プロ野球の横浜DeNAベイスターズが球団本拠地の運営会社「横浜スタジアム」に対して進めた株式公開買い付け(TOB)。買い付け価格への不満に加え、球団に協力すると球場との縁が切れかねないというジレンマから、当初は「難航している」との見方もあった。球団はより取得株数を増やそうと、終盤まで熱心に“株主詣で”を続け、多くの株主が期限直前に売却を決意。取得株数は過半数を軽々と超え、所有株数は8割に迫った。
「損得勘定でみれば売らない理由がない」。TOB開始から約10日後の2015年12月3日。株主組織「オーナーズ・クラブ」理事の一人で球場運営会社の山田尚典監査役はこう語った。非上場のため簡単に売却できず、施設改修などを理由に配当が下がる可能性があるためだ。
一方、売却を思いとどまるよう訴えていたのが球場運営会社社長を長年務めた鶴岡博氏(76)だ。内部留保は約100億円。配当率は5%に上り、株主の満足度が高かった球場運営会社。「目的は黒字化だけか。これまで(球団と球場は)車の両輪でやってこれたじゃないか」。約40年前、横浜青年会議所の一員として球場建設にもかかわった鶴岡氏は、その後も旧知の企業関係者に売却しないよう説得を繰り返した。
球団から提示されたのは、当初の価格の3倍に当たる1株1500円。球団の池田純社長は12月7日、「主要株主はほぼ押さえた」と自信をみせたが、株主の間では「企業価値に対して割安」との不満もあった。実際、主要株主である在京テレビ局幹部は同月中旬に「安いよね」と苦笑。価格などを理由に結論を年明けに持ち越す株主は少なくなかった。
個人株主の動向をつかみかねる一方、売却の確約を得られない主要株主。球団は約2カ月間ほぼ連日、部長職以上を総動員して作戦会議を実施した。この特命チームには親会社ディー・エヌ・エーのスタッフも投入。計約25人が企業や個人宅を訪ね回り、売却を求めた。
取得株数が3分の2以上になれば、定款変更や解散などの重要な事項を決められ、球団の権限が増す。およそ67%以上という数字を意識しながらチームは積極的に動いた。
横浜市内のある企業には役員が3回訪問し、熱心に売却を呼び掛けた。当初は売らない方針だった同社は結局、手放すことを決めた。
4・89%の株を保有する横浜銀行の寺澤辰麿頭取のもとにも期限直前、南場智子球団オーナーが訪れた。同行は独自に情報収集し、慎重に検討を進めていたが、球団の「3分の2以上の確保への強い意思」もあり、「地元球団に協力する」ためとして、一部売却を最終決定した。
締め切り当日に売却を決めた在京テレビ局もあった。同社は最終日の午前9時から投融資会議を開き、売却を決定。同社役員は同日夜「経済合理性も考慮して総合的に判断した」と明かす一方、複雑な表情も浮かべた。「球場や球団、横浜の成長に本当は噛(か)んでいたかった」
関係者によると、締め切り期限の1週間前ほどから、売却に応じる株主が急増。十数の主要株主のうち売却しなかったのは、横浜市と建設会社2社にとどまった。
市民球場として設立された経緯を重視し売却しなかった、初代球場運営会社社長の孫で電気工事業「共栄社」(横浜市中区)の山口宏社長(56)は、球団の4年間にわたる創意工夫や集客力を評価している。「今後も少数株主として見守りたい。長期的な視点に立ち、堅実な一体運営をしてほしい」とエールを送った。
「にぎわい創出期待」地元反応
TOB成立を受け、主要株主の一つ、横浜市の林文子市長は「一層、市民やファンに親しまれる球場となり、さらなるにぎわいの創出と関内・関外地区の活性化につながることを期待する」などとコメント。横浜銀行も「地元球団への協力として株式の一部売却に応じたが、今後も株式の保有を継続し、これまで通り横浜市とともに球場経営に参画していく」とした。
地元経済界ではドーム構想が持ち上がり、横浜商工会議所は建設推進に向けて議論している。上野孝会頭は「特定企業の経営に関わる問題なのでコメントする立場にないが、より地域に密着した体制づくりとファンサービスの一層の充実につながるよう祈念する」とのコメントを発表。任意団体「横浜ドームを実現する会」の池田典義会長は「球団と球場の一体経営で効率化を進め、最終的に横浜DeNAベイスターズが強くなれば結構なこと」と話した。