Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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I missed you

「もうすぐ選挙だな」

 

「どう考えても獅童の一人勝ちだろ。ま、当たり前だけど」

 

「ようやく国を任せたいって思える政治家が出てきたな」

 

「もう獅童に投票しない奴なんて非国民だろ」

 

 選挙が近づくにつれ、町を歩く人々の口から出るのは獅童議員の話題ばかりになった。その他の候補などもういない。獅童議員以外を選ぶようなら人に非ずとまで言ってしまう人までいる。テレビや新聞で報道される以上に、獅童首相待望論は世間の人々の中で膨らんでいっているようだった。

 

「獅童議員がカリスマがあると言え、ここまで熱狂するほど……」

 

 その様子は僕からすればいっそ異様な光景だ。まるで選挙などではなく、何かの祭りかのように人々は熱狂している。文字通り熱を帯びて、一人の男の名を有り難がって念仏のように唱えているのだ。

 

「まるで少し前の怪盗団みたいな……」

 

 何かに似ていると思った僕の頭に蘇ったのは、少し前に過熱していた怪盗団人気。そのときも、まるで怪盗団が正義の代理人であり、彼らを支持することが当たり前だと言わんばかりの空気が蔓延していた。その対象が怪盗団から獅童議員に移り変わったような印象を受けた。まるで羊飼いに導かれる羊のように、全員が同じ方向に向かっている。それが不健全だとまでは言わないけれど、少し不気味なものを僕には感じさせた。

 

「……この状況をひっくり返したとして、この信仰が収まるとは思えないけど」

 

 全てが獅童議員の口から語られたとして、これだけの人々を狂わせる彼のカリスマが本物だとしたら、それすらも呑み込んで彼が人々の上に君臨してしまう未来があるのかもしれない。

 いつか、丸喜先生と認知世界について話したことを思い出す。例えば多くの人は固有の認知世界なんて持っていなくて、無意識の認知世界を共有していたとして。そんな世界を支配出来る存在がいたとしたら。

 

「……この人達の中では、獅童議員が神様か何かかと認知されているのかもしれない?」

 

 僕の呟きは、地下鉄の構内に進入してきた電車の騒音に掻き消されてしまった。自分で言っておきながら突拍子もないことだと笑ってしまいそうになりながら、僕は暖房の効いた電車へと乗り込んだ。

 

「まさか自分が通う高校に堂々と入ることが出来ない日が来るなんて思いもしなかったなぁ」

 

 まだ日が高く、皆が授業を受けているであろう昼前の時間。僕はララさんに断ってまたお店を出て、秀尽学園へと足を運んでいた。人気のいない廊下をスタスタと歩いて行き、僕は目的の部屋に辿り着く。幸いにも鍵は掛かっておらず、あっさりと部屋の中に入ることが出来たので、中にあった椅子に腰かける。昼休みまであともう少し。本当なら、丸喜先生にでも会えたらと思ったのだけれど、そういえば彼は一か月前に任期を終えて学園を去ってしまっていたっけ。

 そんなことを考えながら、僕は久しぶりに訪れた生徒会室をぐるりと見回す。もうそろそろ僕や真の任期も終わりだけれど、思った以上に色んな事が起こった一年だった。一年前の自分に言っても信じてもらえないようなことばかりだ。警察の取り調べを受けることになるなんて誰が予想出来ただろう。

 そうして手持ち無沙汰に物思いに耽っていると、生徒会室の扉が開く音がして、僕の意識が現実に引き戻される。

 

「徹……?」

 

 その声を聞くのは随分と久しぶりな気がする。

 

「や、真。久しぶりだね」

 

 そう言って椅子から立ち上がり、入り口の方に目をやれば、そこには零れ落ちてしまいそうなほどに目を見開いた真が立っていた。僕が取り留めの無いことを考えているうちに昼休みになってしまっていたみたいだ。

 

「せ、生徒会室の電気が付いてて……、それで誰かいるのかって思って……」

 

 真はそう言いながらヨロヨロとこっちに向かって歩いてくる。その様子を見て、やっぱり随分と心配をかけてしまったと申し訳ない気持ちになる。仕方ないこととはいえ、もう少し早く真に無事を直接伝えられれば良かった。

 

「うん、連絡もせずにごめん」

 

「あなたのことを疑って……、でもあなたはずっと私達のことを信じてくれてて」

 

