高速ジェット船「ジェットフォイル」とザトウクジラの衝突リスクが、沖縄本島周辺海域では東京・伊豆諸島周辺に比べて70倍以上になることが、沖縄美ら島財団(本部町、湧川盛順理事長)の調べで分かった。久米島オーシャンジェット(下地幹郎会長)がジェットフォイルでの定期便を就航させる予定だが、全国に比べて本島周辺にはクジラが多く、研究者は「衝突の危険性が高い」と危機感を強める。生態系への影響と航行の安全を見据え、関係者が協議を進めている。(政経部・大川藍)
ジェットフォイルは水中翼(ブレード)の揚力で船体を海上に浮かせ、強力なジェットエンジンで進む。水中でエンジン音がしないため、クジラが船の接近に気付かず、衝突を回避しにくい。国内では年に1回程度、ジェットフォイルとクジラの衝突事故が発生。過去には佐渡汽船(新潟県)の船がクジラと衝突し、乗客100人余りが重軽傷を負う事故なども起きている。
久米島オーシャンジェットは11月から「那覇-久米島」「那覇-本部」の2航路の定期便を就航させる。時速83キロで走行し、那覇と本部を最短60分で結ぶ。7月に開業するテーマパーク「ジャングリア沖縄」のアクセス改善を見据える。
一方、航路近くではクジラが多く確認されている。沖縄美ら島財団は2011年から14年にかけ、本島周辺のクジラの定量調査を10回にわたり実施。1回当たりの航行で平均10・3群を確認した。全国の発見頻度と比較したところ、伊豆大島周辺の73倍、熱海周辺の103倍だった。
同財団総合研究所の小林希実係長は「沖縄周辺でのジェットフォイル運航は、他の地域より衝突の危険性が格段に高い」と警鐘を鳴らす。
西部北太平洋海域に分布するザトウクジラは個体数や情報が少なく、絶滅危惧グループに分類される。個体数は世界的には回復傾向にあるものの、繁殖海域は沖縄周辺や小笠原諸島周辺などに限られ、保全が課題となっている。