Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Penetrate ostentation

「副会長、ちょっと良い?」

 

「ん?雨宮さん?」

 

 中間試験の結果発表日、テストの点数すらプライバシーだなんだとうるさく言われそうなこのご時世にまだ秀尽学園は全学年の順位表を廊下に張り出している。

 まあ生徒達の競争意識を煽るのは進学率を気にする私立校にはありがちなのかもしれない。例に漏れず僕も自分の順位は気になるもので、昼休みに廊下で自分の順位を確認していると、僕の隣にやってきていた雨宮さんにそう声を掛けられたのだった。

 

「あ、そういえばテストの結果はまずまずみたいだね。転入早々で凄いね」

 

「そう言う副会長は学年トップ。流石」

 

「まあ勉強をしておけば大人って寛容だからね」

 

 雨宮さんは2年生の中で真ん中より少し上の順位につけていた。秀尽のカリキュラムは進学校なだけあって進行が速い。転入早々付いていけているのは素直に称賛されるべきことだと思う。

 一方で僕はといえば勉強が特に嫌いではないし、人生一回分の経験値差というのもあるためせめて学年一位程度は取っておきたいというちっぽけなプライドのため、それなりにテスト対策を毎回しているのだ。

 もちろん二位には我らが生徒会長の名前がある。今年一発目の勝負は僕の勝ちらしい。二年生のときには何度か負けてしまっているので今年は完勝したいところだ。

 

「と、そんな話をしたいんじゃなさそうだね。用件は何かな?」

 

「今日の放課後、時間ある?」

 

 今日はバイトも無いし、あるとすれば生徒会室でテストの振り返りをするくらいだ。それだっていつでも出来る。まあ三島君を助けた日以降、新島さんは露骨に僕を監視するようになったわけなのでどうにか彼女を撒く必要があるけれど。

 

「時間はあるね。ただちょっと待ってもらうことになるけど」

 

「構わない」

 

 雨宮さんはそれだけ言うと彼女のスマホを僕に差し出してきた。そこに映っているのはメッセージアプリの画面。その言わんとするところは明らかで、僕もポケットから自分のスマホを取り出して頷いた。

 学校に来れば会えるからと僕はあまりスマホで連絡を取り合ったりすることは多くない。個人的にやり取りしていることが多いのはそれこそ新島さんと最近だと鈴井さんくらいかもしれない。あんまりスマホというものに慣れていないというのもあるのかもしれない。

 

「集合場所はまた」

 

「分かった。連絡を待ってるよ」

 

 まるで秘密の会合をするかのようにその場での明言を避けるのは僕への用件があまり人の耳に入って欲しくないからだろうか。図らずも彼女の気遣いは正しい。僕は今敏腕刑事の監視を受けているので、雨宮さんと大っぴらに会うのもまずいと僕は思っている。

 僕の考えが正しければ、雨宮さん達は新島さんが正体を探っている怪盗団に非常に近い位置にいるか、あるいは怪盗団そのものである可能性が高い。幸か不幸か僕は新島さんに結構信頼されているようで、鴨志田先生との一件で校長から向けられている僕への疑いを晴らすためなら今の彼女は雨宮さんが少しでも怪盗団の痕跡を見せようものならそれを見逃したりはしない。

 

「それじゃ、また放課後に」

 

「うん、僕が無事に来れることを祈っておいて」

 

「?」

 

 雨宮さんは首を傾げるが、説明するわけにもいかないと僕は廊下を後にする。また新島さんに見られでもしたら問い詰められそうだからね。

 そう思っていたけれど階段のところからこちらを見ている新島さんとばっちり目が合ってしまった。敏腕刑事とか言っちゃったけどいくらなんでも尾行が下手すぎるよ……。

 目が合ったのに気付いたのか、あからさまにぎくりとした表情で逃げていった新島さんを見送り、僕は苦笑いをこぼす。この分だと、雨宮さん達が迂闊なことをしない限りは尻尾を掴めそうにないんじゃないだろうか。

 

