夜も明け始めた頃、ベルを背負いホームに帰る
「ヘスティア、いま帰った」
「君たちどこに行ってたんだい!帰ってこなくて僕は気が気じゃなかったよ!!」
「静かに。ベルはまだ眠っている。事情は後で話す」
いまだ寝息を立てているベルをベットに運び、ヘスティアに事情を話す
店で起きたこと、その後ダンジョンに行ったこと、ベルに起きたことを語る
「怪我は直したが疲労までは専門外だ。私も街中さがしまわり疲れたから眠る」
「そうか。ありがとうイクス君」
そう言いヘスティアはベルを見る。ところどころ服が破れている部分や血のにじんでる箇所があるが大きな怪我はない
「かみさま…」
「…起こしてしまったかな?」
ベルは口を開く。まだ疲労によって起きるのが大変だろうに、これだけは言わなければいけないとヘスティアに告げる
「神様……僕、僕…強くなりたいです」
その言葉を継げると必死につなぎとめていた意識を手放し再び寝息を立てる
「まったく、あんまり心配させないでほしいな。ボクも君たちの力になりたい。そのためには──」
「ベル、ヘスティアはどうした?」
数時間後、万全とまではいかなかったがある程度回復したイクスは先に目覚めていたベルに声をかける
おそらくステイタスの更新と会話をしたであろうと予測を立てた
「おはようイクス、神様は2~3日ほど出かけるって」
「そうか…わかった。では店に謝りに行くか」
「うっ、ちょっと怖いなぁ…」
「すいませんでした!!」「すまなかった」
「別にいいよ、金なら払ってるんだしね」
二人は起きた後すぐさま豊穣の女主人に向かい謝罪しに行った
「というかホントに謝りに来るとはねぇ」
「そこに関しては昨日言ったはずだが?」
(
ミアの考えは間違いではない。あの発言は
「そこの坊主に感謝しときな!」
「イクス本当にありがと!」
「気にするな。当たり前のことをしたまでだ」
照れてるのかわずかに目をそらしながら、シッシと追い払うように手を振る
「ベルさん。今日もダンジョンに行かれるんですよね?これお弁当です」
「え、そんな悪いですよ」
「もらってください。ダメ…ですか?」
シルに上目遣いをされながら善意で渡されたものを拒めるわけもなくベルは受け取った
「…すみません。頂きます」
「ほら、さっさと行った行った」
「はい!行ってきます!」
(つい、行ってきますとか言っちゃった)
ヘスティアは目的をもってガネーシャファミリア主催の神の宴に来ていた。決して食材確保のために来たわけではない
(うまいッ!ベル君たちへのお土産にお持ち帰りだっ!)
タッパーに食材を詰めているロリ神はいないはずだ…
「こんばんは、ヘスティア」
ヘスティアに女神が声をかける。二大派閥の1柱、美の女神フレイヤ
「お邪魔だったかしら?」
ヘスティアの行動を見ながら確認する
「ボク、君のこと苦手なんだ。」
「うふふ。あなたのそういうところ好きよ?」
「まぁ、君なんかより嫌いな奴がいるんだけどね」
話題に出したからか赤髪の女神がやってくる
「おーい、フレいや~、ドチビっ!」
「あらロキ」
2大派閥のもう片方、ロキ。
「丁度いい。ロキに聞きたいことがあったんだ」
「ドチビがウチにぃ?」
「君のファミリアの【
「あほう。アイズはうちのお気に入りや。そんな奴がおったら八つ裂きにしとるわ」
その発言に心の中で舌打ちをするヘスティア
「そういえばあなたがドレスを着るなんて珍しいわね」
「どっかのドチビが宴に来るらしいから、ドレスも変えんような貧乏神を笑ったろ思ったんや」
「ふん、それは滑稽だ。ボクを笑うために自分から笑われに来たのかい?さすが道化師だね。なんだい?その貧しい胸は!」
「な…っ!?」
すぐにバチバチと火花を散らす二柱の女神。軽い舌戦から始まり次第にそれは熾烈に手が出るまで発展した
「ふにゅぐぅぅ~~!」
「おらおらぁ!、こうしたるっ!」
ヘスティアとロキは身長差からロキの方が有利であったが
