Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Run aground on a reef

「獅童さん! 出て来て説明してくれよ!」

 

「本当にあんたが悪いことしたのか!?」

 

「何かの間違いだって言ってくれ!」

 

 予告状が出された直後から、国会議事堂の前には映像を見た群衆が集まり、獅童を呼ぶ声に満ちていた。それを少し離れたところから怪盗団が窺っている。

 

「予告状の効果は絶大だな」

 

「でも、獅童の改心を望む声は多くないね」

 

 群衆を横目に呟く祐介に、春が不安そうな声を漏らす。国会議事堂の前に集まった群衆は確かに予告状を見て混乱している。だが、その混乱は怪盗団によって告発された悪事を追及する方向ではなく、それが間違いであると獅童の口から説明して欲しいと乞う声ばかりだった。

 

「あれだけのことがあっても、獅童の改心を望む声は多くないのよね……。私達のやろうとしていることって、『正義』なのかしら……?」

 

 彼らの声を聞いた真も、目を伏せてそう言う。正義という言葉、それが自分達に似つかわしいものでないことを、彼女も考え始めていた。彼女達とは違ったやり方で、けれど誰かを救おうとする人間を見ていたから。

 

「私達が『正義』だろうと『悪』だろうと、関係ない」

 

 そんな真の不安を払拭するように、蓮がハッキリと口にした。

 

「怪盗団は自分達が正しいと思ったから戦う。誰かがそれを悪と言っても。だから私達は『怪盗』を名乗る」

 

「その通りだ。ワガハイ達を悪く言う奴らには結果を見せて黙らせてやれば良い。とっととシドーを改心させてやろうぜ!」

 

 リーダーである蓮の言葉に、モルガナも同調する。怪盗団は自らの中にある正義に従う。それが他の誰かに間違いや悪と謗られたとしても、それで助かる誰かがいるならば泥を被ることすら厭わない。それが『怪盗団』であると蓮は自分達の存在を示した。

 

「うし、それじゃあ行くか!」

 

 気合十分とばかりに拳を固めた竜司の号令と共に、彼らはスマホにインストールされた赤い目玉のアイコンをタップする。それこそ、獅童の認知世界に入る為のアプリ。周囲の空間がぐにゃりと歪み、国会議事堂を中心として世界が塗り替わっていく。獅童が認知する世界へと。

 

「……って、何だよこれ」

 

 意気揚々と獅童の認知世界へと乗り込んだ怪盗団だったが、その一歩はしかし目の前に広がった予想外の光景に止まることになる。竜司はポカンと口を開き、上を見上げて呟く。

 

「予告状の効果、にしては劇的過ぎる」

 

 周囲の分析を得意とする自身のペルソナを展開した双葉が、周囲の情報を取得しながら自分達の目の前で起こっている変化を解析しようとする。

 怪盗団が昨日まで見ていた獅童の認知世界は、国会議事堂の周囲のみが豪華客船となり、水底に沈んだ日本を航海しているもの。それがまた様相を変えていた。倒壊したビルが幾重にも重なった岩礁に乗り上げ、あちらこちらから警備を担当していたであろうシャドウが船から転げ落ちている様子。

 

「この変化、カネシロのときと似てるな……」

 

「文字通り暗礁に乗り上げたってこと?」

 

 モルガナと真はその変化を見て、かつて金城の認知世界でも起きた出来事と重ね合わせる。金城のときは彼の本拠地であった宙に浮く銀行が墜落していた。今度は獅童の本拠地であり、沈みゆく日本という国の中で唯一の希望である船が暗礁に乗り上げて身動きが取れなくなっている。

 

「徹……今度は何をしたの?」

 

 それを引き起こしたであろう張本人の顔が脳裏に浮かんだ蓮が、その名を口にする。予告状を出しただけでは起こり得ない変化を、彼はこうして起こしてしまう。

 

「急ぐべきだろう。この状態、もしかするとパレスが早々に崩壊する可能性もある。オタカラを奪うチャンスを逃すわけにはいかない」

 

 ガラリと様相を変え、オタカラまでのルートが変わってしまったかもしれない危惧から足が止まる怪盗団の面々に向かい、祐介がそう急かす。祐介も、この変化を引き起こした人物については思い当たるところはある。そしてその人物ならば下手すると更に大きな変化を獅童の認知世界に起こす可能性があるとも考えていた。そうなる前にオタカラを奪い、改心させる必要がある。

