Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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The bank of Gluttony goes bankrupt

「おいおい、どうなってんだよこれ……」

 

「まさかここまで予告状が劇的な効果を見せるとは」

 

「いや、鴨志田の時も斑目の時もこんなことになって無かったっしょ」

 

 予告状を出したその日、金城のパレスに乗り込んだ怪盗団一行の前に現れたのは昨日までと大きく様相を変えた暴食の銀行の姿だった。

 その姿に竜司、祐介、杏の三人が唖然として口を開く。

 

「銀行が、燃えてる……?」

 

「予告状を出すだけでこんなことになるものなの?」

 

 渋谷全てを自らの懐を潤すための資金源と考え、警察にも誰にも捕まらないという金城の自負を示す銀行はあちらこちらが炎に包まれていた。

 モルガナも竜司達に劣らず目を丸くして驚いている。怪盗団として初仕事になる真だけが唯一、よく分かっていないと他の面々を見渡している。

 

「銀行も墜落してる」

 

 蓮は渋谷のセントラル街に立つ自分たちが銀行を目の前に捉えられていることに気付く。今まで宙に浮かび、金城に客として認知されていなければ入り口に辿り着くことさえ出来なかった彼の居城が今は地に墜ちていたのだ。

 

「予告状を出されたことで自分が捕まるかもしれないと怯えている、ということかしら?」

 

「どうだろう。金城は自信家。あの予告状だけでここまで大きく認知を変えるとは思えない。それに斑目も鴨志田も、パレスの警戒度は上がっていたけどここまで大きな変化は無かった」

 

 真の疑問に蓮は今まで自身が見てきたものを語る。斑目を改心させて怪盗団の知名度が上がったとは言っても世間的にはまだまだ眉唾物の噂の一つに過ぎない。そんなものが金城に予告状を出したとして、自分が捕まらないと絶対の自信を持っていた金城が揺らぐだろうか。怒ることはあっても金城の自信の源である銀行が失墜するような認知の変化は引き起こせないと蓮は考えていた。

 

「そうね、私もそう思うわ。ということは金城の認知にここまで大きな変化を起こしたのは私達じゃない。何か別の要因があるのよ。金城が誰にも尻尾を掴ませないと考えていた自信。その根底が揺らいでしまうような何かが」

 

 真も蓮に同意して自分の考えを述べる。竜司や杏、祐介は二人の間で交わされる会話についていけず、目の前の光景をただしげしげと眺めることに終始していたが、モルガナは真と蓮の間に割って入る。

 

「それを考えるのも良いが、その前にさっさとオタカラを奪う方法を考えた方が良いぜ。ここまで大きな認知の変化だ。ワガハイ達が探り当てたオタカラまでのルートがガラッと変わっちまってる可能性もある」

 

 何より、とモルガナは銀行の入り口に視線をやる。それに釣られて皆がそちらを見れば、銀行の入り口からはガードマンが後から後から湧いて出てきており、墜落した銀行の周辺に広がっていく。そして興味を惹かれて集まってきた金城の認知上の人間、ATM人間を殴ったり、蹴り飛ばして周囲から排除しようとしていた。

 

「今までのパレスとは警戒度が段違いだ。これじゃ近づくことすらままならないかもしれないぞ」

 

「……確かに、それはかなりまずい」

 

「オタカラが具現化しているのは一日が限度なのよね? このまま手をこまねいているわけにはいかないわ」

 

 モルガナの懸念に、真は拳を握り固めて突き合わせる。強硬突破も辞さないというその態度に、祐介がそれを宥めた。

 

「落ち着け。恐らくオタカラの前には金城のシャドウが待ち受けている。奴と戦う前に消耗するのは可能な限り避けるべきだ」

 

「でもよ、これじゃ忍び込むのも一苦労だぜ? ここまで来たら無理やり行くしかねぇんじゃねえの?」

 

 祐介の言葉に、真に代わって竜司が反論する。

 

