『何故自分は生きているのだろうか』いったい何度そう考えたのかだろうか。
夢という夢も持たず周りの流れに身を任せなんとなくで生きてきた。
必要だから勉強して必要だから学校に通った。
必要だから就職して必要だから働いた、そんな人生。
何も楽しみがないほど無気力でもない、けど人生をかけて熱中するほどの何かもない。
それが俺という人間の現代で生きてきた全てだった。
だから...不意にそれが終わってもそこまで執着しないんだなって...
身体から力の抜けてゆく感覚に溺れながら最後にそう考えて意識を手放した。
♦♦♦
ふと気づいたときに男は歩いていた、道なのか崖なのかもわからない暗闇の中。
遠くに見える小さな光に向かってゆっくりと足を進めていた。
疑問も持たずあやふやな意識のまま歩みを進めていると暗闇の中淡く光る何かが落ちていた。
足を止めその何かをゆっくりと拾い上げる。
それは古い少年誌だった
何度も読み直されボロボロになったそれを認識した時、男の古い古い記憶が呼び起こされる。
「そう言えば...俺...ヒーローになりたかったんだ」
男の記憶が呼び起こされると同時に確かに立っていたと感じる地面?の感覚が失われる。
落ちる
落ちる落ちる
少年誌を片手に握りしめながら自身の身体が重力に伴い下へ下へ落ちていく感覚に支配される。
先ほどまで目指していた光は既に遥か彼方に本当に小さく見えるのみ。
男は少年誌を自身の胸に抱きかかえ落下する感覚を感じながら次第に意識を失わせていった。
♦♦♦
少年がいた
貧しいがそれなりに幸せな家に生まれた平凡な人間の少年。
そんな少年が3歳の誕生日を迎えた夜、少年いや...男は眠っていたはずのベットから飛び起きる。
大量の汗を流しハァハァと息を切らすように目覚めた男は自分の存在を確かめるように自らの顔や体をペタペタと触る。
そして同時に頭に電流を流し込まれるようなそんな激しい頭痛が男に襲い掛かる。
ひとしきり己の身体を確認し終え頭痛も多少はましになってきた男は月明かりの差し込む窓に近づき月明かりを遮るカーテンを勢いよく開く。
そこに映るのは静寂に包まれた街並みと幼い姿をした己の姿だった。
突然脳内に溢れ出してくる知らない家族.友人.仕事.街並み.世界
そんな莫大な情報が一気に幼い脳内に詰め込まれ未だ止まらぬ頭痛に顔をしかめながら少年は呟いた。
「異世界転生物かよ...」
そう呟く少年の目には確かな意思の炎が浮かんでいた。