Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Compound eyes and preening

 岩井さん、大宅さんといった面々と繋がりを作ることが出来た翌日。休日ということもあり、僕は朝から昼過ぎまでファミレスのバイトに精を出したあと、捜査の進捗共有を行うということで明智君とカフェで落ち合うことになった。

 

「……僕もその人と同じことを言わせてもらうね。君は自分の出来ることと出来ないことの線引きが危うすぎるよ」

 

 昨日の出来事を話せば、開口一番明智君は厳しい表情でそう言った。

 

「僕だって実際に現場で動くのは本職の警官に任せているんだ。いくらネームバリューがあるとは言っても、いやなまじ名前が売れてるからこそ僕は単独で動いたりなんかしない」

 

 容疑者に警戒されるし、場合によっては自分が危険にさらされて周囲に迷惑をかけることもあるからね、と明智君は続けた。

 

「君の行動力は称賛に値するし、それで得られた情報で僕も冴さんも助かると思う。だけどそれで君が危ない目に遭うのは僕らの望むところじゃないからね」

 

「うーん、仰る通り過ぎて返す言葉も無い」

 

 一から十までの正論で僕は気まずさを紛らわすように頬を掻くことしか出来なかった。

 

「でも、そうは言いながら君を巻き込んじゃった僕にも責任はあるんだけどね」

 

「それについては僕の方も望んだところもあるから一概に明智くんを責めることは出来ないよ」

 

 眉尻を下げて浮かない表情をする明智君。新島さんといい、明智君といい、僕は身近な人に心配をかけてばかりな気がする。そういう意味では僕は問題児なんだろう。

 

「……よし、それじゃあ反省会はここまでにして。君が集めてくれた情報と僕の方で集めた情報のすり合わせをしていこうか」

 

「分かった。僕が得たのはさっき話したところが大きなところかな。あんまり大した情報は得られてない」

 

「そんなことないさ。僕は警察が集めた全体的な情報しか掴めてない。そこに実際の現場を目にした君の情報が合わさればより推理の精度は上がる」

 

 そう言って気を取り直すように微笑んだ明智君は、カップに残ったコーヒーを飲み干した。僕もそれに続いてカップに口を付ける。ここからは僕と明智君で集めた情報を基にブレインストーミングのようにお互いの考えを挙げていく。二人組の服装、様子はどうだったか、被害に遭っている子はどこの学校が多いのか、今でもバイトに手を出している子の数は増えているのか、そうした細かな情報を積み上げて互いの言葉で互いの推理を研磨する作業が始まるのだ。

 

「今でも被害は拡大し続けている。どうにもならなくなって警察に泣きついてきたパターンがメインだから、まだ何とか隠している件を含めると無視できない規模になるね」

 

「ここ数日はバイトに誘われたっていう子の話はあまり聞かなくなったかな。入口の勧誘は終わり、搾り取る時期に入ったんだと思う」

 

「警察への通報が増えていることと一致するね。それと被害に遭っている子の在籍校だけど、君が予想した通り秀尽生みたいにそこそこの進学校の生徒がメインのターゲットになってるみたいだ」

 

「金を脅し取るという目的を考えれば狙うのはある程度裕福な家庭だと思ったからね。けれど秀尽は僕が聞き込みをしているのもあってか皆警戒心が増してきていると思うよ」

 

「その通り。だから最近は秀尽以外の高校でも被害が出始めてる。例えば洸星高校なんかだね。芸術系の学校で、家が裕福な子が多い」

 

「そこまで手を広げているなら、そろそろ金城にも手が掛かりそうだと思うけど」

 

「そもそも金城の居場所が掴めてないんだよ。どうやら女の家を転々としているみたいでね。彼の家は警察が張り込んでるけど全く姿を見かけてないらしい」

 

 周囲の喧騒に紛れるような声量で、僕と明智君は互いに言葉を重ねる。机の上に広げた地図には、僕が勧誘や脅迫を目撃した地点、警察のパトロール経路なんかが書き込まれていく。

 それを眺めているうちに、違和感が僕の中に生じる。勧誘や脅迫が行われていた場所は、警察のパトロール経路と重なっている所も多い。だというのにここまで警察がしっぽを掴めていないのはどういうことだろう。

 

「おかしい。警察だってきちんとパトロールをしているのにどうして彼らは現場を押さえ切れていないんだ」

 

「確かにね。彼らのパトロール経路は周期も順路もランダムだ。それを全て搔い潜っている」

 