「でもフォックスの言う通りだよ。斑目にも苦戦したんだから、金城だって強力なシャドウだろうし、消耗してたら負けるかもしれないじゃん」

 

 そんな竜司に杏が噛みつく。意見が割れちまったな、とモルガナが蓮に目配せをする。後はモルガナと蓮の意思表明だが、二人の意見が分かれた場合は結局多数決でも決められない。自分がリーダーとして進めるべきかと蓮は仮面の奥で眉間に皺を寄せる。

 

 そんな怪盗団に近づく影が一つ。

 

「お悩みのようなら、もしかしたら助けになれるかもしれないよ」

 

 その声に怪盗団の全員が弾かれた様に声の方向に顔を向ける。声の主は、一向にとって馴染み深いものである一方でこの場にいることが全く信じることが出来ない人物だった。

 

「嘘だろ……?」

 

「どうしてあなたがここに……」

 

「……こんなところで会うなんて思わなかった」

 

 竜司が何度目になるか分からない唖然とした表情を浮かべ、杏も訳が分からないと言葉を零す。蓮だけは、言葉とは裏腹に驚いた様子を見せることはなく、声の主を正面から見据えていた。それはベルベットルームでのイゴールの発言を聞いてから、こうして会うことを何となく予想していたからかもしれない。

 だが、そんな彼らの中にあって最も大きな反応を見せる者がいた。それは怪盗団の中でも声の主を最もよく知っていると言っても過言ではないもの。

 

「なんで……」

 

「今回の件については僕も少し原因になってるかもしれないからね。ということで、初めまして、怪盗団の皆。僕は海藤徹。副会長、って言った方が通りが良いかな?」

 

 小さく零した真の疑問に、普段と変わらず、授業で分からなかったところを質問されたときのような気楽さで答えた徹。

 

「特にリーダーの君とドクロのお面の君、それと赤いお面の君とは鴨志田先生の城で会ったとき以来かな?」

 

「コイツ、カモシダのパレスでの記憶を持ってるだと!?」

 

 徹の言葉にモルガナが今度こそ仰天だと目も口も大きく開ける。金城の認知上の存在であるとすれば鴨志田のパレスにいたときの記憶など持ちようが無い。それを持っているということは彼が金城のパレスの外から侵入してきたことを示している。

 

「斑目が示唆していたワガハイ達以外にパレスに潜り込んでいた奴っていうのはコイツのことか!?」

 

「まさか!?」

 

 モルガナの言葉に怪盗団が一斉に身構える。その一方で徹自身は交戦の意思を見せることは無く、むしろ彼らに柔らかく微笑みかけた。

 

「安心してほしい。僕に君たちと敵対する意思は無い。僕は現実の僕とは無関係だしね。君たちの言葉で言うところのシャドウ、に近いものだけれど、少し特殊な事情があってこうして鴨志田先生の城のことも覚えているんだよ」

 

「シャドウ……?」

 

 首を傾げて問い掛ける蓮に徹のシャドウは首肯する。

 

「その通り。君たちはこの銀行の最深部に行きたいんだろう? ここまで厳重な警戒になったのは現実世界の僕が金城と関わったことも発端の一つだからね。そのお詫びと言っては何だけど、とりあえず強硬突破せずとも銀行の中に入るルートを提示してあげることは出来るよ」

 

 徹のシャドウはそう言って蓮に向けて右手を差し出す。他の面々の視線が蓮に集中した。

 

「ジョーカー、正直怪し過ぎるがワガハイはリーダーの判断に従うぞ」

 

 リーダーである彼女がどういう選択をするのか。いずれにせよ彼女の判断を支持する。蓮を見つめる目は皆がそう語っていた。

 

「怪しいと思われるのは承知の上だよ。けれど今の僕は君たちの味方だ」

 

 揺るぎない視線で仮面の奥の自分を見つめる徹のシャドウに嘘を言っている様子は見られない。そう判断した蓮は思い切って彼の手を取る。

 

「……今はあなたを信じる。けれど特殊な事情というのは?」

 