 

「お、おう!」

 

「……祐介の言う通り、急ごう」

 

 祐介の言葉に竜司と蓮がそう返し、気を取り直したように皆国会議事堂の中へと足を踏み入れる。

 

「キャプテンはどこだ!?」

 

「わ、分かりません!」

 

「どうして岩礁があるのに気付かなかったんだ!」

 

「見張りや通信士の連中は何をしていやがった!?」

 

「そ、それが気付いたら全員いなくなっていて……」

 

 船の中は外から見る以上に蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。誰も怪盗団がいることなど気に留めることも無い。そんな余裕も無いと言わんばかりに右から左へと走り回っていた。

 

「私達を気にする余裕も無さそう」

 

「俺達が手を出すまでも無く船沈むんじゃねえの……?」

 

 周囲を走り回るシャドウにぶつからないように進みながら、杏と竜司がそう口にする。もはや船の中には優雅なパーティを楽しんでいた招待客の姿もどこにもなかった。獅童の認知の中で、彼が船に乗せるに値すると考えた人間が全て消え去っていることを示すように。

 そして怪盗団は船の最奥に位置する本会議場へと辿り着く。扉から漏れ聞こえてくる拍手と「本議題は満場一致で可決となりました」のアナウンスが、外の騒ぎに紛れて虚しく響いていた。

 

「ここだけは変わらないな」

 

「こんな時だってのに本会議場で投票とかしてるのかよ……」

 

 祐介と双葉が少し呆れたように言い、扉に手を掛けて後ろを振り返る。準備は良いか? と問うような二人の視線に、蓮が頷けば、二人が扉を勢いよく開け放ち本会議場へと踏み込んだ。

 

 半円形のホールは、中心に向かって階段状に椅子が並べられている。最奥の壁には巨大なダルマが描かれており、今はそのダルマが描かれた垂れ幕は左右に開かれ、周囲よりも高く位置した中央の演壇が見えている。そしてその演壇のところに立つ一人の男。

 

「獅童……!」

 

 演壇の下まで駆け寄った蓮が、その男の名を呼ぶ。その声に、背を向けていた男が怪盗団の方へと振り返る。その顔には苛立たし気な表情を浮かべており、怪盗団の姿を認めた獅童はため息まで吐いてみせた。

 

「怪盗団。この忙しい時に……、まあいい、文句があるなら聞いてやる」

 

 聞き分けの無い子どもを仕方なく相手にしている。そう言わんばかりの獅童の態度に、怪盗団の心に怒りが満ちる。

 

「お母さんの研究を奪って……、命まで奪った!」

 

「自分の利益のために、好き放題して! 人をなんだと思っているの!」

 

「明智もそうやって利用して、最後には切り捨てるつもりだったんだろう!」

 

 双葉、春、祐介がそう言って獅童へと詰め寄るが、その剣幕に表情一つ変えないまま獅童はまた一つため息を吐いた。

 

「改革に痛みはつきものだ。一色若葉の研究はこの国を再び強くする可能性を秘めていた。公開せず、国の極秘研究としていればこの国は世界の全てを支配することも可能な力を手に出来たというのに。それをあの女、心理治療の可能性の為だと抜かして学会で公表しようとした」

 

 信じられん間抜けだ、と獅童は吐き捨てた。

 

「俺の利益のため、と言ったな。だが俺の利益は俺以外の利益でもあったわけだ。お前の父親だってその恩恵に与った一人だ。そして間接的にはお前も。人を何だと思っている? 愚か者だと思っているさ。自分では何も動こうとしないくせに、文句ばかりは一丁前だ。無能なくせに、人の細かな欠点を史上最大の醜態かのように騒ぎ立てて潰す。醜い豚でしかない」

 

 だから俺が導いてやろうと言うのだ、と獅童は両手を広げて怪盗団へと自身を示した。それと同時に、空っぽだった周囲の席から獅童を称えるように拍手を繰り返す人間が次々と立ち上がる。

 

「明智も一緒だ。何も自分では考えない自作自演の名探偵。少しおだてただけで手懐けられる。あの力が無ければ俺の目の前に姿を現した瞬間に殺していた」

 

