Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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You have no right to interfere

 怪盗お助けチャンネルには日夜数多くの書き込みがされている。その数は金城の改心、メジエドの成敗と相まって膨れ上がっていた。多くはこれまでと同じく怪盗団という最後の綱を頼みとする悲痛な声だが、中には怪盗団というセンセーショナルな話題を面白がるような投稿も見かけられるようになってきた。そして何より、新たに怪盗お助けチャンネルに追加されたコンテンツ。次に改心させるターゲットを投票で決めるランキング。どんな狙いがあってサイト運営者がこれを追加したのかは推測することしか出来ないけれど、悪趣味だ。

 

「信じていいんだよね、怪盗団。君達は、自分達の信念に従ってその力を振るうのだと」

 

 心の中に僅かに過った疑念を打ち払うように、僕は呟いていた。

 

 八月のお盆休みに入る少し前。僕は担任の先生から相談があるということで呼び出しを受け、うだるような暑さの中、制服を着て登校していた。

 

「修学旅行の引率補助、ですか」

 

「そうだ。今年はかなりごたついていて教師陣、特に二年の先生方への負担が重くなっていてね。鴨志田先生のこともあり、生徒達と教師の間にもまだ不信感が残っている。この状態で夏休み明けの二年生の修学旅行で何か問題を起こっては今度こそ秀尽学園は終わりだ。なので特例として三年生の中から引率補助を付けようという話になった」

 

 三年の学年主任が僕と、このために呼び出されたであろうもう一人の生徒を前に説明を続ける。

 まとめると教師の手が回らないし、生徒の監視役に生徒を充てるというとんでもないことを考えたのが今年の秀尽学園ということらしい。

 

「もちろん修学旅行にかかる費用は学校持ちになる。君達は成績も優秀だし、息抜きだと思ってくれたら良い」

 

 取り繕うように同席していた二年の学年主任も付け加えるが、修学旅行って友人たちと普段とは違う環境に行くから楽しいのであって、そういうところに異分子である僕が行って楽しめると思っているんだろうか。いや、本当に行くとなったら相応には楽しむつもりだけど。

 

「それで、どうだろうか。海藤君、新島さん」

 

 回答を促してくる三年の学年主任の言葉に、僕は隣に座る真に目をやる。すると、彼女もこちらを 見ていたのかばっちりと目が合った。案の定、彼女も困惑したような表情でこちらを見ていたので、今ここですぐに答えを出すのはあまり良くなさそうだと口を開く。

 

「これって今すぐに回答する必要ありますか?」

 

「出来れば早くしてほしいね。手続きのこともあるから」

 

 学年主任にはそう言われたけれど、親への説明もあるし、個人的な予定もあると言ってお盆休みが明けるまでは回答を待ってもらうようにしてもらい、僕と真は学校を出る。教師には教師の都合もあるかもしれないが、生徒にも生徒の都合というのがあるのだから。

 

「夏休みだっていうのに学校に呼び出されて、まさか修学旅行の引率の真似事なんてね」

 

「……そうね」

 

 校門を出て、ひとまずは難を逃れたのかと真に話しかけるも、彼女の表情は浮かないものだった。

 

「どうしたの? 修学旅行の引率がそこまで嫌だった?」

 

「それはそんなに……」

 

「……そっか。相談に乗れそうなことなら乗るけど、僕じゃあんまり助けになれそうに無いことなんだろうね」

 

「……ごめんなさい」

 

 言い淀む真の表情を見て、彼女の悩みはそう簡単に他人に話せるようなものじゃないことを悟る。もしかしたら他人、というか僕に話すのが憚られることなのかもしれない。

 

「謝ること無いよ。またお盆明けに呼び出されるだろうし、またね」

 

 僕が真の悩みの種になっているであろうことはこれまでの自分の行動を振り返ってみれば、思い当たることが割とある。自覚しておきながらますます悩ませていることに僕自身反省すべきことも多いけれども、止めようと思わないあたり僕も難儀な人間だと自分ながらに思う。

 とりあえず今日のところは家に帰ろうと歩き出したところ、真にその腕を掴まれて僕の歩みは止められた。

 