 そして放課後、案の定新島さんはHRが終わるなり僕の教室に乗り込んできて僕を引っ張っていった。予想通りと言うべきか、彼女が問い詰めたい内容は昼休みの雨宮さんとの一幕だ。

 

「鴨志田先生と一悶着あったのはあなただけじゃない。あの転入生と元陸上部の坂本くん、そして噂になっていた高巻さん。彼女らがこの前も屋上でコソコソと話をしていたのを私は聞いたわ」

 

 おっと、早速迂闊なことをしているじゃないか雨宮さん達……。せっかく人気の無い教室の鍵をあげたのに。いや、安易にあそこを使って新島さんにばれてしまうのも問題かもしれない。

 

「鴨志田先生とのいざこざで目立っていたのはあなたかもしれないけど、あの子達も十分容疑者になり得るわ。それに、怪盗”団”というくらいだもの。複数人いると考えるのが妥当よね?」

 

 行動のポンコツさとは裏腹に彼女の洞察力は相変わらず鋭い。数日前は僕を疑えなんて啖呵を切ったものの、あっさりと彼女なら怪盗団の正体にたどり着くかもしれない。出来ればそうなって欲しくないけれど。

 

「そこまで鋭い推理が出来るのにどうして尾行はポンコツなんだろうね……」

 

「そ、それは……!ていうかそう言うってことは認めるのね!?」

 

 新島さんは赤くなった顔を誤魔化すように僕に詰め寄る。出来ればもっと別のシチュエーションでこの距離感になりたかったなぁ。いや、別にそういう関係でもなんでも無いのだけれど。とはいえ、どう切り抜けたものか。

 

「ま、新島さんもまだ確証は無さそうだから明言は避けるよ」

 

「私の中ではもうかなり犯人の目星はついてるんだけど」

 

「ならその目星を確実なものにするために証拠を掴まなきゃね」

 

 あの尾行術なら流石に決定的な証拠は掴めないだろう。いや、どうだろう、ちょっと不安になってきたかもしれない。

 

「証拠、証拠ね」

 

 新島さんは視線を落とすと証拠、証拠とぶつぶつと呟いていた。そんな彼女の目を盗んで僕は自分のスマホにチラリと目をやる。画面を点灯させるとメッセージアプリの通知が表示され、雨宮さんからの集合場所を示すメッセージが目に入る。

 

『美味しいコーヒーの出るところで』

 

 どこか具体的な店名を出さないあたり彼女も気を遣ってくれているんだろうか。美味しいコーヒーと言えば僕のなかに思い浮かぶのは一つだけだ。つい最近お気に入りの店になったルブランだろう。

 僕はまだ何やら考え込んでいる新島さんから離れると、くるりと振り返って生徒会室の扉を開いた。

 

「それじゃ、頑張って考えてみてね、会長」

 

「あ、こら待ちなさい!」

 

 そこで待てと言われて待つ奴はいない。雨宮さんとの集合場所に向かうべく、僕はさっさと生徒会室を出て行ったのだった。

 

 


 

 

「初めましてだな。俺は喜多川祐介。斑目の弟子、と言えばどういう立場の人間か分かるだろうか」

 

 新島さんを振りきって喫茶ルブランにたどり着いた僕を迎えてくれたのは、モデルのように外見の整った男の子だった。光の具合によっては深い藍色にも見えるような髪が切れ長の目と相まって怜悧な印象を与える子で、店内でも異質な空気を纏っていた。

 

「ええっと、秀尽学園3年の海藤徹です。斑目先生のお弟子さん、が僕に用ってこと?」

 

 僕が喜多川君のとなりに座る雨宮さんに問えば、彼女はコクリと頷いた。なんだろう、この間のインタビューで変なこと言ったから喜多川君の怒りを買ったのか?

