Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Dark clouds in the sky

 学校を出た後、まっすぐ帰るのも何だかなという気分になった僕は渋谷駅付近をブラブラと散策することにした。とは言っても精々が本屋に寄ったりレンタルショップを覗くくらいしかやることは無いんだけれど。

 そう思ってセントラル街を練り歩いていると、目の前を見慣れた派手な金色が機嫌悪そうに歩いているのを見かけた。

 

「や、坂本くん」

 

「うおっ!? 海藤センパイ、こんな時間に何してんすか」

 

 どうやら声をかけるまで気付いていなかったようで、肩を大きく跳ねさせてこちらに勢い良く振り向く。

 

「それはこっちの台詞でもあるけどね。何か不機嫌そうだけど、どうかした?」

 

「いや、その……」

 

 会話の取っ掛かり程度の問いかけだったが、坂本君は言いにくそうに右手で頭を掻いている。これは、結構厄介な問題をまた抱えてそうだ。

 

「……長くなりそうだし、ちょっとファミレスでも寄って行こうか。あ、もちろん僕が奢るから安心してね」

 

 ここでまごまごしていても話が進まないし、さっさと坂本君から事情を聞き出してしまおうと彼をファミレスへと誘う。あんまり人の事情に踏み込むのも良くないと分かってはいるが、彼には陸上部の時の鴨志田先生との一件を知っている僕からすると彼を放っておくことなど出来なかった。

 坂本君も黙ってついてきてくれているところから話すつもりはあるようだ。セントラル街にあるファミレスは渋谷駅に近いことから学生達で賑わっている。店内は僕らと同じく学校帰りであろう学生達でごった返していた。運良く隅の席を確保できた僕は、ドリンクバーとポテトを注文してさっさとコーヒーを用意する。坂本君もコーラをグラスに注ぎ、運ばれてきたポテトを浮かない表情で口にしていた。

 

「それで、僕としてはこのまま後輩とお茶して帰ったってことでも良いんだけど。僕が力になれることなら話くらいは聞くよ?」

 

 急かすのも良くないが、あんまりのんびりしていると補導されてしまう時間になる。少し促してみて、ダメだったらおとなしくポテト食ってコーヒー飲んで帰ろう。

 そう思っていると、坂本君がぽつぽつと口を開いてくれる。聞けば、例の転校生、雨宮さんと一緒に鴨志田先生の体罰の証拠を探そうとバレー部員に聞き込みをしていたけれどもうまく行かなかったらしい。

 雨宮さんの噂を流したのが鴨志田先生ということもあり、同じように彼と因縁のある坂本君からすると放っておけなかったとのこと。

 そこまで聞く頃にはコーヒーも二杯目に突入しており、僕は口から漏れそうになるため息をどうにか堪えることに必死だった。

 

「……はぁ~」

 

 訂正。ため息は堪えられなかった。

 

「海藤センパイ? 急にため息ついてどうしたんすか?」

 

「いやね、君達の気持ちは分かる。特に坂本くんが許せないって思う気持ちも分かるんだけどさ」

 

 やり方が良くないと言えば良いだろうか。鴨志田先生とひと悶着あった坂本君と噂になっている雨宮さんが動けばそれはもう目立つ。そしてそれを見逃すような鴨志田先生ではない。バレー部員にはよく言って聞かせていることだろう。

 

「君らが正面から聞いたところで素直に話してくれるバレー部はいないだろうね」

 

「……かもしれねぇっすけど」

 

「だからこそ、動き方はもっと考える必要があったんじゃないかな。今のやり方だと鴨志田先生を単に警戒させちゃうだけだからね」

 

「……じゃあどうしろっていうんすか」

 

 不満そうに口を尖らせる坂本君。まあこんなこと言われて良い気持ちになるわけがない。それは分かっているんだけれども、彼は鴨志田先生が去年に陸上部の臨時顧問をしていたときに色々と揉め事を起こしている。それを何とか収めようと奔走した身からすると言いたくなるというものだ。僕も結構鴨志田先生に睨まれることになったんだから。

 

「まずは利用できそうな人に声をかけるべきだよね」

 

「んなこと言ったって、そんな人どこに……」

 

「いるじゃないか。目の前に」

 

「え?」

 

 坂本君は咥えていたストローをポトリと落とした。

 

「去年の陸上部廃部危機を何とかしたのは誰でしょうか」

 

