外銀IBD就活note
はじめに
当note群は、2X卒として外資系投資銀行IBD部門の就活を経験した筆者が、一年間余りの就活と後輩への就活支援を通して培った知見をもとに、就活時に手元に置いておきたかったと感じる情報を可能な限りまとめたものである。
近年、就活サイトの普及や、受験業界の塾のように就活支援を行うコミュニティの台頭により情報格差は是正されつつある。誰でもインターネット検索を活用すれば、一定の外銀IBD就活対策は可能になっているはずである。しかしながら、実際の内定者は伝統的に「帰国子女(留学)・体育会・金融系バックグラウンド」といった三大属性に偏っており、これらに該当しない就活生が投資銀行就活を進める上での障壁は依然として高い。その原因は、情報を単に収集するだけでなく、選考過程においてどのように活用するかという実践的な方法論が十分に周知されていない点にあると筆者は考えている。
ゆえに本noteでは、三大属性や就活コミュニティに属する学生が従来OB・OGから口頭伝承を通じて学んできた「実践の方法」を言語化し広く普及させることを目的としている。この点こそが、本noteの最大の付加価値である。外銀に憧れるものの頼れる先輩や仲間に恵まれない就活生や、業界研究は行ったもののその後の具体的対策が不透明な就活生に対し、正しい努力と納得のいく結果を得るための羅針盤となることを目指している。
また、外資系投資銀行の日本新卒採用は約8割をサマーインターン経由で確保するという特徴がある。情報の格差は解消できたとしても、サマーの時期を逃してしまったり、出遅れによる準備不足になってしまったりしてはどうしようもない。このnoteに限らず、外銀就活における早期対策の重要性を認識し後悔のないように就活を進めていけることとを願う。そしてことこのnoteについては、読んでいただけるならひと時でも早く読んでいただき活用することで価値を最大化してもらいたい。
外銀IBDとは何か その魅力
外資系投資銀行とは、米国、欧州に本社を持つ巨大金融機関である。
米国5大投資銀行(ゴールドマン・サックス、J.P.モルガン、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、シティ)や欧州系投資銀行(UBS、バークレイズ、ドイチェ銀行)がその典型であり、これらを総称して「バルジ・ブラケット」と呼ばれることもある。
バルジ・ブラケット(Bulge Bracket)とは金融業界、特に投資銀行業界で使われる用語で、リーグ・テーブル(業績を基にした投資銀行ランキング)の上位を常に独占し、世界経済に大きな影響を与える一流投資銀行群を指す。
外資系投資銀行の収益は主にグローバル・マーケッツ部門(GM)と投資銀行部門(IBD)の二本柱で成り立っている。本noteでは、このIBD部門に焦点を当て、その就活について詳述する。 GM部門は採用人数が各社0~3人ほどであり他者の支援によって内定再現性を高めるのは難しい一方、IBD部門は採用人数・基準・形式いずれの点でも正しい対策によって内定再現性を高めることが可能である。
外資系投資銀行のIBD部門は、時価総額数千億〜数兆を誇る一流企業をクライアントとしてM&A(合併・買収)、資金調達(株式・債券の発行)、財務戦略のアドバイスを提供する部門である。
倒産の危機に陥った企業を資金調達によって救済する、日本企業の海外展開のために買収・売却を手掛けるなど、その業務内容は新聞の一面を飾るようなインパクトがあり、企業の一世一代の意思決定に関与する重大なものである。
以下にMorgan Stanleyのコロナ禍におけるANAの資金調達案件とGoldman SachsのJAL再建計画における資金調達案件の記事を添付する。国の翼たる2社の危機に投資銀行が果たした仕事とそれに関わるバンカーの方々の熱量を感じられるはずだ。
また、初任給が1000万円を超え、30歳で3000万円以上、さらに上り詰めれば億単位も視野に入る日本のサラリーマンとしては破格の給与体系である上に、PEファンドやヘッジファンド(HF)、企業のCFOなど、将来的に多岐にわたる魅力的なキャリアの道が開けている点も魅力である。
ダイナミックな仕事内容、高い報酬水準、ファーストキャリアとしての魅力に惹かれた学生が志望し新卒就職における倍率は100倍以上にも上る。
また、近年アクティビストやPEファンドの勃興、東京証券取引所が主導する改革の影響で日本の資本市場は大きな転換期を迎えている。日経新聞によると2024年は日本企業関連のM&A件数は過去最多であり、それに伴う投資銀行が受け取る報酬も過去最高である。この構造的変化や市場の好況トレンドに伴いIBDの業務はますますダイナミックかつ活発になっており、その魅力は年々上昇していると筆者は考える。
外銀IBD就活の現状とこのnoteの意義
外銀IBD部門の概要とその職業的魅力を述べた上で、就活市場の現状および本noteが提供する価値について改めて述べる。
外銀IBD就活の特徴は大きく二点に集約される。
ひとつは、その門戸が極めて狭い点だ。外銀IBD部門の内定者は一社で大体10人前後である。26年卒のある外銀は1000人をゆうに超え2000人に迫るのES提出があったことを鑑みると、大変倍率は高い。よく比較対象に上がる戦略コンサルティングファームとして有名なMcKinsey、BCGが26年卒で50〜100人に内定を出していることを鑑みても、その椅子の希少性は一層明らかである。
もうひとつは、内定者の属性が極めて限定され「帰国子女・体育会・金融系バックグラウンド」という伝統的な三大属性の学生が圧倒的な割合を占めている点である。これこそ外銀IBD就活への私自身の問題意識および本note執筆の動機となっている。
筆者自身は三大属性のいずれにも当てはまらないマイノリティ属性であり、就活開始時に頼れる部活、ゼミ、サークルの先輩も皆無の状況であった。そのような自分だからこそ、先天的な環境に頼らない再現性とリアリティのあるものが書けようと思っている。
伝統的な三大属性に属している方も、それ以外の様々なバックグラウンドを持つ方も、さまざまな就活生に対して情報の格差を是正し、正しい努力のための実践的な教科書として本noteが機能することを期待する。
本note群の展開
これは外資系投資銀行にも、ましては就活にも限らないが、目標達成のためには①目指すゴールやゲームの勝利条件を把握し②現状位置を正しく認識し③①と②の差分を埋める行動をするの3ステップが必要である。
そして外銀就活においては①の「目指すゴールやゲームの勝利条件を把握する」ことの障壁がとても高いと筆者は考えている。それもそのはずで、世の中の一般学生が普通に生活していて投資銀行の仕事を身近に感じることは少ない。ある現役投資銀行の社員様も「普通に生きてて投資銀行に行きたいと思うほうが不思議」と語っていた。
よって、投資銀行就活においてはまず「どのような仕事をどのような体制でしているのか」を把握した上で、先行上求められている要素、評価基準を正しく理解することが重要である。
当note群はその構想から、まずは外資系投資銀行IBD部門の概要、仕事、組織について詳細に解説する。その上で実際の就活の時間軸、形式などを踏まえた具体論(志望動機のポイント、インターン実践論)に進む予定である。序盤は知識のインプットが続くが、このような大局観と目的意識を持って読み進めていただきたい。
【ディスクレーマー】
本noteは筆者の個人的な体験と見解をもとに作成したものであり、何らかの公式な立場を示すものではありません。また、就職活動を通じて知り得た機密情報・非公開情報について、良識をもって守秘義務の遵守をしております。内容面では読者の理解を助けるためあえて厳密さを捨象している箇所もありますが、その分就活生にとって実用的でわかりやすい情報提供を心がけています(ex.『投資銀行とは英語の「investment bank」を直訳したものであるが、実は原則として「投資」もしていなければ「銀行」でもない。』:GSやMSなどには自己資本で不動産等の投資を行う部署があるため厳密には投資をしていないとは言えませんが、IBD就活にあたっては「投資銀行は投資ビジネスをしている」という誤解を防ぐことが優先であると考えこのように表現しております)。
外銀IBDの詳細解説
「投資銀行」の名称がもたらす誤解
投資銀行就活について解説する前に、まずは「投資銀行」のビジネスについて正しく理解していただく必要がある。
投資銀行とは英語の「investment bank」を直訳したものであるが、実は原則として「投資」もしていなければ「銀行」でもない。では投資銀行とは一体何者なのだろうか。投資銀行と呼ばれる企業は、正確には法人(企業、機関投資家、政府等)を対象とした証券会社である。証券(債券や株式)を扱い、その取引手数料やアドバイス・フィーを収益源とするビジネスを展開している。
投資銀行の歴史
投資銀行のビジネスの萌芽は中世に遡る。
アジアでの香辛料貿易を目的としたかの有名な東インド会社に代表されるように、莫大な資金需要とリスクを抱える事業において多数の投資家から小口の資金を集め、資金調達のハードルを下げリスクを分散を可能にする形式が普及した。この資金調達の取引の担い手として原初的な投資銀行ビジネスは発展したとされている。
産業革命による工業化、鉄道建設のための資金調達需要の拡大、南北戦争終結後の米国経済の発展によるM&Aの活発化、そして世界恐慌における業界再編の必要など、各々の時代の波に乗じてゴールドマン・サックス、J.P.モルガンなどの現在の巨大投資銀行の基盤は強固になり、その後も飛躍と統廃合を繰り返しながら現在の巨大投資銀行は生き残ってきた。
余談だが、1933年に世界恐慌の反省を受け制定されたGlass-Steagall法によってJ.P.モルガンから分社化されたのがモルガン・スタンレーである。ゆえに両者は今でもJ.P.モルガン創始者ジョン・ピアント・モルガンの言葉である“first-class business in a first-class way”を社是として掲げている。
https://www.morganstanley.com/about-us/morgan-stanley-core-values
就活生の立場でこのような投資銀行の歴史について詳しく知る必要はほぼないのだが、2008年のリーマン・ショック後の再編については現在の勢力図にも大きな影響を及ぼしているためその点のみ説明する。
そもそもリーマンショックとは、誤解を恐れず簡単に表現すれば「ダメな借金をキラキラにラッピングして売りまくってたらやっぱダメってバレて世界規模で終わった」という出来事である。経済も株価も信頼も崩壊し、未曾有の金融危機により世界経済全体が深刻な景気後退に陥った歴史的な事件だ(ちなみに「リーマン・ショック」の名の由来であるリーマン・ブラザーズも投資銀行である)。
この金融危機に直面し投資銀行各社は存続の危機に陥り、大規模な再編に至った。
リーマンショック前後における数多の大きな変化の中で、就活上抑えておきたい出来事は二つ、「バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収」と「MUFGによるモルガン・スタンレー救済」である。
バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収
