アームストロング上院議員、オラリオに立つ


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作:tknrdv
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三話 上院議員の力


 翌朝、ヘルメスはアームストロングに対してある提案を出してきた。

 

「君さえ良ければ、俺のファミリアに入らないか?」

 

「俺は神の下にはつかないと、そう言ったつもりたが」

 

「それは俺も分かっている。あくまでも一時的な所属だ。これを提案するのは大きな理由がある」

 

 ヘルメスはいつもの軽薄そうな様子は打って変わって、真剣な表情で此方を見つめる。

 

「無所属のまま、ダンジョンに潜るのはギルドが許さない。いや、想定していないと言った方がいいか。君の力がどこまでのものかは分からないけど、ギルドからすれば神の祝福を受けていない人間を潜らせることはないはずだ」

 

「......なるほど。つまりはダンジョンに潜るための仮の所属という訳か」

 

「そういう訳だよ。勿論、君にファルナは刻まない。あくまでファルナを刻んだことにして、ヘルメス・ファミリアの一員として一時的に活動をして貰う」

 

 それだけでならアームストロングにとって非常に都合が良かった。だが、ヘルメスという神がそこまで自分にする意味が分からなかった。

 

「貴様になんのメリットがある?」

 

「......ただの興味だよ。異世界人、それも特異な考えを持ち合わせている君がこのオラリオで何を起こすのか非常に興味があるんだ」

 

 アームストロングは少し考え込む。

 

「まあいいだろう。一時的にではあるが貴様のファミリアに所属してやる」

 

「決まりだね。じゃあ早速、ギルドに向かうよ」

 

 

 そして、アームストロングはヘルメスとアスフィと共に、ギルドまでやってきた。

 

 彼等が巨大な建物に入ると、多くの冒険者たちが行き交い、カウンターでは職員たちが忙しく働いていた。

 

「こちらです」

 

 アスフィが案内した先には、ハーフエルフの若い女性がカウンターに立っていた。

 

「おはようございます、アスフィさんとヘルメス様」

 

 彼女は丁寧に挨拶した。

 

「今日はどのようなご用件で?」

 

「エイナ、新しいファミリアメンバーの登録をお願いしたい」

 

 ヘルメスは微笑みながら言った。

 

 エイナと呼ばれた女性はアームストロングを見上げ、わずかに緊張した様子を見せた。

 

「は、はい...では登録手続きを」

 

 書類に記入する間、アームストロングはギルドの内部を観察していた。整然とした構造、明確なヒエラルキー、そして効率的な業務処理。政治家として、彼はこのような組織の運営方法に敏感だった。

 

「あの...お名前は?」

 

 エイナが尋ねた。

 

「スティーブン・アームストロング」

 

 彼は続けて答えた。

 

「上院議員だ」

 

「上院...議員?」

 

 エイナは首を傾げた。

 

「別の国の役職だよ」

 

 ヘルメスがフォローした。

 

 エイナは首を傾げたが、それ以上は質問せずに記入を続けた。彼女は書類を整理し、小さな金属板を取り出した。

 

「これがあなたの冒険者証です」

 

 アームストロングは冒険者証を受け取り、眺めた。

 

「ほう、なかなか洗練されたシステムだな」

 

「ギルドの規則についても説明させていただきます」

 

 エイナは真面目な表情で続けた。

 

「ダンジョン内での戦利品の持ち出し方法、他の冒険者との衝突の禁止......」

 

 アームストロングは半ば聞き流しながら、再びギルド内を見回していた。彼の目には、この組織の構造と、それを利用する方法が見えていた。

 

「......以上です。何か質問はありますでしょうか?」

 

「特にない」

 

 登録が完了すると、彼等はギルドを出た。

 

「じゃあ早速だけど、アスフィ、彼をダンジョンに連れていって貰えるかな」

 

「本気ですか?ヘルメス様、彼は装備も何も持っていないように見えますが」

 

「問題ない。俺の武器は俺自身の肉体だ」

 

「彼もこう言っているし、大丈夫だよ。じゃあ後は任せた」

 

 そう言って、ヘルメスは二人を置いて、その場から去っていった。

 

 アスフィは数えるのも馬鹿らしい溜息をつくと、仕方なしにアームストロングをダンジョンに連れていく。

 

 その間、アームストロングは街の様子を隈なく観察していた。商人たちの取引、物資の流れ、そして何より、ダンジョンから得られる魔石が経済の中心になっていることに気づいた。

 

「このオラリオという街は、ダンジョンを中心に回っているんだな」

 

「そうです」

 

 アスフィは説明する。

 

「魔石はエネルギー源であり、この世界の人達にとっては不可欠なものです」

 

 アームストロングは思案した。

 

「つまり、エネルギー資源を独占しているわけか...石油のようなものだな」

 

「例えは分かりませんが、このオラリオが世界の中心地と呼ばれているのは、魔石を大量に供給しているのも理由の一つとなります」

 

