落語教育で知られる島根の小学校が閉校 3人の在校生が千秋楽公演
今年度末で閉校となった島根県奥出雲町立高尾小学校(古藤康則校長)は全校児童で落語に取り組み、教育に生かしていることで知られている。県内外で12年間続けてきた「にこにこ寄席」の千秋楽公演を今月、高尾小で開いた。在校生の3人は練習してきた持ちネタを熱演。地域住民やファンら約200人が駆けつけ、子どもたちの最後の高座姿を笑いとともに目に焼き付けた。
1877年創立の高尾小は、1959年には105人の児童が通っていたが、2016年には10人を割り込んだ。超小規模校のため、引っ込み思案で、人と多様な人間関係を築くのが苦手な子どもが多いことが課題だった。
そこで、大勢の前でも物おじせず自分を表現できる積極性を養おうと、落語を教育に取り入れ、発表の場としてにこにこ寄席を毎年20回前後、さまざまな場所で開いてきた。ユニークな取り組みが評価され、22年度にはパナソニック教育財団の「子どもたちの“こころを育む活動”」で最高賞の全国大賞を受賞するなど、全国的にも注目されていた。
落語を最初に教育現場に持ち込んだのは13年春に教頭として着任した宮森健次さん(64)。町教委に勤務していた頃、各学校を回り読み聞かせを実践していたが、自分が好きな落語を時に披露すると特に受けが良く、中にはやってみたいという子どももいた。ただ、通常規模の学級では、一人一人に落語を教えるのは現実的ではない。「高尾小の勤務になって、ここならできるかもと思った」という。
宮森さんが教頭と兼務で担任していた3、4年生の4人に早速声をかけてみると、全員が「やってみたい」と身を乗り出してきた。当時3年だった「浜田家鷹之輔」こと山砥(やまと)白優(はくう)さん(20)は「初めて聞く落語が面白くて、『みんなでやってみよう』となった。始めてみて、覚えるのが大変だし、大勢の観客の前で演じる怖さにも気付いた」と振り返る。
当初、宮森さんは担任する児童だけでと考えていたが、高学年に進級しても続けたかった児童が自ら全校の取り組みにしようと提案。1年生で短い小話から始め、6年間で次第に落語に取り組む今のスタイルが出来上がった。高尾小を異動で離れた後も、宮森さんは落語の指導に当たり、12年間で17人のチビっ子噺家(はなしか)を育ててきた。
千秋楽公演では、6年の「青葉亭たこやき」こと岸本大輝(たいき)さん(12)▽5年の「青葉亭こやけ」こと渡部真央さん(11)▽3年の「若葉亭さくら」こと岸本結生(ゆい)さん(9)――の3人が「時そば」「つる」などの古典落語と大喜利を口演。高尾小の取り組みを見守ってきた落語家の三遊亭楽麻呂さん(61)は「落語の前のマクラは本人が作っている。オチを付けるのに、論理力や想像力が鍛えられる上、舞台度胸も付くので鬼に金棒。立派な社会人に育っていくと思う」と子どもたちをたたえた。
卒業公演ともなった大輝さんは、先生とのコンビで「がまいたち」として漫才も披露。寄席の司会を務め、緊張のあまり下級生が言葉に詰まると、巧みに助け舟を出した。宮森さんは「あの機転は、お客さんと相対する中で培われたあの子の力」と成長ぶりに目を細めた。
大輝さんは「お客さんが笑ってくれたら練習の成果が出たなと感じられて楽しい。中学でも何らかの形で落語を続けられたらいいな」と話していた。【佐々本浩材】