 複数に色分けされた経路には、それがいつ行われたものなのかも同時にメモされている。僕が現場を目撃した日時も同様だ。それを重ねて見てみれば、彼らの犯行が巧妙に警察の目を逃れて行われていることに気付く。いくら警戒しているとはいえ、ここまで監視の目を盗むことが出来るだろうか。

 

「……以前に冴さんとも話したこと、金城のバックについている人物だけど」

 

「明智くんの言いたいことは分かる。警察関係者もバックにいる可能性が高い、そうだよね?」

 

 僕の言葉に明智君はコクリと頷いた。

 

「実際に怪しい人物は何人かいるんだ。そうした人は僕の個人的な伝手でマークしてもらってる。決定的な証拠は掴めてないけどね」

 

「だけどここまで組織的に動かせるんだ。多分、現場レベルでの関わりなんかじゃない。もっと上の方かもしれない」

 

「そうだとすると今の僕らじゃお手上げだ。冴さんがどこまで影響力を及ぼせるかに懸かってるね」

 

 明智君でお手上げだとすると、僕に出来ることも無いだろう。僕は警察関係者に知り合いもいなければ、明智君のようなネームバリューで動かせる人もいない。それにこれ以上は僕の立ち入る領分じゃないと、明智君は暗に言っている。

 

「でも、そうだね。ここまで情報が集まれば、警察に共有してパトロール経路のランダム化を更に工夫したり規模を大きくすることで動きを掴めるようになるかもしれない」

 

「それは朗報だ。出来れば早めに動いて欲しいけど」

 

「そこまで保証は出来ないかな。警察も大きな組織だからね。動くまでにどうしたって時間はかかるよ」

 

 明智君がそう言って肩を竦める。口惜しいけれど、仕方ないと割り切るしかない。組織が大きくなればなるほど、その動きは鈍重になってしまう。それは手続きが煩雑化し、責任の所在がばらけてしまうから不可避なことだ。その代わりに個人とは比べ物にならない規模での活動が可能になるのだから。

 

「ありがとう。冴さんと会ってからまだほんの数日だけど、相変わらず君は僕に有益な情報をもたらしてくれる。有能な助手だね」

 

「僕が出来るのは足で稼ぐことくらいだからね。後はホームズに任せるよ」

 

 僕が言うと明智君は可笑しそうに手を口に当てて笑う。けれど、すぐにその顔は真剣なものに変わった。

 

「任されたよ。だからこの件についてのこれ以上の深入りは止めて欲しい」

 

「……それはどうして?」

 

「君の聞き込み活動は秀尽生の被害を減らすのに少なからず効果があったんだ。だけど、それは同時に君の存在が金城に知られるリスクも示している」

 

 明智君が言わんとすることが大体読めてきた。僕自身、あまり自覚はしていなかったが、どうやら明智君から見て僕は動きすぎたらしい。

 

「これ以上動くと金城に目を付けられる?」

 

「もう既に目を付けられていてもおかしくない。相手はどこまで情報網があるか分からない手合いだ。君なら引き際を見誤ったりしないと思いたいけど、これについては僕の方が一日の長がある。ここは僕の指示に従ってくれないかな」

 

 明智君の言葉に僕は口を閉ざして少し考え込む。確かに彼の言う通り、僕が金城に目を付けられてしまっている可能性はある。聞き込みの過程で街中でたむろしていた不良学生や、怪しい風体の人なんかにも声を掛けたことがあるため、そうした人々のうち誰かが金城とつながっていた場合、僕の名前まではいかなくとも僕の存在自体は知られている可能性は高い。

 そうすると金城が僕に目を付け、次のターゲットないしは排除すべき対象と見なすこともあるだろう。僕の頭の中には前世と思わしきぼんやりとした記憶があり、同級生よりも少しだけ冷静に物事を見れるからとはいえ対外的にはただの高校生だ。社会においては何の力も持っていないし、そうでなくとも家族を人質なんかに取られてしまえば僕に採れる手段は殆どない。

 そうした諸々を考慮した上での明智君の言だということは理解できた。納得できていない内心もあるのは確かだけど、理屈で考えればここらが引き際だ。むしろタイミングとしては遅いかもしれない。

 

「……分かった。僕はここらで手を引くよ。後は周囲の被害者のケアに回ることにする」

 

「うん、分かった。それも君にしか出来ない立派な仕事だよ」

 

