Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Detective's right-hand man

「それで今調査に協力している案件なんだけどね……」

 

 電話口の向こう側でニコニコとしている顔が目に浮かぶような口調で話してくる相手に向かって、僕は何度目かになるため息を吐く。こんなことは失礼だというのは分かっているけれども、今電話をしている相手に対してそのような気遣いは無用だということはここ数日で明らかになっているのだから。

 

「あのね、明智くん。今は何時か分かっているかな?」

 

「今? 朝の7時半だよね?」

 

 僕の質問の意図が全く伝わっていないことがよく分かる口調で相手、明智君は電話越しに答える。

 

「そう、朝の7時半なんだ。学校に来て朝の読書でもしようかと思っていたところなんだよ、僕は」

 

「おっと、それは申し訳ないね。それじゃあ手早く用件を話すよ」

 

 暗に電話を切ってくれないか、という僕の願いも空しく、彼は話を続ける。あの日、カフェで明智君と連絡先を交換してからしばらく、恐ろしいことにかの高校生探偵は僕に毎日連絡を寄越してくるようになっていた。

 それもただの雑談ならばまだ良い、というより当初は本当に雑談がメインだったはずだ。警察の人とのやり取りや、事件現場で気を遣うこと、他にはテレビなんかにも出ているので忙しくて学校にも中々登校出来ず、友人関係に苦労しているといった愚痴のようなものまで、話題には事欠かなかった。僕も自分の馴染みの無い世界の話だと興味深く聞いていたのだけど、いつしか今日のように彼が今警察と協力して追っている事件について話すようになったものだから僕は不味いことを聞いてやいないかと日々戦々恐々としている。

 

「この前ニュースにもなっていた通り魔事件なんだけどね、防犯カメラと目撃証言から容疑者は3人まで絞り込めたんだけどそこからの決め手に欠けていて」

 

「どうしてそうやってホイホイと一般人が聞いちゃいけないようなことを聞かせてくるんだ君は……」

 

 今日の案件も例に漏れず一般高校生が聞いちゃいけない守秘事項の気配がしていた。あの日、別れ際に助手などと嘯いた明智君であったが、本当に僕をそういう扱いにしようとしていないだろうか。

 

「まあまあ、君の考えを聞かせて欲しいんだ。あの日から何度か連絡を取り合ってるうちにやっぱり君の推理力は素晴らしいと思ってね。僕には無い視点をもたらしてくれる」

 

「素人に推理をさせないで欲しいなあ……」

 

「そう言わずに。今回の事件も精神暴走事件の一つかもしれないと個人的には睨んでいてね。容疑者の一人は大学生の男で……」

 

 僕のぼやきをさらりと受け流して事件に関する情報をペラペラと話す明智君。どうやら僕は完全に彼の助手扱いになっているらしい。機密情報の取り扱いやら何やらうるさいだろうと窘めたこともあったのだけれど、そのあたりは気にしなくても平気だと爽やかに返されてしまって何も言い返せなくなった。

 そしてこうやって話し出した彼はあの爽やかな印象からは想像もつかないくらいにしつこい。僕が何かしら考えを話さないと解放してくれない。この男、他に友達がいないんじゃないかと言いたくなるくらいに。

 

「それで、君はどう思う?」

 

「どう思うと言われてもなぁ」

 

 話し終えた明智君が僕を促すが、ニュースや新聞でも大した情報が出ておらず、彼から聞いた話だけで全てが見通せるほど僕は頭が良いわけではない。うんうんと唸ってみるも僕の頭に大した考えは浮かんでこない。

 

「というか探偵でもない一般人に何をさせてるんだ君は」

 

「そんなこと言うけど、前にこうやって相談したときはすぐに興味深い推理を返してくれたじゃないか」

 

「それは君があんまりにもしつこいから苦し紛れに言っただけだよ」

 

「苦し紛れにしても、あれのお陰で捜査が前進したから僕は頼りにしてるよ」

 

 人から頼りにされるのは嬉しいのだけど、明らかに僕には荷が勝ちすぎている案件だ。何にしても今もらった情報だけで考えられることなんかどうせ既に検討され尽くしたものでしかないと伝えれば、明智君は渋々といった様子を隠すことも無く、

 

「仕方ない、それじゃあまたいつものカフェで」

 

 と譲歩したようでまったく譲歩してくれていないことを言ってのけた。

 

「どうして僕の放課後の予定をすぐに押さえようとするんだ……」

 

「まあまあ、良いじゃない。大人ばかりを相手にしているから君みたいに同年代の男子と話せる機会は逃したくないんだよ」

 

「そういうのは同じ学校の同級生を相手にすれば良いのに」

 

