アームストロング上院議員、オラリオに立つ


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作:tknrdv
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五話 変革の兆し


 

 すごいものを見てしまった。

 

 駆け出しの冒険者であるベル・クラネルは思わずそう心の中でつぶやいた。

 

 彼はダンジョンからの帰り道、偶然一人の男が広場で演説をしている場面に出くわしたのだ。

 

 興味本意で演説を聞いたベルは、彼の熱量の籠もった言葉に、自分の心が揺さぶられるのを感じていた。

 

 神に依存しない力――正直、興味が全くないと言えば嘘になる。

 

 でも、ベルの脳裏には自分の主神であるヘスティアの笑顔が浮かんでいた。

 

 彼は小さく首を振ると、ヘスティアが帰りを待つホームへの帰宅を急いだ。

 

 

 ロキ・ファミリアの本拠地の一室では、いつものように幹部たちが集まり、定例会議が開かれていた。その中で、団長のフィン・デムナがある話題を出した。

 

「ロキ、先日の騒ぎについて知っているかい?」

 

「あー、なんか変なおっさんが広場で演説をしたって噂を聞いたような......」

 

 ロキの言葉にフィンは頷く。

 

「それについてだ。演説をした男の名前はスティーブン・アームストロング。彼の話した内容が気になってね」

 

「ふうん?」

 

 ロキは少しだけ興味を持ったように、わずかに身を乗り出した。

 

「で、何て喋ったんや?」

 

「神に頼らない力を説いていたそうだ。神の祝福なしに、人は強くなれると。そして……神々が支配するこの秩序を打ち破ると、そう言っていたらしい」

 

 フィンの言葉に、会議室の空気が一瞬凍りついた。アイズが眉を寄せ、ティオネが口笛を吹く。ベートは興味なさそうに腕を組んでいたが、その瞳には鋭い光が宿っていた。

 

「ははっ!面白いことを言うやつやな」

 

 ロキが椅子の背もたれに身を投げ出して笑った。

 

「ずいぶんと挑発的な物言いだな」

 

 ガレスが眉をひそめながら言った。

 

「神の祝福なしに強くなるって?そんなこと可能なのかしら」

 

「それについてだが......」

 

 フィンが静かに口を開いた。

 

「彼はヘルメス・ファミリアに所属しているという噂があるが、ファルナを持たずにダンジョンを攻略しているという話がある。そして、浅い階層でミノタウロスを素手で倒したとも」

 

「何だって?」

 

 ガレスが驚きの声を上げた。

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「詳細は不明だが、実際にダンジョン内で見かけた者によると、人間離れした力を行使していたらしい」

 

 ロキは思案するように顎に手を当てた。

 

「ま、そいつが本当にファルナを刻んでいないかどうかは置いておくとして、フィン、この話をした理由はそれだけじゃないんちゃうの?」

 

「ああ。僕が個人的に一番気になるのは、彼の演説力とそのカリスマ性だ。彼はアームストロング商会なるものを立ち上げ、その人材募集のために広場での演説を実施した」

 

 フィンは一呼吸置いた。

 

「結果、多数の冒険者が彼の商会に集っているらしい。たった一度の演説でだ」

 

 会議室には、しばしの沈黙が訪れた。

 

「なるほど。フィンの言いたいことが理解出来たような気がする。そいつがただの商人ならいいが、もし闇派閥(イヴィルス)と繋がりがあるなら危険だな」

 

「リヴェリアの言う通りだ。僕もそれを危惧していた」

 

 少し重い空気が漂い始めた、その時だった。

 

「私は......彼と相対したことがある」

 

 この場の視線が一斉にアイズへと向く。

 

「彼は.....多分強い。でも、闇派閥ではないと思う」

 

 普段、あまり語らないアイズの言葉に、周囲の面々は意外そうな表情をする。

 

「まあ、そいつはヘルメスのところやろ。じゃあ闇派閥とは関係ないはずや」

 

 ロキらしい楽観的な言葉だが、確かに考えすぎかもしれない。

 

 とりあえず、フィンはアームストロング商会に最低限の注意だけは払っておくことにする。

 

 

 アームストロング商会の出だしは順調だった。彼の演説によって、商会に集まったの人数は数十人にも昇る。

 

 とはいえ、アームストロングは商会に入る条件として、ファルナからの完全な脱却を絶対とした。

 

