Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Cognitive mysterience

「次のニュースです。近頃、渋谷の学生を中心に被害が広がっていた特殊詐欺グループのリーダー、金城潤矢容疑者が先ほど自首したとの情報が入りました。繰り返します──」

 

 静かなルブラン店内に流れるニュースキャスターの声。今日は梅雨も明けた7月最初の土曜日。僕は午前の授業が終わると久々にルブランへと足を運んでいた。

 

「警察は先日渋谷に撒かれた心の怪盗団からの予告状との関連も睨みながら捜査を続けるとのことです」

 

 キャスターの声を尻目に僕は手元のスマホに目を落とす。そこには、つい昨日に金城から届いたメール。

 彼が僕に要求していた金はチャラ。尾行で撮影した写真のデータも削除、新島さんにもメールではあるが謝罪をしたとのことだった。短い文章だったが、このメールの翌日に出頭したことから他の被害者にも同じような内容を送っているんだろう。

 

「心の怪盗団ねえ……、現代に蘇った義賊ってやつかしら。ねえ、マスター」

 

「あ? 興味ねえな」

 

 テーブルに座っていた老婦人の言葉にすげなく返す佐倉さん。接客業としてどうなのかと言われそうだが、ルブランのカラーとしてはこれが正解なんだろう。実際、老婦人も気にした素振りもなく料金を払って店を後にしたし。

 

「ったく、どいつもこいつも怪盗団とはね」

 

 老婦人を見送った佐倉さんはカウンターの向こう側で呆れたようにため息をついて食器を洗う。

 

「まあ斑目画伯のときと同じことが起こりましたからね。ネットの掲示板なんかも大騒ぎですよ。愉快犯か、義賊かなんてね」

 

 そんな佐倉さんに僕は怪盗お願いチャンネルの掲示板を見せる。佐倉さんは画面を一瞥するとやれやれと首を振ってすぐに洗い物に戻った。

 

「んなことで騒げるなんて暢気なもんだな」

 

「ですねぇ。でもある日突然人が変わったように真人間になるなんて変な話、気になるのも分かりますけどね」

 

「人が変わったように、ねぇ……」

 

 佐倉さんは僕の言葉が引っ掛かったのか、小さく呟いて手を止めた。

 

「どうしました? 何か引っ掛かるところでもありました?」

 

「……いや、何でもねぇ」

 

 佐倉さんに尋ねてみるも、何かを振り払うかのように首を振ると黙々と食器洗いに戻ってしまった。これ以上何かを聞き出すのは難しいだろうな。そう思って残ったコーヒーを啜っていると、ちょうどお昼時なのも相まって僕のお腹が空腹を訴えた。

 

「ん? 昼飯まだ食ってねえのか?」

 

 それを耳聡く聞きつけた佐倉さんが視線を上げてにやりと口の端を上げた。

 

「学校が終わってすぐ来たものですから。久々にここのコーヒーが飲みたくて」

 

「学生にしちゃコーヒーの味がよく分かってんじゃねえか。それならついでにカレーも食ってくか? 自慢じゃねえが、ウチのカレーはコーヒーと相性バッチリだぜ」

 

「カレー、良いですねえ。ぜひお願いします。それとコーヒーのお代わりも」

 

「あいよ」

 

 佐倉さんの売り込みにあっさりと屈した僕はカレーとコーヒーを注文する。元々昼飯もここで済ませていこうと思ってはいたので願ったりといったところだ。喫茶店といえばナポリタンと僕の中では固定観念があったのだけれど、ここはカレーらしい。

 しばらく待っていると、食欲をそそるスパイシーな香りを放つカレーが僕の目の前にドンと差し出される。そしてお代わりのアイスコーヒーも。

 

「お待ちどおさん」

 

「ありがとうございます。では早速……」

 

 僕はスプーンを片手に早速一口パクり。市販のカレーよりもやや辛めに整えられた味が舌を程よく刺激し、後を引く辛さに自然と次の一口を頬張っていた。そして熱々のカレーで火傷しそうな口に氷が浮かんだ涼し気なグラスからコーヒーを啜れば、辛みに負けないコーヒーの味が口の中に広がる。水出しなのか、苦みよりも酸味が強く感じられるが、それがまた見事にカレーの辛さをスッキリと洗い流してくれる。なるほど、これは交互にいけば無限に食べられそうだ。

