「男性のほうが体力がある」は本当か? スポーツを通じて学ぶジェンダー論

2025/04/10

■ジェンダーを大学で学ぶ

政治、経済、文学、生物学……大学では今、さまざまな学問の中でジェンダーを学ぶことができます。今回はスポーツの視点からジェンダーを学べる立命館大学産業社会学部の授業「スポーツとジェンダー」について、講義内容や大学で学ぶ意義などを紹介します。(写真=立命館大学提供)

男性が有利になるように制度化

オリンピックなど、世界的な大会でこれまで物議を醸(かも)してきたことの一つに、トランスジェンダーなど性別をめぐる問題があります。パリ五輪でも、男性ホルモンとも呼ばれるテストステロン値が高い女子ボクシングの選手が出場し、物議を醸しました。立命館大学産業社会学部の授業「スポーツとジェンダー」は、こうしたスポーツにおけるジェンダーの課題など、近現代のスポーツのありようと社会とのつながりについて、「性」に関わる視点から検討しています。

産業社会学部は2007年にカリキュラム改革を行って現代社会学科の1学科制となり、現代社会専攻、メディア社会専攻、スポーツ社会専攻、子ども社会専攻、人間福祉専攻の5つの専攻を設置しました。「スポーツとジェンダー」の授業を開講した経緯について、スポーツ社会専攻の岡田桂教授はこう話します。

「他大学のように体育学部やスポーツ科学部などに設置されているスポーツ専攻と違って、立命館大学の場合は、産業社会学部の中にスポーツ社会専攻があります。社会におけるスポーツを学ぶので、ジェンダーの視点というのは欠かせません」

授業を担当する教員は年度によって異なり、全15回の授業内容は教員によって違いますが、主軸となるのはこれまでスポーツにおいてジェンダーがどのように問題となってきたのか、歴史や事例について学ぶことです

「必ず学ぶのは、近代スポーツが生まれた経緯です。なぜなら、スポーツという文化はもともと男性だけが行う前提でつくられたものということを知る必要があるからです

岡田教授によると、近代スポーツの発祥は19世紀で、エリート教育を行うイギリスのパブリックスクール(男子校)で、課外活動の一つとして取り入れられるようになり、発展していきました。

「スポーツは男性のほうが有利と、一般的には認識されています。しかし、そもそも男性の体の資質に合ったものが選択され、男性が有利になるように制度化されてきたものが近代スポーツなのです

1973年に世界を騒然とさせた、アメリカのテニスの試合。当時の女性チャンピオンのビリー・ジーン・キングと元男子チャンピオンのボビー・リッグスが性差を超えた戦いを繰り広げた(写真=立命館大学提供)

体力は文化的に偏った概念

確かに、体力は女性より男性のほうがあると、当たり前のように認識されています。実際に小学校や中学校で行われる体力テストのスコアは、男子のほうが女子を上回りますが、岡田教授はその理由を次のように説明します。

「学校で行われる体力テストは、文部科学省が定めている体力の基準8項目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、20mシャトルラン、50m走、立ち幅跳び、ボール投げ)をテストします。このうち7項目は筋力によって左右されるので、男性が有利になります。一方、柔軟性をみる長座体前屈は、女性のスコアのほうが上回ります。つまり、男性が有利となるような項目が、体力を測る物差しになっているのです。そもそも体力とは何かを考えると、実は科学的なものではなく、男性が有利になるものだけを測ってきた、文化的に偏った概念だということがわかります」

立命館大学産業社会学部現代社会学科スポーツ社会専攻の岡田桂教授(写真=立命館大学提供)

身近なスポーツをジェンダーの視点で見ることで、学生たちは新たな気づきや疑問を持つことができます。24年度の授業は、産業社会学部非常勤講師で、フリーランスのプロレスラーとしても活動する塩見俊一さんが担当しています。

学生の意識が急激に変化

スポーツ社会専攻には保健体育の教職課程があり、スポーツでの成功体験を積んだ学生が多くいます。「そうした学生だからこそ、スポーツとジェンダーを学ぶ意義が大きい」と岡田教授は話します。

特に男子学生は自分が有利になるような条件の中で成果を得てきたということを、最低限知ってほしいですし、教員になるのであれば必ず知っておかなければならないことです。女子学生は、スポーツをしてきた中で自分が不利な立場になった経験があるなど、問題意識を持つ学生が多いように感じます。知識を得ることで、こうした問題意識を言語化できるようになってほしいと思います」

中学校の保健体育の授業では、男女別の授業があり、自分の性に違和感がある生徒にとっては着替えの問題などが出てきます。

「保健体育の現場では性に関わる問題に対応しなければならない場面が出てきやすいのですが、中学校の教員も十分に対応できていないというのが現状です」

一方で、中学校の保健体育でダンスが必修化されるなど、性差が出にくい種目を増やす動きも出ています。岡田教授はこう話します。

「学生たちの意識にも変化が見られます。男子学生は自分たちが特権的に持っているものを否定されたように感じるのか、以前は私の授業に対して拒否反応を示すことがありました。この10年くらいで学生の意識は急激に変わり、男子学生も受け入れなければならないと感じているようです

そもそもスポーツで嫌な思いをするのは、女性だけではありません。男性が中心となるようなスポーツで、その中に入れなかった男性は嫌な思いを体験してきているはずです。岡田教授は、授業を通して「スポーツの価値を総体的に見直す意識も持ってほしい」と言います。

「スポーツというと、アスレチックな競技だけを指す傾向がありますが、イギリスではスポーツは気晴らし全般を指すので、チェスやビリヤード、トランプなども含まれます。スポーツにおいて完全な男女平等は難しいことですが、できる部分は平等にしつつ、スポーツに関する新たな価値観を広げることは、男性も女性も生きやすくなることにつながると思います」

イギリスの書店では、チェスやポーカー、クロスワードなどの書籍がスポーツコーナーに並んでいる(写真=岡田教授提供)

スポーツをジェンダーの視点からとらえる取り組みは、他大学でも増えつつあります。
成城大学には「スポーツとジェンダー平等国際研究センター」が設けられており、「多様なジェンダー、多様な性の平等やそのための国際協力、連携を実現するスポーツの役割や潜在力を研究し、当該分野への国際的な学術貢献を目指す」ことを目的にしています。

立教大学スポーツウエルネス学部では、「スポーツとジェンダー論」「ウエルネスとジェンダー」について学ぶことができます。スポーツにジェンダーの視座を持つことの重要性を学生たちが認識するところから働きかけています。

身近なスポーツを通してジェンダーを学ぶことは、実体験を反映でき、ジェンダー学への理解が進みやすいといえるでしょう。

>>【連載】ジェンダーを大学で学ぶ

(文=中寺暁子)

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【写真】「男性のほうが体力がある」は本当か? スポーツを通じて学ぶジェンダー論

1973年に世界を騒然とさせた、アメリカのテニスの試合。当時の女性チャンピオンのビリー・ジーン・キングと元男子チャンピオンのボビー・リッグスが性差を超えた戦いを繰り広げた(写真=立命館大学提供)
1973年に世界を騒然とさせた、アメリカのテニスの試合。当時の女性チャンピオンのビリー・ジーン・キングと元男子チャンピオンのボビー・リッグスが性差を超えた戦いを繰り広げた(写真=立命館大学提供)

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