Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Timid empress

「え、修学旅行の引率断った!?」

 

「そうだけど、そんなに驚くことかな……?」

 

 夏休みも明けて一週間が経った頃、二年生が修学旅行でハワイに飛び立って校舎が少しばかり静かになった中で、僕はクラスメイトから何故か詰め寄られていた。

 

「でも会長と一緒に行くはずだったんだよな?」

 

「真だけに任せるのは申し訳ないとは思ったんだけどね」

 

「おま……、マジで会長が可哀想になってきたぞ」

 

 クラスメイトはそう言って責めるような目で僕を見てくる。確かに悪いことをしたとは思う。同級生と行くならまだしも、下級生として、そして引率として行く修学旅行はお世辞にも楽しいとは言えないだろう。とはいえ、高巻さんや蓮といった真と仲の良いメンバーもいるのでまだマシだと思う。

 放課後になり、生徒会室に行けばそこでも似たようなことを言われた。真と僕の人望の差なのだろうか。

 周りからの冷たい目に耐えながら生徒会室でコーヒーを啜っていれば、今日は用事があるからと他のメンバーは早々に帰宅してしまう。夏休み明けすぐということもあり、生徒会でやる仕事なんかもあまり無いため、僕ものんびりと読書に勤しむことが出来た。

 

 そうして一人で静かな時間を過ごしているところに、扉が開いて珍しい来客が現れる。

 

「あの、ちょっと相談したことが……」

 

 そう言って現れたのは薄茶色のふわふわとしたショートボブが特徴的な少女。同級生の中ではちょっとした有名人でもある女子生徒だった。

 

「おや、珍しいお客さんだね、奥村さん」

 

 入って来たのは同級生の奥村春さん。クラスメイトの男子達によれば、三年生男子の間では真と人気を二分すると言う。真はクールな第一印象と話してみれば天然な一面のギャップが堪らないらしく、反対に奥村さんは見た目も話し方もふわふわとして周りを和ませてくれるとこの時期の男子特有の品評を耳にしたことがある。

 

「インスタントになるけど、コーヒーでも淹れようか」

 

「ありがとう、頂くね」

 

 来客用のカップにインスタントコーヒーを用意して対面に座る奥村さんに手渡す。

 

「まだ暑いのにホットでごめんね」

 

「ううん、部屋の中だったら冷房効いてるからむしろ助かるくらい」

 

 生憎と生徒会室にアイスコーヒーの準備は無く、それを詫びれば奥村さんは柔らかく微笑んでカップに口を付ける。

 

「それで、早速だけど相談を聞こうかな」

 

「屋上に菜園を作れないかなって」

 

 僕が話を切り出せば、屋上に菜園を作りたいと言う奥村さん。趣味の野菜作りのため、学校の屋上を利用して野菜を育ててみたいとのこと。

 

「今でもプランターで色々育ててたよね?」

 

 僕は奥村さんにそう質問する。彼女がこうして相談に来たのは初めてのことじゃない。去年にも、彼女はこうして屋上の使用許可を取りに来たことがある。その時は屋上にプランターを持ち込んでそこで植物を育てたいというものであり、スペース的も余っているし生徒会としては特に問題ないと教師陣に相談し、屋上の使用許可を貰った。

 

「うん、あのときは色々と助けてくれてありがとう」

 

「屋上なんて誰が持ち込んだか分からない椅子と机もあったりするし、気にすること無いよ」

 

 本当に、誰があの机と椅子を持ち込んだんだろう。たまに屋上で黄昏ていた坂本君に聞いたこともあるけど、彼も自分が持ち込んだものじゃないと言っていたし、過去に誰かが持って行ったものが残り続けているのかもしれない。片付けるのが面倒だから放っているけれど。

 

「それで、菜園を作りたいって言うのは?」

 

「うん、プランターだけじゃなくて、もうちょっと広い面積を使えるようにしたくて」

 

 より面積の大きな菜園で規模を大きくしてみたいらしい。野菜の中にはプランターではうまく育てられないもののあるのだとか。

 

「美化活動の一環、みたいな形で使用許可を貰えたりしないかなって」

 

 実際のお世話は私がするから、と言う奥村さん。屋上なんて生徒のたまり場としてくらいしか利用されてないし、構わないと言えば構わないのだけど。

 

「屋上の使用許可に関しては奥村さんの言う通り美化活動や緑化活動という名目なら許可を取れると思うよ。後は場所を用意する人手かな」

 

 土を屋上まで運ぶとなると結構な重労働だ。流石に奥村さんだけにやらせるわけにはいかないし、生徒会メンバーと美化委員にも協力してもらった方が良いかもしれない。

 そう考えていると、奥村さんはキョトンとした顔でこちらを見ていた。何か変なことでも言っただろうか。

 

 


 

 

「まさか本当に一人で準備しようとしてたなんて……」

 

「私の趣味に他の人を巻き込むのも悪いと思って……」

 