 気付けば、話すことも億劫にカレーとコーヒーを口に運んでいた。佐倉さんは自慢じゃないと謙遜していたが、このレベルのカレーは中々お目にかかれないものだと個人的に思う。

 

 あっという間にカレーを平らげた僕は、残ったアイスコーヒーも飲み干し、更に食後のコーヒーまで注文していた。

 

「いい食いっぷりだったな」

 

「いやぁ、このカレーとコーヒーの組み合わせは良いですね。計算しつくされたカレーとコーヒーの調和でした」

 

「へへっ」

 

 お腹が満たされ、満足げなため息を零す僕を見てにやりと笑みを浮かべながら、佐倉さんは食べ終わった僕のカレー皿を引き上げて流し台に持っていく。それとほぼ同タイミングで店の扉が開かれ、来客を知らせるベルが鳴った。

 

「ただいま」

 

 訂正。来客ではなく帰宅だったようだ。肩に鞄を掛けた雨宮さんが入り口に立っていた。鞄からは黒い猫が顔を覗かせている。もしかして彼女って学校に猫を連れて来てるのか? 

 

「副会長、来てたんだ」

 

「お邪魔してるよ、雨宮さん」

 

 雨宮さんはぺこりと小さく頭を下げると、そのまま2階に上がるのではなく僕の隣に腰かけた。彼女の隣の席に置かれた鞄から黒猫が僕の様子を窺うように顔を出していたので、そっちに向かってヒラヒラと手を振ってみる。けれど黒猫はにゃあと一声鳴いたかと思うと鞄の中に引っ込んでしまった。

 

「やっぱり警戒されちゃったかな?」

 

「人見知りの猫だから」

 

 雨宮さんはそう言って鞄のジッパーを開き、中に引っ込んでいた黒猫の頭を撫でる。猫は抗議するように鳴いて身を捩るが、逃げたりはしなかった。

 

「ところで副会長はどうしてここに?」

 

「ここのコーヒーのファンだからね。最近忙しくて来れなかったけど、久々に顔を出そうと思って」

 

 懸案事項も一つ片付いたしね、と視線をテレビに向ければ、ニュース番組はワイドショーに切り替わっており、そこでも金城の自首の件が取り上げられていた。ちょうど明智君がゲストとして呼ばれているらしく、司会のお姉さんから話を振られているところだった。

 

「渋谷で広範囲に活動していた特殊詐欺グループリーダーの突然の自首、これについて探偵の目からはどう見ますか?」

 

「やはり先日の心の怪盗団による予告状通り、斑目のときと同じく改心が起こったんでしょうか?」

 

「そうですね。その可能性は高いと思います。斑目も金城も、どちらも予告状が出てから数日後に自白している。それもどちらも人が変わったように。手口としても、犯行後の二人の変わりようからしてもどちらも怪盗団の改心だと言って良いと思います」

 

「世間では怪盗団は義賊だという見方が強まってきているようですね。以前に明智君が言っていた怪盗団は悪だという論もかなり苦戦を強いられているのでは?」

 

「僕は別に持論を述べているだけで誰かと論戦をしたいわけじゃないんですけどね。結構叩かれちゃって精神的にも参ってます」

 

 画面の中の明智君は参っていると言いながらも笑顔を絶やさず、そしてその笑顔も強がりには見えない自然体だ。だからかワイドショーの司会もあまり真剣に捉えずに茶化して話を進めている。

 

「だけど僕は言い続けますよ。怪盗団のやり方は間違ってる。誰かの心を勝手に弄るなんてやってはいけないことだって。例え結果としてそれに救われる人がいたのだとしても。間違ったやり方で得られた結果が正しいものだなんて、僕は言えません。あ、これって別に怪盗団に手柄を取られて僻んでるとかじゃないですからね?」

 

 強い口調で言い切った明智君だけど、最後はおどけて冗談っぽく締めたおかげで番組の空気を壊すことなく進行させていた。ああいうところを見ると彼の処世術、場の空気感を保つ能力は素晴らしいと思わせられる。

 

「間違ったやり方……。怪盗団はそれでも自分たちの流儀を曲げない」

 