可愛いらしい牛のマークが象徴的な名門投資銀行・メリルリンチはリーマンショックによって瀕死の状態に陥り、米国の巨大商業銀行であるバンク・オブ・アメリカに救済買収された。バンク・オブ・アメリカは伝統的に米国全土でリテールバンク(個人・中小企業向けの預金業務などを主に行う)として展開していたが、これを契機に投資銀行業務にも参入するようになった。しばらくは「バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BoAML)」という名称であったが、のちにバンク・オブ・アメリカ名義で統一された。
就活生はこの経緯を頭に入れた上で、「メリルリンチ」「メリル」という言葉を聞いた際には「これは今のBofAの話だな」と脳内変換することが必要である。特にベテラン層にはメリルリンチの呼称を未だ使い続ける方々が一定数存在しているため、知らなければ何の話をしているかわからなくなってしまう(実際に筆者はその体験がある)。筆者の個人的な所感であるが、ちょうどイーロン・マスクに買収された後も「X」を頑なに「ツイッター」と呼称するXユーザーと似たこだわりを感じている。
MUFGによるモルガン・スタンレー救済
これは現在のMUFG、モルガン・スタンレーひいては日本における投資銀行勢力図を語る上で外せない出来事である。
米モルガン・スタンレーはリーマン・ショックにおける危機に際し日本の三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)から9000億円の出資を受けた。その結果、現在ではMUFGはMorgan Stanley米国本社の23.38%の株式を持つ大株主であり、さまざまな面で連携がなされている。
日本では以下の図のような三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)とモルガン・スタンレー三菱UFJ証券(MSMS)の2社が並列するというジョイント・ベンチャー形式が取られることとなった。
https://www.morganstanley.co.jp/ja/about-us/japan-joint-venture
この統合は、現在投資銀行本部長を務めていらっしゃる別所様が主導され、日本の法規制を順守しつつ案件を成立させるためにはこのストラクチャーしかなかったとのことである(以下動画3分〜を参照)。
以上がリーマン・ショックによる現在まで至る影響であり、就活上知っておくべきと筆者が判断したものである。
近年ではスイスの伝統的大手金融機関であり日本でも展開していたクレディ・スイスがAT1債の損失により同国のUBSに買収された。投資銀行業界は歴史的に統廃合が激しい業界であるというのは知っていて損はないだろう。
投資銀行IBD部門の仕事
業界の来歴を解説したところで、現代の投資銀行IBD部門の仕事の詳細について説明する。
投資銀行のIBD部門の仕事を一言で述べると「コーポレート・ファイナンスや資本市場の専門性を武器にして企業の成長をサポートする」ことであり、大別して以下の三種類のサービスラインがある。
M&Aアドバイザリー
資金調達
その他財務戦略コンサルティング
1のM&Aアドバイザリーに関しては、おそらく多くのIBD志望の就活生がイメージするIBDの仕事の代表例ではないだろうか。M&Aに関する提案やアドバイスを行うが、そのアドバイスは戦略立案、企業価値の算定、買収スキームの構築、買収交渉支援など多岐にわたる。最終的に案件が成立して初めて取引手数料としての報酬を受け取るビジネスモデルであり、収益ボラティリティが高い。
2の資金調達は、企業がM&Aや設備投資、事業拡大のために必要な資金を市場から調達するアドバイス・支援をする。財務的な専門性や世界の投資家とのコネクションをフルに活用し、新規株式公開(IPO)や増資の引受け、社債発行のアレンジなどを行う。投資銀行は引き受けた株式、社債の0.0数%〜数%を手数料報酬として受け取る。
3のその他財務戦略コンサルティングについては、コーポレートファイナンスや資本市場の専門性を活かした多種多様なサービスを提供する。中長期の経営戦略策定に投資家や財務戦略の視点を取り入れる専門家としての役割を担ったり、事業売却検討の相談相手になるなどがある。また近年は年々活発になるアクティビストへの対応を引き受けることが多いが、これが1や2の収益が発生する案件機会の獲得につながるとして各投資銀行は積極的に引き受けている。
IBDの組織構成
上記の仕事を提供する上でIBDがどのような部門があり、どのような仕事をしており、どのような役職階級になっているかを解説する。
IBD部門は大きく二つに分かれる。投資銀行部門(IBD:Investment Banking Division)と資本市場部門(GCM:Global Capital Markets)である。
IBD部門はクライアント企業の企業価値向上や最適な資本構成の実現のために、M&Aや事業再編、資金調達のアドバイザリーを担う。
対して、GCM部門は、株式や債券などの資本市場における発行業務全般を統括する部門である。市場動向を踏まえた資金調達の実行や、適切なタイミングでの市場アクセスの提供により、企業や政府の資金調達ニーズに応える役割を果たすのである。
IBDがIBDとGCMに分かれるのは意味がわからないよという方もいらっしゃると思うが、ここに関しては通例であるためご容赦いだだきたい。また、主に顧客担当を中心にする業務を遂行するカバレッジチームと、投資銀行が専門性を持つ商品を中心にする業務を遂行するプロダクトチームの二つにも大別できる。
以下、それぞれのチームについて詳細に解説する。
カバレッジ(インダストリー)チーム
カバレッジ部門はよく「投資銀行の窓口」と表現され、企業に営業を行い案件を創出・獲得するグループである。日々の顧客とのディスカッションを通じて顧客から信頼を獲得し、クライアントが資金調達やM&Aを行う際にアドバイザーに指名してもらう役割を担う。顧客対応中心のビジネスであるため、顧客企業の業界ごとの縦割りで組織化されており、インダストリーグループと呼ばれることもある。
他部門との連携
投資銀行にはカバレッジ部門以外にもプロダクトチームと呼ばれる専門家が存在するが、両者の関係はメーカーで例えると「営業マンと技術者」のように捉えていただくのが良いだろう。カバレッジチームはハイテク/金融/製造業などの産業別の知見をもとにお客様(企業)に何が必要か考えて“商品”を売り込み、プロダクトチーム(M&Aや資本市場の専門家)がその商品を設計・製造(買収・資金調達形式や価格の策定)を行い、納品(契約締結や資金調達の実行)するイメージである。
カバレッジバンカーの基本業務
カバレッジバンカーの基本業務は提案営業に集約される。担当企業に対して定期的に連絡を取り、経営者や財務担当役員にヒアリングや情報提供を行う。日常的なヒアリングやオフィスに訪問して業界の最新動向や他社事例の共有を通して経営課題やニーズの種を発見し、「資金調達が必要かもしれない」「買収の好機では?」といった示唆を届ける。役職が上のシニアバンカーになると、クライアント企業の重役と会議・訪問・ゴルフに会食等様々な関係構築をすることによって信頼を獲得していく。
若手カバレッジバンカーの主要業務は営業資料作成と顧客への営業となる。営業資料はピッチブックと呼ばれ、この作成に入社数年のアナリスト〜アソシエイト職位は幾度となく徹夜するとのことである。因みにIBDのサマーインターンでは主に買収提案のケースワークを扱うため、数日の徹夜も辞さない覚悟で提案資料を作るアナリストの擬似体験が可能である。
ピッチブックについては以下の記事が詳細に解説しており大変参考になる。
また以下は投資銀行各社のプレゼンテーションを揃えている便利なサイトである。概観把握はもちろん、サマーインターン前の資料の雛形作成にも活用してほしい。
ピッチブックを作成後、後述するプロダクトチーム(ECM、 DCM、M&Aアドバイザリー)の専門的知見を有するバンカーと共に担当企業に営業に向かう。一例として、MD(マネージングディレクター)orVP(ヴァイス・プレジデント)、アソシエイト、アナリストのチームで訪問し、MDorVPがアイスブレイク、VP or アソシエイトがプレゼンテーション、アナリストが議事録・メモ取りなどを行うなどの形式がとられる。
例えば資金調達案件の場合は、会社の現在の状況や格付け、市場からの評価をもとに、債券での資金調達案件であれば「このタイミングがスプレッド(金利差による収益)が最も良い」株式での資金調達案件であれば「市況が良く投資家にも合理的に説明できる」などで案件創出・獲得に繋げる。
買収・売却案件に関しては、「〜社の〜部門の売却先を探しているが、買収に興味はないか」「MBO(経営陣による非上場化)をしませんか」などの提案を行う。
カバレッジチームの仕事の具体的プロセス
カバレッジバンカーの目標は、最終的に案件(ディール)の受注=マンデート獲得である。以下ではカバレッジが主導する提案から契約受注までの一連の流れを例を挙げて説明する。
(1)案件の種を見つけピッチブック作成
A:持ち込み型
クライアントとの日常の会話や業界ニュース、企業発表などから、資金調達やM&Aなどの潜在的なニーズをキャッチする。例えば「〇〇社が○○億円の大型投資計画を発表」という発表を受けたカバレッジバンカーが資金調達ニーズを察知し、現在の市場動向や類似企業の事例を織り込んだピッチブックを作成するなどである。
B:RFP型
クライアント企業が市場動向や内部検証を通じて、資金調達や買収などのニーズが明確になった場合、RFP(Request for Proposal、提案依頼書)を複数の金融機関に発信される。その連絡を受けカバレッジバンカーは大急ぎでピッチブックを作成する。いわば提案大会であるこの形式は、クライアントに大変厳しいスケジュールを提示され急激に忙しくなることが多い。
(2)提案ピッチの実施
(1)の段階で作成した資料をもとにピッチを行い、信頼を獲得する。提案内容はもちろん、日頃の関係構築、担当バンカーの業界知見や各社がこれまでやってきた類似案件の経験など多面的に評価がなされる。
(3)後日フォロー、案件獲得
クライアントが提案に興味を示した後は、専門のプロダクトチームと連携して具体的な条件の詰め込みやシミュレーションを実施する。例えばM&A案件ではターゲット企業の評価額や買収価格の試算、資金調達案件では発行可能な株式や債券の規模、条件のシミュレーションなどより詳細な検討を行う。
最終的にクライアントに「この提案、この投資銀行に任せよう」という決断を下せば正式にマンデート獲得となる。
カバレッジチームの組織構造
顧客企業の業界によって縦割りで部署が設置されている。代表的なものには以下がある。それぞれの特徴、代表的な企業と最近の大規模案件を合わせて説明する。
TMT(Telecom, Media and Technology)
通信、メディア、ハイテク企業などを担当するグループ。TMT業界全体として技術革新や市場成長による変化スピードが速く、M&Aや資金調達の機会も豊富である。また、近年ソフトウェア・ITサービス業への転換を進める企業は多く、クロスセクター案件も多い。
案件数も豊富で規模も大きい傾向にあり、IBD内でも花形部署と言われることの多いチームである。
TMTチームが担当する代表的企業
通信:NTT、KDDI、ソフトバンク
メディア:ソニー、任天堂
テクノロジー:日立製作所、パナソニック、東芝、楽天
筆者が選ぶ近年の代表的案件
Zホールディングス(旧Yahoo! JAPAN)とLINEの経営統合
東芝による東芝メモリ事業売却 (2018年)
日立製作所によるGlobalLogic社買収 (2021年)
メルカリの新規上場(2018年)
