自由な言論空間を諦めないために。港区男女平等参画センターでのキャンセルについて。
書く者として、自分の言論や行動への批判・批評は真摯に受けとめる・・・ということは意識している。
もちろん理不尽な批判、事実に基づかない攻撃に不毛な時間を取られ悔しいことはあるけれど、それでも、「そういう批判・攻撃」も含めて、私は私の言論の自由を守らなければいけないと思っている。
・・・と、そんな風に考えていなければ言論活動などやってられないのだけれど、最近の「正しいことしか言ってはいけない」風潮や、「自分と違う意見の人は徹底的に叩く」という空気には、やはり怯むような気分にもなる。
特にフェミニズムなどそもそも一人一派の自由な声だったはずなのに、この恐怖政治のような空気はいったい何なのか・・・とか。「表では言えないけれど実は・・・」とコソコソと語るような今のフェミニズムの言論空間とは何なのかとか。
最近はそんな恐怖政治空気を脱したく、様々な世代の女性たちと読書会を開いたり、なるべくたくさんの人と話すように心がけている。とにかく自由で活発な言論空間を諦めたくない、その一点の思いだ。
と、だらだらと前書きをしているのも、少し気の重たい話をするからだ。
こういうことを公表すると様々な人を巻き込む可能性があり、慎重になるべきだと思い悩んだのだけれど、恐らくこういう目にあっているのは、今、私だけではないという確信があり、また、事実として残しておく必要性を考えて公表しようと思う。
6月に行われる港区男女平等参画センターで私の講座がキャンセルされた。この講座は都民が企画したもので、「フラワーデモ」について語る小規模のワークショップだった。
キャンセルの理由に、ネット上の記事が二点あげられた。
一点は群馬県草津町で「町長から性被害があった」と虚偽告訴をした罪で刑事事件裁判中の新井祥子被告に関する記事、もう一点はLGBT法案に関する私自身の記事だ。
私がイベントの講師になることで、私の記事に批判的だった人々がSNSで炎上させる可能性があり、安全な運営ができないためとの理由だった。
市民団体から転送された港区担当者からのメールを読み、私は質問状を2025年1月24日に担当者に送った。私のメールは受信・開封され、市民団体には港区男女平等参画センターから連絡があったそうなのが、現時点で私への直接の回答はない。
これも恐らく今の言論状況を反映したひとつの事実なのだと思い、こういう「面倒なこと」を公表するのも勇気がいることなのだけれど、ここに残しておこうと思う。
まず最初に市民団体にあてられた港区男女平等参画センターによる文書。担当者名と、市民団体との時候の挨拶的なやりとりは省略している。
【審査会での判断背景】
①草津町問題に関連するSNS上の反響
まず、GoogleやYahoo!で「北原みのり」と検索すると、最上位に表示されるのが「草津町問題」に関連する炎上に関する情報です。
群馬県草津町の元町議・新井祥子氏が町長からの性被害を訴えた件について、作家で活動家の北原氏が支援活動を行いました。しかし、新井氏が2022年10月31日に虚偽告訴罪と名誉毀損罪で在宅起訴されたことを受け、北原氏の対応に対する批判が集まりました。
特に、今回の講座テーマとも関連する「フラワーデモ」が草津町問題において実施されたことが、炎上の一因となっている点が懸念されます。北原氏がフラワーデモを通じて新井氏を支持する発言を行ったことが、批判を招いた背景にあります。
(https://news.infoseek.co.jp/article/gadget_3359549/#goog_rewarded)
北原みのりさんが草津・新井祥子元議員の起訴に対しツイートするも「何故他人事?」「諸悪の根源」等の厳しい意見が殺到|Infoseekニュース - Infoseek(インフォシーク)
11月16日、著作家・活動家の北原みのりさんがTwitterにて. 群馬県草津町の新井祥子元議員に対して、11月1日に検察が虚偽告訴罪、及び、名誉棄損罪 ..news.infoseek.co.jp
②ジェンダー関連議論に関する懸念
北原氏はLGBT理解増進法案に関し、トランスジェンダーの「性自認」に懸念を示す発言を行っています。この発言により、一部のコミュニティから批判を受け、特にジェンダー関連のイベントでは議論や反発を招く可能性があります。(https://dot.asahi.com/articles/-/191343?page=1)
以上の背景を踏まえると、講師候補として選定する際にはリスクを十分に検討する必要があると考えられます。
これらの背景を踏まえ、SNSや来館者の反応による運営リスクを慎重に検討した結果、講師の変更をご検討いただきたいという結論に至りました。北原みのりさん個人が問題というよりも、SNSでの炎上が関連しており、執拗な質問や会話を求める来館者が発生したり、ネット上で指摘が広がる可能性が懸念されるためです。こうした状況が、安心・安全な運営に影響を及ぼすことを心配しております。
取り急ぎ、メールにて講師再選定の理由をご案内いたしました。追加でご質問等ございましたら、こちらで時間を調整の上、対応させていただきますのでお問い合わせください。よろしくお願いいたします。
以下は、市民団体からの報告を受けた私が、港区男女平等参画センター担当者宛に直接送ったメール。
港区立男女平等参画センター
リーブラフェスタ講座企画
ご担当者様
お世話になります。
フラワーデモ呼びかけ人の北原みのりです。
(リーブラフェスタ講座企画担当者の)A氏から、リーブラフェスタ講座企画において、私が講師として適任でないという結論が出されたと伺いました。
その件についてお尋ねします。
1:草津町問題に関するSNS上の反響について
リーブラフェスタ講座企画チームのA氏は「北原氏がフラワーデモを通じて新井氏を支持する発言を行ったことが、(SNS上での)批判を招いた背景にあります」と記されました。
