Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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The Approaching Storm

 奥村社長倒れる。

 

 そのニュースは瞬く間に日本中を駆け巡った。テレビでは連日記者会見の映像が流され、ニュースやワイドショーではアナウンサーやコメンテーターがそれに対して渋い顔で見解を述べる。

 

 怪盗団の改心は正義ではない。

 

 彼らは己の力を行使する喜びに酔った凶悪犯である。

 

 警察の調べでは過去に起こった不可解な精神暴走事件も怪盗団の仕業と目されている。

 

 改心の是非を問うような報道がなされ、それまであったであろう怪盗団を支持する流れは綺麗さっぱり消えてしまっていた。

 その傾向は、テレビというメディアを離れたところ。SNSでこそより顕著だった。

 

『怪盗団は自首すべき』

 

『やってることただの私刑じゃん』

 

『気に入らない人間を殺してるただの殺人犯』

 

『人を改心させる前に自分らが改心しろよ』

 

 怪盗団の支持者、信奉者が集まっていた怪盗お助けチャンネルの掲示板にすら、そこを嗅ぎ付けた大衆が押し寄せて誹謗中傷の書き込みを日夜書き連ねている。

 怪盗お助けチャンネル以外のSNSではもっと直接的な表現がされている。その中には、かつては怪盗団を持て囃していた人間も混ざっていた。

 かつて怪盗団を祭り上げ、きらびやかなスポットライトを当てていた大衆。それが今や、魔女狩りのように怪盗団を囲んで火を放とうとしている。三日と経たずに起こった急激な変化は、傍観者である自分の目を通しても異様なものだった。

 

「僕は以前から怪盗団の危険性について訴えてきました。現実になってほしくなかった懸念が、的中してしまいましたね」

 

 そんな怪盗団と対照的に評価を上げた人物もいる。それが今、テレビで真剣な表情でコメントをしている彼だ。

 

「明智君は斑目事件の頃から怪盗団に対して否定的なスタイルを崩さなかったですよね」

 

「僕は怪盗団のやり方は間違っていると、危険だと言ってきました。彼らによって救われた人はいるかもしれません。ですが、だからといって彼らのやっていることを肯定してしまっては日本の法というものが形骸化します。あくまで罪を裁くのは法なんです、人じゃない」

 

 彼は怪盗団が現れた当初から否定的なスタンスを崩さなかった。そのために数多くの人々から謂われ無き中傷を浴びせられたとしても。その一貫した姿勢が評価され、そして彼の懸念が的中したことからかの高校生探偵の評判は空前絶後の高みにまで上り詰めていた。

 

「僕の懸念が的中してしまったことは残念です。ですが、できればこうなって欲しくはありませんでした。あ、これは別にずっと悪口を言われたかったってことじゃないですからね?」

 

 テレビで場を和ませる軽口を交えながら話す明智君は、まさに人々が憧れる理想の探偵王子だ。たとえその内心に何を抱えていたとしても、彼はそれを表に出したりはしない。

 テレビに映る彼の姿が虚しく見えるのは僕だけだろうか。

 

 そうして日本中にとって衝撃的な数日の中、秀尽学園にも大きな影響が及んでいた。

 

「全校生徒への警察の取り調べですか」

 

「校長先生の死についても改めて捜査が入った結果、校長室から予告状が発見されたようだからね」

 

 中間試験を目前に控えた日の放課後。丸喜先生に呼び出された僕は、カウンセラー室でコーヒーと茶菓子を頂きながら彼から警察の取り調べについての話を聞いていた。

 

「試験最終日の次の日を使って行われるみたいだね。ショックを受けたり、萎縮してしまった生徒のケアを教頭先生からお願いされたよ」

 

「警察の取り調べを受けるというのはストレスですからね」

 

「実感が籠ってるね」

 

 ソファーに深く身体を預けた僕に向かって丸喜先生がぎこちない笑みを浮かべて返す。我ながら笑いにくい冗談を言ったものだと内心自嘲した。可能な限り冷静でいようと心掛けてはいるけれど、僕の内心は僕が思っている以上にささくれだってしまっているみたいだ。それこそ丸喜先生にそんな言葉をぶつけてしまうくらいには。

 

「……君は怪盗団が校内にいると思うかい?」

 

「どうでしょう、と言うのは今さら過ぎるかもしれないですね」

 

 丸喜先生の言葉は質問、という体を装っているものの、彼の中では既に結論が出ている。

 怪盗団が最初に世に出たのはいつのことだ。鴨志田先生の改心事件のときだ。そこから怪盗団の快進撃が始まった。全ては秀尽学園から始まったのだ。外部に漏れないようにされていた鴨志田先生によるバレー部への虐待を察知し、改心させられる可能性がある人物はどこにいる? まず疑うべきはどこだと言われたら、答えは一つだろう。

