「厩務員(きゅうむいん)」という仕事をご存知ですか。普段メディアなどでスポットが当たることは多くありませんが、調教師とともに競走馬を育てる大切な仕事です。今回お話を伺ったのは、JRA重賞15勝、JRA賞最優秀障害馬にも5回選出された競走馬・オジュウチョウサンの担当厩務員・長沼昭利さん。2022年まで障害競走馬として活躍し、同年末に惜しまれつつ引退を迎えたオジュウチョウサンは、今では名馬として名高いですが、その偉業は長沼さんの試行錯誤の日々無しには成し得ませんでした。オジュウチョウサンの引退式には、1万5000人の競馬ファンが駆け付け、長沼さんも登壇。壇上で長沼さんが涙ながらに語った言葉には、多くの競馬ファンも一緒に涙を流しました。知る人ぞ知るプロフェッショナルである長沼昭利さんは、どのように馬や仕事と向き合ってきたのか――その心を伺いました。

父親の背中を見て、競馬界を志した

― 長沼さんが厩務員になろうと思ったきっかけを教えてください。

理由はただ一つ、父も同じ厩務員だったから。父はトウショウボーイ(1976年有馬記念などで勝利し「天馬」と称される)の担当厩務員をしていたんですよ。僕が中学1年のときにトウショウボーイが活躍していて、厩務員の仕事はもちろん、朝から晩まで取材を受けている父の姿を見て、「かっこいいな」と。数多くの馬がいる中、GⅠで勝てる馬はほんの一握り。そんな馬を担当している父に憧れて、「絶対に自分もこの道に進むんだ」と思って志したんです。

画像: 厩務員は、担当する現役競走馬(原則2頭)について「競走馬の厩舎(馬小屋)管理」「馬の健康管理」「馬の飼養(エサの調合)管理」「馬の調教(馬のトレーニング)の準備と準備運動」などの管理を行います

厩務員は、担当する現役競走馬(原則2頭)について「競走馬の厩舎(馬小屋)管理」「馬の健康管理」「馬の飼養(エサの調合)管理」「馬の調教(馬のトレーニング)の準備と準備運動」などの管理を行います

今は競馬学校に入らないと厩務員にはなれませんが、当時はその制度がありませんでした。できるだけ早く競馬に関わる仕事がしたかった僕は、高校を中退しました。まずは牧場で修行を積み、その後厩務員試験を受けて、18歳で厩務員になりました。

生き物である競走馬と向き合う仕事

― 普段のお仕事の内容を教えてください。

とにかく朝が早く、朝3時ごろから仕事が始まります。まずは馬の体温の確認や、各部位に異常が見られないかなど、馬体のチェックをします。その後、馬房を掃除し、5時過ぎからウォーミングアップ。本格的なコースに出て調教を始めるのは6時からです。調教は20分くらいで終わり、その後はクールダウンさせて7時10分ごろには厩舎に戻ります。戻ったらすぐ馬を洗い、再び馬体をチェックした後に朝ごはんを食べさせます。今は2頭担当しているので、それをもう1度繰り返します。午後の仕事は14時すぎから始まり、馬体チェックや掃除をし、必要に応じて獣医に来てもらい治療をし、15時半くらいに仕事が終わります。

レースが開催されるときには移動があるので、夜中の1時半に起きることもあります。前日は早く寝なければと思うのですが、なかなか寝つけないときもあって、睡眠時間のコントロールは結構大変ですね。

画像: 現在の担当馬をブラッシングする長沼さん

現在の担当馬をブラッシングする長沼さん

― 1日の流れを知るだけでもお仕事の大変さが伝わってきます。

生き物と向き合っているので、休日はあれど、365日ずっと馬の様子は気になります。休日でも朝、晩は馬の顔を見に行きますし、馬の体調などで頭のどこかに引っかかることがあると、業務時間外でもすぐ馬の元へ行き、問題がないか自分の目で確認することも多いです。これはもう職業病ですね。

― 厩務員という仕事のやりがいを教えていただけますか。

担当している馬がレースに勝つことは、言葉にならないくらいうれしいです。ただ、馬たちはレースで極限まで走るので、故障もつきまといます。だから、僕に心からうれしいという感情が湧き出るのは、レース直後よりも、その後に足元に故障がないかなどを確認し、無事に走りきったと分かってからですね。

