Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Revelation of the Wheel of Fortune

「事情は凡そ明智君から聞いているわ。大変なことになったわね」

 

「いきなり二百万なんて吹っ掛けてくるあたり、ビビらせることが目的だと思ってますけどね」

 

 丸喜先生と話した数日後、朝から忙しいだろうに冴さんが電話をかけてきてくれていた。

 

「まだ録音は受け取ってないけれど、金城本人が脅迫したという証拠は非常に大きいわ。高校生一人を脅すのにあまりにも高い代償を奴は払った。何が何でも捕まえてみせるから、あなたは私と明智君に任せて自分の身を第一に考えてちょうだい」

 

「すみませんが、お願いします。協力すると言っておきながら早速こうしてお手数を掛けてしまってますが」

 

「それこそ気にしないで。明智君がホームズであなたがワトソンなら、さしずめ私はレストレード警部かしら? それにあなたは私の切り札なんだから。精神暴走事件の改めての分析を心待ちにしているわ」

 

 冴さんの口調は初めて会った時よりも幾分か柔らかく、少しは心に余裕が出てきているのかもしれないと思えた。少なくとも僕や明智君と話している間は、彼女も多少はストレスから解放されているのかもしれない。検察庁に勤めている大人の助けになれているのだと少しは自惚れても良いのかな。ともかく冴さんにはまだ録音が渡っていないようで良かった。明智君にデータを渡すときに新島さんの名前を出さないようにしてほしいとお願いしたんだけど、どうやら彼は律義に約束を守ってくれているみたいだ。

 

「それについては過去の新聞をちょこちょこと漁っているのでもう少し時間が欲しいですね」

 

「新聞なのね、今時珍しい情報収集のやり方ね。てっきりネットを利用するものだと思っていたわ」

 

「アナログ人間なものですから、僕は」

 

「……なんだか色々と歳に見合わないわね、あなた。話せば話すほど上司や先輩と話している気分になるわ」

 

 冴さんはそう言ってクスクスと笑う。内面と外面の食い違いについては僕も自覚している分改めて他人から指摘されるとギクリとしてしまう。もちろん表には出さないけれども。

 

「けど、金城は悪手を打ったわね。あなたに手を出されて明智君が珍しくお冠よ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、昨日も金城の根城候補のクラブに強制捜査が入ったわ。奴は捕まえられなかったけれど、確実に安全圏を削り取っているわ」

 

 場所の特定も含めた陣頭指揮を明智君があそこまで積極的に取っているのは初めてのことよ。

 そう言った冴さんの言葉の裏には、どこか面白がっているような色が含まれているのに気付いた。普段はクールな明智君が熱くなっている理由が僕だとしたら冴さんからしたら彼の中に年相応の感情を見出して微笑ましく感じられるものなのだろうか。

 

「僕としてはそれで明智くんが危ない目に遭わないかも心配ですがね」

 

「安心して。むしろ警察と表立って協力関係にある分、明智君の方があなたよりは安全だから」

 

「なら良いんですけど。僕は僕で出来るだけ自衛するようにはしておきます」

 

「そうしてちょうだい。お望みなら警察に依頼してこっそりと護衛を付けることも出来るけれど?」

 

「それについては少しだけ待ってもらえませんか?」

 

「あら、どうして?」

 

 冴さんに問われて少しだけ言葉に詰まる。僕が新島さんを人質に取られて脅されている以上、僕が金城に怪しまれた場合、真っ先に被害に遭うのは僕ではなく新島さんだ。なので僕としてはしばらくは金城に目を付けられない程度に大人しくしておく必要がある。そのために店長に泣きつかれたけれどバイトもしばらく休ませてほしいとお願いもしたのだ。僕一人が被害を被るならともかく、お店にまで迷惑がかかってしまうのは申し訳ない。

 だけどせっかく明智君が隠してくれたのに頼んだ当の本人である僕がバラしていくわけにはいかないだろう。どうやって誤魔化したものか。

 

「今の金城は僕に接触した直後から捜査が苛烈になってきたと思っている。そうすると僕と警察の結びつきを疑うでしょう?」

 

「それは……、確かに言われるとそうなるわね」

 

「そんな僕が警察の護衛を付けてもらったら用心深い金城は絶対に気付く。今はまだ脅迫程度で済んでますけど、もし繋がりがあると思われたらもっと直接的な手段に訴えかけてくるかもしれない。だから、明智くんと冴さんが早く金城を捕まえてくれることを期待してますよ」