 明智君はホッとしたように表情を緩めた。彼なりに僕を心配してくれていたのだろう。僕は人の心配を蔑ろにしてしまいがちだけれど。

 

「冴さんの方には僕から言っておくよ。この件に関してはこれ以上は立ち入らせないようにって。金城を捕まえられたら、また君の知恵を貸してもらうことになると思うから」

 

「金城が捕まったらそこから先は警察の仕事だし、それこそ僕の出る幕は無いと思うけどね」

 

「そんなことは無いさ。それにこの事件に限らず手伝ってもらいたいな。優秀な助手を休ませる理由も無いしね」

 

 少しげんなりとした顔の僕を見て、明智君はまたクスクスと笑ったのだった。

 と、そこでポケットに入った僕のスマホが震えたのを感じる。取り出してみれば、画面には新島真の文字。どうやら新島さんから電話のようだ。最近はあまり、というか全く話も出来ていないので意外だった。直接会って話すのは気まずいから電話にしたというところなのかもしれない。僕としても電話でもなんでも彼女と話が出来る機会は望むところだった。

 明智君に一言断って席を立ち、一度店外に出て電話に出る。

 

「もしもし、新島さん?」

 

 電話口にいるであろう新島さんに声を掛けるが、返答は無い。もしかしたら間違えて保留になってしまっているのかもと耳からスマホを離そうとしたとき、

 

「もしもーし。君が海藤クン?」

 

 聞き慣れない声が電話口から響いてきた。

 

 


 

 

「今のあなたは私の人生を浪費してるだけ」

 

「怪盗団を見つけ出さないと君だって困るだろう?」

 

「君って言いなりの良い子ちゃんタイプなんだね」

 

 脳裏に何度も響く声。それは尊敬する姉のものだったり、自らが通う高校の校長のものだったり、姉を通じて顔見知り程度の仲だった有名な高校生探偵のものだったり。それ以外にも多くの声が真の中で木霊していた。

 

 生徒会長なんだから。

 

 頼りになるんだから。

 

 勉強できるんだから。

 

 周囲から寄せられる無言のプレッシャーは真の心を確実に蝕んでいた。今は亡き、憧れの父の背中を追うと自分に出来ることを精一杯頑張ってきた。尊敬する姉に失望されないように、有名な進学校に入学し、成績だってトップクラスを維持してきた。最初は自発的な動機だったそれは、いつしか周囲からの期待に応えなければというものに変わり、気付けば自らを強く縛り付ける鎖となっていた。

 

「新島さんって凄い勉強できるんだね。これでも中学生のときは学年トップを譲ったこと無かったんだけどな」

 

 そんな中、高校に入学した自分の前に現れた一人の男子生徒。彼は他の人間とは全く違っていた。隔絶していた、と言っても良い。

 勉強は出来る、それも頗る。それだけじゃなく人当たりも柔らかで、運動だって決して不得意じゃない。自然と周囲に人が集まり、彼を頼るけれど、それを彼は何も負担に思わずサラリと片づけてしまう。それでいて、誰とも深く関わろうとしていないように思えた。周囲との視線が違うのだ。彼だけ一段高いところにいるような、彼自身も含めて俯瞰しているような視点で物事を見ている。

 だから彼は真に過度の期待を寄せることは無かった。友人として、そして時にはライバルとして心地よい距離感で常にいてくれた。

 

 安心できた。彼ならば自分を過度に理想を押し付けたりしないから。

 

 憧れた。周囲からの期待という名のプレッシャーを涼し気に受け流し、それでいて応えていく姿に。

 

 ……そして妬ましかった。自分に出来ないことが出来るその姿が。

 

 生徒会長となり、彼を副会長と据えられたのは真にとってとても幸運なことだった。彼は融通の利かない真の性根を理解し、それを補ってくれる。時には正論をぶつけすぎて険悪になりそうなときも彼が仲介してくれれば丸く収まることがあった。

 それを頼もしく思うと同時、チクリとした棘が内心に降り積もっていくことに気付いたのはいつのことだったか。気付けばテストで鎬を削るのは周囲の期待に応えるというよりも彼と張り合えるのがそれくらいしか無いのではないかという焦燥感が動機になっていた。

 だからこそ彼が怪盗団の疑いを掛けられていると校長に聞かされた時、真の胸中にはわずかに仄暗い喜びが生まれたのだ。

 

 自分だって彼を助けることが出来る。自分でも彼に頼られるはずだ。

 

 困っているであろう彼を助けたい、そう思う気持ちの中に、上記のような心持ちが全く無かったかと言えば噓になる。だというのに、当の本人は何も気にした様子がなく、いつものように誰かの心配をしてばかりいる。

 

 どうしてそこまで悠然としていられるの? 