「僕はどうも学校じゃ浮いてる、というか有名になりすぎて皆遠慮しちゃうからね、君みたいに物怖じせずに関わってくれる人は貴重なんだよ」

 

 何を言おうと僕を逃してくれるつもりは無い明智君に僕は朝からどうしてこんなことになったのだと天を仰ぐ。仰いだところで見えるのは見慣れた生徒会室の天井しかないのだけど。

 

「おっと、それと話は変わるけど、怪盗お願いチャンネルを教えてくれてありがとう。あんなものがあったなんて知らなかったよ」

 

「あれが怪盗団の調査に役立つかは怪しいところだけどね」

 

「そんなこと無いさ。やっぱり僕の助手は優秀だね」

 

「助手はやめてくれ」

 

 電話越しにクスクスと笑っている明智君にそろそろ数えるのも億劫になってきたため息をこぼす。どうしてこうなったんだろう。

 そろそろ電話を切っても良いかと聞いてみれば、明智君は少し焦ったような声で僕を引き留める。

 

「最後に聞かせて欲しいんだ。君にとって怪盗団は正義かな、それとも悪かな?」

 

 明智君の質問は街頭インタビューででも聞かれそうな単純なものだった。けれども僕はその質問に対して気楽に即答することは出来ない。それは怪盗団が誰なのかを半ば知ってしまっているという理由もあったが、それ以上に僕には判断の出来ないことだと思うからだ。

 それをそのまま明智君に伝えてみれば、要領を得ないといった声色で先を促された。

 

「彼らの善悪を判断できる材料が僕には無いからね。表に出ない悪事を暴く。それは善行にあたるものかもしれないけど、その過程では今の社会法規に照らしてみれば悪行とされることも含まれているかもしれない」

 

「冷静な見方だね。世間では、頼りにならない警察に代わって悪を裁く義賊、だなんて言ってる人もいるけど?」

 

「その世間は一部の大きな声の人の意見が強く反映されがちだからね」

 

 だからあまりSNSなんかは好きになれない。怪盗お願いチャンネルのようなネット掲示板も。人の複雑で立体的な内面を単純で平面的な一面にまで貶めているような気がしてしまうからだ。

 

「なるほどね、何だか安心したよ。この前もラジオで怪盗団に否定的なことを話したら一部のリスナーからバッシングされて凹んでたんだ」

 

「それで僕にこんなことを聞いてきたのか」

 

「改心事件が精神暴走事件と繋がっているとしたら、怪盗団は洗脳、催眠その他の方法で人の心を操れる可能性がある。事の善悪はともかく、手段の是非は問われて然るべきだと、法治国家である以上私刑はダメだって当たり前のことを言ったつもりなんだけどね」

 

 明智君も僕と同じように大きなため息を吐いた。なるほど、高校生探偵で有名人ともなればそういった心ない声というものもよく届くのかもしれない。特に怪盗団に救われた人からすれば彼の言葉は許せるものではなかっただろう。自らの恩人が犯罪者だと暗に言われて怒らない人間はいないのだから。

 そういう意味では僕も明智君に怒るべきなのかもしれないが、あまりそういう気にもなれなかった。それは彼の言にも一理あることが分かっているからだ。

 

「なるほどね、まあ僕もその意見には頷けるかな」

 

「君ならそう言ってくれると思ってたよ」

 

 電話越しでも分かるくらい、ほっとしたような声だった。爽やかで柔らかな表情を崩さない明智君だが、一見して平気だからと言って内心までそうであるとは限らない。対面して、あるいは電話で直接話していれば分かることも、文字越しでのやり取りになると忘れてしまう人が多いのは悩ましい。

 ただ、僕は明智君のように完全に怪盗団に敵対する考えというわけではない。これは僕の悪い癖でもあるのだけれど、僕はわりとどっちつかずな態度を取ることが多い。それは良く言えば中立的だけど、悪く言えば優柔不断だ。良くないことだと自覚しつつ、それでも僕はこの態度を捨てられない。だから僕は続けて口を開く。

 

「それでも、怪盗団は手段の善悪を踏まえた上で自らのやり方を貫くと決めたんじゃないかな。最後は自分達の手でケジメをつけると僕は思ってるよ」

 

「……そうか、君はそう思うんだね。やっぱり、僕と似ているようでどこか違う考え方だ」

 

 そう言った明智君の声は先程と比べて落ち着いたものになっていた。ともすると少し落ち込んでいるようにも思えるような声色だったが、そこまで彼にとって心外な言葉だっただろうか。

 僕がそう思って首を捻っていると、明智君は長電話も良くないからと会話を切り上げた。毎日毎日長電話してきてるのはそっちじゃないかと言えば互いに少し笑い、また放課後にと一言交わして電話を切る。

