Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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He is mine...

 海藤徹が警察に連行される姿は、秀尽学園の生徒の多くが目にするところとなった。

 翌日には教師から校長の不審死に関する重要参考人として事情聴取を受けていると説明があったものの、それ以降も登校してこない彼に対し、憶測が飛び交うのも無理はなかった。

 そんな中、週末の放課後に怪盗団の一行は明智を喫茶ルブランへと呼びだしていた。

 

「さて、考える時間はたっぷりとあったはずだ。君達の答えを聞かせてもらおうか」

 

 CLOSEDの札を入り口に掲げ、買い出しに行ってくると気を利かせた佐倉惣治郎の足音が遠ざかったのを確認してから、明智はそう切り出した。

 

「連日、ニュースは怪盗団を糾弾する声ばかり。ついには懸賞金まで掛けられた。怪盗団は金目当ての人間が血眼で探すトロフィーになってる」

 

 明智の言葉に、蓮達は黙り込むしかない。ここ数日の学園の生徒達、町行く人々が怪盗団を非難し、その懸賞金を得ようと手当たり次第に聞き込みをしている姿を目にしてきたからだ。

 

「そして徹は今、警察に連行されて帰ってきていない。秀尽内でこの話が留まっているのも時間の問題だ。怪盗団は海藤徹。そういう風評が出来上がってしまう土台は既に出来ている」

 

 そして警察はそれを簡単に容認するだろうね、と付け加えた明智に、真が勢いよく立ち上がって反応を見せた。

 

「嘘でしょ……! 警察が何の罪もない一般人に濡れ衣を着せるって言うの!?」

 

「今の世論は怪盗団を追及する方向だ。これまで目を付けてきたホシを怪盗団に掻っ攫われてきた警察はその威信にかけて怪盗団を捕まえようと必死だよ。それに言っただろう、徹は冴さんを通じて捜査情報を抜き取っていたと見做されているって。警察は徹が怪盗団でなくとも怪盗団に捜査情報を売り渡していたと考えてる。彼らは裏切り者には人一倍厳しいからね」

 

「待てよ! だったらお前が副会長は何も関係ないって言えば良いじゃねえか!」

 

 淡々と説明を続ける明智に我慢ならないと言いたげに竜司が吼える。しかし、明智がそんな竜司に冷たい視線を寄越したことで、竜司はそれ以上の言葉を紡げなくなってしまった。

 

「僕は所詮外部協力者でしか無いんだ。それに僕だって徹と一時期協力していた時期がある。警察からの信頼に疵が付いているのは僕だって同じだ。何より……、僕が何の手も打たなかった訳が無いだろ」

 

 最後にポツリと呟いた言葉は、静かな口調ではあったものの怪盗団の全員が身を固くしてしまう程の威圧感を伴っていた。

 

「だからこそ、君達に接触したんだ。徹が捕まっている間に怪盗団による改心が起これば疑いは晴れる。そして君達は次の改心を最後に怪盗団を解散してもらう」

 

 怪盗団の改心を許容する社会はもう無い。徹が危険視していたその力は、一般人にすらその危険性が知れ渡るものになったんだ。

 その言葉を最後に、明智と怪盗団の双方がしばらくの間口を閉ざす。明智は自らの言葉を怪盗団全員に理解させるため、怪盗団は明智の言葉によって突き付けられた現実を受け止めるため。

 

「……次の改心が、怪盗団最後の仕事?」

 

「……そうだね、次が最後だ」

 

 しばらく経って、他の面々を代弁するように漏らした蓮の呟きに明智は頷いた。

 

「僕としても徹は絶対に救いたい。だから次の改心については僕も協力する」

 

「……怪盗団は全会一致が原則」

 

 どうする、と蓮は竜司達を見渡す。

 

「調子に乗ってた俺らを副会長はずっと庇ってくれてたんだろ? だったら次は俺らが助ける番だろ!」

 

「私も賛成! 志帆のことだって、助けられっぱなしだし!」

 

「疑っていた手前、些か気まずいところはあるがな」

 

「絶対に助けるわ。……まだ言えてないことがあるんだもの」

 

「認知訶学について、お母さんについて知ってることもありそうだし」

 

「私も、お父様のことについて聞きたいことがあるから」

 

 蓮の言葉に竜司達は揃って賛成の意を返す。それを聞いて頷いた蓮は、傍らで椅子にチョコンと座っているモルガナへと目を向ける。

 現実世界では猫の姿をした蓮の相棒。認知世界で本人と会話をしたわけではない為、現実世界で猫の姿をとるモルガナは徹と話をすることが出来ない。それ故に徹と最も距離の遠い存在であり、最も懐疑的な態度を取って来た。

 

「モナは?」

 

「……正直、ワガハイはまだ完全に信用しきったわけじゃない。だけどな」

 

 怪盗団は困っている人間を見捨てない。特に、謂れの無い罪を着せられそうになっている人間はな! 