 

「半ば確信しているからこそ、警察は全校生徒に取り調べを行うのだと思いますよ」

 

「だとすると僕も忙しくなるだろうね。後一ヶ月も無い任期だけど、全力を尽くさないと」

 

 その言葉に、丸喜先生の任期が来月までであることを思い出す。そういえば彼は鴨志田事件のケアとして臨時で呼ばれたのだったか。半年程度だけれど、彼はこの学園に深く馴染んでいた。廊下ですれ違う生徒の多くが挨拶をして、それににこやかに返す彼は密かに女生徒の憧れの的だったりもするらしい。最終日には勇気を振り絞ったアプローチを受けることもあるんじゃないだろうか。

 

「僕としては、最終日までに君から理解を得られたらと思うけどね」

 

「……どうでしょう。僕は今のところ、人として先生のことを尊敬していますが、先生のやり方はどうしても肯定出来ません。先生はそんな力を使わなくても素晴らしいカウンセラーだと僕は思っています。喩え先生自身がそんな自分を許せないのだとしても」

 

「君は一体……」

 

 僕の言葉に丸喜先生が大きく目を見開いた。先生が僕と以前話していたときに口にした「僕らみたいに弱い人間」という言葉。丸喜先生が診ている患者だけでなく、彼自身も自分を弱いと評したその根底にある感情。丸喜先生が患者を救えない自分自身を認められないから出た言葉だと僕は解釈した。

 

「僕は本当の意味で誰かを救うことなんて他人には出来ない、いつだって人を救えるのはその人自身なんだと思うんです。苦しくて、辛いことと向き合って、それを乗り越えることが出来るのは、あるいはそこから逃げ出してでも何かを変えることが出来るのは本人だけですよ。それが人の強さですし、人の限界なんです。少なくとも僕はそう思っています」

 

 人の心なんて、外から触ることは愚か見ることも出来ない。誰かの言葉で、行動で救われたっていうのはただのきっかけに過ぎなくて、乗り越えたのは本人だ。道を整えて、道具を揃えて、歩き出せるように背中を押すことは出来ても、一歩を踏み出せるのは本人だけだ。

 

「強い人の理論だよ、それは」

 

 そう語る丸喜先生は、どこまでも真剣でどこか怒りにも似た感情をその顔に湛えていた。その対象は僕だろうか、何となくだけど、そうじゃない気がした。

 

「多くの人は誰かに、あるいは何かに縋らないと立っていられない。その手助けをすることが出来るのが僕の研究だ」

 

 その言葉に嘘は無いんだと思う。丸喜先生の方法で救われた人もいるだろうし、僕の言っていることが現実の見えていないただの理想論でしか無いことなんて百も承知だ。そうだとしても、僕は丸喜先生のやり方を認められそうにない。それは怪盗団を肯定出来ないのと同じように、人の心に他者が簡単に触れてはいけないと考えてしまう僕の古い考え方から来るものだ。

 

「……話が明後日の方向に逸れちゃったね。試験も目前だし、その後に取り調べも控えてる。そんな時にする話じゃなかったね。僕も少し焦ってるのかもしれないな」

 

 少しの沈黙の後、丸喜先生はそう言って緊張を解くように小さく笑った。僕も釣られて笑う。言われてみればその通りだ。最近の僕はと言えば、肩の力を抜いて会話をしているときの方が少ないのだと思えるくらいに重たい話をしていることが多い気がする。

 

「まずは中間試験、頑張ってね。君には釈迦に説法かもしれないけれど」

 

「そんなこと無いですよ。秀尽の先生方は意地悪ですからね、いつもテスト前には青息吐息です」

 

 僕のそんな言葉に丸喜先生は笑った。彼と僕とは、考え方の一部で噛み合わないところがあるのは確かだ。それでも僕は丸喜先生のことを尊敬しているし、丸喜先生も僕の自惚れでなければ僕を評価してくれていると思う。

 

 その日、僕と丸喜先生は互いに和やかながらどこか緊張感を残した会話をすることになったのだった。

 

 


 

 

 そして中間試験も終わった次の日、取り調べの順番が回って来た僕は、臨時の取調室として徴発された生徒会室に足を踏み入れていた。

 

「おや、君は。この前から君とは随分と縁があるね」

 

