東京電力福島第1原発事故後の除染で出た土壌の再生利用に関して国民の意見を募るパブリックコメント(パブコメ)で、政府方針に反対する市民が交流サイト(SNS)で文例を拡散し、書き方を指南するセミナーなどを通じて多重提出を呼びかけていたことが分かった。意見数は異例の20万件超に達し、結果を重くみた首都圏の市議会が政府方針の撤回を求める意見書を可決していたことも判明。水増しされた「民意」が公の意思決定に影響を及ぼし、問題を複雑化させる実態が浮き彫りになった。
パブコメは1月17日~2月15日に実施され、東日本大震災・原子力災害伝承館の林智裕客員研究員(情報災害)がSNSの投稿を分析した。林氏によると、X(旧ツイッター)で再生利用への反対を促す集団は少なくとも二つ確認された。
このうち「汚染土 パブコメ」のキーワード検索で該当した集団は194のアカウントで構成。論点を整理した例文を「参考にして」などと拡散していたほか、意見を実際に送るオンラインセミナーに誘導し、複数回開催した形跡もあった。
別の集団は「あなたのまちに放射能汚染土がやってくる」とタグ(符号)付けし、投稿数上位者を表彰・称賛するイベントを展開した。このタグは2月2日を境に使われ始め、意見数が爆発的に増えるきっかけになった可能性がある。
パブコメに寄せられる意見は通常10件未満だが、今回は20万7850件に上った。このうち19万9573件(96%)は残り8277件のいずれかと完全に一致しており、組織的動員が結果となって表れた形だ。
環境省担当者は「パブコメは中身が重要。件数自体に重きを置いていない」と強調。総務省も「国民から幅広く意見を募る制度で、同じ内容をいくら提出しても無意味だ」と説明する。
しかし東京都三鷹市議会は3月27日、パブコメ結果を理由に、再生利用方針の撤回を求める意見書を可決した。文面には「多くの国民が不安を持ち(土壌を)拡散すべきではないと感じている。汚染土の再利用を強引に進めることは到底許されない」と明記。同31日、石破茂首相らに送付した。
林氏は「パブコメへの組織的な干渉が放置された結果、恣意(しい)的にゆがめられた『民意』が既成事実化した」と指摘。「議会の意見書として一定の正当性を持つことで、政府は対応を迫られる。本来優先すべき業務は妨害され、問題解決を一層困難にする」と語った。
一方、SNS上では県民とみられるアカウント名で「『風評加害』はやめてほしい」などと抗議し、集団関係者らと対立する様子も確認された。
林氏は「『汚染土』などと負のレッテルを貼ることは福島への差別に等しく、県民がその矢面に立たされている。SNSの影響力が増大する中、明らかに誤った情報は放置せず、拡散を防ぐ手だてを考えなければならない」と提言した。