 次の日、早々に教師陣から屋上の使用許可を取り付けたことを奥村さんに話せば、彼女の行動は素早かった。放課後になると早速菜園用のブロックと土を屋上に運び込むと言っていたので、気になって様子を見に行ってみれば彼女が一人で土の入った袋を抱えて階段を上っている姿。なんと一人で屋上菜園の準備をするつもりだったらしい。流石に見ているだけとはいかないので手伝いを買って出た。

 

「それにこう見えて私、結構力あるんだよ?」

 

 並んで階段を上りながら、奥村さんはそう言って腕の中の土袋を抱え直した。表情を見ても、意外なことに余裕がありそうだ。結構僕は抱えている腕が辛いのだけど……。流石にそれを口に出すのは情けないので我慢する。

 

「力持ちなのかもしれないけど、こういうときは誰かを頼っても良いと思うけどね。特にこういう力仕事だったら男子とか」

 

「そうかな……」

 

 僕の言葉に奥村さんはピンと来ていない表情で首を傾げている。

 

「流石に迷惑じゃない?」

 

「奥村さんに頼られて迷惑だと思う男子ってあんまりいないだろうけどね」

 

 そう言いながら今日早々に退散していった生徒会メンバーを思い出す。彼らみたいな例もあるにはあるか。でも奥村さんが頼めば嫌とは言わないんじゃないかな。三年生女子の二大人気の一人なんだし。

 

「副会長も?」

 

 奥村さんはそう言って僕の顔を見上げる。身長差のせいか自然と上目遣いになり、なるほど、男子達がやられてしまうのもよく分かると思えてしまった。本人としてはそのつもりは無いんだろうけど、言われた側は色々と勘違いしてしまうだろう。

 

「それ聞かれて本人の前で迷惑だって言える人はそういないと思うよ?」

 

「……確かに、ちょっと意地悪な聞き方しちゃったね」

 

 それからも他愛ない雑談を交わしながら屋上に土を運び、ブロックを並べて土を敷き詰めるスペースを作ったりと作業を進めていく。奥村さんが発案なだけあって、彼女はきっちりと予習してきたらしい。僕はあまりこういう知識は無かったのだけど、奥村さんがテキパキと指示を出してくれたのでスムーズに作業が進み、今日中には終わらないだろうかと思っていた菜園の準備だけど気が付けば土を入れる所まで終わっていた。

 

「ありがとう、副会長のおかげで思ったよりも早く終わっちゃった」

 

「どういたしまして。うん、僕も良い運動になった、かな」

 

 明日は筋肉痛かもしれない、という言葉は飲み込んだ。少しは僕だって女の子の前で見栄を張りたい気持ちもあるのだ。

 

「明日からは早速ここに植える野菜を持ってこないと」

 

「もう九月だけど、植えるとしたらどんなのがあるのかな」

 

「今の時期だとまだ暖かいからレタスも二十日大根も、変わり種だとルッコラなんかも育てられそう」

 

「いいね、……僕も手伝って自分で育てた野菜を食べてみようかな」

 

「流石にそこまで手伝ってもらうわけにはいかないよ」

 

 奥村さんにはやんわりと僕の申し出を断られてしまった。作業の合間に話していたときも感じていたけれど、奥村さんは柔らかな物腰の中に、明確に一線を引いているように見える。誰にも立ち入らせないようにしている、踏み入れない一線があり、誰しもが持つその領域が彼女の場合は特に広い。それを簡単には感じさせない彼女の雰囲気が誰に対しても優しく見えるのかもしれない。

 

「まあ今日みたいに力仕事が必要なら気軽に生徒会に相談してくれたら良いかな。労働力はいくらでも余ってるから」

 

「うん、ありがとう。また何かあったら頼らせてもらうね」

 

「いつでもどうぞ。インスタントだけど、またコーヒーでも出すから」

 

 まだ屋上で作業していくという奥村さんを残して屋上を後にする。ちょっと疲れたし、生徒会室でのんびり休んでから帰ろうかな。

 そう思いながら生徒会室に入れば、タイミングの良いことにポケットの中でスマホが震えるのを感じる。誰かから電話だ。

 

「もしもし」

 

「こんばんは……ってそっちはまだ夕方かしら」

 

 電話の主は引率として修学旅行に同行している真からだった。ハワイとの時差を考えると、今頃向こうは夜中だろう。

 

「こんばんはで良いよ。真だけに引率任せることになってごめんね」

 

「もう何回も謝ってもらったから良いわよ……」

 

 真には先生方への回答期日であるお盆休み明けには修学旅行に同行しないことを告げていた。責任感の強い彼女は同行するつもりであったらしく、僕も来るものと考えていたらしい。そのことでちょっと真の機嫌を損ねてしまったのだけど、電話越しに聞こえる声色的にまだ少し怒っているかもしれない。

 

「そんなに嫌だった?」

 

 何が、とは言わなかったけれど、言いたいことはおおよそ予想が付いた。

 

「嫌な訳ないよ。ただバイト先の店長に泣きつかれたしね……」

 

