横光利一の資料150点以上見つかる 『旅愁』草稿に描かれたある夜
川端康成らと共に新感覚派の文学を追究した作家・横光利一(1898~1947年)の直筆草稿や原稿など150点以上の資料が新たに見つかった。後期代表作で恋愛小説である『旅愁』草稿には、主人公とヒロインが過ごした夜の場面に小説にはない描写が残されていた。推敲(すいこう)の跡が生々しく残る資料から見えることとは。発見した摂南大の古矢篤史准教授(日本近代文学)らに注目点を聞いた。
旅は美しくしてこそ…
今回見つかったのは『旅愁』の草稿28点(400字詰め原稿用紙57枚)のほか、紀行文『欧洲紀行』、短編小説「シルクハット」「午前」などの直筆原稿や草稿▽担当編集者らと交わした書簡▽自筆俳句の掛け軸――など。流行作家となっていた30年代後半のものが中心だ。
古矢さんが2月に東京都内の古書店で発見し購入。横光の門下だった詩人がかつて所蔵していたものだといい、分析したところ研究者の間でも所蔵先が知られていなかった資料と判明したという。
<矢代はこのような、もうどちらも、およそ人の幸福の絶頂にいると、思わるべきときに際してさえ、愛するという簡単な一口の言葉が云(い)えないのであった>
『旅愁』はフランス・パリと東京を舞台にした長編小説で、毎日新聞の前身である東京日日新聞と大阪毎日新聞などへの連載(37~46年)が基になっている。見つかった草稿には、小説で描かれなかった場面の記述があった。
主人公の矢代が旅先のホテルで過ごす、オーストリア・チロル地方の夜。「あたし今夜は眠れないわ」。外で雷鳴がとどろき、旅仲間の千鶴子がおびえて別部屋から矢代の部屋を訪ねるシーンだ。全集や単行本で、一夜の描写は2人が話し込む場面で終わり、何事もなかったかのように翌朝を迎える。
横光は草稿でも、矢代と千鶴子との間に…
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