 僕の方に伸ばされた真の手を取る。彼女の手が震えているのは寒さのせいじゃないだろう。随分と心配を掛けてしまったのだと思う。色んな人に申し訳ないと思う気持ちはあるのだけれど、真の今にも泣きだしてしまいそうな顔を見るとより一層そんな気持ちで胸の辺りが締め付けられてしまう。

 

「僕の方こそ、秘密にしていたことが多かったからね」

 

「……無事で、良かった!」

 

 その言葉と共に、真の顔が僕の胸の中に埋められた。肩を震わせる真を宥めるように、彼女の頭に手を置いた。今しばらくは、落ち着くのを待った方が良いだろう。

 

「…………不覚だわ」

 

「真? ちょっとずつ腕に籠められた力が強くなってきてない?」

 

 少しずつ落ち着いてきた真。それと同時に少しずつ僕の右腕を握る真の手の力が強くなってきていた。下を見れば、真は僕の胸に額をくっ付けたまま、けれど髪の隙間から覗く耳は真っ赤に染まっていた。

 

「こんな、こんなタイミングであなたと会うなんて思っていなかったから!」

 

「本当なら警察署から抜け出せたときに会えたら良かったんだけどね。中々そういう訳にもいかなかったから」

 

「そう、そうよ! 蓮だけ、ず、ズルいと思ったわ!」

 

「ズルい?」

 

 落ち着いて来たかと思うと、また少し上ずった声になる真。そして緩く握られた左拳が僕の胸にポカリと当たった。

 

「私だって、徹のこと心配してたのよ……」

 

「うん、ごめんね。謝ることしか出来ないや。約束も破っちゃったしね」

 

「約束……?」

 

「後夜祭、一緒に回ろうって言ってたけど、守れなくてごめん」

 

 約束と聞いてピンと来なかったのか、そこで真が僕をそっと見上げた。涙はもう乾いたようだけど、目尻がまだ赤くなっている。

 

「後夜祭……、楽しみにしてたのよ」

 

「僕も」

 

「ずっと私達を信じて守ってくれてたのに、ごめんなさい」

 

「お互い様だよ。僕も怪盗団に、真に助けられたんだから。今もそうだよ」

 

「取り返しのつかないことに巻き込んじゃったって、ずっと不安だった」

 

「僕が自分で選んだことだよ。真達を助けたいって」

 

 赤くなった目を僕から逸らして、真はまた僕の胸に顔を埋めた。一言謝ろうと思って学園に足を運んだけれど、来て良かったと思えた。これだけ心配してくれた人をずっと放って置いてしまっていたのだから。

 

「私にこんなこと言う権利なんて無いのは分かってる」

 

 僕の胸に顔を埋めたまま、真はポツリポツリと話し始める。

 

「お姉ちゃんみたいにあなたと協力してきた訳じゃないし、蓮みたいにあなたを助けられたりしない」

 

 でも、と真は続けた。

 

「私だってあなたをずっと見てきたんだもの。……寂しかった」

 

「うん、寂しい思いさせてごめんね」

 

「……私の八つ当たりだって分かってる」

 

「そうかな。真にはいつも迷惑を掛けちゃってると思うよ」

 

 また真の左手が僕の胸を叩いた。

 

「優しいのね。……そういうところ、ズルいわ」

 

「真には嫌われたくないからね」

 

「……嫌いになる訳ないじゃない」

 

 僕の胸を叩いていたはずの真の左手が、今度は僕の服をぎゅっと掴んだ。そして再び、真が顔を上げて僕と目を合わせる。その表情は、ついさっきとは打って変わり、何かを決意したようなものだった。依然として顔は少し赤かったけれど。

 

「……後夜祭のとき、あなたに言おうと思っていたことがあったの」

 

「言おうと思ってたこと?」

 

「……その」

 

 真が口を開こうとしたとき、僕は何やら視線を感じて入り口の方に自然と目が向いた。そして扉の隙間からこっちを覗く目とバッチリと視線がぶつかってしまったのだった。

 

「あー、真。その話って、僕以外に聞かれても大丈夫なやつかな?」

 

「え?」

 

 僕の言葉に、真も何のことかと僕の見ている方向に視線を向け、そして見る見るうちに顔が沸騰するように赤さを増していった。

 僕達に完全にバレたことが分かったのか、覗き犯が少し決まり悪そうに扉をそろそろと開ける。そこに立っていたのは、こちらを興味津々といった表情で見守る蓮と高巻さんの姿。二人して少し顔が赤くなっていた。

 

「えーと、ごめんね?」

 

