Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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An empty promise

「今日はお招き頂きありがとうございます。最近は難しい顔をした大人に囲まれてたから、今日はちょっと気楽に話せそうでホッとしてます」

 

 そう言って壇上で柔らかに笑う高校生探偵の姿に、講演会のステージとして整えられた体育館内には和やかな笑いが起きる。

 学園祭二日目となる今日、この体育館はおよそ全校生徒と、平日だというのに一般参加の大人達でひしめき合い、下手すると体育館に入りきらない程度には人で埋め尽くされていた。それほどまでにかの探偵王子の再来が今この時、秀尽学園で講演会を開くということは人々の興味を惹く出来事であったらしい。

 

「では、明智さんには昨今注目の的になっている怪盗団について、お考えをお聞かせいただければと思います」

 

 そして彼と向かい合うように壇上に立つのは生徒会長である真。僕はと言えば、やることも無いので全体が見えるように入り口近くの壁にもたれかかって照明の下に立つ二人を眺めていた。

 

「あはは、分かっていたけどやっぱり皆気になるんだね」

 

 真の言葉に苦笑を返す明智君だったけれど、一つ咳払いを挟むと真剣な顔で聴衆へと目を向けた。

 

「皆さんも知っての通り、怪盗団は奥村社長の件でこれまでの支持から一転、大バッシングを受けています。僕も警察に依頼され、捜査に協力しています」

 

 その言葉に、僕はちらりと視線を上に向ける。体育館の二階通路は薄暗く、そこに人がいても顔が見えることは無い。けれど、誰かが立っていることは分かる。周囲を見渡しても蓮達の姿が見えないことから、彼らがそこにいるのだということは何となく理解出来た。

 

「明智さんも、怪盗団が今回の凶行に及んだとお考えで?」

 

「いいや、それは違う」

 

 真の問いに、明智君はハッキリと否を示した。それは聴衆はもちろんのこと、真にとっても驚くべき返答であり、少しの間、言葉を失っていた。だが、ざわめいている聴衆を見てすぐに気を取り直したのか、彼女は重ねて明智君に問う。

 

「それでは、あの凶行は誰がやったと?」

 

「そこまでは分かりません。ですが怪盗団以外の誰かが関わっている、テレビではあまりはっきりと言えませんが少なくとも僕はそう確信しています」

 

 奥村社長の改心までは怪盗団の仕業、そしてその後については何か別の意図が働いていると明智君は続けた。

 その言葉に、周囲のざわめきはいっそう大きくなる。それもそうだ。聴衆は皆、怪盗団が稀代の悪党であると思っており、明智君がそれを肯定すると考えていたのだろう。しかし、その予想はあっさりと裏切られることになる。

 

「これまで僕が追いかけてきた怪盗団と今回の奥村社長の事件、どうにも違和感があるんです。彼らの行動原理と、今回の結果が噛み合わない」

 

「明智さんが考える怪盗団の行動原理とは……?」

 

 自問自答するかのように呟く明智君に対し、真は皆が気になったであろう言葉に切り込む。真の言葉に、明智君は少しの間沈黙したかと思うと、聴衆では無く真に向き直る。

 

「少なくとも、怪盗団が僕の知る彼らだとすれば、あんなことは起こさないと思うよ」

 

 今度こそ聴衆は大きな反応を見せた。明智君の口から出たそれは、まさしく彼が怪盗団の正体を掴んでいることの証左であったから。

 この講演会は最初から明智君が主役であった。けれども、今この瞬間、彼は正しくこの体育館の空気を支配した。

 

「明智さんは既に怪盗団の正体を掴んでいる、と?」

 

「確証は無いけれどね。これでも高校生探偵を名乗ってるんだ。他の誰よりも確度は高いと思っているよ」

 

「では、それが誰かお聞きしても……?」

 

 真が更に踏み込んだ。体育館は先程までと打って変わって静まり返っている。明智君の息遣い一つ聞き逃すまいとしているかのように。

 

「……それは」

 

 そして今まさに明智君が口を開いたその時、どこからか鳴り響く携帯の着信音。それは他ならぬ明智君のものであったらしい。彼はゴソゴソとスマホを取り出して耳に当てると、マイクから離れて電話口に向かって何か告げると懐にスマホを仕舞う。