 しかし、幾度かのぶつかり合いを経て、蓮達とモルガナは怪盗団としての絆を強固なものとした。徹本人はともかく、蓮達の判断はモルガナにとって軽くないものとなった。徹を助けることに一票を投じたモルガナは猫の姿ながら、その青い目には確かな決意が見て取れる。

 蓮はまた一つ頷くと、明智の目を正面から見つめ返した。

 

「決まった。私達はあなたと協力する。怪盗団の最後の仕事、そのターゲットは」

 

 新島冴。

 

 


 

 

「今回、君達に冴さんをターゲットにしてもらったのは彼女の暴走を止めるためだけじゃない。彼女を守る為でもある」

 

「お姉ちゃんを守る為?」

 

 協力することが決まると、明智は一度全員がターゲットの認知世界、パレスを確認しておくべきだと言って案内を買って出た。蓮達と顔を合わせる前に既に調べを済ませてきたと言う。その用意周到さに蓮達は舌を巻いた。

 そしてその道すがら、今回のターゲット選定理由を語る明智に、真が疑問の声を上がる。

 

「冴さんは徹と一緒に捜査を進める中で、かなり深い所まで踏み込んでしまってる。正直に言って、次の精神暴走のターゲットに選ばれてもおかしくない」

 

 これは僕も途中まで捜査協力していたから分かったことだけど、と明智は続けた。

 

「精神暴走事件の背後には想像もつかない勢力が隠れている。そのことは君達だって実感しているだろう?」

 

 そう言われ、蓮達は奥村を改心させた結果生じた事態を思い出して苦い顔になる。怪盗団の名声を利用され、怪盗団への高まった熱は勢いをそのまま怪盗団を叩く方向へと転じた。双葉が怪盗お助けチャンネルのアクセス解析を試みた結果、ランキングが不正操作され、奥村がトップに来るようにされていた。当然、蓮に頼まれて調査を進めた双葉はそのことを事前に全員に共有してはいた。ただ、春を救うため、罠と分かっていても飛び込まざるを得ない状況にされたと言って良い。

 

「僕は手を引いてしまったけれど、関わっていた範囲までだけでも彼らは核心に迫りつつあった。世論を容易くコントロール出来るような勢力が、一検事と高校生の捜査情報を掴めないはずが無い。僕が思うに、冴さんは徹を助けるために無茶な捜査で怪盗団の犯人をでっち上げる。だけどその捜査は最後には絶対に失敗する」

 

 他ならぬ検察内部からの裏切りによってね。その言葉に真は目を見開いた。

 

「グレーなやり方での捜査が問題視されて冴さんは失脚。ほとぼりが冷めた頃に自殺、とかね。そして徹は怪盗団として大々的に報道され、警察は名誉回復だ。最悪のシナリオだよ」

 

「でも、それをさせない為に私とあなたは組んだ」

 

「……その通りだ。さ、ここが君達を連れてきたかった所だよ」

 

 明智がそう言って蓮達に示したのは、この国の司法を司る場所。検察にとって自らの力が試される勝負の場。

 

「裁判所……」

 

「そう。冴さんのパレスはこの裁判所が中心になっている。後は、ここをどういう場だと冴さんが捉えているかだ」

 

 蓮が呟いた言葉を首肯した明智は、自身のスマホの画面を見せる。そこには怪盗団の面々全員のスマホにも共通してインストールされている不気味な赤と黒で描かれた目のアプリアイコン。それよりも明智のスマホが最新機種であったことに目を奪われた双葉が彼のスマホを強奪するという一幕もありつつ、彼らはターゲットのパレスへと侵入するキーワードを考え始める。

 対象の認知世界へ入る為の鍵、現実世界での場所とターゲットの名前、そしてターゲットがその場所を何として認知しているか。

 

「……裁判所。法の番人だと言うなら門か?」

 

「他には守る場所なら、砦とか?」

 

 祐介と春が口にしたキーワードを拾った明智のスマホからは、「候補が見つかりません」という無機質な女性の声。

 

「……お姉ちゃんは絶対に勝たなくちゃいけない勝負の場だって言ってた。互いの誇りと、正義をぶつける場所だって」

 

「互いの誇りと正義を……」

 

 顎に手を当てた真がポツリと呟いた言葉を、明智が復唱する。真が知る姉としての新島冴と、明智が知る検事としての新島冴。そのプロファイルを基にいくつかのキーワードを口にしていく。

 

「……勝負の場、決闘か?」

 

「決闘場とか?」

 

「決闘場……、コロッセオ」

 

 祐介と竜司の言葉から連想したキーワードをポツリと口にする蓮。その瞬間、スマホからは「候補が見つかりました」という声。それはつまり、新島冴の認知世界に侵入する鍵が揃ったことを示している。

 

「流石だね、怪盗団。それじゃあ行こうか」

 

 そんな明智の言葉と共に、彼らの見る世界はぐにゃりと歪み、その様相を変えていく。新島冴が認知する世界、彼女の今の心の在り様を映し出す世界へと。

 

 歪んだ視界が正常に戻る頃には、彼らの目の前にある裁判所はすっかりその外観を変えてしまっていた。古代ローマ時代に建築されたそれとは違い、近代的な建材を使用されてはいるものの、その円形に構築された形態はまさしくかつて剣闘士達が互いの命を懸けて殺し合った決闘場。見る者を圧倒する威容、どこか背筋が伸びるような厳かな雰囲気を漂わせていた。