「ありがとう。事情については今は言えないかな。これ以上の干渉は偽りの主に気付かれてしまう」

 

「偽りの主……?」

 

「ああ、気を付けて欲しい。特に君にはね」

 

 気を惹かれる言葉を散りばめるだけ散りばめておきながら、それ以上話すことは出来ないと徹のシャドウは自身の口に人差し指を添える。

 

「さあ、案内しよう。こっちにおいで」

 

 そしてそのまま蓮達を先導して歩き始める。何故鴨志田パレスでの出来事を覚えているのか。特殊な事情とは何か。金城の銀行へと繋がる道を知っているのは何故か。聞きたいことは尽きず、どこまで信じて良いのかも分からないが、リーダーが信じると選択した以上それに従おうと怪盗団は彼について歩を進めていく。

 

 その選択が正しかったかどうかは、それからしばらくして金城のパレスが音を立てて崩壊していくことを見ればひとまずは正しいものだったと言えるかもしれない。

 

 


 

 

「また怪盗団よ!」

 

「みたいですね。これで僕の考え、怪盗団は金城と敵対しているという推理が優勢になりましたかね?」

 

 放課後、僕は冴さんに呼び出され、明智君と冴さんの三人で以前食事をした小料理屋を訪れていた。まだ食事をするには早い時間のため、飲み物だけを注文した僕は、イライラとした様子の冴さんに苦笑いを返す。

 

「ところで明智君は?」

 

「彼なら予告状騒ぎで警察に協力を要請されているわ」

 

 どうやら明智君もこの騒ぎで身動きが取れなくなってしまっているらしい。

 

「誰も彼も怪盗団! あんなものにこの事件を横取りされるなんて我慢ならないわ」

 

 冴さんは不満そうに呟く。この前のように興奮することこそ無いものの、やはり腹に据えかねるものはあるらしい。そんな怪盗団に妹さんが関わっているかもしれませんよとはとてもではないが言い出せなかった。

 

「けれど今まさに金城の被害に遭っている人からすれば希望になっているのも確かですね」

 

「……警察が力不足なのは認めるわ。私もあなたから証拠を貰っても肝心の金城本人の身柄を拘束出来てないから動けていない。それを情けなく思う気持ちもあるわ」

 

 ぎゅっとグラスを握り締めて冴さんは悩まし気に眉根を寄せる。

 

「だけど、だからといってただの一般人がこんな悪ふざけみたいなことをして許されるわけがないわ」

 

「まあ予告状なんて悪ふざけそのものですしねぇ。こんなの怪盗団本人以外の愉快犯が出したといっても分からないですし」

 

 怪盗団の予告状は彼らのトレードマークが描かれた赤と黒のカードに新聞から切り抜いたような文字を並べたもの。複製しようとすれば少し心得のある人間なら簡単にコピー出来てしまうものだ。だからこの予告状が本当に怪盗団のものなのかを判断することは難しい。雨宮さん達を見てなければ僕だってこれまでの予告状全てが同じ怪盗団によるものだなんて信じきれなかっただろう。

 

「そうよ。こんな悪ふざけに私の道が邪魔されるなんて……!」

 

 もっとも、今の言葉通り冴さんの怒りは怪盗団に対する道義的なものに個人的なものも入り混じっているようだけど。その辺りに関しては冴さんの立場上仕方ない面も多々あるので窘める程ではない。

 

「これで本当に金城が改心したとしたら、世間は怪盗団を信じる、支持する方向に片寄っていきそうですね」

 

「それで警察や検察が無能の謗りを受けるのが我慢ならないわ……」

 

 特に金城の件を追っていた冴さんは怪盗団なんてものに先を越されてしまったと検察庁内での風当りが強くなることも危惧しているらしい。

 

「女だから、なんて舐めたことを言っている上を何とか認めさせようとしてるのに。これでまた足踏みする羽目になるなんてね」

 