 アームストロングは黙って考え込んでいた。政治家の目で見れば、この構造には多くの可能性があった。資源の独占、流通の管理、そして何より...力のバランス。

 

 彼の頭の中には、すでに計画が形成されつつあった。冒険者として力を示すことも一つの道だが、彼の政治的手腕を活かす方法もある。この世界で力を得るには、様々なアプローチがあるはずだ。

 

 そんな事をアームストロングが考えていれば、気づけばダンジョンに辿り着いていた。

 

「ダンジョンは階層が深くなるほど、強力な魔物が出現します。一階層では基本的には弱い魔物しか現れませんが......」

 

「ふん、問題ない」

 

 アームストロングは助けは不要とばかりに前に進み出る。その時、丁度通路の向かい側から魔物が現れる。

 

「ほう......ゴブリンか」

 

 面白いと笑みを浮かべたアームストロングは、ゴブリンと相対する。

 

 その様子をアスフィは黙って見ていた。彼女がヘルメスから秘密裏に受けた指示は、アームストロングの実力を測ること。

 アスフィが真剣な表情で両者を見守る中、アームストロングが遂に動き出す。

 

 アームストロングは近づいてきたゴブリンを掴むと、空高く投げ上げた。ゴブリンは天井にぶつかるとそのまま落下する。そして、目の前に降ってきたゴブリンを、彼は渾身の力で蹴り上げた。次の瞬間、ゴブリンの体は粉々になり、消滅した。

 

「ふん、こんなものか」

 

 アームストロングにとって、この階層のモンスターは敵ではなかった。

 

 その戦いの様子は少なからず、アスフィに衝撃を与えていた。ファルナもなしにあの戦闘力。薄々と気づいていたが、アームストロングはおそらくLv4の自分よりも強い。加えてその強さに底が見えなかった。

 

 もしかすると、第一級冒険者の力を超えているかもしれない。

 

 そんなアスフィをよそに、アームストロングは手応えのなさを感じていた。

 

(モンスターといっても、一階層では所詮はこんなものか)

 

「次の階層へ行くぞ」

 

「え? わ、分かりました」

 

 アスフィとしても、アームストロングの力の情報をまだ集めたかったため、了承してそのまま階層を降っていく。

 

 暫くした後、アームストロングが通った場所は粉々になった魔石が無数に転がっていた。

 

 彼によって魔物は魔石ごと破壊して倒されていたのだ。

 既に6階層にまで降りていたアームストロングは次はどうするかを考えていた。もっと下の階層まで降りるべきか。

 

 そんな時だった。アームストロングの背丈を超えるモンスターが現れたのは。

 

 通路の先から身体を覗かせたのは、全身に筋肉を纏っている、一対の角を生やした二足歩行のモンスターだ。

 

「あれは......ミノタウロス!?」

 

 ミノタウロスは中層のモンスターだ。こんな浅い層で現れていいモンスターではない。何らかのイレギュラーが起きているのは間違いないが、アスフィはちらりと横目でアームストロングを窺う。

 

 彼の力を測るのに丁度いいかもしれない。

 

 ミノタウロスは此方に気づくと、大きく咆哮を上げた。

 

「俺に挑むか......来るがいい!」

 

 アームストロングの声とともに、ミノタウロスは此方へ突進してくる。そして、手に持った戦斧をアームストロングの身体目掛けて振り下ろした。

 

 ミノタウロスの戦斧がアームストロングに迫る。しかし、彼は微動だにせず、迫りくる戦斧を片手で受け止めた。

 

「大層な戦斧だな」

 

 アームストロングはそう言いながら、ミノタウロスの戦斧を握りしめ、そのまま奪い取った。

 

「だが、俺の敵ではない」

 

 奪い取った戦斧をミノタウロスに投げ返す。戦斧はミノタウロスの巨体を貫き、背後の壁に突き刺さった。ミノタウロスは断末魔を上げる間もなく、魔石を残して消滅した。

 

 アスフィは目の前の光景に唖然としていた。同じことをしろと言われても彼女には不可能である。

 

「ふん、物足りないな」

 

 自分の主神はもしかすれば、とんでもないものを拾ってきたのかもしれなかった。

 

 

 あれから、アームストロングは気が済んだのかダンジョンから帰還することとなった。

ダンジョンの出口を潜り抜け、そのままヘルメス・ファミリアの本拠地に向かう最中、アームストロングはふと背後に視線を感じて振り返った。

 

 その先にはダンジョンに蓋をする塔が存在していた。

 

 アームストロングには分かった。塔の頂上から此方を眺めている存在がいると。おそらくはこの視線の正体が、このオラリオの頂点に立つ神の正体のはずだ。

 

「気に入らねえな」

 

 神などというわけの分からないやつが、ファミリアというものを組織して、権力を握っている。そんなものを彼が認めれるわけがなかった。

 

 アームストロングは確信した。神が支配している世界に真の自由(サンズ・オブ・リバティ)は実現しないと。

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