 電話を切って時計を見れば、時間は既に8時を10分程過ぎていた。生徒会室でコーヒーでも飲みながらのんびりと本に没頭するには少々心許ない時間だ。僕はスマホをポケットにしまうと、鞄を肩に掛けて部屋を出た。朝のHRが始まるまでは教室で読書をすることにしよう。

 

 


 

 

 放課後、今日は生徒会の雑務が色々と溜まっていたことを思い出した僕は遅れることを明智君に連絡し、生徒会室に再び足を踏み入れる。教室を出たのが少し遅かったからか、部屋には既に先客がいた。

 

「海藤くん……」

 

「新島さん、お疲れさま。他の皆はまだ来てないんだね」

 

「お疲れさま。今日は他の子達は用事があるみたいよ」

 

 椅子に座って書類の束を前に思い詰めた表情をしている新島さんに声をかけてみれば、彼女は顔を上げて挨拶を返してくれこそするものの、浮かない表情のままだった。

 

「元気無いけど、何かあった?」

 

「いえ……、何も」

 

 何も無いわけが無い顔をしているけれど、彼女は詮索を拒むように書類を手にとって視線を落とした。僕に触れて欲しくない話題のようなので、僕も彼女に倣って机に積まれた書類をぺらりと捲って目を通していく。

 それからしばらくは会話もなく、紙の上をペンが行き来する音だけが響いていた。僕はあえてあまり新島さんに視線を向けないように、けれども自然体で仕事を進めていくけれど、彼女の方は普段通りとはいかないようで、チラチラとこちらを見てくる気配が伝わってくる。

 

「……何も聞かないのね」

 

「聞かせてくれるの?」

 

「……」

 

「言いたくなければ無理に話さなくても大丈夫だよ。この程度で僕と新島さんが友達でなくなるなんてことも無いと思っているしね」

 

 友人だからと言って何もかも晒け出さねばならないなんてことは無い。親密になればなるほど、むしろ話しにくくなることもあるしね。話したくないけど聞いて欲しい、そう思っているのなら話せるように、話したくなるのを気長に待つよ。

 そう伝えてみれば、新島さんはますます沈んだ表情になってしまう。どうしよう、僕の善意が何故か彼女を追い詰めてしまっている。そこまで考えて、彼女が何に思い悩んでいるのかに思い当たる。

 

「校長に怪盗団のことについて急かされたりした?」

 

「っ!」

 

 大袈裟に肩を跳ねさせる新島さん。なるほど当たりみたいだ。

 

「このままだと僕を最有力容疑者として警察に突き出すとでも言われたのかな」

 

 あの校長だと言ってそうだ。そこまで彼に敵視されているとは、半ば予想していたけど僕の穏やかな高校生活はもう望むべくも無いのかもしれない。

 

「どうして……」

 

「ん?」

 

「どうしてそんなに平気な顔してられるのよ!」

 

 新島さんは手に持った書類を机に叩きつけて立ち上がった。

 

「鴨志田のときもそう。自分がどうなっても大丈夫、みたいな顔して! それで周りの人間がどれだけ心配してるのかも考えないで! あなたがそんな風だから、私は……!」

 

 悲痛な顔で僕に詰め寄る新島さん。怪盗団調査を言い渡された彼女は、何の手がかりも得られないまま斑目という次なるターゲットの改心を許した。そのことに彼女が責められる謂れは一切無いが、校長はお気に召さなかったらしく、彼女にプレッシャーを掛けたらしい。

 

「落ち着いて、新島さん」

 

「落ち着いてるわよ!」

 

「とりあえず深呼吸しようか、ね?」

 

 僕の呼吸に合わせるように、新島さんが肩を上下させる。数度繰り返せば、少しは落ち着いたのか、先程よりは表情もマシに見えた。

 

「どうして怪盗団を庇うの。彼らが正義だと思ってるから?」

 

 似たような質問を今朝も受けたな、とこんなときに呑気なことが頭をよぎった。人はとかく物事を正義か悪か、白か黒かの二元論で語りたがる。もちろんそれを否定するつもりも無いのだけれど、人ってそれだけじゃないと僕は何度も色んな人に語ってきた。理解を得られたことは少ないけど。

 

「新島さんはどう思う?」

 

「私にとっては面倒で頭を悩ませる案件でしかないわ」

 

 正義とか悪とかどうでもいい。そう嘯いた彼女の表情は口にしたことが本心では無いことが見て取れた。

 

「……私は、役立たずなんかじゃない!」

 

 小さく呟いた彼女の言葉。僕にも聞かせるつもりは無かっただろうそれは、彼女が心に抱えた重たいものを想像させるものだった。

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