【第25回】<補適法第15条解説>補助金交付の「確定処分」は一方的に覆せるのか?
― 第15条の正しい理解が、不当な返還請求を防ぐ鍵になる
■ 補助金交付の最終判断は「確定処分」という行政行為
補助金等適正化法第15条は、補助金の支出(交付金の確定)について、次のように規定しています。
「主務大臣は、補助金等に係る経理の状況が第14条の規定による報告に基づいて適正であると認めたときは、その支出すべき補助金等の額を確定しなければならない。」
つまり、実績報告に基づいて主務大臣(実務上は実施機関=中小機構)が「この内容は問題なし」と判断した時点で、交付金額が確定し、補助金の支払いがされるということです。
これは一種の「確定処分」であり、後から恣意的に変更されたり、「あれはやっぱり間違いだった」と返還請求されたりすることには、極めて高い法的ハードルが課されているのです。
■ 「交付確定後に返還請求」は法的に通用しない?
本件訴訟(当社の裁判)では、すでに補助金の確定がなされた後に、中小機構が「実地検査で問題があったから」として、突如として全額返還を求めてきた事案です。
しかし、第15条に基づけば、
実績報告に基づいて補助金が確定された
確定は一種の行政処分であり、確定通知をもって効力が生じている
取消しや変更には法律上の明確な根拠(例:虚偽申請、重大な不正など)が必要
という構造になるため、「後出しジャンケン」での取消しは明らかに違法の疑いがあるのです。
■ 「経理が適正か」の確認義務は誰にあるのか?
第15条において主務大臣(実施機関)には、交付前に「経理が適正か」を確認する義務があります。これは、申請者が自主的に「全部大丈夫です」と言ったから信じるのではなく、制度運営者としての責務として、確認作業を終えたうえで「確定」するという順序です。
ところが、実際には中小機構の委託事務局(パソナ等)は、適切な審査体制を構築していなかった可能性があり、結果的に「確定後」に問題を掘り返してくる形になっているのです。
これでは第15条の趣旨が完全に無視されていると言わざるを得ません。
■ 重要:確定後の取消しは「行政処分」として処分性がある
本件でも重要な論点となっているのが、「補助金交付後の取消しが行政処分かどうか」という点です。
第15条に基づく交付確定は、契約的性質を含むものの、一方的・権力的な効果を持つ行政処分でもあります。したがって、これを取り消す行為(返還請求)もまた行政処分であり、当然のことながら、
行政事件訴訟法の対象になる
裁量の逸脱や手続違反があれば違法と判断されうる
ということになります。
■ 他の事業者も「確定後」の取消しには注意を
この構造を理解せずに「補助金をもらった後で問題を指摘されたから、全部返せと言われた…」という事例は全国に多くあります。
しかし、第15条の法的構造を踏まえれば、確定後の返還請求には極めて限定的な要件が必要であり、
単なる事務ミスや、軽微な差異
実績報告書に書いていない使用用途
担当者の誤認に基づく再評価
といったケースでは、取消処分が法的に無効になる可能性もあるのです。
■ 本件訴訟の意義
当社の裁判では、まさにこの「確定後に全額返還を求めた中小機構の違法性」が争点の一つです。
この訴訟が制度運営に与えるインパクトは大きく、今後「確定処分」を安易に覆すような運用が制限されることが期待されます。
また、制度運営に関わる民間委託業者(パソナ等)にも、法的知識と適正手続きの遵守が求められることになるでしょう。
【まとめ】
第15条は補助金の「確定」を規定しており、一種の行政処分
確定後の返還請求には厳格な要件が必要
本件訴訟では確定後に全額返還を求めた違法性が争点に
他の事業者も「確定処分」の重要性を理解し、対応すべき
「もらった補助金を返せ」と言われたとき、真っ先に確認すべきは、第15条に基づく交付確定がなされていたかです。それが法的防衛の最初の一歩になります。


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