スクラップ・リビルド:〈EXAM RX-96〉 — 屑鉄の王と星鉄の戦姫 —

磯崎雄太郎

Prologue 或いは、悪魔の哄笑、母君の怒号

 空を切って飛ぶ鳥たちはみな

 喜びに溢れた素晴らしい世界を生きている

 五感に閉ざされたあなたたちに

 どうしてそれがわかろうか


   ——ウィリアム・ブレイク


×


「企業の兵士は女も撃つのか!」


 凛とした女の声が響いた。

 女はアンドロイドである。しかし、一切の制御ウェアも跳ね除ける脱獄アンドロイドであり、秩序と統制を重んじるその企業にとっては、優先抹殺対象であった。

 企業軍の兵士は、女を崖の間際まで追い込んでいる。六人の大の男が、常人ならば一発でも喰らえば手足が吹き飛ぶような自動小銃を女に向け、冷酷に、レーザーサイトが頭部と胸、腕、足に向けられる。


「いくらアンドロイドでもその高さからじゃ助からんぞ。撃たれて死ぬか、落ちて死ぬか、選べ」

「質問に答えろッ!」


 アンドロイドは、やけに腹を気にしていた。爆弾か何かを抱えている危険があった。起爆される前に仕留めるか落とさねば。


「男女平等が資本主義の基本理念だ。特に戦場じゃあ、平等に扱われるだけマシだろう」

「勝てば官軍負ければ賊軍。……賊軍の女は悲惨なもんだ。企業令嬢から役人の奥方が次の日にゃ二束三文で体売って股開いてんだからな!」


 ゲラゲラ笑う下品極まりない男ども。

 下衆。まさに、それだ。

 つくづくもってアンドロイドを、女を——。


「バカにする!」


 アンドロイドが左腕を薙いだ。仕込まれていた機銃が炸裂。九ミリ徹甲弾が兵士三人の頭をヘルメット越しで、かつ水平に連続してヘッドショット。

 残った三人のうち、若い新兵が悲鳴をあげ、銃を撃った。


 その弾丸が、アンドロイドの左肩を抉る。六・八ミリ高速ライフル弾が食い込んだ。炸裂弾なのか、直後小爆発。腕が吹っ飛んだ。

 剥き出しのコードからスパークが散り、体がぶん殴られたように弾かれて崖ぎわに追いやられ、さらなる弾丸が右胸を貫通。爆発する。

 アンドロイドが、一人の女が、落ちていった。

 彼女には意志があった。感情があった。だからこそ、アンドロイドを「兵器」として認識しているその企業は——アルタイル重工は、迷わずに撃ったのだ。

 そしてそれは他ならない——アルタイル重工自信が、彼女の人間性を認めている証である。あまりにも、皮肉であった。


「はあっ、はぁ……ちくしょう、ちくしょう……本当に俺らを撃ちやがった……」

「落ち着け新入り、お前はよくやった、仇を取ってくれたよ。ベンもカークも、ジェイコブも報われる」


 幸い生き残った専任曹長が、新入りの兵卒に水を飲ませてやる。


「銃を置いて、少しらくな姿勢を取れ、お前の責任じゃない。いいな、……いいな?」

「っ、はい……」


×


 落下したアンドロイドは、その意地で腹を守った。

 


 翌日、地元の鋼賊こうぞく——「アイアンハウンド」の連中が、赤子の鳴き声を聞いてその子を拾った。

 状況から死んだアンドロイドが産んだと見られ、彼らはその子を「鉄の子供イェルンバルン」として、大切に育てたという。


 ——それから、十八年。

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