「……センパイっす」

 

 そう、去年のことだが、坂本君が所属していた陸上部の臨時顧問に鴨志田先生が収まった際、坂本君が鴨志田先生に暴力を振るったということで鴨志田先生が陸上部の臨時顧問を降り、廃部の危機に晒されたことがあった。もちろん坂本君が鴨志田先生を気に入らなかったという個人的な好悪で暴力を振るったわけでは無い。彼は足を壊され、更には母親をバカにされてカッとなってしまったとのことだった。

 そんなことを聞いてしまったからには放っておけない。せめて陸上部の廃部だけは避けようとあちらこちらに話を持ちかけ、最後にはあらゆる人の証言を集めて鴨志田先生に直談判まで行った。新島さんにも呆れられてしまったけれど、臨時の生徒総会まで開くことになったのも今となっては良い思い出だ。

 

「そんな先輩を少しは頼ってみようとは思わない?」

 

 坂本君はポカンと口を開けたまま何も言わない。まあ学年も違うし、同学年の中じゃ敬遠されているだろうから校内の誰かを頼るという手段を採りにくいのは理解できる。

 とは言っても去年は結構関わったんだから多少は頼ってくれても良いと思うんだ。

 

「……でも、良いんすか? センパイも鴨志田のヤロウに目付けられちまったらガッコ居づらくなるんじゃ」

 

「そうなっても僕は気にしない、というか去年はちょっとした嫌がらせも受けてたけど無視してたら気付いたら終わってたよ」

 

 坂本君が心配そうに聞いてくるが、気にするなと手を振る。去年は上履き隠されたり黒板に悪口書かれたり変な噂流されたりしたなあ。どうでも言いと思って無視してたけど。毎日来客用スリッパを使って先生に注意されたけど、スマホに撮影した色々な証拠を見せると黙認してくれるようになった。いや、そこは解決するように動いてよとも思ったけど。まあ先生も人だしね、面倒なことにはなるべく関わりたくないだろうし。

 

「ま、そういうわけだから。バレー部の聞き込みに関しては任せなよ」

 

「どうしてそこまでしてくれるんすか……?」

 

 坂本君にそう聞かれる。確かにたかが学校の先輩がここまで協力的なのってよく考えなくとも怪しいな。僕としては知り合いが困っているし、何か出来る範囲で協力できるならやってやろう程度の軽い気持ちなんだけれども。

 

「どうして、って言われてもね。知らない仲じゃないし、助けられそうなら助けるってのじゃダメかな?」

 

「めっちゃ軽い理由すね……」

 

「そんなもんで良いと思うんだよね、人を助ける理由って。あ、じゃあ生徒会副会長だから学生の楽しい学校生活を守るためって理由も付け加えとくよ」

 

「……ははっ、何すかそれ」

 

 僕は割りと真面目に言ったのだが、なぜか坂本君には笑われてしまった。なぜだ。首を傾げていると、もう温くなっているであろうコーラをグイッと飲み干した坂本君が席を立つ。

 

「コーラお代わりしてきます。先輩はコーヒーで良いっすか?」

 

「おっ、気が利くねえ。そんなことしても追加のポテトくらいしか出てこないよ?」

 

「そこは唐揚げにしてくれると嬉しいっす」

 

「うーむこの後輩、中々言いよるな」

 

 普段の調子に戻ったらしい坂本君はそう言うと足取りも軽くドリンクサーバーへと向かっていく。僕はその間に店員さんを呼んで追加で坂本君ご所望の唐揚げを注文しておいてあげた。

 

 


 

 

 次の日、僕は坂本君との約束通りにバレー部員への聞き取りを始めようと早速動き始める。彼らがどのバレー部員に話を聞きに行ったかは定かではないが、上級生にいきなり話を聞いてはいないだろうと考えて同じ3年生のバレー部員を巡ることにする。

 

「やめてくれよ海藤。お前が動いたら大事になるんだから」

 

「大会も近いんだから本当に勘弁してくれ、推薦かかってんだから」

 

「去年ので懲りてなかったのかよお前……。俺から話すことは何も無えぞ」

 

 朝練があるからと朝早くから登校している人達に話を聞いてみたが、返ってくるのは上記3パターンのどれかだった。バレーで推薦狙ってる人も多いのか、皆一様に口が重い。後は去年鴨志田先生とゴタゴタしたから全体的にバレー部からの好感度は低い。特にレギュラー陣からの心証は最悪だった。これは坂本君に偉そうなこと言えないな。

