Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Wildcard of judgement

「それで、今は怪盗団のことよりも金城の件だったわね」

 

 僕ら三人で運ばれてきた食事を口に運びながら、話は本題へと戻る。

 

「正直に言うとさっきまで言っていたことが全てよ。金城の動きは警察も検察もマークはしているけど決定的な証拠に欠けている」

 

 冴さんは悔しそうに歯嚙みしながらもけれど、と言葉を続けた。

 

「金城の資金の流れだけじゃ辿り着けなかったところに辿り着く可能性をあなたは示してくれたわ」

 

「斑目との繋がりですか? けどそれは確実にあると決まったわけじゃないですよ」

 

「ええ、分かっているわ。でも私と明智くんだけじゃどうにも手詰まりだったのは事実。そこに新しい切り口を与えてくれたのだから、有効活用させてもらうわ」

 

「これは海藤くんを連れてきた僕のお手柄と言っても良いんじゃないですか?」

 

 冴さんの言葉にここぞとばかりに胸を張る明智君だが、君がさっきまで冴さんと一緒になって僕の推理を否定してたのは忘れないからな。いや、彼の考えに納得できないまま真っ向から対立することを言っている僕も悪いんだけど。だけど明智君も恐らくそうした役割を僕に求めているのだろうし。

 

「探偵王子の再来と言っていた割には助手の方が頼りになるんじゃないかしら」

 

「おっと、これは困ったな。さっさと僕も個人事業主から法人化して海藤くんを正式に僕の部下にしておかないと」

 

「二人してただの一般高校生を一体何に巻き込もうとしているんですか」

 

 美味しいものを食べればそれだけで気分は上向く。冴さんも明智君も先ほどまでの鋭い表情は鳴りを潜め、緩い雰囲気の中で食事は進む。

 

「斑目の資金ルートは特捜部で洗うとして、海藤くん、あなたには過去の精神暴走事件についてもう一度調べてもらえないかしら?」

 

「過去の精神暴走事件についてですか?」

 

「ええ、そうよ。私と明智くんじゃ大したものは掴めなかった。けれどあなたなら私達とは別の視点で何かを見つけられるかもしれない」

 

 それにこれは金城についてあなたに情報を流すことの対価よ、と冴さんは続ける。けれどその裏には、ただの一般人でしかない僕が今後も明智君だけじゃなく冴さんとも繋がりを持つためにあえて彼女が用意してくれた仕事だということは分かる。僕がすることと言えば過去の精神暴走事件に纏わるニュースを調べ、そこから思いついたことを話すだけで良いからだ。斑目の聴取、資金の流れを調べなくてはいけない冴さんとは負担が大きく異なる。

 

「……良いんですか? 僕みたいな一般人を」

 

「あなたは明智くんの助手なんでしょう? 問題ないわ」

 

「僕を放っておいて話進めないで欲しいなぁ。ここに彼を連れてきたのは僕だけど、あんまり深入りさせるのもどうかと思いますよ」

 

 僕と冴さんの間にそう言って明智君が割り込む。明智君としては助手と言って引き込んだとは言え、あまり深くまで関わらせるのは忍びないと思うところがあるのかもしれない。だからこそ冴さんと僕のやり取りの間にクッションとして自身を挟もうとしているのだろう。

 

「確かに助手と言いましたけど、僕みたいに警察と強い協力関係を築いているわけでもないんだ。彼が万が一金城に目をつけられてしまったら僕や冴さんだけじゃ守り切れない。その辺りも考えて僕もきちんと噛ませてくださいね」

 

 僕の考えを裏付けるように明智君は言葉を続けた。やはり彼なりに僕を案じてくれてはいるらしい。彼は電話やカフェで捜査の状況について僕と話をすることこそあったものの、現場や警察と関わるところへは僕を連れていくことは無かった。それは彼なりに僕を関わらせるラインをきちんと引いていたということなのだろう。だからといって捜査情報を一般人の僕に聞かせるのはどうかと思うけど。

 

「はいはい、分かっているわ。でも私はこんなところで足を止めていられないの。利用できるものは何でも利用して登り詰めなきゃいけないのよ」

 

 冴さんは仕方ないとばかりにそう言うとグイっとグラスを飲み干す。未成年の僕らに気遣ってか、グラスの中身はただのウーロン茶だけどその飲みっぷりは中々様になっていた。

 

「登り詰める……、検事としてもっと上を目指してらっしゃるんですね」

 

「検察庁に入っただけがゴールじゃないわ。もっと上を目指さないと」

 

「ストイックなんだよ、冴さんは」

 

 当然とばかりに言い切る冴さんに明智君は苦笑する。ストイック、確かにそうなのかもしれないけれど、グラスの向こうに見える彼女の眼には、それだけじゃない感情が見えた気がした。

 

「検察のお仕事や内情どころか、社会経験すらまともに無い高校生ですけど、冴さんくらいの年齢で今の地位にいるだけでも凄いんじゃないんですか?」

 

