Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

30 / 104
Bank of Gluttony

 金城と対面した翌日、その放課後に真は怪盗団と合流して金城の認知世界、パレスへと足を運んでいた。金城にカモとして認知された今であれば中に浮かぶ金城のパレス内部に向こうから招き入れてくるだろうというモルガナの言通り、巨大なUFOのような金城のパレスが真を認識した瞬間に入り口までの階段を出してきた。

 

「やっぱりな。ワガハイが睨んだ通りだ!」

 

 狙い通りの展開となってしめたものだと笑いながら階段を上るモルガナと、その後ろに続く真と怪盗団の面々。

 

「認知世界……。金城は渋谷をこんなものだと認識しているのね」

 

 階段を上るにつれてあたりの景色がよく見渡せるようになり、真は眼下に広がる光景に顔を顰めた。道行く人は自分が自由に金を引き出せるATMと見なす認知、そして宙に浮かぶ金城の居城は自分が誰にも捕まらないという自信の表れだろう。

 

「けど、どうして金城がここまで自分が捕まらないと自信を持てるの?」

 

 階段を上りながら、真は自問する。強引に過ぎる手段とはいえ、一介の高校生である自分ですら金城に会うことが出来たのだ。そんな程度のリスク管理で警察の捜査を逃れることが出来たなんて思えない。一介の高校生で何も出来ないと油断していた? それとも他にも目的があった? 

 

「何か考え事?」

 

「あ、ええ。金城がどうしてここまで迂闊に私と顔を合わせようとしたのかが気になったのよ」

 

 いつの間にか隣に並んでいた蓮。横から顔を覗き込んでくる彼女に真は自分の考えを話す。

 怪盗団であると疑いをかけ、そして証拠を掴んで半ば脅すように金城の件を解決するように迫った。それに対して竜司や杏、祐介は当然反発した。彼らが真に向ける目は厳しく、それこそ杏からは面と向かって役立たずだと言われてしまったのだ。にも拘らず、蓮だけはいつも通りの態度を崩さなかった。怪盗団の証拠を突き付けたときは表情を少し歪めたものの、冷静に金城について聞き込みを行い、解決しようと動いていた。

 

(だから海藤君も蓮を気に掛けていたのかしら)

 

 脳裏に過るのは副会長が蓮と時折生徒会室で繰り広げていた本の感想会。趣味が合ったのか、読んだ本について語る二人の顔は扉を隔てて会話こそ聞こえなかったものの楽しそうだった。

 怪盗団への当たりが強くなったことに、それも関係無いかと言われると、真は口ごもってしまう。自分よりもよっぽど早く、徹と距離を詰めた蓮に思うところが無い、とは言い切れない自分がいることを、真は微かに自覚していた。それは頼りになる片腕を奪われたことによるものなのか、あるいは仲の良い友人が自分よりも仲の良さそうな人といるときを見てしまったときに感じる何かか。いやいやそこまで自分は子供染みた考えを持ってはいないと真は頭を振った。

 

「気になることはあれば直接金城に聞けば良い。認知世界の金城に」

 

「……そうね、そうするわ」

 

 そう言って上を見据える蓮を、真は少し眩しいものを見るように目を細めた。彼女は自分の置かれた状況を嘆くだけではいけないことをきちんと認識している。彼女にまつわる噂を耳にして、勝手に彼女の為人を決めつけていた自分がいることを真は恥じる。4月に徹も言っていたではないか、会ってもいないうちから決めつけるのは良くないと。

 

「雨宮さん、ごめんなさい」

 

「? 昨日のことならもう謝ってもらった」

 

「昨日のことだけじゃないわ。あなたのことを誤解して、偏見を持ってた。生徒会長なんだから、そんなことしちゃいけないのに」

 

「気にしなくて良い。私は気にしてない。でも、そう言ってくれることは嬉しい」

 

 蓮で良い、そう言って差し出された右手を、真はおずおずと握り返した。

 そして一行は階段を上りきる。そこで目にしたのは金城銀行、とでかでかと看板を掲げた豪奢な建物。

 

「ATMの人間から吸い上げた金は自分の懐、つまり自分の銀行にしまいこんでるってわけかよ」

 

 建物を見上げながら忌々しそうに呟く竜司。それを横目に蓮は別の物に目を奪われていた。

 それは青いオーラをまとった鉄格子の扉。自分だけにしか見えていないと思われるベルベットルームへの入り口だ。その傍らに立つ看守の双子、カロリーヌとジュスティーヌが蓮に向かって手招きをしていた。それに従って蓮はベルベットルームの入り口へと近づいていく。