 あなたも悔しくないの、と冴さんは問うような視線を投げかけてくる。やや鋭さを感じるその視線を僕もお茶で口を湿らせながらどう返したものかと思案する。

 

「僕としては、世間が熱狂しすぎてしまわないかが不安ですが怪盗団そのものに対して怒ったりすることは無いですかね」

 

「どうして? あなたも鴨志田の件を怪盗団に先を越されて解決された口じゃない。コツコツと証拠を集めていたのに、怪盗団なんてふざけた奴らがこっちを嘲笑うみたいに解決していく。腹立たしくは無いの?」

 

「そうは言っても、先に解決できなかったのは僕が動けなかったということもありますし。これは僕が冴さんのように仕事として動いていないから言えることかもしれないですね」

 

 怪盗団が犯罪者を改心させていったからといって警察や検察が無能だと言うことは出来ない。そんなことは少し考えてみれば分かることだけど、往々にして警察はこういうときに嫌われ者になりがちだ。

 

「どうしても警察とか検察って悪者にされがちですからねぇ。反権力やヒールってやっぱり人気出ますし。そういうときはドラマや映画でも権力側が悪役になりますしね」

 

「普段は恩恵を受けておきながらこういうときは好き勝手サンドバックにしてくるなんてね……」

 

 やってられないとばかりにグラスを呷る冴さん。

 

「いずれにせよ、金城が怪盗団によって本当に改心されるかどうかを注視しましょう。警察でも足取りが掴めなかったあの男を怪盗団がどうやって接触したのか、改心の手口については分からないことだらけだけど」

 

「鴨志田先生や斑目画伯については取り調べをしたんですよね?」

 

 彼ら二人には少なくとも怪盗団は接触しているだろうし、そこから手口を聞き出すくらいは冴さんなら既に行っていてもおかしくないと思っていた僕は思わずそう口にしていた。

 

「二人とも口を揃えて今まで自分のしてきたことの罪深さに気付かされたと言うばかりよ」

 

 僕の予想通り、冴さんも当然二人に目を付けて怪盗団の手口を知ろうとしたが、二人からは怪盗団と思われる人物に接触された覚えは無く。ただある日突然、自分のしてきたことが途轍もなく罪深く、恐ろしいものだと思ってしまい、自責の念に堪えかねたらしい。

 

「その話を聞いて私は恐ろしくて仕方なかったわ。改心、と言っているけどそんな生易しいものじゃない。別人だと言っても良いくらいよ、あの様子は」

 

 あんな風に自省する人間が、あっさりと自身の罪を告白するようなことがあるわけが無いと冴さんは言う。そもそも自省するくらいならあそこまで長く隠しておけるわけがないと。

 

「怪盗団は薬物なんか目じゃない強力な人格改変が出来る。その力が今はたまたま人を救う方向に作用しているだけ。海藤君、私はね、正直精神暴走事件と改心事件の犯人が一緒だろうと違っていようとどちらでも良いわ。でもね、どちらにしても犯人は捕まえて、あんな改心は起こらないようにしないといけない、そう思っているわ」

 

「それほどまでに怪盗団の力は危険なものだと?」

 

「考えてみて。姿も見えない相手に自分の人格がある日突然丸っと変えられてしまうことを。それを是としていられるのは傍観者でいるときだけ。怪盗団にせよ、精神暴走事件の犯人にせよ、彼らの判断基準は法じゃなく情よ。そんな曖昧な基準を良しとするのは私の立場としては真っ平ごめんよ」

 

 法の番人として、怪盗団の存在を許容できないと、そう言った冴さんの目には怪盗団に対する私的な怒りは無く、検察として、大人としてのプライドが宿っていた。

 

「怪盗団の手掛かりに一番近いのはあなた。私と明智君ならあなたから貰った手掛かりを一番効率的に活かすことが出来る。これからも協力を期待するわ」

 

「こんな僕で役に立てることがあれば。怪盗団の在り方はともかく、その力の危険性については僕も同じ意見ですから」

 

 

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