 テレビから聞こえる明智君の持論を聞いた雨宮さんは、それでも強い決意を籠めた目で正面を見据えていた。

 

「……そうだね、前にも言ったけど、怪盗団は美学を持っている。世間の声なんかに左右されない。僕はそう信じているよ。それに、明智君はもし怪盗団が本当に間違った方向に進んでしまいそうになったとき、怪盗団を止めてくれる力になると思う」

 

 僕がそう言うと、雨宮さんは意外そうに目を見開いて僕を見た。

 

「副会長は明智君の味方?」

 

「味方、かもしれないね。彼の考え方は僕のそれとも通ずるところがあるし、個人的な親交も持っているから」

 

「……そう」

 

 雨宮さんはそれだけ言うと、少し沈んだ様子で視線を手元に落とした。彼女にとっては身近な人物が怪盗団に真っ向から対立している人の味方だと明かされたものだし、この反応も仕方ないか。

 僕としては怪盗団を捕まえようとか、彼らの正体を白日の下に晒そうなどという考えは無いのだけど、明智君に協力し続けていけばいつかはそうなるときが来るかもしれない。そのとき、僕は雨宮さんと明智君のどちらかを選ぶ必要が出てくるのだろう。

 

「雨宮さん、僕は……」

 

 そこで僕が何を言おうとしていたのか。自分でも纏まらないままに口を開いたは良いものの、そこから先の言葉は出てくることは無かった。

 雨宮さんの時と同じく、来客を知らせる入り口のベルが再び鳴ったからだ。

 その音にカウンターの奥に引っ込んでいた佐倉さんが表に顔を出した。

 

「いらっしゃ……ってなんだ、あんたかよ」

 

 そして彼にしては珍しく、表情に苛立ちを見せて出迎えの言葉を言い切ることは無かった。

 

「これでも客として来たつもりなんだけど、随分な挨拶ね」

 

 聞き覚えのある声に僕の視線も自然と入り口に向けられる。

 

「冴さんじゃないですか」

 

「海藤君、奇遇ね」

 

 店に入ってきたのは、もう暑くなってきたというのに相も変わらずスーツに身を包んだ冴さん。カウンターに座った僕と目が合うと驚いたように眉を上げ、佐倉さんに向けていた険しい表情をやや緩めると雨宮さんとは反対側、僕の隣に腰を下ろした。

 

「……ご注文は?」

 

「アイスコーヒーを」

 

 そんな冴さんに佐倉さんは普段よりも無愛想な態度で対応する。そして冴さんの方もそれを気にした様子も全く見せず、淡々と注文を済ませると僕の方に向き直った。

 

「海藤君はどうしてここに?」

 

「きっかけは彼女を送ったことですかね。今はここのコーヒーのファンだから通っているってだけですけど」

 

 冴さんの問いに僕は隣にいる雨宮さんを示しながら説明する。雨宮さんも冴さんの方にぺこりと頭を下げると、簡単に互いに自己紹介を済ませた。

 

「なるほど、だとしたら私とここで会ったのは偶然ということね。てっきりあなたもこれを知ったから来たのかと思ったわ」

 

「これ?」

 

 冴さんはそう言いながら肩掛けの鞄から紙の束を取り出して僕に差し出す。こうして簡単に見せてくれるということは極秘の捜査資料では無いんだろうけど、隣に雨宮さんもいるのに良いんだろうか。

 そう思いながら手渡された紙束の表紙を見てみれば、そこには見慣れない文字の羅列。

 

「認知訶学……?」

 

「そう。怪盗団の改心事件を追っているうちに私が見つけた可能性よ」

 

 紙束は恐らく論文なのだろう。

 

『人の集合的無意識と認知の関わりについて』

 

 著者:一色若葉

 

「認知訶学。これが怪盗団の改心手口に迫るヒントになる。私はそう思っているわ」

 

 そう言った冴さんの目は、この前に会った時と打って変わり、ギラついた光を放っていた。





今話のタイトルは完全造語です。
認知科学→Cognitive science
科学→science
摩訶不思議→mystery
mystery + science = mysterience

認知訶学→Cognitive mysterience

流石に北米版のP5Rまで買って確認は出来なかった……
独自設定ということでここは一つご勘弁ください
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