FIG(Financial Institution Group)
銀行、保険会社、証券会社、資産運用会社などの金融サービスを提供する企業を担当するグループ。長らく規制によって保護されてきたが、近年では規制緩和や金融×技術のFintechを武器にした新興企業の台頭により業界に変化が見られる。
銀行業界は赤青緑のメガバンクが圧倒的なシェアを持つ一方で、地域金融機関の資本効率の悪さ(PBR1倍割れ)が大きな経営課題となっており再編が進んでいる。保険業界は少子高齢化による国内の市場縮小に対応するため海外展開や新たな商品・サービスの開発に注力している 。証券業界は、NISA拡充という追い風を受けながらも、ネット証券の普及やインデックスファンドの人気により手数料競争が激化している。
総じて、各業界に大きなトレンドがありそれが実際の案件にも大きく影響する業界であると言えるだろう。
FIGチームが担当する代表的企業
三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、SBIホールディングス、日本郵政保険(かんぽ生命保険)、日本生命保険、第一生命保険、明治安田生命保険、住友生命保険、楽天金融子会社
筆者が選ぶ近年の代表的案件
三菱UFJフィナンシャル・グループによる米ユニオンバンク売却(2021年)
SBIホールディングスによる新生銀行株式TOB(支配権取得)(2021年)
楽天銀行の新規上場(2023年)
GIG(General Institution Group)
GIGグループは、TMTやFIG以外の幅広い産業をカバーしているチームである。製造業、小売業、エネルギー、インフラ、ヘルスケアなど、多岐にわたるセクターが含まれる。その多様性ゆえ一概に語ることは難しいが、日本の基幹産業を多く含む業界であり、生活に直接影響のあるような「身近な」案件や日本を代表する大企業の今後の将来を左右する案件まである点が魅力と言えるのではないだろうか。
GIGチームが担当する代表的企業
製造業:トヨタ自動車、三菱重工業、パナソニック、日産自動車、ホンダ、日本製鉄、JFEホールディングス、SUBARU、デンソー、旭化成
小売業:イオン、セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリング(ユニクロ)、ローソン、ファミリーマート、セブン-イレブン・ジャパン
ヘルスケア:武田製薬、 第一三共、中外製薬
近年の代表的案件
武田薬品工業によるシャイアー買収 (2018年)
セブン&アイ・ホールディングスによる米スピードウェイ買収 (2020年)
東芝の非上場化(日本産業パートナーズによるTOB買収) (2023年)
出光興産と昭和シェル石油の経営統合(2018~2019年)
その他
投資銀行によっては不動産関連案件を担当するREG(Real Estate Group)やPEファンド等を担当するFSG(Financial Sponsor Group)などを設置しているところも存在する。
どのインダストリーチームも、特定業界ごとの案件実績や海外チームも含めた業界知見を武器に顧客企業とディスカッションを行い信頼関係を構築していく。それが身を結びカバレッジバンカーによって獲得された案件は、案件の遂行に特化したプロダクトチームに段階的に引き渡される。
カバレッジの魅力
カバレッジバンカーならではの魅力は、企業経営の最前線に寄り添うことで得られる知見、そして自分の提案によって企業の未来を変えるかもしれないというロマンにあると筆者は認識している。
企業経営の最前線に寄り添うことで得られる知見
営業として日頃から大企業の財務戦略部門、社長、CFOと対話するカバレッジバンカーは他の仕事、役職にはなかなかない貴重な機会である。クライアント企業のトップマネジメントや財務戦略担当者が直面する経営の最前線に寄り添い、日々鋭いFBを受けつつ仕事をしていく中で、担当業界やコーポレートファイナンスの実践的知見を蓄積していくことこそカバレッジバンカーの成長でありやりがいであるというバンカーの方々は多い。
提案で企業の変革に関わることのできるロマン
カバレッジバンカーの方々は口を揃えて「何より嬉しいのは、提案が案件となって目標を達成し『〜さんのおかげでした』」と感謝される時だ」という。日々寄り添い、蓄積された知見をもとに信頼されるアドバイザーとして認められることで、企業に自分たちだからこそもたらせる仕事をすることにロマンは他にはないカバレッジバンカーの醍醐味である。
https://www.morganstanley.co.jp/ja/profiles/t-uemura-investment-banking
https://www.morganstanley.co.jp/ja/profiles/k-yokoyama-investment-banking
プロダクトチーム
前述したように、プロダクトチームはカバレッジチームが獲得してきた案件の遂行(エグゼキューション)を行う専門的なチームである。M&A執行を担当するM&Aアドバイザリー部門、資金調達業務を担当するECM部門(株式)、 DCM部門(債券)の三つに大別される。
M&Aアドバイザリー
M&Aアドバイザリー部門はIBD部門唯一のプロダクトチームであり、その名の通り企業の合併・買収(M&A)に関する助言と取引執行を専門とする。カバレッジチームが企業とのリレーション構築や案件の種探しを担うのに対し、M&Aチームは実際の取引を成就させる実行部隊であり、企業価値算定(バリュエーション)や買収金額の交渉、デュー・デリジェンス、買収合併の契約書作成などの実務の大部分を担う。
他部門との連携
M&Aは経営の総合格闘技とも言われ、その実行に際して投資銀行の各部門はもちろん社外の専門家との連携なしには成り立たない。M&Aアドバイザリーチームはそのハブとなり、案件全体を統括する。
社内の連携としてまず挙げられるのが、カバレッジチームとの協働である。M&A案件の多くはカバレッジ経由で持ち込まれるため、案件期間中もカバレッジ担当者とは綿密にコミュニケーションを取る。特に買収案件では、買い手であるクライアント企業の普段の意向や社内事情をよく知るカバレッジから情報を得ながら進めることが重要である。
また、資本市場部門(ECM/DCM)との連携も案件によっては不可欠である。特に大型買収などの買収資金を調達するため公開増資や社債発行を並行して行う場合、M&AアドバイザリーチームとECM / DCMがタイミングを合わせて動く必要がある。契約締結後に即座に増資を発表できるよう水面下で準備したり、逆に買収資金確保を条件に契約交渉を進めたりと、社内プロダクトチームとの緊密な調整が求められる。
そして連携は社内にとどまらない。契約書や法的論点、税務的スキームの検討で弁護士・税理士・会計士と協業するのはその代表例である。またローンとして資金調達をする場合はその融資を行う銀行との交渉が発生し、国境を跨ぐクロスボーダー案件の場合は海外現地の投資銀行チームや現地法律事務所との連携も必要である。
このような多数のステークホルダーの意見調節・スケジュール管理という骨の折れる仕事を担うのがM&Aアドバイザリー部門の大きな仕事の一つである。周到な準備によるプロジェクトマネジメント能力と対人調整力がフルに試されるのがM&Aアドバイザリーの現場と言えるだろう。
M&Aチームの業務の具体例
以下、M&Aプロセスの進行と各フェーズに伴いM&Aアドバイザリーチームが行う業務を説明する。
①戦略策定・提案フェーズ
まずはカバレッジバンカーと協力し、クライアントの戦略立案の段階からサポートすることが多い。買収側であれば、例えば「海外進出したいが有望な買収ターゲットはいるか?」といった相談に対し候補先企業のリストアップと将来性や競合状況の洗い出しを通して最適なM&A提案プランを練り提案する。売却側であれば自社のどの事業を売るべきか、いくらくらいで売れそうか、といったシミュレーションを行い提案する。
②企業価値評価(バリュエーション)
具体的なターゲットが定まったらまず行うのは企業価値の算定である。
買収側:有価証券報告書や決算説明資料を詳細に分析し、将来のキャッシュフローを予測して適正な買収価格を割り出す。DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法や類似企業比較(マーケット・マルチプル)法などが用いられる。
売却側:買収側の場合と同様に自社または売却対象事業の価値を算定し、「最低この価格以上で売ろう」という目安を割り出す。
大抵の買い物において値段が意思決定に大きな影響を及ぼすように、M&Aにおいて「いくらで買う/売るのか?」はとても重要な要素である。その値段を理論的に算出するバリュエーションはM&Aの根幹であり、アナリストやアソシエイトなどの若手バンカーががエクセルを駆使して詳細なモデルを作成する重責業務である。
③ 買い手・売り手のマッチング
買収案件であれば売り手との接触、売却案件であれば買い手探しを行う。
買収案件:対象企業が上場企業ならば公開買付など手続きを検討しますが、非上場の場合はオーナーや経営陣にアプローチする。この段階では売り手/買い手候補企業を担当するカバレッジバンカーの協力を得て接触することもある。
売却案件:売り手企業とアドバイザリー契約(FA契約)を結んだ後、買い手候補になりそうな企業リストを作成する。社内の情報や市場調査をもとに「どの会社がこの事業を必要としていそうか」を洗い出し、リスト上位の企業にコンタクトする。必要に応じてNDA(機密保持契約)を締結し、詳細情報を開示しつつ興味を探るなど、お見合いの仲人役として両者を引き合わせる。
④デューデリジェンス支援
買い手が興味を示すと、買収先企業のデューデリジェンス(資産査定・詳細調査)フェーズに入る。デューデリジェンスにおいては投資銀行だけでなく法律事務所や会計事務所、税理士法人など様々な専門家がチームに加わり、M&Aアドバイザリーのバンカーはこのプロセス全体をプロジェクトマネージャーのように統括する。具体的には弁護士と協力して法務デューデリジェンスの論点を整理する、会計士の調査結果を踏まえて企業価値評価モデルを修正するなどである。
⑤交渉とスキーム策定
デューデリジェンスの結果を踏まえ、具体的な取引条件の交渉に移る。価格交渉はもちろん、支払い方法(現金か株式か)、新会社の出資比率、経営陣の処遇、表明保証や違約金の条項など、契約条件の一つひとつを詰めます。複雑な案件ではレバレッジド・バイアウト(LBO)のように借入金を活用するスキームや、カーブアウト(事業の切り出し)や合弁設立など特殊な手法を用いることもあります。投資銀行のM&Aチームは、これら取引スキームの立案についても豊富な知識を持って、クライアントにとって最適な形をデザインする。必要に応じて自社の資本市場部門と連携し、株式や社債による買収資金の調達を(情報管理の観点の制約を多分に受けながらも)計画することもある。
⑥契約締結とクロージング
交渉がまとまると最終契約の締結フェーズとなり、法務チームと協働して契約書を作成し買い手・売り手双方の合意を取り付ける。ここで投資銀行の役割は基本的に完了となる。投資銀行のM&Aアドバイザリーは契約を結ぶまでを担当し、その後の統合作業(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)はクライアント企業側に委ねられるのが一般的である。