 

「用というのは他でもない。あなたがあの日受けたインタビューの件だ」

 

「あ、やっぱりそのことなんだね。その節はどうもすみません……素人が下手なことを言って」

 

 予想通り喜多川君の用事はインタビューの件についてらしかった。やっぱり怒らせてしまったのだろうと喜多川君に頭を下げれば、彼に手で制される。どうやらインタビューを不快に思ったわけではないらしい。

 

「純粋に気になったんだ。あの絵のタイトルが相応しくないと感じたのはどうしてなのか、他にもそう感じた絵はあるのかと思ってな」

 

「他にも……?」

 

 喜多川君の言葉に僕は顎に手を添えて個展を見に行った日を思い出す。タイトルと絵の違和感のようなものを感じた絵は他にあっただろうか。そういえば他にもあったかもしれない。風景画や人物画ではなく、抽象画で数枚ほど。

 それを彼に伝えたときの反応は劇的だった。

 

「本当か!?それはどの絵だった?これか、もしくはこの絵か?」

 

 そう言って彼が小脇に抱えたバッグから取り出して見せたのは書店でも売っている斑目画伯の画集だ。今は個展の効果でどこに行っても売り切れや品薄状態だけど、やはりお弟子さんだけあってきっちりと確保しているらしい。

 喜多川君は画集をパラパラと捲ると、そのうちのいくつかの絵を指して僕に質問する。その中に僕があの日見ていて違和感があった絵があったので指摘すれば、喜多川君は目を輝かせてついには僕の隣に席を移して来た。

 

「ならあなたならどんなタイトルを付ける?どんな印象をこの絵から感じた?」

 

「ええ……?素人にそんなこと言われても……」

 

「いいから!」

 

 彼に押しきられるように、僕は絵を見て感じたことをポツポツと話す。そう言えば、僕が違和感を覚えた絵はどれも描いた人のネガティブな感情を感じ取れる絵ばかりだな。インタビューを受けていた斑目画伯の印象とは全然違うからそう思ったんだろうか。

 問答をいくつか繰り返し、喜多川君は満足したのか画集を閉じた。

 

「そうか、やはり見る人が見れば分かるのだな」

 

「素人の勝手な品評だからね?」

 

 喜多川君はうんうんと納得するように頷いているが、僕としては流れが分からない上に芸術に関してはずぶの素人である僕を見れる人扱いされるのはとても居心地が悪い。

 

「それともう一つ質問させて欲しい。あなたの質問に対して最後に斑目先生が返した答え、あれについてはどう思った?」

 

「あの答えについて?いや、素人の僕じゃ思い付かない深い理由があるんだなと……」

 

「本当に?」

 

「……気のせいだとは思うけど、どこか他人事のような印象を受けたよ。他人が描いた絵を解釈してるような、そんな印象をね」

 

 喜多川君の鋭い視線に射抜かれて、僕は諦めてあの日感じたことを口にする。どうして弟子の前で師匠を疑うようなことを言わされてるんだろうか、しかもその弟子張本人に。

 

「ありがとう。あなたの言葉で俺は勇気付けられた」

 

「どういうこと……?」

 

 さらに僕の言葉に対して返ってくるのが感謝ということに僕の理解が追い付かない。自分が気になることをとにかく聞き、そして訳が分からないまま満足する。

 喜多川君は芸術家らしく、独特なリズムで生きているらしい。助けを求めるように雨宮さんを見るが、彼女も苦笑いするばかりなあたり、この独特なリズムを何度か味わったのだろう。

 

「あなたは斑目の噂を知っているか?」

 

「噂?」

 

「盗作の噂だ」

 

 彼に言われて、そういえばそんな噂も目にしたかもしれないと思い出す。個展を見に行くにあたって斑目画伯のことを調べていく中で、ネット掲示板にそんな趣旨の書き込みがあるというのがまとめサイトかなにかに掲載されていた気がする。結局は噂に過ぎないという結論で締められていたけれど。

 

「聞いたことはあるかな。まああれだけ有名な画家だったらそんな噂も立つだろうとは思ったけど」

 

「それが事実だとしたらどうする?」

 

「……ホントに?」

 

 待って欲しい。僕って今結構ヤバイこと聞いてしまってるんじゃないだろうか?

 

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