フラワーデモはそもそも、被害者の言葉を信じる運動です。だからこそ新井氏が虚偽告訴をした事実は、支援者、そして性被害当事者に対し激しいダメージを与えました。
今回のご判断は、性被害者を疑うことができなく、それ故に新井氏の虚偽告訴に言葉では表せない深い葛藤に直面する支援者に対し追い打ちをかけるものです。
男女平等参画センターがそのような判断をされたことに、衝撃を受けております。また、ご担当者の事実認識は、文責者のない記事を鵜呑みにしたものであり、これはSNS上の誹謗中傷に加担される行為です。
私がこの件で矢面に立つことになったのはフラワーデモを通じた行為ではなく、草津町で行われたフラワーデモを私が主催した事実はありません。朝日新聞出版社が運営する「アエラドット」内での連載のためです。私は性被害を訴える女性がリコールされることに疑問を持ち草津町議会を取材した上で記事にしました(https://dot.asahi.com/articles/-/80701)。
この記事が大きく話題になったため、この件は国際的に急速に広まるきっかけになりました。私の記事をお読みになればお分かりのように、私は新井氏を一方的に支持しておらず、また草津町長を一方的に加害者と断じてはおりません。そしてこの件について私は現在、新井祥子被告の刑事裁判を傍聴しており、この問題について向き合うことを自分に課しております。
2:ジェンダー関連議論に関する懸念
A氏は私のアエラドットの記事(https://dot.asahi.com/articles/-/191343?page=1)を提示し、「北原氏はLGBT理解増進法案に関し、トランスジェンダーの『性自認』に懸念を示す発言を行っています。この発言により、一部のコミュニティから批判を受け、特にジェンダー関連のイベントでは議論や反発を招く可能性があります」と記されました。
私はテキスト内で「体の性別を基準に区分されているスペースで、『性自認』をどのように定義するのか、法律にどのように組み込んでいくのか、『疑問を挟むこと自体が差別』と封殺することなく議論をしていきたい」と記しております。
一部のコミュニティからの反発を理由に、このような結論が出されるのは理解に苦しみます。私の記事は読んでいただければお分かりのように、中道を意識した論評で概ね好評でした。今回の結論は、論評さえ許さないという姿勢を助長し、表現の自由を阻害/萎縮させるものです。
また、私は1990年代からLGBTコミュニティに関わり、セクシュアルマイノリティのパレードや映画祭などを具体的に支援してきました。私自身がセクシュアルマイノリティであることを公表していますが、そういう事実や経緯を見ることなく一方的に私を断罪する力を容認するかのような姿勢に、深く傷つきました。
A氏は、この判断は北原個人の問題ではなく「SNSや来館者の反応による運営リスクを慎重に検討した結果」のこととされていますが、このような行為は表現の自由を萎縮させ、声の大きな者による排他的行為を容認することになります。
また、この判断は北原個人の問題ではないとしながらも、私への批判や誹謗中傷には正当な根拠があるかのように企画者に伝え、事実を精査しようともしない不誠実な姿勢は、私への名誉毀損に加担する行為に他なりません。
なにより、性被害者を信じるフラワーデモを否定する声(1)と、女性の安全を懸念する人々にどう寄り添うべきかという論考するら許さない声(2)を理由に、性暴力問題に取り組んできた者の声を塞ぐというのが、男女平等参画センターの正しい姿勢なのか大きな疑問です。
私からお尋ねしたいことは以下です
1:「北原氏がフラワーデモを通じて新井氏を支持する発言を行ったことが、批判を招いた背景にあります」と記されておりますが、具体的に私のどの発言を指していますか?
2:a 「(北原は)トランスジェンダーの『性自認』に懸念を示す発言を行っています」としていますが、「トランスジェンダーの性自認」を「懸念」する私の発言は、どの箇所でしょうか?
b この原稿に、イベント運営上のリスクを懸念するほどの批判がどれほどあったのか教えてください。
c 「一部のコミュニティ」が貴施設に圧力をかけてくると考える根拠について教えてください。
3:運営リスクを慎重に検討したとありますが、北原が出演したイベントや講演会で、批判や嫌がらせで現場や運営側が混乱した具体的な事例を確認しましたか?
私はセクシュアルマイノリティの運動に当事者として関わり、女性の権利について声をあげ続け、性暴力に一貫して抗議してまいりました。
市井の女性たちが継続し成長させてきた女性運動とリーブラフェスタに心から敬意を表し、真摯なご返答を期待します。
北原みのり
担当者からは約3ヶ月経とうとする今も返信はない。
一方、市民団体の方はこの件を問題と捉え港区の議員と話し合いを続けてくださっているという。
私はこれまで様々な場所で講演活動などをしてきたが、具体的な攻撃を受けたことはない。昨年末には清瀬市で大きな講演の機会をいただいたが、そのような懸念は主催者からも、当日の聴衆からもなかった(今回指摘されている二点の記事は既出にも関わらず)。そういう実績を、港区男女平等参画センターの担当者は調べたのだろうか。今回の判断に担当者自身の偏見が含まれてはいないだろうか。SNS上での反応にセンシティブになるのは理解できるが、今回の反応は男女平等参画センターとしては、その理想や活動、言論の自由に関して自ら首を絞める過剰な行為なのではないか。
またこの判断に対する責任が誰なのか未だにわからず、港区男女平等参画センターから直接返信をいただけない理由も私にはわからない。このような判断が女性を巡る言論空間を狭めていくであろうことが、私は今、とても怖い。
風通しのよい世界、自由な言論空間を諦めないために。
2025年に起きているひとつの事実としてここに残しておきます。
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