以上がM&Aアドバイザリー業務の主要な流れであるが、この間M&Aチームはクライアント企業と日夜密に連絡を取り合い、意思決定の助言を行う。まさに買い手・売り手双方の間に立ち、取引を前に進める交渉人として活躍するのがM&Aアドバイザリーである。。各段階で細部への注意と迅速な対応が求められるため大変ハードな働き方になりがちであるが、その分大手外資系PEファンドやヘッジファンド等への転職パスはIBDの中でもずば抜けて重宝されるため人気のある部署である。
M&Aチームの魅力
M&Aチームならではの魅力は、M&Aの全プロセスを推し進め案件成就まで導く達成感と、高い専門的とビジネス体力の向上による人材価値向上の二点に集約されると筆者は認識している。
M&Aの全プロセスを推し進め案件成就まで導く達成感
M&Aチームは前述したように戦略立案、企業評価、買収交渉、デューデリジェンス、契約締結といった多岐にわたるプロセスを一貫して推進する必要がある。自らの専門知識と社内外のステークホルダーとの連携で各フェーズをリードし、複雑な取引を成功に導く達成感は、他の業務では味わえない貴重な経験となる。
高い専門的とビジネス体力の向上による人材価値向上
この点について誤解を恐れず言えば、「M&Aチームhあずば抜けて転職パスが優遇される」のである。M&Aチームでの業務は、財務、法務、交渉、戦略といった多方面に渡るスキルを磨く絶好のフィールドである。またM&Aチームの若手が身につける財務モデリング技術は投資銀行だけでなくファンドや事業会社の財務部門で大変重宝される能力である。よってM&Aチームで培った実績と専門性は、IBDの転職先としてより高い報酬体系を持つラージキャップPEファンド、ヘッジファンドへのキャリアパスに大いに有利に働く。どこのハウスかよりM&Aチームかそれ以外かの方が転職には重要という方もいるほど、M&Aチームで得られる経験の専門性は人材価値向上に寄与するという。
https://www.morganstanley.co.jp/ja/profiles/d-matsuoka-investment-banking
GCM
投資銀行のもう一つの部門であるGCM(Grobal Capital Markets, 資本市場部門)の役割や位置付けについて解説する。もしかすると読者の中には「自分はIBD志望だ/M&Aがやりたいから、GCMはあまり関係ない」とこの先を読むモチベーションが薄い方もいらっしゃるかもしれない。そのような方々にこそ読んでいただきたい内容にしている。というのも、GCM部門の仕事内容、GCM部門を持つからこそ投資銀行が提供できる付加価値への理解によって、IBDの志望動機はより強固で論理的になるからである。
投資銀行就活生の大半が手に取る「コーポレートファイナンス 戦略と実践」(通称:ピンク本)には以下のような記述がある。
「マッキンゼーがバイブル的な本を書いているならば、この世界に証券会社や投資銀行は不要で、全部コンサルティング会社に任せちゃえばいいんじゃないの? 証券会社、投資銀行のバリューって何ですか?」と。 毎回、様々な意見が出てきますが、答えはズバリ1つしかありません。それは、市場、すなわちマーケットを知っていることです。これ以外にはありません。
このように、市場、マーケットと向き合うGCMとIBDは大変密接に関わっており、GCMの存在こそが投資銀行を投資銀行たらしめていると言える。GCMに興味がある方はもちろん、Why IBD?/ Why not FAS / 戦略コンサル etc. に対する回答に困るような方はぜひ読んでいただきたい。
GCMは投資銀行において資金調達を担当するプロダクト・チームである。株式や債券などの証券引受業務を通じ、市場動向を的確に把握しながら、クライアント企業に対して最適な資金調達のタイミングと手法を提案する。
「証券引受業務」とは、企業が新たな資金を調達するために株式や社債などの金融商品を市場に発行し、その価格、発行数量、発行タイミングなどの条件を設定・決定するプロセスを指す。GCM部門は、クライアント企業との密接なディスカッションと専門的なマーケットへの知見をもとに、市場環境に即した最適な資金調達戦略の提案と実行支援を通して企業の成長戦略や財務戦略の実現に大きく貢献するのである。
そして、GCMの存在は投資銀行全体の提供できる付加価値に大きく貢献している。ECM、 DCMそれぞれについて解説後、自動車購入時の例えを用いてその付加価値提供の様の説明を試みる。これをもとにイメージを掴んでいただき、IBD志望の方もGCM志望の方も志望動機やWhy IBD?に活用していただきたい。
ECM
ECM(Equity Capital Markets, 株式資本市場部門)は、GCMのうち株式による資金調達を行う部門である。株式(会社の所有権)を売り出すことで、企業の成長や構造改革を目指す資金調達に際し、企業と投資家を繋ぐ仕事をするのがECMバンカーである。その仕事は主に「企業の成長ポテンシャルについての「ストーリー」を伝え、投資家から資金を調達できるようにすること」と言える。
ECMは案件あたりの高い手数料から多くの投資銀行で稼ぎ頭となっており、仕事内容としては長期にわたる大規模な案件が多い。企業の華々しいマーケット・デビューを演出するIPO、企業の挑戦的な成長戦略を後押しする公募増資、大株主の株式売却による市場の混乱を抑えるブロックトレードなど、ECMが携わる仕事は企業の成長、成熟、変革期などそれぞれのライフステージにおいて重要な役割を果たす。
他部門との連携
ECMの仕事は、M&Aアドバイザリー部門やカバレッジチームからの案件連携で始まることが多い。買収資金の調達手段として株式発行を選択する場合は、M&AアドバイザリーとECMが協力し、最適なエクイティ・ファイナンスを設計する。また企業が追加の株式発行を検討しているとわかれば、IBDのカバレッジチームがECMに案件を持ち込む。ECMは「どのタイミング・どの価格帯が市場に受け入れられるか」など、マーケット目線の専門知識を活かし、投資家からの資金を獲得できるよう尽力する。
ECMバンカーは市場との接点を強く持ちつつ、クライアント企業の経営課題にも寄り添うため、投資銀行とマーケットビジネスの中間的役割を果たす、という表現がなされることが多い。
ECMの主要業務
ECMの具体的な業務は多岐にわたるが、代表的なものを以下に挙げる。
IPO(新規株式公開)
企業が初めて株式を公開市場に上場する際の引受業務。企業価値評価、証券取引所への上場申請、投資家向けロードショーの調整、公募価格の最終決定など、準備から上場まで幅広く関与する。
フォローオン・オファリング(追加増資)
既に上場している企業が追加資金を調達するため公募増資を行う場合、ECMが発行規模と価格設定、投資家セールスをリードする。既存株主にとっては株価に大きく影響するため高度な調整が必要。
セカンダリー・オファリング(株主売出)
大株主(創業家やPEファンド等)が保有株を売却する際に、ECMがブックビルディングをアレンジする。ブロックトレードでは投資銀行が一括で株式を買い取り、投資家に再販するケースもあり、リスクテイクの度合いに応じて手数料が変わる。
その他株式周辺の金融商品のアレンジ
転換社債(CB)や新株予約権付社債など。株式に転換可能な債券を発行する場合、ECMが主体となって引受を行う。負債性と株式性を併せ持つ複雑な商品であるため、企業価値への希薄化と金利負担のバランスを最適化する必要がある。
総じて、ECMバンカーは企業の重大な財務イベントである株式発行の全過程をマーケットの視点で支援するのが役目となる。ニュースの見出しを賑わすような企業のIPOや増資においてECMチームが数週間〜数カ月にわたり案件を遂行し、最終的に市場で大々的に報道されるという案件も少なくない。
ECM部門のデイリーワーク例
マーケットスライド作成
株式市場の動向をまとめた資料を作成する。これは業界担当のカバレッジバンカーから依頼されることも多く、株式指数の推移、最近のIPOや増資の事例、株価パフォーマンスなどをスライドに整理する。
企業価値評価と財務分析
発行体企業の過去の業績、成長性、収益性、そして将来のキャッシュフロー予測などを詳細に分析する。これによって、株式発行時における公募価格や発行株数、希薄化リスクを定量的に評価し、企業が最適な資金調達を実現できるよう適切な発行条件を提案する。
例えばある企業が「新規上場を通じて資金調達を行いたいが、既存株主の持分希薄化が懸念される」というケースでは、類似企業のバリュエーションや市場の動向をもとに適正な公募価格レンジを算出し、企業と投資家双方にとって納得のいく提案を行う。
セールスメモの作成
ECM部門では、IPOや増資案件を実行する際、エクイティ・セールスチーム向けのメモを作成する。発行体企業の事業概要、成長戦略、業績予測、そして今回の発行条件(公募価格、発行株数、希薄化効果など)といった情報が盛り込まれ、投資家に対して企業の魅力やIPOの魅力を伝えるための説得材料に活用される。
発行条件書(タームシート)の作成
タームシートは、発行体企業が上場にあたって設定する条件をまとめた一覧表で、発行株数、公募価格、想定する企業価値、希薄化の影響、株主構成、使用目的などが記載される。ECMバンカーは、このタームシートを基に発行体企業や他の引受証券会社との間で条件の調整を行い最終的な上場条件を確定させる。
ECMの魅力
ECMの魅力は大きく二つに集約されると筆者は認識している。第一に株式市場という日々動くダイナミックな舞台で戦う点、第二に企業と投資家を直接繋ぐ橋渡し役として、双方の利益を最大化する点である。
日々のマーケットを相手にしたダイナミックなゲーム
ECMの仕事は、株式市場のコンディションに敏感に反応しながら最適なタイミング・価格で企業の株式を発行することである。市場が好調なら大型案件が続々と舞い込み、一方で市況が悪化すれば発行が延期や中止になることもある。毎日の株価推移や投資家心理の変化が案件の成否を左右するため、常にニュースや指標を追い続け、リアルタイムに戦略を修正しなければならない。
ECMでは株価や投資家需要が日々動くからこそ味わえる興奮があると社員の方々は口にする。M&Aのように企業内部の戦略を詰める仕事とは異なり、エクイティマーケットという世界に開かれた大海原を相手に、日々の波や風向きを察知し企業の成長を資金面からサポートするのがECMの醍醐味である。
企業と投資家を繋ぐ橋渡し役
ECMバンカーは、企業が掲げる成長ストーリーを投資家に届けるという独特のポジションにいる。どんなに優れたビジネスプランがあっても、投資家が株式を購入してくれなければ資金は集まらない。そこでECMが「企業の将来性を魅力的に描きつつ、投資家へ的確に訴求する」ことで、両者が納得するディールを成立させるのである。
企業側の視点:「自社の資金需要に合わせ、なるべく高い価格で株式を売りたい」「IPOを通じて大きく飛躍したい」「既存株主の売却で混乱を避けたい」などの希望を持つ
投資家側の視点:「この企業の成長余地は?」「株価は割高ではないか?」と、リスクとリターンをシビアに評価する
ECMはその中間に立ち、企業には市場の現実を伝えて適正価格を落としどころに設定し、投資家には企業の魅力を説得的に示す。さらにECMは国境を越えた案件で輝くことも多い。特に外資系投資銀行のECMバンカーは、海外投資家とのロードショー、グローバル・オファリングなど国際的な視野を活かし、企業の海外進出や外国資本の招致を実現する。まさに企業と世界の投資家を繋ぐ懸け橋として活躍できる仕事である。
https://www.goldmansachs.com/japan/careers/our-people/saki-profile
DCM