 

「申し訳ないけれど、警察から連絡があったのでここまでということで」

 

 決まり悪そうな笑みを浮かべる明智君に対し、体育館からは不満げな声がそこかしこから上がる。それを片手を上げて制しながら明智君は続けた。

 

「それに、警察にもまだ話せていない内容ですからね。流石にここでは話せませんよ。さっきもそう言おうと思ってましたし。これ以上は警察からの発表を待ってくださいね」

 

 それだけ言うと、彼はマイクのスイッチを切ってしまい、舞台袖へと引っ込んでいった。真とすれ違う時に何か会話しているような素振りを見せていたが、恐らくこれから真達は明智君と秘密裏に会談を持つことになるだろう。そこで交わされる会話の中身までは想像つかないけれど、どういう流れになるのかは予想出来る。

 僕は出入口が混雑する前に、まだ聴衆が興奮冷めやらぬ様子で周りと話し込んでいる今のうちに体育館を後にすることにした。

 

 体育館を出て人気の無い廊下を歩き、僕が辿り着いたのは生徒会室だった。自分の教室の次くらいに、この部屋で過ごした時間は長い。授業以外の自発的な活動で過ごした時間で考えれば、ここ以上に思い入れのある場所は思い浮かばなかった。部屋に入れば、良く整頓された机と椅子が目に入る。自分の定位置と言える位置に置かれた椅子に腰かけると、ぼうっと窓の外を眺めた。もう日が沈み始め、少しずつ暗くなってくる時間だ。学園祭もそろそろ終わりだろうか。もう少しすると、後夜祭が始まる時間だ。

 

「どうせ人も来ないだろうし、ここでしばらくサボらせてもらおうかな」

 

 誰に言うでも無く独り言ちると、僕は自然に下がろうとする瞼に抵抗することなく、意識を手放そうとした。

 けれどその試みは、ガラガラと無遠慮に扉が開かれる音によって妨げられた。その方向に目を向けて見れば、半ば予想していたけれど歓迎したくない来客だ。

 

「……せめて明日まで待って欲しかったですね」

 

「君とは近いうちにじっくり話す機会がある。言った通りになったね?」

 

 やっぱり安易な約束はすべきじゃなかったかもしれない。真っ先に僕の頭を過ったのは彼女の顔だった。

 


 

 

「君達が怪盗団ということはまだ僕しか知らない」

 

 蓮をはじめとする怪盗団の面々と明智吾郎は、誰も寄り付かない場所となった体育教官室で向かい合っていた。

 きっかけは講演会の終わり際、壇上にいた真にすれ違いざまに明智が怪盗団の皆を呼び出したからだ。そうして呼び出された怪盗団に対し掛けられた第一声が先ほどの言葉だった。

 

「一体いつから……?」

 

「確証を持ったのはつい最近。それこそ奥村社長の改心前だよ」

 

 蓮が呈した疑問に答えながら、明智は懐からスマホを取り出して彼らに画面を見せる。そこには蓮達怪盗団が虚空から突如としてオクムラフーズ本社ビルの前に現れているように見える写真。胴体が不自然に切れていたり、腕が途中から見えていなかったりとCGで切り取ったような状態になっている蓮達の姿が克明に明智のスマホに捉えられていた。

 

「君達が出入りしている異世界。その存在は僕も知っているよ」

 

 更に蓮達を驚かせることになる明智の言葉。怪盗団だけの秘密であった認知世界を、明智が既に掴んでいたという情報。怪盗団の手口は掴みようが無い、故に捜査の手が及ばないと考えていた蓮達にとって明智の掴んだ情報はそれだけで彼らを窮地に立たせるもの。

 

「そして君達以外に、その異世界を利用している存在がいることもね」

 

「それは……!?」

 

「僕も君達と一緒に異世界に入っていた。そこで見たよ、黒い仮面をつけた人物を。生憎と顔は分からなかったけれどね」

 

 そこまで言ったところで、明智は話を変えようと咳払いを挟む。

 

「だけど、警察は君達を怪盗団というところまで掴めてはいない。それどころか、見当違いの相手に疑いを向けようとしている」

 

「見当違いの相手……?」

 

