だから「斎藤元彦」「石丸伸二」は誕生した…「想定外の選挙結果」を次々に生んだ「SNS選挙」の本当の問題点
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■「告示後はボランティア」の建前は通用するのか 選挙コンサルタントの活動に対する公選法違反の疑いが表面化したのが、2022年2月の長崎県知事選挙であり、前述したとおり24年11月の兵庫県知事選挙ではPR会社の選挙への関与が公選法違反の問題となった。 従前は、選挙コンサルタントは、「告示後は報酬を受け取れば公職選挙法違反になるので、告示前までは政治活動へのアドバイスに対する報酬」「告示後はすべてボランティア」という説明で通してきた。しかし、活動全体がボランティアというのであればともかく、候補者の当選をめざす一連の活動を、「告示前の選挙準備活動は有償」「告示後はボランティア」と切り離せるものではない。告示後の選挙期間中も選挙運動に直接関わることを前提に、告示前に報酬を支払ったのであれば、選挙運動者にその対価を供与したことになり、買収罪が成立する。 だからこそ、従前は、選挙コンサルタントの活動は、基本的に表に出ない形で候補者自身に対する直接の助言・指導が中心で、特に、告示後の選挙運動には直接関わらないのが鉄則だった。証拠が残らないようにすれば、「選挙運動には当たらない“告示前の活動”に対する報酬しか受け取っていない」と主張することができるからだ。それが、選挙を“生業(なりわい)”とする選挙コンサルタントの常識であり、身を守る術すべでもあった。 ■“選挙ビジネス”に法が追い付いていない ところが、2つの知事選挙では、選挙コンサルタントやPR会社社長などが、業務としてSNSを含む選挙戦略の策定・実行に関わって候補者を当選に導いたことを公言し、それによって、公選法違反疑惑が表面化することになった。 かつては選挙のやり方は、選挙広報、法定の範囲内でのポスター、チラシ、街頭演説、選挙カーによる連呼、地縁・血縁を使った投票依頼など、限られたものでしかなかった。そうした中で、金銭を提供して有権者に投票依頼する「投票買収」を摘発・処罰することが、選挙違反の取締りの中心だった。 インターネット選挙が解禁されて10年あまり、選挙で有権者の支持を得る手段が多様化し、その中でSNSなどの活用が特に重要な手段になるのに伴って、そのような業務を専業とする業者が活動する余地が広がり、そのためのノウハウ、スキルを持つ業者の付加価値も大きくなっていく。それに対して有形無形に支払われる対価が大きなものになっていくのは必然だ。 そのような事態を放置すれば、専門業者に多額の報酬を支払えるかどうかで、選挙の勝敗が決することになり、公職選挙の目的を阻害することになりかねない。「業として選挙に関わること」を野放しにすることができない理由はそこにある。 ---------- 郷原 信郎(ごうはら・のぶお) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 1955年、島根県生まれ。77年東京大学理学部を卒業後、三井鉱山に入社。80年に司法試験に合格、検事に任官する。2006年に検事を退官し、08年には郷原総合法律事務所を開設。09年名城大学教授に就任、同年10月には総務省顧問に就任した。11年のオリンパスの損失隠し問題では、新日本監査法人が設置した監査検証委員会の委員も務めた。16年4月「組織罰を実現する会」顧問に就任。「両罰規定による組織罰」を提唱する。『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『検察の正義』(ちくま新書)、『思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)、『「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪になる国で』(小学館)など、著書多数。近著に『“歪んだ法”に壊される日本』(KADOKAWA)がある。 ----------
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎
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