他には、専門紙などで担当馬の事前評価が低いときに、良い成績を残して評価を覆してくれると、「ほら見ろ、俺の目に狂いはなかった!」と思うこともあります(笑)。

特に、最高峰のレースであるGⅠでは、馬が思い描いたような素晴らしい状態に仕上がってくれたら「我ながら良くできたな、この出来ならまず負けないだろう」とレース前の時点ですでに喜びを感じています。さらに結果が付いてきたら、「自分がやっていたことは間違っていなかった!」と最高にうれしくなりますね。

画像: 生き物である競走馬と向き合う仕事

― やはりレースで結果が出たときに達成感を感じられるのですね。

レース時にコンマ1秒でも速く走れるように、馬の状態をピークに持っていき、結果を残すために常に馬と向き合っていますからね。どの馬も性格や食べ方、レースの仕方など、それぞれのタイプが違うので、マニュアルに当てはめることはできません。自分の過去の経験から考えたり、調教師や周りの厩務員、ジョッキーと話し合いをしたりしながら、馬をより良くしようと奮闘しています。

最初は「怖い」とさえ思った、オジュウチョウサンとの出会いと職場で初めて流した涙

― 長沼さんの「仕事の心」を伺う上で、大切なエピソードとなるオジュウチョウサンとの出会いや、当初の印象をお伺いできますか。

オジュウチョウサンはかなり気性が荒い馬で、うちに来た3歳の頃は一番元気のいい盛り。初めて会ったときからかみ付いてくるし立ち上がって暴れるし、「ご挨拶がこれかぁ」って思っちゃいましたね(笑)。担当になってからもとにかく大変で、かまれないように食べ物で釣ろうとしても、僕が何を考えているのかがすぐに分かって突進してくる。とても賢い馬だから、人間が何を考えているのか、ちゃんと分かっているんですよ。出会った当初は、オジュウチョウサンとどう向き合ったらよいのか分からず、毎日が憂鬱でした。厩務員は月曜が休みなのですが、月曜の夕方には「明日の仕事が怖い」という恐怖感で仕事に行きたくないとさえ思いました。このようなことは、厩務員になって以来初めてでしたね。

画像1: 最初は「怖い」とさえ思った、オジュウチョウサンとの出会いと職場で初めて流した涙

僕はもうそこまで若くないし、けがのリスクも高い。だから、担当を替えてほしいとお願いしたんです。普通だったらそこで担当変更するのですが、周りの若いスタッフが「長沼さん、一緒に頑張りましょう。手伝いますよ」と言ってくれてね。その優しさに泣けました。職場で初めて流した涙でしたよ。次の日からはスタッフもサポートしてくれて、オジュウチョウサンをチームで育てていきました。

― そのような状況を経てGⅠ勝利をつかむまで、どのようにしてオジュウチョウサンを名馬に育てたのでしょうか。

スタッフみんなで話し合いながら育てていきましたが、中でも、オジュウチョウサンの主戦ジョッキーであった石神ジョッキーがこの馬を強くしたと言っても過言ではないですね。彼がオジュウチョウサンの隠し持っていた力を見抜いてくれて、力を発揮できるよう馬具の調整をしていきました。気性の荒い馬には「メンコ(耳当て)」と呼ばれる馬具を付けて、音に驚かないようにすることが多く、オジュウチョウサンも初めはメンコを付けていました。しかし、石神ジョッキーはメンコの耳を覆う部分を外す提案をしてきたんです。それはとてもリスクが高いことで、僕は「耳を取るなんて、暴れてどうなるか分からないぞ?」とも話したのですが、最終的にはメンコを外すことに。それによって、オジュウチョウサンの本当の力が目覚めて、GⅠを9勝もする馬に成長していったのです。