 中にいたスーツ姿の男に僕は内心げんなりとしてしまったのを顔に出さないようにするだけで精一杯だった。

 長机二つを対面させるように並べた片方、二つ並べれた側の椅子に腰かけていたのはよりにもよって僕が以前取り調べを受けた蛇のような目をした男。

 その隣に座っているのは目つきの悪い若い刑事。嫌なセット販売だ、などと思いながら、僕は黙って頭を下げると彼らと対面するように椅子に腰かける。僕を後ろから観察するように、三人目の男が背後に腕組みをして立った。

 

「物々しい装いですまないね。だが、もはやただの愉快犯で収まるような事件では無くなっているからね、この事件は」

 

 顔の前で手を組み、口元を隠す様にして僕へと軽く身を乗り出す蛇のような男。その横では若い刑事が黒いファイルを開いて僕の情報を改めて確認している素振りをしていた。

 

「秀尽学園生徒会副会長の海藤徹君。君には先日から怪盗団の嫌疑が色濃く掛けられているわけだが」

 

 何か弁明することは? と言うように片眉を上げて僕を見つめる若い刑事。何か言いたいことがあるなら今のうちに言えということなのか。怪盗団の疑いを掛けられているということ、それを先に明かしてプレッシャーを掛けようとでもいうつもりなのだろうか。生憎と僕は何も喋るつもりは無い。怪盗団をもし捕まえる人が出てきたとして、それは彼らじゃない。

 

「……だんまり、か。相変わらず生意気なガキだ」

 

 僕が何も喋るつもりが無いことを見て取ったのか、若い刑事はあからさまに不機嫌になって顔を歪める。それを宥めるように横の細目の刑事が手で制した。

 

「まあまあ。疑わしきは罰せず。今日の我々の仕事は情報を集めることだ」

 

 とはいえ、と言いながら細目の男がこちらに視線を戻す。

 

「君に嫌疑が掛かっているのも事実。我々としても無実の人間を検挙するだなんてやりたくないんだ。怪盗団が恐ろしい犯罪者だということは君も分かっているはず。その正体に辿り着くために、今は一つでも情報が欲しいんだ。分かってくれるね?」

 

 言葉こそ柔らかいものの、その籠められた意は二人とも大差ない。後ろに立つ刑事と、前でこちらを睨みつける刑事、本職の刑事からこうして威圧感をぶつけられ続けた挙句、この細目の刑事が優しく引き出そうとする。嫌になるくらい鮮やかな手順だ。

 

「さて、校長先生の部屋から予告状が見つかったことは君ももう知っているだろう? 君も目にしたようなあんな凄惨な事件を起こせる人間が、もしかしたら校内にいるかもしれないんだ。君の目から見て、怪しい人物は誰かいないかな」

 

「……さあ。僕もこの学園の人を全員把握しているわけでは無いですから」

 

 この部屋に入って初めて口を開く。答えは刑事の問いを満足させるものでは無かっただろうけど、それでも目の前の細目の刑事は薄っすらと目を開け、微笑んだ。

 

「それでも構わない。あくまで君の主観的な考察でね」

 

「鴨志田先生のバレー部への体罰問題をひた隠しにしていたことから、校長先生への信頼は生徒教師問わずに落ちていたと思います」

 

「教師はそうでも無いだろう。君自身、鴨志田の蛮行を知っていたのにそれを公表しなかったのは校長先生を始め他の教師に頼ることが出来なかったからじゃないのかい?」

 

 曖昧に広げようとした対象を、確認するようでいて有無を言わせない口調で絞り込んで来る。

 

「内心はそうでもなかった先生もいるかもしれませんが。というよりたかが高校生に校長先生を害するようなことが出来るとは思えませんし」

 

「おや、君は高校生ながら警察の捜査も凌ぐような推理をすると明智君から聞いているよ?」

 

「たまたまです」

 

「たまたま、ねえ……。なるほど、そういうことなら仕方ないね。ありがとう、もう良いよ」

 

 薄く開かれた瞼からこちらを油断なく貫く眼光。その様子に反して、細目の刑事はそう言うとあっさりと取り調べを終了した。

 

「今日はこれからまだまだたくさん話を聞かないといけないからね」

 

 席を立った僕に向かって雑談でもするように細目の刑事が話しかけてくる。彼も席を立つと、僕を扉の所まで見送るように隣合った。

 

「それに、君とは近いうちにもっとじっくりお話しする機会が来るからね」

 

 去り際、独り言のようでいて、僕に聞かせることを意図したであろうその言葉。

 

 それが意味するところを、僕はすぐに知ることになる。





ウルト兎様より支援絵を頂きましたのでここで自慢させてください。
主人公のイメージ図を頂きました。眼鏡かけてるの、解釈一致です。
味方にいそうだし、裏切って敵側でも頷けそうだしと絶妙な線だと思いました。


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