Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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The Hanged Man and The Devil

 図らずも冴さんと連絡先を交換した翌日、僕は今日も懲りずに渋谷のセントラル街へと繰り出していた。

 相変わらず今日も新島さんとは顔を合わせられていない。遠目にはチラリと顔を見ることは出来たのだけど、表情は深刻さを増しているように見えた。心配して声を掛けようとしても僕の顔を見るとバツの悪そうな顔をして逃げていくのでどうにも追いかけ難いと感じるまま、放課後になってしまったわけだ。

 大半の人が待ちに待ったであろう週末の土曜日だけど、あいにくと今日は雨模様であり、セントラル街もいつもの賑わいを見せていなかった。こういう日は恐らく金城グループも動いたりはしないだろうが、逆にこういう時にこそ聞き込みをして情報を集めていきたい。

 そう思った僕が訪れたのはセントラル街の裏路地に位置するモデルガンショップ。店の位置も日陰な上、店主が不愛想な男一人ということもあって中々足を踏み入れ難い雰囲気が漂っている店だ。けれどミリタリーマニアからすればそこで販売しているカスタムモデルのモデルガンは非常に精巧であり、マニアからすれば堪らないものだと言う。それが目的ではないにせよ、どうせなら目にしてみたいと思う。

 

「……いらっしゃい」

 

 ガラス戸を押し開けた僕を出迎えたのは、小さすぎて聞き逃してしまいそうなほどの声。目を向けてみれば部屋の中だというのにキャスケットを目深に被り、その上に黄色いヘッドホン、ないしはイヤーマフを着けた男。彼が恐らく店主なのだろうが、帽子のつばから覗く目はこちらをギロリと睨みつけているようにも感じた。僕は小さく会釈すると店内を物色する、ように見せながら店内から裏通りに目を光らせる。

 今日のような雨の日には表通りは雨音と人通りで話をするには騒がしい環境だ。そうなれば、人気の少ないところに自然と足は向く。後ろ暗いことをするつもりがある人間ならなおさら。

 この場所の情報をくれたのは明智君だった。彼なりに犯人グループの出没地点の候補なんかはリストアップしているらしく、相手に顔を見られないようにすることを条件に張り込みに適したこの店を教えてもらったのだ。

 

「……」

 

 先ほどからカウンターの向こう側から刺すような視線を感じる。恐らくは僕が客ではないことを察したのだろう。とはいえ、何か事情があると察して追い出さないでいてくれるあたり見た目にそぐわず優しい人なのかもしれない。そうして店に並んでいるモデルガンの出来や、値段に驚きながら見張ることしばらく、傘を差した三人組が路地に入ってくるのが見えた。そのうち一人は秀尽学園とは別の学校の制服に身を包んだ男子学生だ。メガネを掛けた彼は人目を気にしているのか、あるいは残りの二人に怯えているのかは判断出来ないが、しきりに周囲に視線を巡らせている。一方でその男子生徒と共に歩く二人は金髪、茶髪といった明るい色の髪を肩まで伸ばした男性であり、両側から男子生徒と肩を組んで路地裏へと誘っていた。

 

「あそこまであからさまにやると逆に不審に思われないものなのかな……?」

 

 ここ最近はこの辺りを重点的に警察もパトロールしていると明智君は言っていたけれど、この雨で人々が差している傘が目くらましになってしまっているのだろうか。

 僕は手に取っていた雑誌を棚に戻すと、店を出ようと歩を進める。

 

「何するつもりか知らんが止めとけ」

 

 けれど僕の足はカウンターからの声で止められた。声の主に目をやれば、キャスケットの奥から鋭い目が店外で繰り広げられている光景を睨みつけていた。

 

「あそこで絡まれてるのはお前の友達か?」

 

「……いえ、そういう訳じゃ無いです」

 

「だったら厄介事に首を突っ込むのは止めとけ。ガキが一人突っ込んだところで、カモが増えるだけだ」

 

 店主の言葉に僕は何も言い返せずに視線を泳がせる。確かに僕があそこに行ったところで確実にあの男子生徒を助けられるとは限らない。それどころか、あの二人組の機嫌を損ねて僕の見えないところでより酷い目に遭わされる可能性もある。

 

「だけど放っておくわけにも……」

 

「そういうのはサツの仕事だ。ガキのやることじゃない」

 

 その言葉はご尤も。鴨志田先生の一件でもそうだけど、自分の力量を弁えずに突っ走ってしまうのは僕の悪癖だ。

 

「あいつら、この前もここで別の学生を脅してた」

 

 ここでどうして通報してくれないのか、と言うことは簡単だけど僕はぐっと言葉を喉の奥に押し込めた。厄介事に巻き込まれたくないのは誰だって同じだ。それにこの店主にとって今絡まれている学生は赤の他人だ。自分が半グレやその上の人間に睨まれる可能性を考えれば見て見ぬふりをするのも無理はない。

 

「……なんだ、てっきりどうして警察に言わないのか、なんて言われると思ったが」

 

「見ず知らずの人を助けるのは美徳ですけどね。ああいう手合いに絡まれるリスクを考えれば易々とは出来ないでしょう。特にこうして店を構えられている方にとっては」

 

「ガキのくせによく分かってんじゃねえか」

 

 僕の言葉に店主は小さく笑った。そうして僕と店主が話している間に男子学生と二人組は姿を消していた。

 

「それで、なんでお前はあんな危なそうなことに首突っ込もうとしてやがる?」

 

 そう問われ、僕はこうして動いているわけをかいつまんで話す。もちろん明智君や冴さんとの繋がりは伏せているが。店主も先ほどの一幕を見て見ぬふりをしたことにどこか思うところがあるのか、自分が今まで目撃した現場について僕に聞かせてくれた。