画像: オジュウチョウサンがレースを勝利した際の記念品

オジュウチョウサンがレースを勝利した際の記念品

― 引退レースの前はいつも以上の思いがあったのではないでしょうか。

「これが最後の調教か……」とか「おまえにかみつかれるのもあと少しか……」と思いながら残りの日々を過ごしていましたね。もちろん勝ってくれたらうれしいですが、何よりも無事に帰ってきてほしい、という思いが一番でした。結果は6着でしたが、無事に戻ってきてくれましたし、引退式では「オジュウチョウサンは、最後までかっこよく去っていくんだなぁ」とその姿を見て思いました。引退式のインタビューで、「別れたくない」という言葉しか出てこなかったのは、作った言葉ではなく、心の声がそのまま出た結果です。

画像2: 最初は「怖い」とさえ思った、オジュウチョウサンとの出会いと職場で初めて流した涙

― 先日は引退馬が暮らすYogiboヴェルサイユリゾートファームへ、オジュウチョウサンに会いに行かれていましたね。

再会できて感慨深かったですよ。前に比べると性格が丸くなっている部分もあるな、とも思ったのですが、放牧後、馬房に帰るときは嫌がったりと、変わらない部分の方が大きいかもしれませんね(笑)。実は、このときに厩務員になって初めて連休を取って旅行に行ったんです。これまでは担当の馬から離れることが不安で、新婚旅行にすら行けていなかったんですよ。オジュウチョウサンと出会っていなければ、旅行に行くこともなかったですね。フルムーン旅行を兼ねていたので、一緒に来た妻も「オジュウがいなければこんなこともなかったね、オジュウのおかげだね」なんて言って。本当に、いろんなものを僕に与えてくれる馬ですよ。

画像: 引退したオジュウチョウサンが暮らすYogiboヴェルサイユリゾートファームで長沼さんと約半年ぶりの再会。 (写真提供:長沼昭利氏)

引退したオジュウチョウサンが暮らすYogiboヴェルサイユリゾートファームで長沼さんと約半年ぶりの再会。
(写真提供:長沼昭利氏)

― 改めて、長沼さんにとってオジュウチョウサンはどのような存在ですか。

オジュウチョウサンはとてつもない馬です。オジュウチョウサンの走りを見て勇気づけられた人や、頑張ろうと力をもらった人がいて、たくさんの人を助けているんだなと。僕のところにも、そうしたメッセージが書かれた手紙やプレゼントがたくさん届いたんですよ。だから、ただの障害競走馬ではないんです。なんてすごい存在なんだろうと、今でも思います。

画像: Yogiboヴェルサイユリゾートファームでのびのびと暮らすオジュウチョウサン (写真提供:長沼昭利氏)

Yogiboヴェルサイユリゾートファームでのびのびと暮らすオジュウチョウサン
(写真提供:長沼昭利氏)

競馬業界には皆さん夢を見て入ってくるかと思います。「いつかはGⅠを取ってやろう!」とね。僕もそうでした。そうして、いざ現実にオジュウチョウサンのおかげでGⅠが取れたときの喜びは計り知れなかったし、人との交流もオジュウチョウサンをきっかけに広がりました。この仕事をやって、オジュウチョウサンと出会えて良かったと心から思います。

画像: 馬房の名札は通常、別の馬が入る際に処分するそうだが 「“永久欠番”のように残してあるんですよ」と長沼さん

馬房の名札は通常、別の馬が入る際に処分するそうだが
「“永久欠番”のように残してあるんですよ」と長沼さん

画像: ファンの方から贈られた千羽鶴。 こうした贈り物や手紙が多く届いたのだそう

ファンの方から贈られた千羽鶴。
こうした贈り物や手紙が多く届いたのだそう

周りと協力し合い、何より健康第一でけがをせず、欲張らずに仕事を続けるのみ

― 仕事をする上で譲れないことや、日々意識していることはありますか。

僕は神経質な性格で、馬のわずかな違和感にも気づきやすい方だと思います。例えば、いつもならばこの時間は馬房のこの位置で過ごしているのに、今日は違うから、足に何かが起きているのではないか?とか。そして、少しでも気になることがあると、獣医さんに診てもらうようにしています。ささいなことにも気がつく性格は、オジュウチョウサンの真価の発揮にも役立ったのではないかと思っています。