 

「さて、こうして入り込めたは良いものの、ここからどうする? ここじゃ僕より君達の方が先輩だからね」

 

 明智はそう言って蓮へと向き直る。その服装は先ほどまでの制服姿から純白のスーツに鼻先から長く伸びた赤いマスクへと変貌していた。認知世界の主に敵として認識された者が身に纏う反逆の意志を形にした装束だ。

 

「どこか侵入できる場所を……」

 

「あなた方は怪盗団の御一行様でよろしかったでしょうか?」

 

 蓮の言葉を遮るように掛かった声に、怪盗団の全員が弾かれた様に戦闘態勢を取る。

 

「どうかご警戒なされぬよう。当コロッセオの支配人より、怪盗団がお越しになられたら案内するように仰せつかっております」

 

 彼らの前にいたのは、スーツ姿の男。その顔は仮面によって隠されており、誰かを窺い知ることは出来ない。

 

「……どうする?」

 

「既にパレスの主に警戒されてるわ。正直について行くのも……」

 

 明智と真が小声で意見を交わすが、ご自由に相談してくれとばかりにスーツの男は腕組みをして待つ姿勢を取る。

 

「警戒される気持ちは分かります。ですが、支配人は今のところあなた方を害するつもりは無いとのこと。副支配人について話がしたいとも伝言を預かっています」

 

「副支配人……?」

 

 スーツの男の言葉が引っ掛かり、蓮は聞き返す。だが、それに対しては肩を竦めるだけで目の前の男はそれ以上の言葉は無いとばかりに黙り込む。

 

「ジョーカー、どうする?」

 

「…………パレスの存在は嘘をつかない。なら害するつもりは無いって言葉はある意味信用できる」

 

 モルガナに問われた蓮は、そう返す。結局のところ、パレスに侵入した時点で捕捉された彼らが採れる手段はそこまで多くは無い。

 侵入口を探すまでもなくパレスの主に会うことが出来るというのならば、それは怪盗団にとっても願っても無いことであった。

 

「では、ご案内いたします」

 

 スーツ姿の男の先導を受け、彼らはコロッセオへと足を踏み入れる。耳に響くのは観戦者があげる興奮の声か、あるいは今まさに戦いを繰り広げている剣闘士達の雄叫びか。

 

 彼らが足を踏み入れた先は、エントランスと呼んでも良い場所。赤い絨毯が敷かれており、受付と思わしき長テーブルの前には黒いドレスに身を包み、つばの広い黒の帽子を被った女性が怪盗団を出迎える。

 

「ようこそ、怪盗団。私の決闘場へ」

 

「……お姉ちゃん」

 

 怪盗団へと振り返ったその女性は、シャドウ共通の特徴として目を黄色く光らせている新島冴その人。怪盗団を見渡して研ぎ澄まされた剣のような鋭い視線を彼らへと向けていた。

 

「来ると思っていたわ」

 

「それだけ、今のあなたがやっていることはマズいと自覚している訳ですか」

 

 シャドウ冴の言葉に、明智は確認の意を込めた言葉を投げかける。

 

「今この決闘場は副支配人が不在なの。私の最も信頼するパートナーが不当に囚われている。それを助けるためなら、多少の無茶は押し通すわ」

 

「副支配人というのは、徹のこと?」

 

 シャドウ冴の口にした最も信頼するパートナー、そして囚われているという言葉に副支配人が指す人物に思い至った真はその人物の名を口にする。

 

「ええ、怪盗団じゃ彼の協力者としては役者不足よ。彼と私はあなた達とは違う。正しい結果を、正しいやり方で手に入れて見せる。だからこそ、あなた達がここに来てくれて助かったわ」

 

 面と向かって徹とは釣り合わないと言われた怪盗団は苛立ちを露わに拳を固める。

 

「ここであなた達を倒せれば、また一つ正しさを証明できる。私と徹は、あなた達のやり方を認めない」

 

「あなたに認められなくとも、私達は自分達の美学を貫く」

 

 蓮を指差したシャドウ冴、それに一歩も退くことなく蓮は自身の道を貫くと言い切った。それを聞いたシャドウ冴は、怒るどころかむしろ好戦的な笑みを浮かべてそれを受け止める。

 

「ええ、怪盗団ならそう言うでしょうね。悔しいくらいに、徹の言う通りだわ。なら、それをここで証明してみなさい」

 

 そう言ってシャドウ冴は自身の背後にある受付を手で示した。

 

「ここはコロッセオ。自らの誇りと命を賭けた決闘の場。ここであなた達が自らの力を示したのなら、あなた達が欲しがっているものをあげるわ」

 

 ここでは如何なる不正も許されない。正真正銘の真剣勝負よ、とシャドウ冴は挑戦的な表情で怪盗団を挑発した。

 

「だからこそ、ここで私も証明するわ。彼は私のものよ」

 

 それは怪盗団の、特に数名に対するこの上ない宣戦布告だった。

 

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