「絵柄が古い」という指摘は、結論から言うと全無視してください。
自戒を込めて言いますが、これは編集者として未熟な時ほど口にしてしまう言葉です。
もちろん具体的な指摘は別です。
例えば「この目の描き方は、80年代に活躍された〇〇先生を代表とするものですね。この描き方の利点は華やかさが出る部分にありますが、逆に視線の向きが解りづらいという欠点があり、微妙な感情の違いを表現するあなたの作風の場合、不利な描き方のようにも感じます。最近は、この描き方の利点は残しつつ、欠点を補うように進化させた目の描き方が流行っていて…」
などと具体的な話をされ、「つまり絵が古いって言われた!」って仰ってるならば、その話は聞く価値があると思います。
でも、おそらく違いますよね?
もし具体的な指摘を受けていたなら「ここをブラッシュアップしてみよう」とか試行錯誤する方向に気持ちが上がっていたと思うのです。
今あなたは「これからも漫画を描きたいのに自信がなくなってきた…」という漠然として不安を抱いてしまっています。
それってつまり、「絵柄が古い」という「否定」を編集者からされてしまって、それをどうしたらいいのか、途方に暮れている状況から来ているんだと思うんです。
「絵柄が古い」という指摘は、一体なにを示しているのか?
古いって言葉は非常に漠然とした表現ですが、何年代の絵柄だと指摘されたんでしょうか?
大抵の場合は、何の具体的な知識も持たず漠然とした素人の思い込みを言われただけかと思います。
が、編集者は編集者なりに色々考えて、たとえば「90年代に大人気だった〇〇っぽい」と思ったから、あなたに「絵柄が古い」と言ったと仮定しましょうか。
さて、ではそもそも論として、
90年代っぽい絵は描いてはいけないのでしょうか?
漫画のことだと難しい問いに感じるかもしれないので、
別のことに置き換えて考えてみましょうか。
あなたの友達に「古着ファッションが好きで、特に90年代に流行ったDCブランドをミックスコーデするのが今自分の中で流行ってるんだよね」っていう子がいたとして、
「その服、古いよ」とか「その趣味、古いよ」って言いますか?
あなたの友達に「オードリー・ヘプバーンに憧れてて、シンプルなんだけどエレガントなスタイルの服を着たいんだよね」って言う子がいたとして、「オードリー・ヘプバーンって昔の人だよ」「そんなスタイルに憧れるの、古いよ」って言いますか?
言いませんよね?
だって、その人の好みですから。
クラシカルなものが好きだって良いじゃないですか。
音楽でもそうです。
70年代から活躍する吉田拓郎に影響を受けたというあいみょんの曲に対して、70年代の音楽に影響を受けてるなんて古いからダメだよって言うべきだと思いますか?
さて、漫画の話に戻ります。
当たり前ですが、漫画も一緒です。
作家であるあなたが可愛いと思うもの、美しいと思うもの、素敵だと思うもの。
それは作家であるあなたの個性です。
だとするならば、
「絵柄が古い」という言葉は、作家さんの好きな絵の方向性・趣向性を否定する言葉です。
作家としての大切な個性に対して、美意識・価値観に対して「古い」というのは、それは…私は「悪口」だと思います。
あなたはアドバイスと称して、自分の美意識を傷つけるような悪口を言われて、傷ついているんです。
私も編集者で、編集長の任に就きながらも恥ずかしながらいまだに未熟で思慮が足りない人間なので自戒と反省を込めてこれを書いていますが、編集者は悪口を言った自覚などなく、あまりに未熟で、知識も浅く、自分の言葉がどういう意味を持つか、作家さんにどういう影響を与えてしまうかの考えも足りず、良かれと思って言ってしまったんだと思います。
あいみょんに対して「ギャルっぽい恰好した方がモテるよ?」というアドバイスを真顔でしてくる大人の図を想像してください。
ギャルは確かに最高オブ最高ですが、でも、その人のなりたい方向でないなら、それはバカバカしいアドバイスですよね。
「流行りの絵柄を練習して…」とありますが、もしあなたの個性に合わない絵柄を練習しているとするならば、それは似合わない服を着せられて、似合わないメイクを練習させられているようなものです。
自分の個性が全部「ダメな部分」に感じてしまって、辛くなってしまってるのでは?
それは想像するだけでも胸が苦しくなる状況です。
今すぐ「バカなことを言われた!」と怒るか、笑い飛ばすかしてください。
傷つけられていたんだ!と自覚して欲しいです。
その上で、編集者の未熟さの被害に二度と会わないために、ぜひおすすめしたいのが、「自分の目指す方向性」「テイスト」の「言語化」です。
あなたは新人なので、魅力がまだ開花しきってない状況ではあると思います。
上手くなる必要はまだまだある。垢抜ける要素が多々ある。
なので周りから色々アドバイスをもらう必要はあるわけですが、
「私の絵、どう思いますか?」と漠然とした問いかけをすると、相手が未熟なほど、その人の「好み」から出る視野の狭い意見を聞く羽目になります。
でも例えば「耽美な雰囲気を目指したいと思ってて…」とか、もっと具体的に自分が影響を受けたテイストを語るなど、具体的に目指したい絵のイメージを編集者と共有することが出来れば、おのずとあなたに必要なアドバイスだけをもらえるようになります。
漠然とした状況から抜け出し、一歩一歩目指す方向に上手くなっている時、やるべきことが見えている時、人はおのずとワクワクするのではないでしょうか?
そうすればきっと、「自信を保つ方法」なんて考えずに済むと思います。
絵を描く時のワクワクする気持ちが取り戻せるといいのですが…。
心が折れる前に、この質問箱が届けばいいと祈っています。