 

「まったく……。そう言われたら頑張らざるを得ないわね、大人としては。報酬は高くつくわよ、バーノン君?」

 

「この前も思いましたけどダイ・バーノンなんて今時の子は分からないですよ。というか今時じゃなくてもマジシャンとかに詳しくないと分からないと思いますけどね」

 

「……でもあなたは分かるじゃない」

 

「そういう意味では僕も若くないのかもしれないです」

 

「……なんだかショックだわ」

 

 遠回しに若くないと言われたことに傷ついたのか、少し拗ねたような口調になる冴さん。電話越しでも唇を尖らせている画が想像できて僕も笑ってしまった。その気配を感じ取られたのか冴さんが何か言いたいことでも? と問い詰めるモードに入ったので話題を変えるために新島さんのことを切り出してみる。

 

「そういえば、真さんとは仲直りできました?」

 

「それは……、まあ、最近は忙しくて」

 

 口ごもった冴さんの様子に、この人、気まずさを仕事で紛らわせてるなと悟る。僕と軽口を叩けるくらいになってるんだから早く仲直りすれば良いのに。

 

「遅くとも金城の件が終わったら仲直りしましょうね?」

 

「……善処するわ」

 

「それ結局何もしないやつじゃないですか。気まずいなら僕も間に入りますから」

 

「流石にそれは大人として情けないから遠慮しておこうかしら……」

 

 そう思うなら仲直りしたら良いじゃないですか、という言葉は飲み込んだ。冴さんも割と本気で凹んでいそうなので僕がこれ以上言うことでもないだろうし。

 

 


 

 

 そして放課後、今日は生徒会活動も休ませてもらい、さっさと帰ろうと鞄を肩に掛ける。そして窓から校門の方へとちらりと視線を向けた。これは金城からの電話があってから不本意ながら日課になってしまったのだけれど、僕が秀尽学園生だということは向こうもとっくに分かっている。そこから僕に更にプレッシャーを掛けようと思えば、例えば配下を使って僕の家を突き止め、家族の行動パターンを割り出す、といったこともしてくると僕は考えていた。

 まあ窓から見ただけで僕を尾行しようとしている人間がいるかどうかなんて僕には分かるわけも無く、後は適度に寄り道して尾行されていたとしても撒けるかどうか試すくらいだろう。

 

「尾行されてませんように。フィジカルで迫られたら当然負けるからね」

 

 小さく呟きながら僕は校門を出て駅へと向かう。同様に下校している秀尽生に紛れながら歩き、いつも乗っている電車とは別の電車に乗る。目指すは新宿だ。たまにはいつもと違う本屋に足を運ぼう、というのと本当に尾行されていたら新宿辺りは夜になれば警察が見回りをしていたりするのでそこに厄介になろうというつもりだった。

 

「ということでやって来たは良いものの、本屋だけで時間が潰せるわけもなし」

 

 新宿に着いて早速本屋に足を運んだのだけど、店舗がそれほど大きくないので早々に目ぼしいものは見終わってしまった。お陰で僕を尾けていそうな人がいることはまあ分かったから良しとするけど。やはり時間を潰すなら神保町の古本屋に行くべきだな。あそこなら何時間でも過ごせる自信がある。

 一つしかない入り口で待ち伏せされていては尾行を撒くも何も無いので僕は諦めて街をぶらつくことにする。

 

「あ、あの、そこのあなた……!」

 

 そうやってブラブラとしていると、どこからか声が掛けられた。人間というのは不思議で、自分に向かって掛けられている声というのは名前が無くても何となく分かってしまうものだ。何かと思って声の主の方に振り向けば、表通りから少し裏に入ったところ、その道脇に折り畳み式の机の上に青紫色のクロスを敷いただけのテーブルと同じく折り畳み式の椅子という簡素に過ぎるテーブルセットからこちらを見据えている金髪の女性と目が合う。

 

「僕に何か?」

 

「あ、すみません。少し不思議な雰囲気を感じたもので。その、占いにご興味はありますか?」

 

 近づいて行ってよく見れば、テーブルの上にはタロットカード。こういうときは水晶玉なんじゃないかと僕の中のステレオタイプな場末の占い師像との違いを感じながら、僕は促されるままに彼女の対面の椅子に腰かけていた。

 