 愚か者は優秀な人間に委ねていればいい。この私が、導いてやるよ。傲慢に言い放つ獅童は、自分が間違っていない、間違っているのは怪盗団だと暗に示すように彼らを指差した。

 

「明智がいなかったらここまで来れなかったくせに!」

 

 杏が怒りと共に獅童に言い募るが、それを言われた獅童は平然と聞き流す。

 

「力があったとて、俺が正しく使えたから俺は今この場にいる。お前達のように行き当たりばったりで感情に任せた愚図では無いからな。お前達がやったことは徒に大衆を熱狂させ、暴走させただけだ。俺はきちんと大衆に支持を受け、総理の椅子に座る。お前達がやっていることは、盗んだバットを振り回して暴れ回るチンピラと変わらん」

 

「それを言うなら、あなたこそ大衆を騙し、熱狂させ、権力の座を掠め取ろうとしているコソ泥。『怪盗』よりもよっぽど見苦しい」

 

 怪盗団を喝破してやったと口角を上げた獅童に、静かな、しかし鋭い言葉が突き刺さる。それを発したのは、怪盗団のリーダーである蓮。その目は言葉と同じく冷たい炎を宿していた。

 

「自分が間違っていないと思うなら、何故あなたの船は暗礁に乗り上げているの? 周りで拍手している人は皆同じ顔。誰もあなたを真に認めてないとあなた自身が思っているから、ただのハリボテ。この本会議場にはあなたと私達以外誰もいない」

 

 その言葉に、獅童の顔がピクリと震える。それは怪盗団が初めて獅童から引き出した反応。

 

「なるほど、小賢しいことを言う。まるであの海藤とかいうガキのような」

 

 今度は怪盗団が驚く番になった。獅童の口から見知った人物の名が出てくるなど思いもよらなかったから。彼が蓮の代わりに怪盗団の嫌疑を掛けられて捕まっていたとしても、その名が獅童の口から出てくるとまでは思っていなかった。

 

「確かに俺は今、追い詰められているだろう。だが、それはお前らのままごとのせいなんかじゃない。俺の立てた計画を見抜き、その弱点を狡猾に狙うことが出来た人間のせいだ」

 

 首を横に振って怪盗団なんかに負けたのではないと言う獅童は、自分自身に言い聞かせているかのよう。

 

「なら俺は奴を能力があると認めるつもりか? いや、そんな馬鹿な。俺が認めるなど、そんな訳が無い。だが、俺は現に追い詰められた。船は暗礁に乗り上げている。それはコイツらのせいか? 違う! 断じて!」

 

 その言葉と共に獅童の拳が演壇に振り下ろされ、大きな音を立てる。

 

「認めてたまるか。俺の計画をあんなガキに見抜かれただと!? そして怪盗団までもが俺を出し抜いてここまで来るきっかけになっただと? 認めてたまるかァ!」

 

 突如怒りの声を上げた獅童が、向ける先の無い苛立ちをぶつけるように演壇に次々と拳を振り下ろす。その剣幕は、怪盗団は誰もが言葉を失ってしまう程のもの。ほどなくして、肩で息をした獅童の足下には既に演壇としての用を為さなくなった残骸だけが転がっていた。

 

「……お前達に改心させられてしまえば俺は自分の罪を自白してしまうだろうからな。だが、その前にお前達を排除してしまえば何も問題は無い」

 

 その言葉と共に、本会議場が大きく揺れる。獅童の立つ演壇が天井へとせり上がって行き、その左右から新たな天井が伸びて来て怪盗団の頭上を塞ごうとする。

 その動きに気付いた彼らが、獅童を追うように伸びてきた天井を足場として上を目指して登って行った先には、蹲った姿勢の黄金の人形が連なった階段を踏みしめて上る獅童の姿。

 

「俺は最後は俺自身の力で這い上がってきた。その果てに、多くの人間を従え、この場所にいる。俺は神に選ばれた人間だ。……そして、神は無慈悲に背信者を排除する」

 

 スーツ姿であった獅童の姿は、いつの間にか長い棘の付いたヘルメットを被り、赤いマントを靡かせる軍服姿へと変貌していた。そんな獅童を、黄金の人間が複雑に絡み合って形作られた獅子が背に乗せて怪盗団を見下ろしている。

 

「さあ、速やかに死にたまえ。俺はお前達にかかずらっている暇なんか無いんだ」

 

 

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