「どうしたの、真?」

 

「え、えっと……、その……」

 

 僕の左手を掴まえた真は、自分でも何を言おうか固まっていないようで僕の腕を掴んだまましばらく視線を右へ左へと泳がせていた。

 

「……せっかくだし、どこかで適当にお茶でもして帰ろうか」

 

「そ、そうね」

 

 このまま放っておくと夏の暑さで僕も真も倒れちゃいそうなのでひとまず涼しい所に行くことにする。学校を出て、駅前の適当なカフェに入った僕と真は、昼前ということもあって軽食も頼み、冷たい飲み物で暑さを和らげた。

 

「八月に入って夜も暑くて寝苦しくなったよね」

 

「そうね」

 

「三年生が修学旅行の引率なんて先生方もとんでもないことを考えるよね」

 

「そうね」

 

「……悩んでるのは怪盗団関連のことかい?」

 

「そうね……えっ!?」

 

 ズゾゾ、と心ここにあらずな状態でコーヒーを啜っていた真は、僕からいきなり投げかけられた質問の内容を遅れて理解したのか、言葉を発してから分かりやすくしまったという顔をした。

 

「僕が相談に乗れそうにないことで真の悩みと言ったら怪盗団絡みかな、と思ったんだけど合ってるみたいだね」

 

「い、いや、それは……」

 

 真はしどろもどろに否定しようと顔の前で手を振っている。その様子に僕も真面目な顔を保つことが出来なくなって思わず吹き出してしまった。

 

「ごめんごめん、そこまで焦るとは思わなかった。安心して、詮索するつもりは無いよ」

 

「……やっぱり私には徹のことが分からないわ」

 

 真は少し驚いたかと思うと、今度は拗ねたように口を尖らせては運ばれてきたポテトを摘まんで口に咥える。

 

「そんなにあからさまに悩んでますっていう顔されたら心配はするよ。友達なんだから」

 

「友達、そうね……」

 

 僕の言葉に真は何とも言えない複雑な表情になったかと思うと、鋭い目でこちらを睨みつけてきた。口には出さないもののその雰囲気は冴さんそっくりで、思わず背筋が伸びてしまう。

 

「徹だって私に隠してることがあるんじゃないの? 私が悩んでいるのはそれも原因なんだけど」

 

「僕が真の悩みの種だったんだね。まあ予想はしてたけど」

 

「そうよ。私達に隠れて何してるのか、今日こそ問い詰めてやろうかしら」

 

 私達、と真が言うからにはやっぱり怪盗団絡みのことで僕が動いていることについて真は気になっているらしい。金城の件以降、僕が改心事件や過去の精神暴走事件について調べていることは真達には言っていないけれど、バレてしまっていたらしい。まあ佐倉さんに話を聞きに行ったりもしているからそこから話が伝わったとしてもおかしな話じゃない。僕の予想が確かだとすれば、以前僕に接触してきたアリババなる人物も怪盗団と接触しているだろうし、そこから漏れたと考えられるか。

 

「僕が真達に隠れてしてることか。アルバイトとかかな」

 

「それはセントラル街のファミレスでしょ、知ってるわよ」

 

 冗談めかして言ったのだけど真は予想外に剣呑な目で僕を見てくる。思った以上に僕は真の深刻な悩みになってしまっているらしい。

 しばらくはそんな感じに僕をジトっとした目で睨んでいた真だが、やがて諦めたようにため息をつくと口を開いた。

 

「あなたには隠したってバレてそうだから無駄ね。徹の言う通り、怪盗団関連のこと。明智君やお姉ちゃんとは今でも繋がりを持ってるの?」

 

「明智くんと冴さん?」

 

「冴さん……、そうよ、その二人」

 

 心なしか鋭さを増した真の視線から逃れるように僕はツイっと目を横に逸らす。

 

「どうして目を逸らすのかしら?」

 

「そりゃそんなに睨まれたらね……。まあ真の問いに答えるなら、明智君とはもう連絡を取ってないよ。向こうからこれ以上関わるなって言われちゃったからね」

 