 聞けば、彼の店の付近はやはり普段から人通りが少ないこともあってこうした場面を目にすることが何度かあったらしい。多くは学生が二人組の男に恐らく金が入っているであろう封筒を手渡している場面。店内が薄暗いことから店主が現場を目撃していたことはあまりばれていないのかもしれない。

 

「俺から話せるのはそれくらいだな。この情報が役に立つかどうかは分からんが」

 

「いえ、助かりました」

 

「ふん、その制服を着た奴には借りがあるからな」

 

 僕がお礼を言うと店主はキャスケットのつばを押さえてぶっきらぼうに返す。見た目は厳つい人だけれど、悪い人では無いんだと思う。少なくとも子供に対しては。

 

「それじゃあその子にも感謝しておかないといけないですね。また何かあったらご相談させていただくかもしれません、僕は海藤と言います。お名前をお伺いしても?」

 

「……岩井だ。あんまりこういうところに来るもんじゃねえだろ。お前みたいに真面目そうな奴は特にな」

 

 お互いの名前を交換し、僕は店を後にした。空模様はまだ暗いものの先ほどまで降っていた雨は今は止んでいた。

 時計を確認すればもうすぐバイトの時間だ。今日の聞き込みはこの辺りにしておくしかないか。

 

 


 

 

「お疲れさまでしたー」

 

 相も変わらずバックヤードでデスクワークに忙殺されている店長に一声かけてファミレスを後にする。

 辺りはすっかり日も沈んで暗くなっており、もうそろそろすれば学生が補導される時間になるだろう。帰る前に本屋にでも寄って行こうかなどと考えていると、ポケットの中のスマホが震えたのに気付いた。取り出してみれば、見慣れた人物からの着信だった。

 

「こんばんは。電話をしてくるなんて珍しいね、雨宮さん」

 

「遅い時間にごめん。今から少し時間ある?」

 

 電話越しに聞こえた声はいつも通りの落ち着いた様子だったけど、どこか申し訳なさを感じさせるものだった。

 彼女の用件はと言えば、今から新宿に来てくれないかとのこと。会わせたい人物がいるからと。時間も時間なのであまり遅くまでは無理だということは伝えたが、それでもと食い下がるので場所を聞いて向かうことにする。

 

「……本当にこの場所で合ってるのかな」

 

 雨宮さんに指定された場所は新宿の雑居ビルに入っているバー。店名は「にゅうカマー」。店の佇まいから見るに、どういう店なのかは大体予想出来るけど、それだけに入るのに躊躇してしまう。

 

「ええい、このままここに突っ立ってても仕方ないか」

 

 だけどあんまりぐずぐずして雨宮さんを待たせるわけにもいかない。僕は意を決して店の入り口をくぐった。

 

「いらっしゃい……ってボウヤ、あんたいくつよ?」

 

 店に入ってすぐ位置しているカウンターの奥からそう声がかかる。声がかからなくとも僕の視線はそちらに釘付けにされたことだろう。紫色に染められた髪、対照的に暗い色合いの着物。褐色の肌に濃い化粧のコントラストが凄まじい。

 

「ララちゃんその子私のお客さ~ん!」

 

 面食らって黙っていた僕だったけど、店の奥から響く女性の声に意識がそちらに向く。店の奥の方にあるテーブル席には、サングラスを頭に付けたジーンズ姿の女性と雨宮さんが隣あって座っていた。女性の方は薄暗い店内なので見辛いが、顔が赤くなっているように見えるし、手に持ったジョッキからしてお酒が入っているのは間違いなさそうだ。隣に座る雨宮さんは、こっちを見ながら申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「アンタねぇ、学生を二人もこんな時間にウチに呼ぶんじゃないよ」

 

「ごめんごめ~ん。あ、この子にも何か出してやってよ」

 

 手招きされるままにテーブル席に向かえば、女性は自身の隣をパンパンと手で叩く。隣に座れということだと解釈して腰を下ろせば、逃がさないと言わんばかりに肩を組まれた。強いアルコール臭、一口も酒を飲んでいないはずなのに酔っぱらってしまうのではないかと思うほどだ。

 

「雨宮さん、用件っていうのはこの人のこと?」

 

「……ごめん」

 

 助けを求めるように雨宮さんを見れば、彼女は目を逸らして一言だけ呟いた。

 

「んふふ~、キミ、斑目の個展でインタビュー受けてた子だよね? うっひょー、良いネタになりそうじゃん」

 

 そう言ってニンマリと笑う彼女に、僕が呼び出された理由は粗方想像ついた。どうやら彼女もまた改心事件を追う人物の一人であるらしい。

 

「あ、まだ名乗ってなかったね。あたしは大宅一子。週刊誌の記者やってるんだけど、キミから怪盗団の事件について聞きたいな~ってこの子に紹介してもらったんだよね」

 

「なるほど、雨宮さんを手助けする見返りか何かということですね。僕は海藤徹と言います。出来れば次からは素面のときに会えたらと思いますよ」

 

 大宅、と名乗った記者はごめんごめんとケラケラ笑いながらジョッキを更に呷った。記者との繋がりは僕からしても願ったりな点もある。あるのだけれど、酔っ払いの相手を素面でするのは中々厳しいものがあるのも確かだ。申し訳ない気持ちはあるんだろうけど、雨宮さんに対して少し恨めしい気持ちを抱いてしまった僕を誰が責められようか。

 

「雨宮さん。出来れば次からは面倒な手合いに会わせる前は心づもりをさせてもらえると助かるかな」

 

「……善処する」

 

 その言い方は結局改善してくれなさそうな気がするんだけど? 

 

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