画像: 現在の担当馬の馬体チェックをする長沼さん

現在の担当馬の馬体チェックをする長沼さん

あとは、厩務員として何十年も働いていますが、常に勉強の日々です。馬が食べる物の種類も昔より豊富になりましたし、機械の導入や医学の発達など、全てにおいて年々進化しているので、時代に乗り遅れないように常にアンテナを張っています。

そして何より、この仕事は一人ではできない仕事です。調教師や周りの厩務員、ジョッキー、獣医など、さまざまな人と話し合いをしながら、皆で馬を最高の状態にもっていけるよう日々考えています。僕はスタッフにも恵まれていて、仕事だけではなくプライベートでの会話のキャッチボールも多いです。この環境はありがたいですね。

― チームワークも大切なんですね。

そうです。誰一人欠けても結果を出すことはできません。「俺が一人でやるんだ」では通らない仕事です。だからこそ、日々のコミュニケーションは本当に大切で、例えば石神ジョッキーは調教前に「今日気になるところある?」「長沼さんは今日どうしたい?」といつも聞いてくれましたし、僕もささいな内容でも報告します。また、スタッフによって強みも違うので、かなり若いスタッフに「この食べ物ってどう思う?」と教えを請うこともありますよ。年齢や立場に関係なく、苦手なことはどんどん人に聞くし、もちろん僕が聞かれて教えることもあります。馬が第一ではありますが、自分の力を発揮して仕事をするには、職場の環境も大事です。

― 競馬ファンにとって忘れられないドラマを作られた長沼さんですが、今後の夢や目標などがあれば教えてください。

正直、オジュウチョウサンのおかげで夢はかなえたと言ってもよいのですが、定年までのあと5年、オジュウチョウサンと経験したことを生かして、新しい子と良い結果を残したいとは密かに夢見ていますよ。そのためにも、何より健康第一でけがをせず、欲張らずにこの仕事を毎日続けていくだけです。

画像: オジュウチョウサンが暮らした馬房の前で。今は別の馬が入っているが、その馬の名札の下にはオジュウチョウサンのものが残してある

オジュウチョウサンが暮らした馬房の前で。今は別の馬が入っているが、その馬の名札の下にはオジュウチョウサンのものが残してある

画像: 【プロフィール】 長沼昭利(ながぬま あきとし) 1963年生まれ。和田正一郎厩舎所属の厩務員。8年間オジュウチョウサンを担当し、JRA重賞15勝、うちGⅠ9勝、JRA賞最優秀障害馬5回選出に導く。

【プロフィール】
長沼昭利(ながぬま あきとし)
1963年生まれ。和田正一郎厩舎所属の厩務員。8年間オジュウチョウサンを担当し、JRA重賞15勝、うちGⅠ9勝、JRA賞最優秀障害馬5回選出に導く。

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埼玉県朝霞市教育委員会様は、ゼロトラスト環境によるセキュリティー対策やクラウドツールを活用した教育ネットワークを採用し、2024年9月から市内の小中学校で運用開始しています。さらに、校務系/学習系ネットワークを統合し、より高い安全性を確保しつつ、教職員の業務効率化と利便性向上を実現しています。このことから、リモートアクセス環境の整備と職員室の無線LANの整備により、場所にとらわれない柔軟な働き方も可能になりました。

新たに導入されたフルクラウドの統合型校務支援システムでは、教職員の業務負荷軽減を目指し、学習AIドリルなどの活用により、児童・生徒の学習レベルに応じた個別最適な学びの環境を実現しています。児童・生徒や学校の情報を一元的に管理することで、市内進学や転出入時の引き継ぎでも効率化が期待できます。また、統合型校務支援システムと連携したクラウド型の保護者連絡ツールも導入。これらの電子化によりペーパーレス化が進み、家庭との連絡を効率的・確実に行えるようになりました。

今後もユニアデックスとともに、教職員から寄せられたヘルプデスクへの問い合わせ対応やクラウドサービスの機能追加などについて確認を行い、「成長するシステム」を目指していきます。

従来の環境では働く場所が限られ、データの持ち出しにも紛失などのリスクがありました。ゼロトラスト化、フルクラウド化によって安全なロケーションフリーの環境となったことで、災害時や家庭の事情などを考慮した、柔軟な働き方を選択する一助になることを期待したい。