 

「よく来たな、囚人」

 

「主がお伝えしたいことがあると仰せです。ついて来なさい」

 

 顎を上げて勝気な様子のカロリーヌと、平坦な口調ながら有無を言わせぬ様子のジュスティーヌに続いて蓮はベルベットルームへと足を踏み入れる。黒のロングコートが特徴的な彼女の怪盗服は気が付けば白黒模様の囚人服へと変化し、周囲の景色が粗末なベッドが備え付けられた見慣れた牢屋に変わる頃には、彼女の足に重たい鉄球が結び付けられていた。

 

「ようこそ、私のベルベットルームへ。これで三人目のターゲットになるか」

 

 鉄格子の向こう、長鼻にぎょろりとした大きな目、黒いスーツに白い手袋を身に付けた老人は地の底から響くような低い声で蓮に言葉を掛ける。

 

「更生が順調に進んでいるようで何より。私も導くものとしてお前の更生の行き先を楽しみにしている」

 

 だが、とイゴールは言葉をそこで一度切った。

 

「私ですら関知していない不確定要素が紛れ込んでいる」

 

 いつも要領を得ないことを言うイゴールだが、今の彼の言葉には蓮でも感じ取れるほどの苛立ちが含まれていた。

 

「主の言う通り、このパレスには本来混ざり込むはずの無い因子が紛れ込んでいます。私も、カロリーヌもその気配を感じている」

 

「お前の更生に対してどれほどの影響があるか分からないからありがたくも忠告して下さったのだ。感謝しろ、囚人!」

 

 イゴールに追従するジュスティーヌとカロリーヌ。しかし、ジュスティーヌは言いながらもどこか腑に落ちない顔をしていた。

 

「ですが、そこまで不穏な気配とは私には思えません。むしろ、どこか懐かしいような……」

 

「何か言ったか、ジュスティーヌ?」

 

「……いいえ、何も」

 

 カロリーヌが怪訝な顔をしてジュスティーヌに問いかけるが、ジュスティーヌは気のせいだと自分に言い聞かせるようにそう言って蓮から目を逸らした。

 

「……いずれにせよ、お前も警戒しておくことだ。これで更生が滞ることの無いようにな」

 

 イゴールはそう言うと組んだ手を解き、右手をヒラリと振る。それは彼がこれ以上話すことは無いという意を表している。

 

「話は以上だ。精々励めよ、囚人!」

 

 主の意図を汲んだカロリーヌが警棒を一度鉄格子に強く叩きつけると、あたりにサイレンの音が響き始める。この音は蓮が現実、あるいはパレスに引き戻される合図だ。蓮の意識が徐々に遠のいていく。鉄格子の冷たさも、足首に嵌められた枷の重さも、全てが遠退いて。

 

「──い、蓮? おーい!」

 

 そして気が付けば蓮の顔の前でヒラヒラと心配そうな表情で手を振る竜司の顔が視界に広がる。どうやらベルベットルームに居る間、こちらでぼうっとしている蓮を心配してくれていたようだ。

 

「大丈夫か? またボーっとしてたぞ」

 

「……大丈夫、行こう」

 

 竜司の問いかけに蓮は短く返すと、金城銀行を見上げる。イゴールの言う不確定要素、蓮は口にはしなかったものの、思い当たるものが無いわけではなかった。班目を改心させた後、モルガナと相談してメメントスを探し回ったものの見つけられなかった。パレスでのみ顔を合わせることが出来た彼が、イゴールの言う不確定要素だというのだろうか。

 

「銀行か、パレスってどうして皆趣味悪いんだろ」

 

 蓮の後に続きながら、杏がため息混じりに零す。そうして真を加えた怪盗団一行はついにパレスの中で金城と対面することになる。自身を銀行の頭取と認識し、弱者全てを金づると見なす歪んだ認知の主と。

 

 


 

 

「…………」

 

「…………」

 

 突然だけれど、誰かこの状況から助けてくれないかと言いたい。明智君との話を終えた数日後、いつもの通り登校した僕は日課となっている読書のために生徒会室の扉を開いた。

 そうしてしばらく本を読んでいたところ、まだ8時にもなっていないというのに新島さんが姿を現したのだ。驚いて目を見開く僕と対照的に、新島さんは僕がいることに特に驚いた様子も無く、むしろ僕がいることに安堵したように息を吐くと、僕の対面の席に腰かけた。そして彼女は口を開いて何かを言おうとしては言葉が見つからないのかまた口を閉じる、ということを何度か繰り返し、僕もそれに対してどう反応すべきか分からないまま本から目を上げられない状況が5分ほど続いていた。