DCM(Debt Capital Markets、債券資本市場部門)は、GCMのうち債券による資金調達を行う部門である。発行体(企業、政府、自治体)の債券による資金調達需要に対して、信用状況や市場環境を分析した上で、最適な発行条件を設計・提案し、企業と投資家を結びつける架け橋の役割を果たす。
DCMは投資銀行の中でも圧倒的に案件数が多い部署であり、その特性上若手のうちから多様な案件に関わり経験を積める場でもある。扱う債券も専門性が高く体系的に理論が確立されているため、スペシャリストとしての道が開けやすい部門であると言える。
債券は株式の取引のしやすさと銀行融資の安定性・確実性を併せ持つ
ここで債券という金融商品に馴染みがない方も多くいると想定するため、その説明から入る。
債券は企業が資金調達のために発行する有価証券であり、株式と同様の側面を持つものの、その性質は大きく異なる。債券による資金調達は、投資家からの借入金とみなされ、返済および利息の支払い義務が伴う。一方、株式による資金調達は、会社の所有権と資金の交換であるため、返済義務は発生しない。債券の資金調達においては、景気や投資家の状況により大きく変動しやすい株式発行と比較して予測が容易であり、経営権や株式価値の希薄化を回避できるというメリットがある。
また、債券は元本返済と利息支払いの負担がある点で銀行融資と共通しているが、債券による資金調達の特色として、市場で不特定多数の投資家から資金を集められ、売買も可能という柔軟性がある。つまり債券は、株式のように流動性のある有価証券でありながら、銀行融資のように安定的な借入形態でもある資金調達手段であるという二面性を持つ。この特性から、株式より高頻度で日常的に、銀行融資より柔軟に行われる。
他部門との連携
DCMの案件は単独で進められるわけではなく、社内外のさまざまな専門家と協働することが不可欠である。
DCMの仕事においてもECM同様、M&Aアドバイザリー部門やカバレッジチームからの案件連携で始まることが多い。同様初期段階では、クライアント企業の資金調達ニーズを把握するカバレッジバンカーが入り、どの資金調達手段が最適かを企業と協議する。その後、DCMチームが早期に合流し、市場環境に基づいた債券発行のシナリオを提案する。
そしてその中で企業全体の資金調達戦略を構築する際、場合によっては株式発行(ECM)やM&A案件と連動することもある。例えば、企業が複数の資金調達手段を検討している場合、全体最適を意識したシナジーを生み出すために、各部門が情報を共有しながら、最も効果的なスキームをデザインする。
DCMの主要商品
DCMが扱う主な金融商品は大きく三つ、長期的な「社債」、短期的な「コマーシャルペーパー」、特殊な「仕組債」がある。
社債
民間企業が発行する債券。企業が設備投資や事業拡大などの資金を市場から借り入れる手段で、満期(償還期限)までに元本を返済し、期間中は利息(クーポン)を定期的に支払う。企業の信用力(信用格付け)に応じて利率が決まり、高信用度の企業ほど低い利率で資金調達できる一方、格付けの低い企業は投資家にとってリスクが高い分、利回りも高く設定される。
コマーシャルペーパー(CP)
満期1年未満の短期債券で、企業が運転資金などの短期資金を調達するために発行する。銀行からの短期借入の代替として無担保・低利率で発行されることが多い。マーケットの金利動向に敏感に反応する特徴がある。DCMではCP発行プログラムの設定やロールオーバー(借換え)に関して企業に助言したり、市場環境を踏まえた発行タイミングの提案などを行う。
仕組債(ストラクチャードボンド)
デリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ特殊な債券で、たとえば為替や株価指数に連動してクーポンが変動する債券や、一定条件下で繰上償還されるコーラブル債などがある。リスク・リターンの設計を工夫した商品で、投資家ニーズに合わせてオーダーメイドされたものを発行する。
これらの商品を扱う際の理論的な考え方の基本としては、「貸し手(投資家)はリスクに見合ったリターンを要求する」という原則がある。債券の利回りは大きく分けて「安全資産の利子(無リスク金利)+発行体の信用リスクプレミアム」で決定される。無リスク金利の代表が国債利回りであり、そこに企業ごとの信用力差に応じた上乗せ金利(スプレッド)が付加される。
DCMバンカーは、市場の金利水準や投資家のリスク許容度、類似企業の債券発行事例などを分析し、「適正な金利水準」「タイミング」を見極めて発行条件を提案する。発行体にとってできるだけ低いコストで、かつ投資家にとって魅力的と感じてもらえる利率のバランスを探るのである。 また、債券発行は株式発行と異なり、将来的に元本を返済する義務が発行体に生じるため、発行体の将来の返済能力(キャッシュフロー予測)や負債比率にも留意し、「無理のない借入額か」「償還期間の設定は適切か」を検討することも重要な視点である。企業財務の健全性を保ちながら必要資金を調達するため、負債と株式のバランス(最適資本構成)を考えるコーポレートファイナンス的な発想も求められる。
DCM部門のデイリーワーク例
DCM部門では、以下のような日々の業務が行われている。
マーケットスライドの作成
DCMではマーケットの動向を常に把握する必要があるため、市場環境をまとめたスライド資料を作成する。債券利回りの推移やクレジットスプレッドの変化、前日に発表された経済指標や中央銀行の金融政策動向などをスライドにまとめ、社内ミーティングや顧客向け資料に備える。こうしたマーケットスライドは、クライアントへの提案時に「今の市況なら〇〇社は◯年物債券を◯%程度で発行できそうです」と根拠を示すための下地にもなる。
信用分析(クレジットアナリシス)
債券は発行体の信用力に大きく依存する商品であるため、発行体の財務状況や信用リスクを分析するのも重要な業務である。財務諸表を読み解き、債務返済能力や収益性、他社との財務指標比較などを行う。必要に応じて社内のクレジットアナリストや格付会社とも連携し、想定される格付けや適切な発行条件を検討する。また既存の発行債の市場価格をチェックし、セカンダリ市場での投資家の評価も参考にする。信用分析の結果は提案資料や内部審査資料に反映され、発行の可否判断や条件設定の根拠となる。
セールスメモの作成
債券の発行案件を実行する際には、DCM部門が中心となって営業部門(セールス)向けのメモを作成する。セールス担当者がお客様(機関投資家)に新発債券を販売するための販促資料のようなもので、発行体企業のビジネス概要や財務状況、今回の債券の発行条件(利率・期間・発行額等)、そして投資妙味(なぜこの債券に投資すべきか)がを記載する。言わば債券のセールスポイントを整理した社内向け説明資料であり、DCM担当者は発行体の強みや市場環境を踏まえたメッセージをメモにまとめる
発行条件書(タームシート)の作成
タームシートとは、債券の発行条件をまとめた一覧表のような書類であり、発行体名、発行額、クーポン(金利)、満期日、償還方法、格付け、使途など主要項目が記載される。DCMバンカーはこのタームシートを活用し、発行体や他の金融機関との連携チームであるシンジケート内で内容を確認・調整する。
以上のような日常業務に加え、クライアントからの様々な問い合わせや相談に答えるのもDCMバンカーの大切な仕事である。
(図にする)例えば、ある企業の財務担当者から「5年後に返済期限を迎える500億円の社債について、今金利が低いので借換(リファイナンス)して利払い負担を減らしたい。しかし繰上償還には手数料(ペナルティ)がかかるが、それでも有利だろうか?新たに発行するならどんな条件になりそうか?」といった相談が持ちかけられることがあります。DCM担当者はこのような場合、現在の市場金利や類似企業の調達事例を調べ、試算を行った上でメリット・デメリットを分析します。そして「仮に今◯年債を発行し年◯%で借り換えると、ペナルティを考慮しても◯円の利息削減効果が見込める」「ただし金利がもう◯bp下がる局面まで待てばさらに有利になる可能性がある」といったファイナンス戦略の提案を行います。
こうしたやり取りを通じて、クライアント企業の最適な資金調達をサポートするのがDCMの仕事の醍醐味であるという。
DCMの魅力
DCMは、日々刻々と変わる金融市場の鼓動を直に感じながら、企業の資金調達ニーズに即応する「短距離走」の世界であると言われる。ECMが壮大なストーリーを描くダイナミックな航海のイメージであるのに対し、DCMは瞬発力と鋭い判断が要求されるスプリントレースの連続のようなイメージである。さらに、債券という商品には体系化された理論があり、専門知識と経験を積むことでスペシャリストとしてのスキルを磨きやすいという点も特徴的である。ゆえに、市場・仕事のリアルタイム性と深い専門性の二点がDCMの特色であり魅力であると筆者は認識している。
市場とのリアルタイムな対話
DCMバンカーは、金利環境、信用状況、国際情勢といったマクロな市場指標の変動を鋭敏に捉え、企業に最適な債券発行スキームを提案する。案件が短期間に多数動くため、クライアントとの接点が非常に多く、若手でも前線に立つ機会に恵まれています。そのスピード感と臨機応変な対応力は、やりがいとして高く評価されている。
専門スキルの深化
債券という商品は、明確に体系化された理論に裏打ちされており、DCMバンカーはその理論と実践を通じて専門知識と経験を積むことで、真のスペシャリストへと成長しやすい環境にある。その上で、DCMは単なる「借金」の仲介に留まらず、ヘッジ対応や投資家動向を踏まえた債券のデザインなど、より高度でクリエイティブな金融ソリューションを提供している点が業務をルーティンワークにしない刺激であるという。特に近年のESG債やグリーンボンドといった新たなデットプロダクトの登場は、DCM業務に新鮮な可能性と付加価値をもたらし、投資家からも高い注目を集めている。
GCMの付加価値
GCMの存在がIBD全体に付加価値を与えている様を具体例を挙げて説明してみる。過度な単純化により誤解を招く恐れもあるのが、大まかなイメージを掴んでいただきたい。
あなたが自動車を買いたい顧客だとする。
自動車販売のスペシャリストとして、車への豊富な知見と販売経験をもとに 「好みや予算に合った車種の選定や購入手続きをサポートしてくれる」 ディーラーがあるとする。車の購入 ≒ 企業の購入(M&A) と置き換えると、これがGCMの存在によらないIBD、FASのサービスラインであると考えてもらいたい。
以上でも十分のような気はするが、GCM部門の存在は更なる付加価値を生み出す。IBDは、GCM部門の存在によって車両の販売だけでなく、購入資金の調達やローンの組成、さらには将来の家計を見据えたプランニングなど、資金面からも包括的にサポートできるのである。
例えば、あなたがトヨペットで車を選んだ際に、トヨタディーラー、トヨタファイナンスがあることで以下のようなサービスを享受できる。
・家計と相談しながら購入・資金調達プランを組める
具体ケース:「数年後には子どもの進学があり、出費が増える」 → 「それまでは低めの返済額にし、その後返済額を上げる」
あなたの長期的な家計の見通しを考慮して、ライフイベントに合わせて返済金額を変動させる仕組みを組むことも可能。普通の自動車販売会社では、購入時の資金調達までサポートできない場合が多い。その場合通常の金融機関で自動車ローンを組むことになるが、銀行で組むローンではなかなかこのような柔軟で自動車購入に特化したものはやりにくい。トヨタがファイナンス部門を持ち合わせているからこそ、購入者の状況を踏まえながら最適な購入アドバイスと資金計画をセットで柔軟に提案できる。