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ワインとワイナリーをめぐる冒険 第39回 by 雪川醸造代表 山平哲也さん
・航空会社でチケットを直接手配し、経由する国のエアラインをよく使います
・レンタカーを手配したらマニュアル車だったって意外と多いのです
・ヨーロッパ文化圏では「ラウンドアバウト」が多く、入るタイミングが難しい

こんにちは(あるいはこんばんは)。

前回の南アフリカに続いて、ニュージーランドに来てワインをつくっています。

今回は10日ほど前にニュージーランドに着いたのですが、昨日1つ目のぶどうの収穫をようやく行ったばかりで、ワタクシのワインづくりに関しては、まだお伝えできることがあまりありません。「次回はニュージーランドでのワインづくりをレポートします」と案内していたのに、すみません。

画像: 今年は年明けから天候が不順で生育がすこし遅れた、とのことです。一週間待ったおかげでかなり良い状態で収穫できました

今年は年明けから天候が不順で生育がすこし遅れた、とのことです。一週間待ったおかげでかなり良い状態で収穫できました

ということで、今回は番外編として海外に出かける(出張だったり、旅行だったり)ときのワタクシの私見的な旅のテクニックだったり、経験からくるノウハウのようなものを少し綴ってみたいと思います。ニュージーランドでのワインづくりについては、次回のコラムに譲ります。

「経由国」のチケットを選ぶ

まずは、航空券の手配についてです。

ワタクシは、オンライン・オフラインを問わず旅行代理店を使うことはなく、航空会社で直接手配します。これは過去の経験から、代理店を通して購入した航空券になにかトラブルがあると、そのトラブルへの対処が煩雑になるのに対し、航空会社で直接購入した方が色々と融通が効きやすいため、多少高くても航空会社でチケットを直接手配します。

特に、日程に余裕がない旅の場合、費用が高くなる部分はトラブルに備えた保険として捉えています(時間に余裕があるなら、いかにチケットを安く手に入れるかに集中しても良いと思います)。あと日本航空と全日空の両方のマイレージプログラムでステータスを維持しているので、これを絡めるとエアラインの3大アライアンスの2つにおいて融通の効く範囲が広がるということも含まれます。

それと、利用する航空会社ですが、経由する国のエアラインを使うことがよくあります。例えば、今回のニュージーランドであれば、選択肢はこのようになります。

A) 出発国:日本(全日空、日本航空など)
B) 到着国:ニュージーランド(ニュージーランド航空など)
C) 経由国:オーストラリア(カンタス航空)、シンガポール(シンガポール航空)、中国(エアチャイナ)、フィジー(フィジーエアウェイズ)、etc.

この場合、AとBに比べてCのチケットが安くなっていることが多いです。で、実はニュージーランドに限らず、ほとんどのケースで、この「経由国のエアライン」のチケットは出発国、到着国のエアラインより安くなります。

これは推測なのですが、乗り継ぎとなるCに比べて直行便を提供できるAとBはより付加価値が高い(速くて便利)ので、価格を高く設定している(できる)ので、こうした状況が生まれるのだと思われます。

今回の場合、ニュージーランドのクライストチャーチに来ているのですが、ここは日本との直行便が設定されていません。このため、どう転んでも最低1回は乗り継ぎすることになります。であれば、Cの乗継便が低い価格で提供されているなら、こちらを選んで航空券を手配する、ということになります。

画像: カンタス航空は昔から世界トップクラスの安全性を誇る航空会社として有名なので、安心して乗っていられます(高所恐怖症気味です)

カンタス航空は昔から世界トップクラスの安全性を誇る航空会社として有名なので、安心して乗っていられます(高所恐怖症気味です)

今回はオーストラリアのフラッグシップであるカンタス航空を使っています。ニュージーランドへの移動に、この航空会社を使うメリットは、フライトを選べば、往復ともに昼便(午前中に出発して、夕方〜夜に目的地に到着)を利用できる点にあります。