 

「……」

 

 今僕が目を上げれば恐らく新島さんと目が合うだろう。それくらい視線が対面から注がれていることが分かる。僕としても彼女と仲直りしたいのだけれど、僕も何と言えば良いのか言葉を探しあぐねているのが現状だ。

 ……とはいえこのまま黙ってい続けるわけにはいかない。僕はパタンと小さな音を立てて本を閉じると、意を決して新島さんと目を合わせる。僕と視線がぶつかった新島さんは分かりやすく肩を跳ねさせた。

 

「おはよう、新島さん。挨拶が遅れてごめんね」

 

「お、おはよう」

 

「この前は大変だったね」

 

 彼女が切り出したかったのはこのことだろうと思って話題を提供してみる。僕の予想は当たっていたようで、彼女の顔が露骨に曇った。

 

「その、私のせいで……」

 

「ごめんね、新島さん」

 

「……どうしてあなたが謝るのよ」

 

 僕が謝罪を口にすると新島さんが泣きそうな目で僕を見るが、この前の件に関しては僕の責任も多分にあると思うのだ。

 

「僕が新島さんに心配かけてばかりだからね。僕がぼんやりとしてばかりだから気を揉んで何とかしようとした結果、金城のところに乗り込んでいっちゃった。僕はそう予想したんだけど違ったかな?」

 

「……だけどそれで結局あなたに迷惑を掛けちゃったわ」

 

 新島さんはそう言って視線を机上に落とす。やはりと言うべきか、僕を巻き込んでしまったことにかなりの責任を感じてしまっているようだ。僕としては既に明智君や冴さんと組んで調査をしていたので遅かれ早かれ巻き込まれていただろうと僕は思っているが、それを伝えたところで彼女の気が楽になることは無いだろうし、更に心配をかけてしまうだけだ。

 

「先に迷惑を掛けたのは僕だよ。だからここは両成敗ってことでどう? これを機に仲直り出来ると嬉しい」

 

「でも……」

 

 僕が右手を差し出すけれど、新島さんは口ごもり、手を取るのを躊躇っていた。

 

「新島さんの気が済まない?」

 

「……あなたが私を許してくれるとしても私の気が収まらないわ」

 

 真面目な新島さんらしいセリフだ。彼女が信奉する正しさが彼女を許さないんだろう。それはとても尊い気質だけど、それによって彼女は昨日のように自分を追い込んでしまった。僕は席を離れると、彼女の隣に立つ。新島さんは席に座ったまま、僕を見上げていた。目線を合わせるために膝をつく。

 

「え、っと……」

 

「自分に厳しいのは美徳だけどね。そうやって自分を追い詰めるのは良くないかな。僕も悪いところがあって、新島さんも少し先走ってしまった。ここはそういうことで良いじゃない」

 

「そうやって優しくするのはズルいわ……」

 

「新島さんと気まずくてあんまり話せなかったのが寂しかったんだ。早く仲直りしたい僕のワガママだよ」

 

 僕がそう言うと、新島さんは一瞬泣きそうな顔をしたかと思うと、ぎこちないもののようやく笑顔を見せてくれた。

 

「……この件は絶対に私が何とかしてみせるわ。そうじゃないときちんとあなたに謝れないもの」

 

「あんまり気負い過ぎないで欲しいけどね。でも、僕を助けてくれると嬉しい」

 

「ええ、巻き込んでおいてどの口が言うと思われるかもしれないけれど、私があなたを助けるわ。……そのための力も得たんだから」

 

「うん、頼らせてもらうね」

 

 僕が差し出した手は、今度こそ彼女に手に取ってもらえた。

 

「お姉さんとも早く仲直りしなよ?」

 

「うん……、ってどうしてあなたがそのことを知ってるの!?」

 

「あー、ちょっと色々と縁があってね」

 

「色々? 色々って何があったの?」

 

「新島さん? ちょっと怖いよ? それに別に冴さんとは何も」

 

「冴さん? お姉ちゃんを名前で呼んでるの?」

 

「待って、なんでそんなに鬼気迫った表情なのさ。怖い、怖いから!」

 

 その後、明智君と親交があった関係で一回会っただけだと説明しても尚疑いの目で見られる羽目になった。仲直りしたはずなのに、新島さんから向けられる目は余計に厳しくなった気がする。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。