない。

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