日本〜オセアニアは、時差の少ないタイムゾーンの移動となるため、昼便と夜便(夜出発して、翌日朝に目的地に到着)の組み合わせでフライトの往復が設定されていることがほとんどです。どれだけ飛行機の中でぐっすり寝られたとしても、夜便はやはり疲れます(到着翌日は睡眠不足な状態で1日行動しなければならないですし……)。できるだけ昼便を使って旅程を設定すれば、移動後の疲労がかなり軽減される、というのがこれまでの経験から学んだことです。

「ラウンドアバウト」に慣れましょう

次に滞在先でのクルマ移動についてです。

ワイナリーは街中にはほとんどないですし、いくつものワイナリーをまわるので、基本はレンタカーを手配します。その昔、アメリカで生活していたことがあり、左ハンドル・右側通行にも慣れているのですが、イギリス連邦の南アフリカとニュージーランドは日本と同じ右ハンドル・左側通行です。日本車を借りられれば(欧州車だとウインカー・ワイパーの組み合わせが逆のことがある)運転はそんなに難しいことではないです。とはいえ、事前に注意点について検索してアタマに入れておいた方が良いですが。

なお、Wikipediaによると、右側通行の国の方が多いので(「人口比では左側通行と右側通行の比率が34:66」)、海外で運転する可能性が高いなら、右側通行に慣れた方が良いのかもしれません(どこで練習するのかという問題はありますが…)。

今回、南アフリカとニュージーランドで借りたレンタカーは、いずれもAndroid Auto/Apple CarPlayに対応しており、自分のスマートフォンのマップや音楽再生を使えるクルマでした。ひと昔前のカーナビだと、目的地を入力するのに難儀することが多かったのですが、自分のスマートフォンの設定をそのまま使えるのはとても便利です。

ニュージーランドで今回借りたレンタカーは、日本から輸入したようで、エンジンをかけると日本語の注意書きが出てきました

ただ、ケータイの電波が届かない場所を走るとマップのナビゲーションがおかしくなることがあるので、そういう場所を走りそうな場合には、事前にマップアプリでオフラインマップをダウンロードするのが安全です。日本の主要な道路は通信サービスの電波カバレッジがほぼ網羅されていますが、海外では主要な道路でも田舎に入ると電波なしのところが意外にあり、急にナビがおかしくなって焦ることになります。

ちなみに、レンタカー手配の際に一番気をつけるのは、国によってはオートマ車の設定が少ない(ない)というやつです。なにを隠そう南アフリカがそういう国で、手配したレンタカーはマニュアル車でした。ワタクシもすっかり忘れていたのです。ケープタウン空港のレンタカーオフィスでクルマを受け取った時に「ああ、確認を忘れていた…」と少しばかりショックでした。

ヨーロッパだとマニュアル車にあたることが多いのですが、南アがそうだとは想定してませんでした

どうにかこうにか久しぶりにマニュアル車に3週間ほど乗り続けたので慣れましたが(ぶどう畑での作業車はマニュアルのものばかりです)AT限定の免許の方もいると思いますし、MT免許でも教習所以来マニュアル車に乗ってないという方も多いと思うので、海外でのレンタカー手配時には気をつけてください。

そういえば、日本と同じ左側通行の南アフリカとニュージーランドですが、運転していて日本と一番違うと感じるのは「ラウンドアバウト」の存在です。詳細説明はWikipediaに譲りますが、簡単に言うと信号のない円形の交差点です(ワタクシの地元近く旭川にも「常盤ロータリー」がありますが日本ではほとんど見かけません)。

ラウンドアバウトのルールですが、ワタクシの理解としては、交差点にはいるタイミングに速度を落とし、入れそうなタイミングで交差点に入り、出たい方向に他のクルマを邪魔しないように出る、というものです(間違っている可能性もありますが…)。

ヨーロッパはラウンドアバウトが多いんですよね。はじめて出会ったのは20年近く前のドイツ出張で、紙の地図で運転していたので、なんどか迷子になりました

この「入れそうなタイミング」、というのが実は曲者です。もたもたしているといつまでも入れないです。交通量の多いところだと後ろのクルマがクラクションを鳴らして急かされる可能性もあり、なんかちょっと焦ります。慣れてくると「いろんなタイミングでみんな運転しているなー」と感じたりもするのですが。