「そうなの……。けれど、明智君は未だに怪盗団を追っているのよね? どうしてあなたという情報源を手放したりしたのかしら」

 

 真がそう言って顎に手を当てる。その仕草まで冴さんそっくりで、ほっこりとした気持ちになりながら、僕も思案する。このまま明智君のことを彼女に教えるべきだろうかと。明智君は恐らく将来的に怪盗団と敵対することになる。そのとき、有利なのは強大な後ろ盾を持つ明智君の方だ。一般人には理解できない方法で改心を引き起こせる怪盗団も、同じ手段を用いる相手に対してはアドバンテージは無い。明智君とその後ろにいる相手は、狡猾に、そして残酷な方法で怪盗団を追い詰めていくことは容易に想像が出来た。

 

「徹も今でも怪盗団を追っているのよね?」

 

「そうだね。怪盗団というよりも、改心を引き起こすその方法を、と言うのが正しいかもしれないけれど」

 

「方法……?」

 

「心を変えてしまえる力。他の人には持ちえないその力が、思わぬ結果をもたらしたときに怪盗団はどうすべきか。周りはどうしてあげられるのか。僕が危惧していることは、多分起こっちゃうと思うから」

 

 僕の要領を得ない言葉に、真は先ほどまでの表情を一変させ、何を言っているのか分からないと困惑したように僕の顔を見る。僕もどうしてこう迂遠な言い方しか出来ないのかと思うけれど。

 

「怪盗お助けチャンネル。前に真も気にしていたよね?」

 

「え、ええ……、それがどうしたの?」

 

「あれに最近追加されたのかな? 改心させてほしい奴ランキング。前から僕はああいうサイトは好きじゃなかったけど、ますます好きになれなくなっちゃったよ」

 

 あれほどまでに分かりやすく人の悪意が混ざり込んでしまうものを、僕は好きになれない。それが例えば掲示板の書き込みだけならまだ許せたかもしれない。そこには自分の心を、気持ちを文章にして晒すことが求められるから。だから顔も知れない誰かの悲痛な思いをそこから汲み取ることも出来た。だけど、あのランキングはそれらを捨て去ってしまった。残されたのは憎い誰かを改心させたいという無貌の願い。仮面の下に隠された悪意があっても、それを見抜くことが出来なくされてしまっている。

 

「真はあのランキングが怪盗団のターゲットの選定に影響を与えると思う?」

 

 気付けば、問う立場と問われる立場が入れ替わってしまっていた。真は僕の顔を見て少し怯えたような表情を見せている。困ったな、真を脅かすつもりは無かったのに。

 

「わ、分からないわ。でも怪盗団は、いつだって誰かの為に……正義を……」

 

「その誰かの中に、黒い思惑を抱えている者がいたとして、あのランキングはそれを考慮なんかしてくれないよ」

 

 掲示板には今もたくさんの悲痛な書き込みがあって。中には怪盗団によって解決されたのだと言う書き込みもある。そしてその数はメジエドの件が解決してから増えている。怪盗団が積極的に活動しているからか、たまたまその人の抱えている問題が解決したからかは分からないけれど、前者の可能性は高いんじゃないだろうか。そしてそれに伴って上がっていく怪盗団の知名度と支持。

 

「僕は怪盗団のことを抜きにして、真や雨宮さん達のことを友人だと思ってるよ」

 

 言うべきなんだろう。明智君のことも、その裏にいるかもしれない相手のことも。

 

「だから、一つだけ言わせて欲しい。君達が最も苦しいときに、最も必要としている助けをくれる相手をこそ疑うべきだとね」

 

 だけど僕の口から出てきたのはそんな曖昧な言葉だけ。それは、雨宮さん達のことを心配するくせにまだ明智君のことを諦められない中途半端な僕の限界だったのかもしれないし、それ以上に何かに喉まで出かかった言葉を引っ込められたことによるものだったのかもしれない。

 

 彼らのゲームにこれ以上干渉するのは得策じゃない。

 

 そんな声が、どこからともなく聞こえたような気がしたのだ。

 

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