「それは勿論そうさ。東京地検特捜部で史上類を見ない最速昇進候補女性だしね」

 

「それは結局女性という下駄ありきの話よ。これより上を目指すならこんなものじゃ足りないわ」

 

 認めさせてやらないといけないのよ。

 

 そう小さく呟いた彼女の様子は、どことなく新島さんに怒られたあの日、最後に彼女が呟いていた姿と重なって見えた。姉妹二人とも、僕なんかには想像もつかない事情、内心を抱えているんだろう。

 

「金城の事件も精神暴走事件も、今は特捜部では私が陣頭指揮を執っているの。この件を解決出来れば次の昇進リストには私の名が載るわ。このチャンスは絶対に逃がせない」

 

「冴さんって見た目によらず熱くなりやすい質だよね。まあそれだけ野心があるから僕にも声を掛けてきたんだろうけど」

 

 空になったグラスをギュッと握りしめる冴さんとは対照的に、明智君は飄々とした様子で料理に手を伸ばす。二人の様子を見るに冴さんがこんな感じになるのはそう珍しい光景じゃないのかもしれない。明智君も手慣れた感じで流しているし。とはいえ僕は初対面なのでそこまでふてぶてしくはなれない。

 

「冴さん、僕が言うのも何様だって話なんですけど、そこまで思い詰めなくとも……」

 

「甘いのよ、それじゃ!」

 

 宥めようとしたのだが、かえって火に油を注ぐ結果になったようだ。グラスを強く机に叩きつけて冴さんは僕を睨みつける。おかしいな、冴さんが飲んでるの本当にウーロン茶だよな。もしかしてお酒入ってたりしないか? 

 明智君の方をチラリと見てみれば、彼は我関せずとばかりに食事を楽しんでいた。どうやら助け舟を出してくれるつもりは無いらしい、薄情者め。

 

「私はどこに行っても舐められてるのよ。何が史上最年少の女検察官よ。結局は女だからって下駄を履かせてやったからと周囲は私を見るわ。私が私自身の能力でやり遂げたことも、私よりも無能な男のくだらない酒の肴にしかならないのよ!」

 

 自分で話しているうちにボルテージが上がっていってしまっているのか、彼女の口調も熱を帯び始める。

 

「どいつもこいつも、怪盗団が正義だの悪だの勝手なことばかり言って! 怪盗団は法で裁けない悪を裁く? 警察や検察が無能とでも言うつもり?」

 

「いつの世も当事者以外が好き勝手に風説を流布して当の本人が苦労するというのは変わらない図式ですね」

 

「まったくよ! うちの内部にも怪盗団の支持者が現れる始末よ。自分達の仕事を何だと思ってるのかしら。挙句の果てには真まで怪盗団が正義だなんだと……」

 

 冴さんの言葉に、僕は新島さんがあの日どうしてあそこまで思い詰めていたのか、その原因の一端を掴んだ気がした。恐らく校長に急かされたことに加え、冴さんとも口論になったんじゃないだろうか。怪盗団の正義について。彼女も校長に言われて独自に怪盗団を探っている。そんな中、周囲では怪盗団は正義だと言う人が増えていく。彼女にとって自分がやっていることの正しさが分からなくなってきたのだとすれば。そしてそのことをふと冴さんに漏らしてしまい、同じくピリピリしていた冴さんがこんな調子で言い募ったのだとすれば。

 そこまで考えて、今更ながらにもう少し彼女を気遣ってあげるべきだったと後悔する。冴さんと二人暮らしをしているのだから、冴さんがこんな調子では家でも心休まることは無かっただろう。彼女は僕にかけられた疑いを晴らそうとしてそこまで心労を抱えていたのだ。そんな彼女を前に当の本人である僕が暢気な顔をしていたのだから、よく僕はあの時殴られなかったものだと思う。

 

「……さっきも僕が言った通り、怪盗団の善悪を問うことは無意味だと思いますよ」

 

「なに、私にお説教でもするつもり?」

 

「いえ、そんなつもりは無いですよ。ただ、冴さんは優秀なのは間違い無いんですから、周囲の雑音に耳を貸して冷静な判断力を無くすのは勿体ないと思います。冴さんにとっては聞くに堪えない言葉であっても、そこから何かのヒントを得られるかもしれないですし」

 

 なるべく落ち着いた口調を心がけて話すも、冴さんは僕を見てハッと鼻で笑う。

 

「何も知らない部外者はそうやって簡単に言えるわよ」

 

「そうですね、僕は確かに部外者で冴さんの悩みなんて一割も理解できてません。出過ぎたことを言っちゃいましたね、すみませんでした」

 

「……私こそ大人げないところを見せたわね」

 

 僕が頭を下げたところを見てヒートアップしていた頭が冷えたのか、冴さんはそう言ってグラスの中の氷を口に含んだ。

 

「いえ、ただの学生が知ったような口で話すなんて癪に障って当然です。怒鳴られてないだけマシですよ」

 