 怪訝そうに聞き返した真に対し、明智はどこか大袈裟に意外そうな素振りを見せた。どうして君達が分からないんだ、と言いたげな様子で。

 

「少し考えれば分かるだろう? これまで改心してきた人間と多かれ少なかれ関わりを持っていて、尚且つ警察の動きを知って捜査の手を掻い潜っていると勘ぐられてもおかしくない人物。本当に心当たりが無いかい?」

 

 明智が言葉を紡ぐ度、怪盗団の面々の顔が青褪めていく。それは彼らの脳裏に鮮明に一人の人物が浮かんだから。そして明智の言葉から、怪盗団が彼らに向けていた疑いが間違っていた可能性が生まれたからだ。

 

「まさか……!」

 

 最初に口を開いたのは真。明智が嘘だと言うことを期待するかのように視線を向けるが、彼は沈んだ表情で頷いた。

 

「警察の疑いが向いているのは秀尽学園生徒会副会長、海藤徹だよ」

 

「嘘だろ……、あの人はむしろお前に協力してたんじゃねえのかよ!」

 

「怪盗団以外に異世界を悪用している人物がいる。その可能性が浮上した時点で僕は彼に捜査協力を依頼することを止めた。理由はあまりにも危険すぎるからだ。だけどその後も、彼は独自に調査を進めていた。冴さんと強力なタッグを組んでね」

 

 声を荒げた竜司に対して少しも怯んだ様子を見せず、明智は淡々と返した。

 

「徹と冴さんも怪盗団以外に異世界を悪用している人間がいることに気付いていた。そして真相を突き止めようと捜査を進めていた」

 

 散々僕が止めろと言ったにもかかわらずね。そう明智は続けた。

 

「けれど怪盗団の捜査はお姉ちゃんが陣頭指揮を執っていたはずよ。それに協力していた徹が捕まるなんて……」

 

「冴さんは陣頭指揮を執っているけれど、彼は公式の協力者じゃない。警察は彼が冴さんから捜査情報を盗んでこれまで捜査を掻い潜って来たと見做されている」

 

「でも、でも……、徹は……!」

 

「言っておくけれど、僕は彼から君達の話なんて欠片たりとも聞き出すことは出来なかったよ」

 

 怪盗団の正体を知っているはず、という真の言葉が出る前に、明智が更に続けた。明智の表情は、真達以上に苦々しく歪められている。

 

「そして冴さんも、君達が怪盗団だとは知らない。それほどまでに彼は徹底して怪盗団を守っていた。だからこそ、冴さんが今暴発しそうになっている」

 

「どういうこと……?」

 

 今までの話から冴の話に繋がる脈絡が見えず、蓮は首を傾げて問い掛けた。

 

「冴さんにとって最も信頼していたと言っても良い人間だよ。それを救うためならかなり無茶な捜査をして怪盗団の正体をでっち上げてもおかしくないと思えるほどにね」

 

「怪盗団の正体をでっち上げるだと?」

 

 祐介がそう言って厳しい視線を明智に向ける。その視線を受けた明智も、苦々しい顔のまま、吐き捨てるように言葉を続ける。

 

「だからこそ君達に声を掛けた。僕は君達に改心を依頼したい」

 

 新島冴の改心を。

 

 そう告げた明智に、蓮達は皆表情を固くした。

 

「今の冴さんは危険だ。もちろん徹は助ける。だけどその為に別の人間に罪を被せるなんてしちゃいけない」

 

「……徹を助けたければ、新島冴を改心させろと?」

 

「加えて、新島冴の改心を最後に怪盗団は解散してもらう。徹は言っていたよ、怪盗団は自分達でけじめをつけると」

 

 それは怪盗団にトドメを刺す一言。蓮達の間に重たい沈黙が横たわる。怪盗団を見渡した明智は、左手に嵌めた腕時計を確認する。

 

「今日はこれくらいにしておこうか。君達にも情報を整理する時間が必要だろうしね。僕に協力してくれるなら連絡をして欲しい。だけどこれだけは覚えておいて。徹に残された時間はあまり多くない」

 

 それだけ言い残して、明智は体育教官室を後にした。残された怪盗団の面々の間には、しばらくの間会話は無かった。

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