 

 私の助けが当てにならないから? 

 

 私はそこまで頼りない? 

 

 周囲からかけられるプレッシャーと相まって彼女の心に浮かんだそんな感情はどうにも制御出来なくなった。結果、彼女は暴走し、怪盗団の正体を突き止めたかと思えば今はこんなところで床に押さえつけられてしまっている。

 

「ハッ、名前どころか住所まできっちり登録してんじゃん。まっじめ~」

 

 床に押し付けられた自分を見下しながらニヤニヤとスマホを弄る男を精一杯の敵意を籠めて睨みつける。だが、それを可愛いものを見るように鼻で笑って目の前の男、金城は真の後に続いて根城としているクラブに押し入ってきた招かれざる客たちを見渡す。

 

「お前らもバカだよね~。こんなとこにガキだけで乗り込んできて何が出来るっつーんだよ」

 

 酒と煙草が一緒に写った写真を撮られてしまい、真を追って来た怪盗団の面々も冷や汗を垂らす。前科持ちに問題児、班目の元門下生とスキャンダルには事欠かないメンバーだ。写真をばらまかれてしまえば、事実はともかくとして彼らの風評は今度こそ地に落ちる。

 

「ったく。お前らみたいなガキ見るとイライラすんだっつの。お、あったあった。生徒会長さんなら当然連絡先持ってるよねー」

 

 金城は目的の物を見つけたとスマホを弄る手を止める。何をしているのかが分からなかった真達だが、金城のスマホを耳に当てる仕草で誰かに電話を掛けたことは分かる。

 

「もしもし、新島さん?」

 

 そして電話口から聞こえてきた声に真の身体が強張る。どうして彼が巻き込まれることになるのだ。

 

「もしもーし。君が海藤クン?」

 

 真の顔が真っ青になっていくのも無視して、金城がことさらに暢気な口調で話しかける。まるで友人と話しているかのような気安い様子で。

 

「俺の名前、金城っていうんだけどさ。君なら分かるよね? オタクの生徒会長さんがさぁ、俺のとこにずかずか踏み込んできてよく分かんない言いがかりつけてきてめっちゃ迷惑してんの。これ、どうやって責任取ってくれる?」

 

 彼を助けようと思って起こした行動が、結果的に彼をも巻き込み、より窮地に陥れる結果になってしまった。自分の無力さと向こう見ずな行動の結果に、気丈に堪えていた真の視界がぼやける。

 

「……はじめまして、金城さん」

 

「お、挨拶出来んじゃん。真チャンと違って礼儀正しいね、キミ」

 

 だからといって許さないケド。と金城はニタリと笑った。

 

「真チャンとそのお仲間にも俺が受けた被害を金で払ってもらうつもりなんだけどさ。キミも連帯責任だよね? だから……」

 

 二週間後までに二百万用意しろ。

 

 金城は底冷えのするような低い声で告げる。高校生に提示するには法外に過ぎる金額に固まっていた怪盗団の面々も抗議しようとするが、周りを固める金城の部下に黙っていろと恫喝された。

 

「……ずいぶん吹っ掛けますね」

 

「もうすぐボーナスだ。お父さんに泣きつけば何とかなるだろ?」

 

「素直に払うとでも?」

 

「払わなきゃお前の家族を直接脅す。親がまともに職場行けないようにしてやるよ。コソコソと嗅ぎまわりやがって。俺が気付かないとでも思ったか? ネズミが」

 

「嗅ぎまわったおかげであなたから接触してきてくれた。警察に通報します」

 

「サツが動くより俺がお前の人生滅茶苦茶にする方が早いんだよ、馬鹿が。振込先は真チャンから聞けや。覚悟しとけ、お前の人生終わらしてやるよ」

 

 それだけ言うと金城はそれ以上話す気は無いとばかりに通話を切り、スマホを真に投げて寄越した。

 

「はい、これで俺の用事終わり。お前らも帰っていいよ。金だけキッチリ用意しとけ? 出来ないなんて抜かしたらどうなるか、分かってんだろうな?」

 

 

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