「ここまで物分かりが良い人をただの学生呼ばわりは無理があるわね……」

 

 そう言って冴さんは苦笑すると、女将さんを呼んで追加の飲み物を注文する。

 

「何をしてでも上を目指したいのは偽りない私の本音。でも、だからといってみっともない姿をあなたや明智くんみたいな子どもに見せるのは違うわね。今思えば真にもキツく当たっちゃったし……」

 

「上を目指すことって悪いことでは全くないんですから、それは否定されないですよ。真さんにはフォローしてあげて欲しいですけど、僕や明智くんはサンドバックと思って色々ぶっちゃけてしまっても良いんでは?」

 

「あれ、これって僕も巻き込まれるの?」

 

「今までよくも知らん顔してむしむしと料理を貪っていたな。絶対に逃がさんからな」

 

 串焼きに手を伸ばしていた明智君がげえっ、と言いたげに僕と冴さん両方に視線を行き来させるが、この場にいる以上逃すわけがない。というか僕と冴さんの間に本来はクッションとして君が挟まるようになっていただろうに。何故面倒な空気になったら存在を消して逃げようとしてるんだ。

 

「……フフッ、それじゃあこれからもストレスが溜まったらこうして愚痴に付き合ってもらおうかしら」

 

「えぇ……、冴さんの愚痴は長いんだけどなぁ。どう責任を取ってくれるんだい、ワトソン君?」

 

「そう言いながら笑ってるあたり満更でも無いんじゃないのかな、ホームズ君。というか僕は元軍医じゃないぞ」

 

 食事の席故のアイスブレイクが功を奏したのか、冴さんも初めて顔を合わせたときよりは表情も柔らかくなった。明智君にとっては予想外のこともあったかもしれないけど、今日この場に来て一番胃を痛めたのは間違いなく僕だと言ってよいと思うから僕は謝るつもりは無い。

 それからは残った食事を平らげる、といっても大半は明智君が食べてしまっており、僕と冴さんで残ったのを分けて腹に収めて終わりだった。無遠慮に注文しておいて更に遠慮無く食べ進めてるあたり、爽やかな探偵王子の顔は外行きの顔で、本来は結構なやんちゃ坊主な性格なのかもしれないな、彼は。

 

「ふぅ、食べた食べた。こういうお高いところはお金を出してくれる人と来るに限るね」

 

「こういうことしてると友達無くすよ、君」

 

「良いんだよ、助手がいるんだから」

 

「僕は逃がさないつもりか、君は」

 

 店を出てぐっと伸びをした明智君と並ぶ。その後ろからお会計を終えた冴さんが店を出てくる。

 日はすっかり沈んでしまっていて、そういえば帰るのが遅くなる連絡を家に入れたっけかとふと頭を過る。

 

「今日はありがとう、二人とも。これからも情報共有を期待しているわ」

 

 特に君にはね。

 

 と言って冴さんは改めて僕に右手を差し出してくる。最初の頃よりも表情が柔らかくなったそれは、今度は手に取るのにあまり緊張しないで済んだ。

 

「どこまでお力になれるかは分かりませんけどね」

 

 そう言って差し出した右手に、人の皮膚とは違う感触が伝わる。ザラリとしたそれは、恐らくは紙。柔らかな笑顔のまま、冴さんは握った右手の中指だけに力を入れて何度か僕の右手に合図を送ってくる。この人、どこまでも抜け目無いな。やっぱり新島さんのお姉さんだ。

 

「それでも、よ。何かあればまた明智くんを通して連絡するわ」

 

「あまりお呼びが掛からないことを祈ってます」

 

 表面上は何でもない様子を装いながら、僕は右手の中に隠した紙をそのままポケットへと持っていく。

 

「その祈りが届くと良いわね、()()()()()?」

 

「バーノン? 誰ですか?」

 

「あら、ワトソン君だったかしら」

 

 冴さんの言葉が引っ掛かった明智君が聞き返すが、冴さんは言い間違えたと白々しく誤魔化し、タクシーで帰るからと駅前で明智君と僕とは別れた。

 僕と明智君も帰る方向が違っていたので駅で別れることになる。見慣れた最寄り駅にまで帰ってきてから、僕はポケットに入れていた紙を取り出す。それは一見すると何の変哲もない冴さんの名刺だ。けれど裏返してみればどうして明智君にも秘密で渡してきたのか、その理由がそこに書かれていた。僕をとことん利用するつもりなのは確からしい。そこにあったのはメッセージアプリのID。恐らくは冴さんの連絡先だろう。そしてその傍に添えられたひとこと。

 

 Dear My Wildcard

 

 案外、冴さんってカジノとか好きなのかもしれない。

 

「だけどダイ・バーノンとか普通の高校生だと知ってる人の方が少ないと思うよ……」

 

 僕の稚拙なトリックを見ての命名だとしたらあまりに名前負けしていると言わざるを得ない。得難い人脈を得られたんだからあまり文句は言えないけれど。

 

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