 修学旅行に同行しない理由の一つには僕の言った通りバイト先の店長に懇願されたというのもある。毎年、九月になると主戦力である大学生のバイトが夏休みの長期旅行に行ってしまい、シフトのやり繰りに苦労しているため、夕方から夜にかけて戦力として数えられる人数を一人でも多く確保したいらしい。去年も同じようなことを言われつつ、修学旅行だと告げたときの店長の絶望した顔が何とも哀れだったので今年はちょっと協力しようかと思ったのだ。

 

「それに、真なら任せられると思ったし」

 

「……そういうことにしておいてあげる」

 

 そう言えば、真は渋々といった声色ながらひとまずは矛を収めてくれたようだ。

 

「そっちは今日一日どうだった?」

 

「基本的に先生と一緒に引率だから楽しむ、というより気疲れしたわ。自由時間も貰えたから蓮や杏と話したりも出来たけれど」

 

 それからは真が語るハワイでのあれやこれやを時折相槌を打ちながら聞いていく。ハワイにもビッグバンバーガーが出店していて、坂本君がハワイの大食いメニューに挑戦してグロッキーになっていたこと。飛行機が悪天候で飛ばなかったとかで喜多川君も急遽ハワイに修学旅行先を変更しており、奇遇にも出くわしたこと。ハワイの免税店で蓮ともども高巻さんに着せ替え人形にされたこと等。

 

「何故かあなたから目を離したことを蓮から怒られたわ」

 

「それを聞かされて僕にどうしろと……」

 

 電話口の真が困ったような表情をしているのが容易に想像できる。

 

「怪盗団はハワイでも名前が知られていたわ」

 

「……へぇ」

 

 真がふと呟いた内容に僕はうまく言葉を紡げなかった。高々日本のワイドショーを賑わせている怪盗団が国を越えて名前が売れる? 世界的に有名な日本画家である斑目画伯や世界的なハッカー集団のメジエドくらいが話題になりそうな事件として思い当たるけれど。それでも国外でそれほど怪盗団が名を売るほどのことだろうか。コアな人間くらいしか知っていそうにないと思っていたけれど。

 

「怪盗お助けチャンネルも連日支持の声で埋まってる」

 

「そうだね……」

 

 ここ数日、というよりメジエドを打倒してからの怪盗団支持の風潮は強烈だ。今や怪盗団の予告状を模したグッズが作られ、道行く人がそれを当たり前に身に付けている。怪盗団を非難する者を許さない空気が世間に流れていた。

 その中でも、メディアで怪盗団を堂々と非難する明智君に、世間の批判は集中していた。かつては探偵王子の再来と持て囃された明智君も、今やテレビへの出演もめっきりと減ってしまい、それでもSNS等で自身の考えを発信し続けては周囲から誹謗中傷を受けている。その様子は、それが演出なのかもしれないと思う身からしても目を背けたくなるような有様だ。

 

「ねえ、徹。今のこの流れって本当に怪盗団が正義だから支持されているものだと思う?」

 

「……少なくとも僕はそう思わないかな」

 

 不安げな声で問う真に、僕は素直に心の内を告げる。怪盗団を支持している大衆の中で、真に怪盗団が正義だと信じている者がどれほどいるだろう。多くは何も考えず、お祭り騒ぎに便乗しており、ある者は非難されないように息を潜めている。そんな風に僕からは見えた。

 

「……そう、そうよね」

 

「僕は偉そうなことは何も言えないけれど、気を付けて欲しい」

 

 この流れを作り出したものが何を狙っているのかは分からないけれど、確実に怪盗団を罠にかけようと手ぐすねを引いているだろうから。

 ただ、そうした難しいことから解放されて純粋に楽しむ時間があっても良いとも思うのだ。だって彼らはまだ学生で、子どもなのだから。

 

「ま、暗い話題はこれでおしまい。今は二度目の修学旅行を楽しんだ方が良いと思うよ。留年でもしないと同じ経験は出来ないんだし。お土産は期待してるよ?」

 

「……ふふ、もう、分かったわよ。何か買って帰るわね。ありがとう、徹」

 

「お礼を言われるようなことは何もしてないけど、どういたしまして。それとおやすみ、真」

 

 そう言って電話は切れる。思ったよりも長電話をしてしまったからもうバイトに向かわないといけない時間だ。

 鞄を持って席を立てば、再びスマホが震える。今度は電話ではなく、メッセージアプリの通知だ。通知をタップしてアプリを起動すれば、真から画像が送信されてきていた。

 

「楽しそうで何より」

 

 画像を開けば、そこには蓮達が集まって写っている写真。背景はハワイらしい白い砂浜に水平線まで綺麗な青色の海だ。坂本君なんかはアロハシャツを着て花の飾りを首に掛けた典型的な観光客の風貌だ。それを見て僕の口元が綻ぶ。そう、彼らだってこうして難しいことに悩まず、楽しむ時間があって然るべきなのだ。

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