 どうしたもんかと思いながら渡り廊下を歩いていると、反対側からジャージ姿の女子生徒が歩いてくるのが目に入る。あれは、ようやく少しは話を聞ける人が来たかもしれない。

 

「おはよう、鈴井さん」

 

「っ!? 副会長さん……。おはようございます」

 

 廊下を歩く鈴井さんは、左手で右肘を庇うように覆っている。ジャージを着ているから実際のところは分からないが、痛めているのは間違いなさそうだ。

 

「部活で気合い入れすぎちゃったのかな。保健室はまだ開いてないよ」

 

「いえ、少し飲み物を取りに戻っただけですから」

 

 鈴井さんはそう言うが、肩が微かに震えている。このまま朝練に戻すのは良くないんじゃないだろうか。

 

「そうは言っても身体を痛めたままじゃ辛いでしょ。生徒会室に救急箱あるから寄っていきなよ。湿布くらい貼っていきな」

 

 躊躇う鈴井さんを押しきり、彼女を生徒会室に招き入れる。椅子に座らせて休ませている間に棚を漁って救急箱を探す。去年に生徒会室を緊急避難場所にしようと色々揃えていたのがこんなところで役に立つとは思わなかった。

 練習していて喉が乾いている彼女に熱いコーヒーを出すのも酷だと思ったので部屋に来る途中で購入したスポーツドリンクを渡す。

 

「この中に湿布とか諸々入ってるから、好きに使ってよ。僕は反対側向いてるから。手伝いが必要なら言ってね」

 

 そう言って鈴井さんに背を向ける。少しの間動きが無かったが、やがてゴソゴソと彼女が手当てを始めたらしい物音が耳に届いた。

 

「朝からすごい熱心に練習するんだね」

 

「大会も近いし、それに私、レギュラーですから……」

 

「スゴいね、2年でバレー部のレギュラーなんて。でも大会前に怪我して出られなくなるなんてことにならないようにしなよ」

 

「うん……」

 

 鈴井さんの沈んだ声が耳朶を打つ。バレー部の部員数は多い。元々女子バレー部はそれなりに人気だったのが鴨志田先生赴任以来のインターハイ常連となったことによるネームバリューも手伝って一気に人数が膨れ上がった。そのため、3年間レギュラーになれないまま引退する人も珍しくない。そんな中で2年でレギュラーになるということは相当に実力を認められているか、あるいはそれ以外の要因があるかだ。

 昨日のバレー部の練習を見学していたときに鈴井さんの練習は見ていた。言っちゃ悪いが、彼女が他の部員よりも特に優れていたようには見えない。それに彼女に対する鴨志田先生のあの目。

 

「副会長も、気付いてますよね。私が、実力でレギュラー取ったわけじゃないってこと」

 

「それが僕の勘違いであることを祈ってはいるけどね」

 

 そして今の彼女の言葉で、僕は嫌な予感が間違っていなかったことを悟る。なるほど、彼女は鴨志田先生の()()()()()らしい。それも彼女の口ぶりや様子を見るに本人にとっては不本意な。

 

「鈴井さんに聞くのも酷だと理解しているけど。そのままで良いの?」

 

「……でも、私が我慢しないと杏が」

 

「そこで高巻さんか……」

 

 なるほど、どうやら鈴井さんは高巻さんを鴨志田先生に人質に取られている、と考えても良さそうだ。鴨志田先生がこれ見よがしに自分の車に高巻さんを乗せて登校するのも、周囲へのアピールもあるのかと思ったけど一番の狙いは鈴井さんを逃さないようにするためなのかもしれない。

 

「飲み物、ありがとうございます。お金はまた返します……」

 

「良いよ、気にしなくても。部活、無理しないでね」

 

 手当てを終えたのか、鈴井さんが席を立って扉へと向かう。少しは身体の痛みや疲労もマシになったのか、先程廊下で会ったときよりも足取りはしっかりとしていた。

 そのまま彼女は僕に向かって頭を下げると、体育館へと戻っていってしまう。朝練の時間もそろそろ終わりだとは思うけど、あの調子だとあまり安心できない。

 

「……これは、ちゃんと気にしてないとヤバいかもしれない」

 

 生徒会室の窓から見える空は、僕の心持ちを反映したかのように厚い雲に覆われていた。

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