「この距離なら入れる」という車間の感覚と(合流するときと呼吸はおんなじです)、運転しているクルマの扱いに早めに慣れるのが、ラウンドアバウトでまごまごしないためのコツなのではと思っています(口で言うのは簡単ですが)。

あと、ラウンドアバウトは丸い交差点なので、ぐるっと回っていると自分が出る方向がわからなくなることもあります。紙の地図のころは、情報量が少なく地図をずっと見ながら運転するわけにもいかないので、間違った方向に出たこともあったのですが、最近のマップアプリは「*番目の出口で出てください」と音声で指示してくれて、間違えることがほぼなくなりました。テクノロジーによってヒトの営みが助けられるようになった事例の1つではないかと思います。

「eSIMアプリ」

最後に海外での通信環境、特にスマホの話です。

普段の生活での行動を考えると、旅する時にもスマホは欠かせません。「ネットの情報ばかりに依存しては! 旅とは新たななにかを発見することだ!」との意見もわからないでもないですが、そういう部分を残しつつも、ラクできる仕組みはうまくつかっていきたいものです。

例えば、海外での通信サービスですが、日本の通信事業者が海外ローミングサービス(国内の契約回線のまま海外で通信サービスを使える仕組み)をいろいろと提供しています。1~2日程度の短期滞在ならこれで十分なことが多いのですが、数日以上中長期滞在する場合には割高になることがあります(割高にならないサービスも探せばあります)。

これを回避するため、以前は到着した空港で滞在予定のエリアをカバーする現地のプリペイドSIM(カード)を購入していました。2010年代前半からのことなので、10年近くは空港に到着してはプリペイドSIMのカウンターを探す、ということをやっていたでしょうか。

しかし、最近は多くの国の「プリペイドeSIM(スマホ内蔵のSIMで設定情報を書き換えられる)」を購入・管理できる「eSIMアプリ」と呼ばれるサービスが広がりを見せています。これだと到着時にプリペイドSIMのカウンターを探す手間が省け、いろんなプランを事前に探すことができるので便利です。

ワタクシの使っている eSIM は Airalo というものです。提供プランが比較的廉価なのが特徴です

このeSIMアプリにも、さまざまな種類がありますが、ざっと見たところでは、次の違いがあるようです。

1) 提供している国、エリアの違い
2) 提供しているプラン(日数、データ量)の違い
3) サポート(日本語など)の違い

対応している国・エリアは、多いサービスでは200近くあります。一度に100以上の国・エリアに出かけるという方はさすがにそういないと思うので、自分が出かける、あるいは今後出かけるかもしれない渡航先の対応状況をまずは比較するのが良いでしょう。

そのうえで、2)の比較になりますが、これはサービスによって異なります。普段のデータ利用量から必要な日数とデータ量を想定し、一番それに近いサービスを提供しているものを選ぶのが良いと思います。

3)については、手厚いサポートが必要な方と、そうでもない方に分かれると思いますので、自分の心持ちや利用シーンにぴったりくるものを選ぶのが良いように思います。

なお、海外Wi-Fiレンタルサービスを使う方法もあり、以前は何度か使ったことがありますが、モバイルルーターの受け渡しが煩雑に感じられるのと、回線速度が速くないことがあるので、ほとんど使わなくなりました。

もう一つ便利なのはスマホにクレカを登録して行うタッチ決済です。こういうクレカ端末にスマホをタッチするので、決済時にクレジットカードを出さなくて良く、簡単・安心です

結び

今回は、海外に出かけるときの、ワタクシ自身のちょっとしたノウハウ(2025年版)をいくつか挙げてみました。

この2月に出かけていた南アフリカで訪問した国は61カ国を数え、いろんなところに出かけている方だと思います(ニュージーランドに来たのは3回目です)。

旅する方には高コスパで安く旅する方法をきわめる、という方もいらっしゃるのですが、ワタクシ的にはコストも大事だけれど、ストレスフリーな旅の環境とのバランスが大事だと思っています。