以上のケースから類推することで投資銀行がM&Aのアドバイスを行うIBD部門だけでなく、債券や株式で柔軟な資金調達を支援するGCM部門を持っているからこそ、クライアント企業の財務状況を踏まえた最適な資金調達形式とM&Aアドバイザーをセットで行えることの付加価値のイメージを掴んで欲しい。
・中古車市場の知見を活かした多様な購入スキームの提案
具体ケース:「2年ごとに車を最新モデルに乗り換えたい」 → 「リース契約」
購入よりも月々の支払いが抑えやすいケースが多く、契約満了時には返却して新しい車に乗り換えやすい利点がある。これは単に「車を売る」だけでなく、中古車市場における下取り価格や流通経路などのノウハウをトヨタが持ち合わせているからこそ、「2年後に返却される車をどう流通させるか、どのくらいの価値で査定するか」なども踏まえて、顧客のニーズに合わせた最適なリースプランを組める。普通の自動車販売会社では、このように中古車相場を踏まえた残価設定やリースプランを細かくカスタマイズするのは容易ではない。しかし、トヨタのように自社グループ内で中古車ビジネスの知見を持ち合わせている企業だからこそ、販売から下取りまでの流通をワンストップで管理し、購入者が将来まで安心して利用できるようなスキームを構築できる。
以上のケースから類推することで投資銀行がM&Aのアドバイスを行うIBD部門だけでなく、日々投資家やマーケットと向き合うGCM部門を持っているからこそ、将来的な企業価値の変動や、投資家側のニーズ・市場動向を踏まえたM&A・資金調達スキームの提案ができることの付加価値のイメージを掴んで欲しい。
なお筆者は自動車の購入経験はないため挙げた例に実際とそぐわない部分があれば指摘いただきたい。
IBDの内部構造
IBDの役職として、基本的にはアナリスト(An)、アソシエイト(As)、バイスプレジデント(VP)、ディレクター(D)、マネージングディレクター(MD)の5段階が存在する。
各役職の役割、昇進年数、年収は各社のシステムや個々人の評価により異なるが、以下では最大公約数的な解説を試みる。
各役職は、その責任範囲とクライアントとの関わり方の度合いによって特徴づけられる。
大枠はジュニア / シニアであるが、この境界は収益責任の有無である。ジュニアバンカーは収益責任がなく昇進やボーナスが年次に比例していく傾向があるのに対し、シニアバンカーは収益責任の達成度合いによって昇進・ボーナスが大きく左右されるという点で大きくゲームが異なる。
ジュニアバンカーのポジションはAから始まる2つの役職がある。最も若い役職であるアナリストは、主に財務モデリングや企業価値評価といった基礎的な分析業務、そして提案資料(ピッチブック)の作成支援に集中する。次のアソシエイトは、アナリストの業務を管理し、自身もモデリングやピッチブックの作成に携わる。
シニアバンカーの入口の役職となるVPは、アソシエイトを管理し、ピッチブックの設計、そしてクライアントとの会議にも参加するようになる。進んでディレクターは、クライアントとの折衝、ディールの組成、そしてチームのリーダーシップを担う。最も上の役職であるMDとなるとほぼ新規ビジネスの獲得と主要なクライアントとの関係維持に専念する。
以下の表現は英文サイトで用いられていた表現だが、各役職の本質的なイメージを捉えるのに役立つかもしれない。
・Analyst (下働き)
・Associate (ちょっと偉くなった下働き)
・VP (顧客担当)
・Director (上級顧客担当、レイン・メーカー候補)
・Managing Director (レイン・メーカー)
*レイン・メーカーとは「多くの利益を生み出すもの」の意
自然的な手段で雨を降らせる力を持つと称する魔法使いのように、カネの雨を会社に降らせる存在として使われている
アナリスト(Analyst)
・IBDの入り口
・上司のあらゆるサポート
・基礎的な財務分析・資料作成担当
最初に紹介するのはIBDの土台であり、キャリアの入り口であるアナリストである。通常新卒で入社した際にはアナリストとしての業務を2〜3年経験することになるため、就職活動における面接ではまず「この学生は入社後2~3年間のアナリストワークを果たすことができそうか?」という点が重点的に見られている。ゆえにアナリストの役割、業務、求められるスキルやマインドを理解し正しく自分をアピールすることは選考通過に直結する要素である。繰り返し読んでいただきつつ、説明会等で実際の社員の方々に質問することで理解を深めていただきたい。
「その他全てです」
これは就活生の「IBDのアナリストの役割について教えてください」という質問に対するあるシニアバンカーのお言葉である。IBDキャリアの出発点であるアナリストの業務は、上位職種のMD〜Asが担当する仕事の余事象を全て担当することで、投資銀行業務の土台として機能する。資料作成、分析は勿論、会議のセッティングや議事録作成、ファイル整理といった一般的に雑用と呼ばれる業務まで上司に頼まれたことはなんでもこなすアナリストの業務や求められるスキルを以下で説明する。
業務
資料作成
一般にアナリストワークの一番大きな配分を占めるのは、クライアントへの提案資料であるピッチブックをはじめとするプレゼンテーション資料の作成とサポート業務である。
市場の動向、提案する戦略の論理的根拠、そしてクライアントにとって財務的メリットなどを分かりやすく提示するスライドをまとめる作業でありイメージは容易であるが、単純に課される量が多いうえ数字やフォーマット等への細部への注意が求められるため時間的・精神的に負担が大きいワークであるという。
分析
主にExcelを使用したデータ分析を行う。作業は多岐に渡り、データの入力、財務諸表のモデリング、企業評価、信用分析など様々な分析を行う。
買収案件においてDCFモデルを作成し理論的な企業価値を算定する業務などはその代表例であり、ここで培われる能力はIBDバンカーの人材価値を高め、PEファンド、ヘッジファンドや事業会社の財務戦略部門、CFO等の高度な財務スキルを要する職種に転職する際に有利に働く。
その他事務・管理業務
スケジュール調整、会議や電話会議の調整、出張手配、ディールチームの連絡リストの更新といったあらゆる事務作業の処理を担当する。また、案件に関わるすべての関係者が必要な情報にアクセスできるようフォルダ・ファイルの整理するなども担当業務となる。
必要なスキル・マインド
アナリストワークを果たすためにに求められるスキルは多岐にわたる。
例えば分析、Excel、PowerPoint能力などは上記の業務を果たすために必要である。しかしながら、現場の方々の意見では「入社後3ヶ月でどうにかなる」「学生時点で求めてない」「そもそもやりながらじゃないと身につかない」という声が大半である。志望度の確認やミスマッチを避けるためにも、基礎的なコーポレート・ファイナンスや会計の知識を最低限持っていることだけで十分であるという場合が多い。
逆に、採用段階でも求めているものとしてはマインドである。
プレッシャーのかかる状況下で長時間労働に耐える思考体力と精神力は必須であり、選考でも大変重視されている。アナリスト業務に必要なマインドを説明会や面接での逆質問の機会に質問することで更なる理解を深めていただきたい。
目安年数・年収・キャリアパス
新卒1年目〜2,3年目まではアナリストとして働くのが一般的である。年収は会社やボーナス額によって大きく変動するが、1000万〜2000万のレンジが一般的であると認識している。
キャリアパスとしては、PEファンドやヘッジファンド等の可処分時間と給与が向上するバイサイドへの転職も見られるものの、転職市場全体としてはまだ時期尚早という見方が強いという認識である。ゆえにバイサイドへの転職を考えているアナリストでも一度アソシエイトへの昇格を目標としている方が多いように見受けられる。ただ近年日本におけるファンドの参入増加やファンドサイズの拡大を受け年々採用枠の拡大と転職年齢の低下は進んでおり、米国のようにアナリスト2年即ファンド転職のルートが一般的になる未来もあるかもしれない。
VCや商社、他の事業会社などへの道は年次に関わらず常に開かれている認識であり、財務的な専門性を生かすポジションに進んだり年収のアップサイドより可処分時間やWLBを重視した職を選んだりする方々も一定数存在する。
アソシエイト(Associate)
・アナリストの管理・指導
・より高度なモデリング・資料作成
・小規模案件のリード
・VP昇進への準備段階
アソシエイトはアナリストの次のポジションに位置し、より複雑で高度なタスク、そして新たにプロジェクトマネジメントの一端を担う存在である。
自ら手を動かすことが減り、その代わりにアナリストの仕事をチェックするという役割が新たに生まれる。そして社内ではチーム内でのジュニアバンカーとシニアバンカーの橋渡しの役割を果たし、社外ではクライアントとのミーティング参加などの接点が増え、案件ごとに関係各所と連絡を取るなどIBDの結節点となって働くポジションとなる。日本ではアソシエイトポジションで転職価値が最大化されるとも言われるように、ジュニアバンカーとしてより高度なスキルとマネジメント能力を培う役職と言えるだろう。
業務
アナリストマネジメント
アナリストにタスクを割り当て、明確な指示と必要なリソースを提供する。その後、アナリストが作成したExcelモデルやピッチブックの内容を確認し、誤りや改善点を指摘する。例えば、アナリストが作成した複雑な合併モデルの数式やインプットデータが、取引条件や財務データと整合しているかの確認などである。必要に応じて自分自身も手を動かしながら、全体の進捗をマネジメントしていく。
財務モデリング・分析
アナリストが作った下地のモデルを修正・洗練させ、クライアントやシニアバンカーが納得するレベルまで仕上げる。
ジュニア・シニアバンカー間の連絡役、顧客対応
上司のシニアバンカーサポートを仰ぎながら、ジュニアバンカーの統率役として中間に立って実務を推進する。その中でクライアント企業の方々との議論や会議の質問対応などクライアントの前に立つ機会も増えていくとのことである。
規模の小さいディールであれば、アソシエイトが主担当としてクライアントとのやり取りや社内リソースの調整を行う。
スキル・マインド
アソシエイトに求められるスキルは前提としてアナリストで必要なものがあり、その上にクライアントやチームマネジメントのためのより高度なコミュニケーション能力・対人関係スキルが求められると認識している。
アナリスト→アソシエイトの過程で昇進できないバンカーも発生することから、一定のアナリストスキルや貢献が必須であることは確かである。
その上でさらに求められるものとして、投資銀行チームの対内・対外結節点としての働きを果たすためのコミュニケーション能力や対人能力がある。アナリストチームをマネジメントし、クライアントや上司のシニアバンカーとコミュニケーションを取る能力は顧客を担当するシニアバンカーとなる上でも重要であると言われている。
目安年数・年収・キャリアパス
アナリストは順調なケースでは3〜4年を要するが、これも会社と個々人の状況によって大きく変化する。年収レンジは2000~3500万程度となり、同世代のサラリーマン内では頭ひとつ、ふたつ抜ける水準となる。
この段階で転職市場での人材価値は極大化されると筆者は認識している。高度な財務モデリング技術とコーポレートファイナンスの知識を持ち合わせ、要求水準の高いハードワークを数年乗り越え昇進を経験している若手としてバイサイドへの道は広く解放されている。