「不思議な雰囲気ですか? ただの高校生なんですけどね」

 

「えぇ……、でも明らかに変な……。いや、ちょっと占わせてもらっても良いですか? これについてはお代は要らないので」

 

 まさか初対面の人に変、とまで言われてしまうとは思いもよらなかった。まあお代も不要で占ってくれるのだから折角なので占ってもらおう。

 そう思って頷けば、彼女は一言お礼を言ってからタロットカードを慣れた手つきで切り始める。僕にも何回かカットするように促しながら、僕にはあまり理解できないけれど恐らく決まりがあるのだろう形にタロットカードを順番に並べていく。

 そうしてカードを一枚一枚開いていくたびに、彼女の顔が不可解なものを見るような表情になっていくのを面白く感じながら眺めていると、最後の一枚を前にして彼女の手が止まった。

 

「やっぱり今まで見てきた人とは違います。目の前にいるのはあなた一人だけのはずなのにまるで別の人も同時に占っているような……」

 

「それは、ちょっと僕に言われてもよく分からないですね」

 

 冴さんと言いこの人といい、僕が関わる年上の女性は鋭い人が多くないだろうか。というかこの人の占いの腕はもしかしなくても確かなものみたいだ。

 

「あ、そうですよね、ごめんなさい。でもやっぱり私の直感は正しかったみたいです。明確な道筋の見えない人なんて今までいませんでしたから」

 

 そう言いながら彼女が開いた最後の一枚に描かれていた絵は中央に丸が描かれ、四隅に天使、獅子、鷲、牡牛のシンボルが配置されたカード。

 

「運命の輪の正位置、ですか。確かにその通りかもしれませんね」

 

「どういうことです?」

 

「運命の輪は逆らうことの出来ない宿命だったり、人間を超越した力、そして吉も凶もないニュートラルな心情を表したりします。何となく私があなたに感じた雰囲気に沿っていると思ったので」

 

「宿命ですか。そんな大したものは抱えていないと思ってるんですけどね」

 

 ただ、金城に絡まれてしまっている今現在を不運な宿命と捉えるなら確かにその通りかもしれない。

 

「でも、例えば悪いことが自分の身に起こったとしても、そこまで強く嘆いたりはしないんじゃないですか? 自分の不運を呪ったり、誰かに責任を転嫁したりはしない、そういう人が運命の輪に表されることが多いんですよね」

 

「へぇ……」

 

 言われてみればそうかもしれないと思う。僕の場合は性格的な問題というよりも前世の記憶という経験の差、と言っても良いか分からないけどそういった類のものだと思うけれど。この人の言うことはどうやら並外れたコールドリーディングの技術によるものと言う訳でも無さそうだ。もちろんこちらを観察しているのは分かるけれど、コールドリーディングをする人はそれをあまり感じさせようとはしない。特に占い師みたいな自身の言葉を客に信じさせたい人は占い師自身の超人的な能力を信じさせるために心理学的な技術を用いていることは極力隠そうとする。

 そういう意味では僕の反応を窺うような素振りを隠さないこの人は職業占い師としては未熟だと言えるかもしれない。それ以上にこの人の占いの腕を信じかけているけれど。

 

「こんな人もいるなんて、東京は凄いですねぇ」

 

「僕としてはいきなり占われて感心されて喜び半分困惑半分ですよ」

 

 そう言って朗らかに笑う占い師さんに色々と考えていた自分が逆に間抜けみたいに感じてしまう。

 

「ああ、確かに名前も名乗らずいきなり不躾でしたね、すみません」

 

 御船千早、と名乗った彼女はにっこりと笑って頭を下げる。名乗られておいて名乗り返さないのも座りが悪いのでこちらも自己紹介をして占いというよりもどこかの飲食店で相席になったときのような微妙な雰囲気になる。

 

「ええっと、それで私としてはお時間を頂いてしまったのでよろしければ何か占いましょうか? お代は結構ですよ」

 

「本当ですか?」

 

 僕としては御船さんの占い師としての実力に疑いは無いので常識の範囲内であればお金を払うのも吝かでは無いのだけど、一回無料で占っていただけるとのことなので厚意に甘えておこう。

 

「今現在困ってることなんですけど、僕を尾行している人がいるので何とか撒きたいんですけど、どうしたら良いですかね?」

 

「えっと……、それは警察に相談した方が良いのでは……?」

 

 

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