「いつから見てたの……?」

 

「私がズルいってとこから」

 

「っ~~!!」

 

 大方のやり取りが見られていたということに気付いた真が声にならない声をあげる。そして何故か僕が怒られた。

 

 


 

 

 蓮と高巻さんに見られたことがよほど堪えたのか、真は椅子の上で膝を抱えてしまい、それを高巻さんと蓮が両側から慰めるように頭を撫でていた。

 

「もうやだ……」

 

「大丈夫、真はとても可愛かった」

 

「まあまあ、大事な大一番の前にそれは死亡フラグってやつだし……」

 

「死亡フラグって何よぉ……」

 

 慰めている……のかどうかは分からないけれど慰めていた。そして何故か真のジト目が僕に突き刺さる。

 

「もっと別の場所で再会したかったわ」

 

「学校の方がまだ安全だと思ったからね。それで話は変わるけど……ここに来るまでの町の人の様子を見てると事態はかなり逼迫してるみたいだ」

 

 もはや今の流れは、獅童議員一人が止まったところで潮目が変わることは無いんじゃないだろうかと思わされるくらいに。

 

「獅童一人の改心じゃ流れが変わらない……?」

 

 蓮が僕の言葉を反芻し、高巻さんもいまいち理解しきれないと首を傾げている。これは僕の勝手な想像でしかないから、ただの杞憂だと思われたらそれまでなのだけど。

 

「町の人達は皆、獅童議員こそが次の首相だと信じ込んでる。彼一人が自白したとして、それで全てが解決するとは限らないかもしれない」

 

「皆が獅童を許すって言うの?」

 

「許すという言い方が正しいかはともかくとして、僕達が期待する結果が得られない可能性もある」

 

 確実なことは何一つ言えないけどね、と真には返す。僕は認知訶学で言及されているものを実際に目にしたことは無い。だけど、一人の歪んだ認知を矯正したとして、大衆の認知そのものが歪んでいたとしたら。

 

「本当に、大衆は獅童議員を認めない方向に変わってくれるのか。そうでないときに採れる手立てがあるのかは、考えておいた方が良いかもしれない」

 

 大衆の認知なんてものが本当にあったとして、それを自由に改変できる力なんて無いに越したことは無いんだけどねと僕は続けた。

 

「それじゃ、僕は帰るよ」

 

「え、帰っちゃうの?」

 

「あんまり派手に人目に触れると、流石に僕の存在が獅童議員の耳に入るかもしれないからね。蓮だってそうだろう?」

 

 僕が帰ると聞いた高巻さんが意外そうな顔をする。僕は獅童議員の中では死んだことになっているはずだ。明智君の手によって人目につかず葬り去られたことになっている。蓮だって、本当はあまり人目につくようなことをするのは良くないはずだ。むしろどうして蓮も学校にいるんだ。

 

「私も協力者に顔を見せに来ただけ」

 

「川上先生のこと? それとも芳澤さん?」

 

 彼女が学校に来ないと会えない人物で、尚且つ協力者と言う人間といえば僕の頭に浮かぶのは川上先生か芳澤さんだ。文化祭準備で何度か話したときも、川上先生は蓮のことを気に掛けているようだったし。

 

「……相変わらずよく人を見てる」

 

「何となくだけどね。さて、真にも会えたし、伝えたいことも伝えられた。次に会う時は、怪盗団の仕事が終わったときかな?」

 

 そう言って僕は席を立つ。本当は真に会って一言謝れたらそれで良かったのだけど、蓮や高巻さんにも会えたから少し余計なことを喋ってしまったかもしれない。心配し過ぎて変なことまで気にしてしまうのは僕の悪い癖だ。それで彼女らの不安を徒に煽っているのだから。

 僕が部屋を出ようと歩き出したところで、袖を軽く引かれた感覚がして立ち止まる。何かと思って振り返ってみれば、まだ少し顔に赤みが残った真と目が合った。

 

「ん、どうかした?」

 

「あ、その……」

 

 何かまだ話しておかないといけないことがあったかと考えて、そりゃ昼休みのちょっとした時間じゃ足りないに決まってるかと思い直す。

 

「さ、さっきの話のことだけど!」

 

「さっきの話?」

 

「後夜祭のときに言おうと思ってたこと……。あれ、全部終わったらちゃんと言うから! 電話とかじゃなく、直接……」

 

「……うん、分かった。待ってるよ」

 

 だから、真もどうか気を付けて。

 

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