 それにより、少しばかり希望者は減ったが何も問題ない。必要なのは志を同じとする者なのだから。

 

 

 アームストロング商会の設立から、少し経った頃、アームストロングと彼が雇った者達は商会の本部で日夜仕事に取り掛かっていた。

 

 その熱気は、まるで革命前夜の秘密結社のようでもあった。ファルナという絶対的な指標を捨てた彼らにとって、アームストロングが示す新たな道こそが、唯一の希望だったからだ。

 

 彼らが最も力を注いでいたのは、研究開発である。アームストロングの指示は明確だった。この世界の既存技術を応用し、神の力に頼らない、人間自身の力となるテクノロジーを生み出すこと。

 

「ボス、これを見てください」

 

 そう言って、技術者の一人であるドワーフが見せて来たのは、鈍い金属光沢を放つ塊に、魔石をはめ込むソケットと、複雑なパイプが接続された、無骨な代物だった。

 

 ドワーフがレバーのようなものを回転させると、魔石が眩い光を放ち始めた。次の瞬間、機械はけたたましい音と激しい振動を発し、接続されたシャフトが力強く回転を始めた。複数の金属製の筒が、リズミカルに上下運動を繰り返している。

 

「ほう......!」

 

 アームストロングはその光景を、満足げな笑みを浮かべて見つめていた。

 

 音はけたたましく、効率もまだ悪いだろう。しかし、それは紛れもなく、魔石のエネルギーが直接的な運動エネルギーへと変換された瞬間だった。自身の世界のガソリンエンジンとは構造が異なるが、もたらす結果は同じ――純粋な「動力」の誕生だ。

 

 アームストロングが着目したのは、オラリオで広く普及している魔石を使った発火装置だった。ランプやコンロに使われ、人々の生活に深く浸透しているこの技術は、神秘等の特定のスキルや魔法がなくとも、純粋な機構として製作・運用されている。

 

(魔石は、この世界における石油のようなものだ。燃焼させ、熱や光を取り出すだけでなく、そのエネルギーを『動力』に転換できるはずだ)

 

 アームストロングは、自身の持つ内燃機関の知識と、この世界の魔石技術を結びつけた。そして、ついに完成したのが魔導エンジンだ。

 

 これが何を意味するか。物流における革命、ひいては経済構造そのものの変革である。

 

「素晴らしい!見事だ、ハワード!」

 

 アームストロングはハワードの肩を力強く叩いた。

 

 実用化さえすれば、当面は商会の資金の目途は立つ。とすれば、次の段階に移ってもいいかもしれない。

 

 アームストロングは商会にいる一部の技術者達を集めると、新たな設計図を広げた。それは、先ほど完成した魔導エンジンとは全く異なる、より小型で、より殺傷能力に特化した装置の図面だった。魔石発火装置の原理を応用し、瞬間的に高エネルギーを発生させ、小型の金属塊(弾丸)を高速で射出する、個人携行可能な武器――彼の世界で言うところの「銃」の原型だった。

 

「これは......!?」

 

 設計図を眺めた技術者達は驚きの声を上げる。冷徹で効率的な殺戮のための機械だった。彼らは本能的に、この設計図が実用化された時に訪れるであろう世界の変貌と、その武器が持つ恐ろしさを感じ取っていた。

 

 アームストロングは、本来であれば自身の力の源であるナノマシンのような、身体強化技術をこの世界で再現したかった。しかし、それは現在のオラリオの技術レベルでは、あまりにも長い年月を要するだろう。

 

(強化種という魔物は、魔石を体内に取り込むことで力を増す。この仕組みを解明出来れば理想だが......まずはこの世界でも早期に実現可能な『力』を形にするのが先か)

 

 彼はそう判断した。ファルナを神から与えられ、レベルという神が定めた階梯を登るために、危険なダンジョンで命を懸ける冒険者たち。それに比べ、この魔導銃は、わずかな訓練で誰でも強力な攻撃手段を手にすることを可能にする。熟練すれば、熟練するほど、銃の取り扱いは上手くなり、より驚異となる。

 

 しかも魔石さえあれば動き、魔石はダンジョンから無限にとれる。この武器で魔物を殺し、魔物から取れた魔石で動かす。弾を除けば永久機関の完成である。

 

 アームストロングの脳裏には、組織化された暴力や、ビジネス化した戦争ではない、真の闘争の世界が見えていた。

 

 

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