逆にシニアバンカー以降のアップサイドは社内での昇進にスコープが狭まり、転職おキャリアのオプションとしてはアソシエイト時代のオファーより条件・待遇面でコストパフォーマンスが劣るというケースも多数あることからIBDバンカーのキャリアの分岐点として身の振り方を考えるべきところであると言われている。
(日本ではVPタイトルまではバイサイドへの魅力的なオファーが存在する環境であるという声も多い)
シニアバンカー
ここからは収益責任を負い、業務の大きな比重をチームの管理とクライアント対応が占めるシニアバンカーになる。日系の一般企業だと課長〜部長そして役員に当たるポジションとなり管理職としての役割が大きくなる一方で、クライアントとの接点が増え顧客対応や案件獲得などの営業の色合いが強くなっていく。
スキル・マインドやキャリアパスについては各人の属人性が高く、一概に語ることが難しいためここからは割愛する。
ヴァイスプレジデント(VP)・ディレクター(D)
・プロジェクトマネジメント
・クライアント交渉・対応の増加
・ディール推進の中心
VP(ヴァイス・プレジデント)はまさに投資銀行の中間管理職である。上司であるMDやディレクターの依頼を引き受け、アソシエイトやアナリストのジュニアチームにタスクを指示しプロジェクト全体をマネジメントする。その傍らクライアントとの接点も増え提案・会議・調整を行う。社内外でディールを推進する現場監督のようなポジションである。
ちなみにVice Presidentという名称は「Investment Bank」同様誤解を生むネーミングであり、副社長ではない。
VP以降の役職は投資銀行各社によって様々である。もっとも細分化された組織だと、シニアバイスプレジデント(SVP)、ディレクター(D)、エグゼクティブディレクター(ED)、プリンシパル(P)となる。役職タイトルが上昇するにつれ、社内やプロジェクト管理の業務の比重が減り顧客担当や案件獲得といった営業の比重が上がる。それにつれて各タイトル昇進の際もどれだけの案件を獲得し収益的貢献をしたかという基準が大きくなり、ジュニアバンカーで求められたスキル・マインドとは異なる人それぞれの顧客対応術が重要になるという。
業務
ディール推進・チームマネジメント
VPは上司であるDやMDの指示を具体的なタスクに落とし込み、アソシエイトやアナリストに指示を与え、プロジェクト全体を監督する 。ジュニアチームが作成した資料の品質を管理し、上司への報告前に精査することも重要な役割である 。VPからDに進むにつれチームを率いる責任が増し、より複雑なディールの組成を主導するようになる 。
顧客対応・案件獲得
クライアントや潜在的クライアント、投資家とのコミュニケーションを行う。VPの時点では案件検討・実行時の対応のような実務的な部分が中心だが 、職位が上がるにつれてより戦略的な提案や交渉を主導するようになり営業の色が増す。ディレクターになると、既存のクライアントとの関係をさらに深化させるとともに、新たなクライアントを開拓し、案件を獲得することが主要な業務となる 。
マネージングディレクター(MD)
・案件獲得・クライアントとの関係構築
・チームと会社の収益責任
・組織内「最上位」バンカー
投資銀行部門のトップクラスのポジションであるマネージング・ディレクターは、会社にビジネスを呼び込み収益をもたらすことが至上命題である。
そしてそのビジネスは、日々の議論や提案、過去の実績を通して企業に信頼され、数ある投資銀行の中から名指しであなたにこの仕事を任せたいと選ばれることで発生するため、MDの仕事の大部分は企業との議論や関係構築で占められる。
MDは投資銀行歴10年20年のベテランであり、担当している企業が属する業界の知見やそのキャリアで積み重ねた経験をもとにそれぞれが独自の強みを活かして顧客を掴み案件を獲得していく。全面的な収益責任を負うため、年収は億単位を超えることも珍しくないというが、収益責任に満たない場合はその椅子を脅かされる厳しい競争環境に置かれるポジションである。
業界で有名なバンカーとなると名物MDと呼ばれ、「あの会社は〜さんが握ってるから他社はやりようがないよね」「XX(ある投資銀行)は〜がいるから半導体セクターは圧倒的に強い」と言われるなど、会社ではなく個人にお客さんがつく状態になることもある。その場合当該MDが引き抜かれることで投資銀行各社の競争バランスが大きく変容するケースも珍しくなく、非常に属人的で権威的なポジションでもある。
業務
部門マネジメント
MDは「収益最大化」を至上命題とするため、VPのような個々のディールの推進というより、部門全体のディールパイプラインを監督し方向性を示すなど大局観を持ったマネジメントを担う 。VPやディレクターが主導する案件の進捗状況を把握し、必要に応じて意思決定やクライアントとの交渉に関与する。
また、部門の人材戦略、採用、育成にも深く関与し、次世代のバンカーを育成する責任を負う。
顧客関係構築・案件獲得
MDの最も重要な業務は、新規のクライアントを開拓し、投資銀行に収益をもたらす案件を獲得することである 。企業の経営層との信頼関係を構築し、長期的なビジネスパートナーとしての地位を確立することが求められるため、市場の動向やクライアントのニーズを常に把握し、適切な提案をすることで新たなディールを創出する 。
https://www.morganstanley.co.jp/ja/profiles/k-yokoyama-investment-banking
まとめ・面接への活かし方
以上のように投資銀行はピラミッド型の組織構造になっている。何よりの特徴は役職が進むにつれて役割が変化していくことである。若手ほど手を動かし、歳を重ねるほどにチームマネジメントの色が強くなるとともに、最終的な案件獲得のための営業の仕事に収束していく。
そのため、プロスポーツで言われる「名選手名監督にあらず」のような「スーパージュニアバンカーが良いシニアバンカーになれるわけではない」という状況があるという。
IBDバンカーの戦略的なキャリア構築のためには、ジュニアバンカーの転職市場価値の極大化タイミングでの選択や重要視されるスキルがだんだん変化していく環境への適応など多様な要素が絡んでいる。
就活生の目線からすると、以上の情報から就活に活用できることは以下三点点であると考える。
① 目下必須要件である「ジュニアバンカーに必要なスキル・マインド・実際の業務」を理解し、適切にアピールする。
新卒のIBD就活においては学生は皆「アナリスト候補」であり、ジュニアバンカーとして必要な要素を持ち合わせているかをES、面接、インターン、最終面接であるスーパーデーまで一貫してチェックされる。そのため、ジュニアバンカーの役割や業務の解像度を高め、求められるスキルやマインドを正しく理解し、面接において資質があることを的確にアピールする必要がある。
② 説明会やインターン中の質問で質疑応答をしてくださる社員の方の役割を理解し、その役職だからこその回答を引き出す。
例えば、インターンの最終日にMDの方々が登壇しお話をされている時に「資料作成のコツって何ですか?」と聞いたとしたらどうだろう。時給に直すと数万に当たるような方に対し、十年前に卒業した業務のコツを聞くという的外れな質問をしてしまうと解答者も困ってしまうし、質問者側も良い回答は得られないだろう(もしかしたら理解不足と判断され、選考上で質問者の評価も下がってしまうかもしれない)。
MDという10年、20年のキャリアを持ち日々顧客との関係構築を進めながら案件を獲得する役職の方にこそ答えられる質問があるはずである。このように質問を回答してくださる方の役割について正しく理解し、的確な質問をする
③ 面接を担当してくださる社員様の現在の仕事の具体的なイメージをすることで訴求ポイントを変化させる
もちろん面接を担当してくださる方もその時間以外は仕事をされている。そして、各ポジションごとに「新入社員、アナリスト候補」に向ける眼差しは異なるのが当然であろう。
例えば、二年目のアナリストの社員様が面接を担当される際は「自分が現在やっている業務を果たすスキルは備わっているか?」「将来的に自分の部下として仕事を任せられそうか?」というような観点で見るだろう。
逆に、シニアバンカーになるにつれ「この子はうちにマッチするだろうか?」「とにかくうちの会社のために頑張ってくれそうか?」「ゆくゆくはうちを背負っていくようなシニアバンカーになるような素質は少しでもあるだろうか?」という自らが監督するチーム、ひいては社風への合致度と貢献可能性について目を配るだろうと考えられる。
実際若手バンカーの方々が担当される選考の初期ほどスキル・業界理解的な面を聞かれ、後半の年次が上の方が担当される面接になるにつれ自分の価値観や人間性などパーソナリティを審美されるような質問の比重が増加した。次の面接はどのような職位の方が担当されるのかから自分が訴求すべきポイントを把握し、準備に活かすことができる。
以下MEMO
ECMと DCMの比較
案件の特徴
案件規模が大きいが件数は少ない
ECMでは、IPOやフォローオン・オファリングなど、一度の取引で調達する金額が非常に大きく、企業にとっては一大イベントとなります。
そのため、年間の案件数はDCM(債券案件)に比べると少なくなりますが、1件あたりの取引規模は大きく、高いインパクトがあります。
高い専門性と複雑な準備工程
上場に向けた規制対応、企業価値の評価、投資家向けのロードショー、各国の証券取引所との調整など、非常に多岐にわたる業務が必要です。
発行条件の策定においては、既存株主の希薄化リスクや、市場環境・投資家需要とのバランスを慎重に分析する必要があります。
高い引受手数料
案件成立時の手数料は取引金額の数パーセントに及ぶ場合が多く、これは企業にとっての大きな投資であると同時に、投資銀行にとっては収益の主要な源泉となります。
一方で、案件の数自体は少ないため、一件ごとの仕事量は非常に大きく、長期間にわたるプロジェクトとなることが一般的です。
投資家との強固な関係構築
ECM案件では、投資家への詳細なプレゼンテーションやロードショーが不可欠です。これにより、企業のエクイティ・ストーリーを丁寧に伝え、適切な価格での発行を実現するため、投資家との信頼関係が重要な要素となります。
ビジネスモデル
成功報酬型フィー
ECMの収益モデルは、案件が成立した時点で成功報酬として高率のフィーを受け取る形態です。1案件あたりの手数料は高いものの、取引件数は少ないため、全体の収益は大口取引に大きく依存します。
長期的なリレーションシップの構築
一度の上場案件だけでなく、企業との長期的な関係を築くことで、フォローオン増資やその他のエクイティ関連案件にも関与できる体制を整えます。これにより、企業の資本政策全体に対するアドバイスを継続的に提供することが可能になります。
多面的なサービス提供
ECMバンカーは、発行前の戦略立案から、発行後の市場対応、さらにはIR活動のサポートまで、幅広いサービスを提供します。これにより、企業の上場成功とその後の市場でのパフォーマンス向上を支援し、高い顧客満足度を実現します。
DCM案件の特徴
高頻度の案件実行
債券発行は企業・政府が資金調達のために定期的に行うため、年間の案件数は株式発行に比べ圧倒的に多いです。
1件あたりの取引規模は比較的小さい場合が多く、迅速に複数の案件を回すことが求められます。
短期間でのクロージング
債券発行案件は、一般的に数週間から数か月程度で完結するため、案件回転が早いのが特徴です。
市場環境の変化に合わせた迅速な対応が必要となり、リアルタイムな金利・信用動向の把握が重要です。