ちなみにこのコラムを書いているのは、ニュージーランド南島のカイアポイという小さな街にある一軒家、AirBnBで手配したいわゆる民泊のダイニングルームです。

ベッドルームだけが占有スペースで、トイレ・バス・キッチンなどはオーナーと共同利用なので、一般のホテル滞在より廉価で、かつゆったりとスペースを利用できています。

コラムが一段落したので、これから今年仕込んでいるワイン(ぶどう)の様子を見に行ってきます。次回はしっかりとニュージーランドでのワインづくりをレポートします。

それでは、また。

ワインとワイナリーをめぐる冒険
ITの世界から飛び出しワインづくりを目指した雪川醸造代表の山平さん。新しい生活や働き方を追い求める人たちが多くなっている今、NexTalkでは彼の冒険のあらましをシリーズでご紹介していきます。人生における変化と選択、そしてワインの世界の奥行きについて触れていきましょう。

「ワインとワイナリーをめぐる冒険」他の記事
第1回:人生における変化と選択(2021年4月13日号)
第2回:東川町でワイナリーをはじめる、ということ (2021年5月18日号)
第3回:ぶどう栽培の一年 (2021年6月8日号)
第4回:ぶどうは種から育てるのか? (2021年7月13日号)
第5回:ぶどう畑をどこにするか?「地形と土壌」(2021年8月17日号)
第6回:ワインの味わいを決めるもの: 味覚・嗅覚、ワインの成分(2021年9月14日号)
第7回:ワイン醸造その1:醗酵するまでにいろいろあります (2021年11月9日号)
第8回: ワイン醸造その2:ワインづくりの主役「サッカロマイセス・セレビシエ」(2021年12月14日号)
第9回:酒造免許の申請先は税務署です(2022年1月12日号)
第10回:ワイン特区で素早いワイナリー設立を(2022年2月15日号)
第11回:ワイナリー法人を設立するか否か、それがイシューだ(2022年3月8日号)
第12回:ワインづくりの学び方
第13回:盛り上がりを見せているテイスティング
第14回:ワイナリーのお金の話その1「ぶどう畑を準備するには…」
第15回:ワイナリーのお金の話その2「今ある建物を活用したほうが・・・」
第16回:ワイナリーのお金の話その3「醸造設備は輸入モノが多いのです」
第17回:ワイナリーのお金の話その4「ワインをつくるにはぶどうだけでは足りない」
第18回:ワイナリーのお金の話その5「クラウドファンディングがもたらす緊張感」
第19回:ワイナリーのお金の話その6「補助金利用は計画的に」
第20回:まずはソムリエナイフ、使えるようになりましょう
第21回:ワイン販売の話その1:独自ドメインを取って、信頼感を醸成しよう
第22回:オーストラリアで感じた変化と選択
第23回:ワインの販売についてその2「D2C的なアプローチ」
第24回:ワインの販売についてその2「ワインの市場流通の複雑さ」
第25回:食にまつわるイノベーション
第26回:ワインの市場その1_1年に飲むワインの量はどれくらい?
第27回:2023年ヴィンテージの報告
第28回:「果実味、酸味、余韻」
第29回:ワインの市場その2:コンビニにおけるワインと日本酒の販売
第30回:ワインの市場その3:レストランへのワインの持ち込み
第31回:ワインづくり編:ニュージーランド 2024 ヴィンテージ
第32回:ワインづくりと生成AI その1 ラベルの絵を「描く」
第33回:ワインづくりと生成AIその2 :アドバイザーになってもらえるか
第34回:2024年ヴィンテージの報告
第35回:ワインづくりと生成AI その3:事業計画を立案してみる
第36回:ワインづくりと生成AI その4:ワイン関連分野におけるAI技術の活用事例
第37回:「家計調査」に見るワインの購買動向 2024
第38回:海外でのワインづくり:南アフリカ・スワートランド 2025

山平哲也プロフィール:
雪川醸造合同会社代表 / 北海道東川町地域おこし協力隊。2020年3月末に自分のワイナリーを立ち上げるために東京の下町深川から北海道の大雪山系の麓にある東川町に移住。移住前はITサービス企業でIoTビジネスの事業開発責任者、ネットワーク技術部門責任者を歴任。早稲田大学ビジネススクール修了。IT関連企業の新規事業検討・立案の開発支援も行っている。60カ国を訪問した旅好き。毎日ワインを欠かさず飲むほどのワイン好き。

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