低い引受手数料と高い取引量
1案件あたりの手数料は株式調達に比べ低いですが、頻繁に案件が発生するため、総合的な収益は安定しています。
ビジネスモデルは、低マージンながらも大量回転によって収益を確保する仕組みです。
シンジケート業務による市場連携
発行した債券はシンジケート方式で複数の投資銀行が連携して販売され、外部の機関投資家へ供給されます。
投資家との継続的なコミュニケーションを通じて、適正な価格設定や需要の把握が行われ、案件成功に貢献します。
市場環境と信用リスクの徹底分析
発行体の信用力、格付け、マーケットの流動性、金利環境などを綿密に分析し、最適な発行条件(利率、満期、償還条件など)を策定します。
これにより、発行体の資金調達コストを最小化し、投資家にとっても魅力的な案件として市場に提供されます。
DCMのビジネスモデル
低マージン・高回転型の収益モデル
DCMは1案件あたりの手数料が比較的低いですが、案件数が多く、また短期間で完了するため、取引回転数で収益を補完します。市場全体の債券規模は極めて大きいため、安定した収益基盤となります。
シンジケートによるリスク分散と効率性
債券発行はシンジケート方式で行われ、複数の投資銀行間でリスクや手数料が分割されるため、単独でのリスク負担が軽減されます。これにより、発行体への提案も柔軟かつ迅速に行える仕組みが整っています。
市場連動型の価格決定プロセス
発行時には市場の金利動向や投資家需要をリアルタイムで反映し、適正なクーポンレートや発行条件を設定します。市場環境の変動に即応する仕組みが、DCMの強みとなっています。
長期的な顧客リレーションシップの構築
DCMは、企業や政府の継続的な資金調達ニーズに応じて、長期的なパートナーシップを構築します。これにより、定期的な発行案件を通じた継続収益の確保と、信頼関係の強化が図られます。
DCM案件は、安定した資金調達を実現するために、迅速かつ効率的な手法と市場分析が求められる分野です。低い手数料ながらも、高頻度かつ短期間で案件を回すビジネスモデルは、債券市場の広大な規模と安定性を背景に、投資銀行にとって重要な収益源となっています。また、発行体と投資家との緊密な連携を通じたリレーションシップ構築が、将来的な成長と市場での競争優位性を支えています。
ECMとの違い:DCMならではの魅力とやりがい
同じキャピタルマーケッツでも株式を扱うECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)部門と債券を扱うDCM部門では、その性質からいくつか大きな違いがあります。それらの違いを踏まえ、DCMならではの魅力ややりがいについて整理します。 ①資金調達手段としての性質の違い: 株式発行(ECM)は資本を売る行為であり、発行体は投資家からの出資を受けて返済義務が生じません。その代わり投資家は株主となり、経営に参加する権利や配当・株価上昇によるリターンを得ます。一方、債券発行(DCM)は資金を借りる行為で、発行体は将来にわたり元本返済と利息支払いの義務を負います。投資家(債券購入者)は経営には関与せず、定期的な利息収入と元本返還がリターンとなります。この違いから、ECMでは発行による株主価値の希薄化や株価変動への影響にも気を配る必要がありますが、DCMでは発行体の信用力と金利水準が最大の関心事となります。言い換えれば、ECMは「株式市場の投資家心理や企業価値」を扱い、DCMは「金利市場の動向と信用リスク」を扱うという違いがあります。 ②案件の規模・頻度の違い: 一般にECM案件(例:公募増資やIPO)は一つ一つの案件規模が大きく、準備にも長い時間を要する傾向があります。発行決定から実行まで数ヶ月以上かかり、社内外の調整事項(株主や証取への手続きなど)も多岐にわたります。そのため案件数は限定的で希少ですが、その分成功した際の手数料収入も非常に大きくなります。一方DCM案件(社債発行等)は、平時から定期的・反復的に行われる資金調達手段です。多くの企業が毎年のように債券発行を行うため案件数が桁違いに多く、同時並行で複数の案件を担当するのも普通です
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。1件あたりの手数料率は1%未満(場合によっては0.1%台)と低めですが
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、大量のディールを回転させることで大きな収益を上げるビジネスモデルと言えます
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。この違いから、DCMでは若手でも早い段階から主担当として案件を任されやすい利点があります。頻度が多い分、トライ&エラーを通じて経験を積み専門性を高められるため、成長機会が豊富です。 ③働き方・業務スタイルの違い: ECMやM&Aアドバイザリーは案件ごとの山場が大きく、繁忙期と閑散期の波が激しい傾向があります。深夜残業や徹夜対応が続く時期もある一方、案件が落ち着けば比較的休みやすいというメリハリのある働き方です。それに対しDCMは、マーケット営業日に合わせた稼働が中心となるため、朝早くから市場が動く時間帯に業務が始まり、夜もマーケット情報のアップデートや資料作成で遅くまで残ることはありますが、週末は原則休みというケースが一般的です(マーケット休場日は基本仕事もオフ)。また前述の通り案件が常に継続して発生するため、「極端に暇な時期」はあまり無く常に一定の忙しさが続く感覚です
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。例えば大手証券のDCM担当者は一人で複数の企業や自治体を受け持ち、そのどれかの債券発行プロジェクトが常に進行している状態になりがちです
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。その結果、「息つく暇もないが他部門ほど徹夜尽くしでもない」というバランス型の忙しさとも言われます
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。規則正しい市場サイクルに沿った働き方は、金融市場への情熱と一定の生活リズムを両立させたい人に向いているでしょう。 ④DCMならではの魅力・やりがい: 債券市場を舞台に活躍するDCMには、他部門にはない魅力が数多くあります。まず、マクロ経済や金利動向に精通できる点です。日々世界の景気指標や中央銀行の発言に目を光らせ、市場金利の変化を読み解くことで、金融全体を俯瞰する力が身につきます。これは将来的に経済の専門家や財務のプロとして活躍する土台となるでしょう。また、幅広い業界の企業や政府機関と関われるのも魅力です。債券を発行するのは製造業からインフラ、公的機関まで多岐にわたり、DCM担当者は様々な業界の資金調達に携わります。クライアントの経営陣や財務担当者と直接議論し、金融戦略を提案できるため、自らの金融知識で企業の成長や国の政策を支えるやりがいを感じられます。 さらに近年では、**グリーンボンドやサステナビリティ債(ESG債)**など、社会的課題の解決に資する債券の発行支援が増えています
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。再生可能エネルギー事業の資金調達やSDGsプロジェクトへの投資誘致など、金融を通じて社会貢献に直接関わる機会があるのはDCMの誇れる点です
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。実際、あるDCMバンカーは「環境プロジェクト向け債券の発行を手掛け、自分の仕事が社会に良いインパクトを与えていると実感できた」と語っています。債券発行によって企業や社会を支える達成感は、金銭面のリターン以上に大きなモチベーションとなるでしょう。 また、人脈とグローバルな視野が広がる点も見逃せません。DCM業務では発行体と投資家の仲介として多くのステークホルダーと協働します。社内ではカバレッジバンカーや引受審査部、セールス&トレーディング部門と連携し、社外では投資家や弁護士、格付機関とも調整を行います。海外の投資銀行同士で共同主幹事を務めるケースでは英語での交渉や調整も発生し、国際的な金融実務の最前線を経験できます。これらを通じて得られるネットワークは、将来のキャリアにおいて大きな財産となるでしょう。 最後になりますが、DCMは安定性と挑戦が両立するフィールドです。市場環境は刻一刻と変化するため常に勉強と創意工夫が求められますが、一方で債券という伝統的な金融手段を扱うため土台となる理論や実務は体系立てて学ぶことができます。金融マーケットへの情熱と企業の成長を支えたい気持ちがある方にとって、DCM部門で働くことは大きなやりがいとなるでしょう。
コラム:GMとのファイアウォーる
コラム:not ファンド、notFAS、notコンサル
コラム:IBDvsGCM
エクイティ・キャピタル・マーケッツと投資銀行業務の違いECMが投資銀行業務と「どこが違うのか」という質問はよく寄せられます。実情として、ECMは投資銀行業務の一部であり、ほぼ全ての中規模以上の銀行にECMチームは存在します。主な違いは、ECMが債務やM&A案件ではなく、株式案件に特化している点、そして特定の業界に限定せず複数の業界にまたがって業務を行う点にあります。
また、市場をベースにした役割であるため、以下のような違いが生じます:
分析業務は厳密なものよりも、定性的または簡易なモデル作成が中心となる場合が多い。
労働時間はセールスやトレーディングに近い、比較的規則正しいものになる。
キャリアパス(エグジット先)の選択肢が限定的となる。
より詳しい情報は、「Capital Markets」と「Investment Banking」の違いに関する解説をご参照ください。
ECMのトレードオフと最終的な考察ECMは、プライベート・エクイティ(PE)に進めなかった場合の「失敗」と見なされることもあり、インターネット上では批判の対象になることが少なくありません。しかし、実際のところ、ECMで働くということは依然として投資銀行業務に従事していることであり、これは大学卒業生のおよそ95%以上が経験しないキャリアです。
つまり、トレードオフは以下の通りです:
勤務時間はやや良好で、一定の高収入が見込める一方、
業務内容はより専門的となり、他グループへの異動をしない限り、キャリアパス(エグジット先)が限定されるという点です。
一部の人は、ECMの仕事は「より退屈」だと主張します。というのも、スライドの更新や事務的な作業に多くの時間を割かれるからです。確かに、若手の業務は多くのグループで退屈な作業(データルームの更新、買い手と売り手のリスト作成、書類の修正など)が中心であるのは事実です。ただし、非資本市場グループでは、案件に直接関与できる機会が比較的多く、面接時の話題としても有利になる可能性があります。
結論として、ECMに進むべきか否かは、以下の点に依存します:
もし自分の将来の方向性がまだはっきりしておらず、選択肢を広く保っておきたいなら、ECMは最良の選択とは言えません。
一方、もしPEへの強い志向があるなら、ECMは理想的なグループではありません。
組織のピラミッド
外銀IBD就活の分析
戦略コンサルティングファームとの比較
採用人数、選考プロセス、倍率、スケジュール
就活生分析
内定者分析
外銀IBD就活の評価項目
基礎知識
守破離、コンピテンシー