ヘスティアが少しでも動けばその豊満な胸が弾み、ロキの胸は不動。その事実がロキの心にダメージを与える
「今日はこんくらいにしといたるっ!」
「今度会う時はそんな貧相なものをボクの視界に入れるんじゃないぞ!」
「うっさいわ、ぼけぇ!!」
ロキは捨て台詞を吐きながら帰っていく。ロキの負けであった。
「ヘスティア、なにやってんのよ」
「ヘファイストス!来てよかった、君に会いたかったんだよ!」
「私に?言っとくけどお金なら貸さないわよ?」
ヘスティアの親友、ヘファイストス。そしてベルを眷属にするまで居候していた相手
追い出した後も家や仕事を用意してもらったりと、そう思われても仕方がなかった
「ボクにもファミリアができたし、もうそんなことしないさ」
「ベルって言ったかしら?白髪で赤い目のヒューマン」
「二人目もできたんだよ。イクス君ていうんだけどね」
「あらそうなの。まぁ、ファミリアができて変わる神は多いけど…」
「二人とも、私はそろそろ失礼するわ」
ヘスティアの眷属の話をし出したころフレイヤは別れを切り出す
「え、もう?」
「ええ、確かめたいことがあったのでけど…それも済んだし。ここにいる男はみんな食べ飽きちゃったもの」
その発言に周りの男神たちは視線を逸らす。ヘスティアとヘファイストスもわずかに驚愕の声をあげた
「で。私に会いたかった用事って何なのかしら?」
「実は…」
「やっぱりみんな、いい装備してるなぁ。ん?」
ダンジョンからの帰り道気になるものを見つけた。それは檻に入れられ運ばれているモンスターたちだった。
「あれは一体?」
「おそらく
「
「私も直接見たことはないが旅をしているときに何回か聞いたことがある。たしかガネーシャファミリアが年一で主催してる催しで、闘技場でモンスターの調教をするらしい」
「僕もそろそろ武器が欲しいなぁ」
「そうだな…そろそろギルド支給では厳しいか。武器を新調しても…いや、先に防具か?いっそ私が…」
まだ問題ないが下の改装に行くなら今の武器だと火力が足らなくなる。だが、生存力を高めるために防具を用意するか悩んでいた。まあ、一番の問題は金がないことなのだが…そんな時に声をかける
「おぉー、ベルにイクスではないか」
神ミアハ。かつては中堅のファミリアだったのだが、今はヘスティアファミリアと同じ零細ファミリアである
「ミアハ様!ヘスティア様について知りませんか?
「ヘスティアが?パーティーとはおそらくガネーシャの開いた宴で間違いないだろう。だが私は参加していなくてな。力になってやれなくで済まない」
「いえっ!気にしないでください」
「やつのことだ。腹が減ったら帰ってくるだろう」
自身の主神をまるで猫のように扱っている気がしたがベルと神ミアハは流した
「おお、そうだ。これをやろう。仕上がったばかりのポーションだ」
「え!?頂けませんよ!」
「なに、良き隣人へのゴマスリだ。今後もわがファミリアをご贔屓にな」
「そのようなことばかりするから、家計が火の車なのでは?」
今度の言葉には笑ってごまかしミアハはどっこかに行ってしまった。それを見送り二人もホームへと帰っていく
「あんた、いつまでそうやってるつもりよ。私これでも忙しんだけど、そこにいられると気が散るの。分かる?」
そこにはヘファイストスに向けて土下座をしているヘスティアがいた。パーティーからずっと土下座を続けていた
「うちの品のオーダーメイドがいくらかかるか分かってんの?」
「値が張るのはわかってる。けど!今じゃなきゃダメなんだ!頼むよヘファイストス!」
「教えてちょうだい。あなたがどうしてそこまでするのか」
「力になってあげたいんだ。目標に向かって走っていくのに何もしてあげられないなんてボクは嫌だ!」
「わかったわよ。武器、作ってあげるわ。…ただ、あんたのとこ眷属二人いるんでしょ。もう一人の方はどうするの?」
「あー、僕もそこを悩んでるんだよねぇ。すでに武器を持ってるしどうしようかなぁ…」
そう、イクスはすでに武器を持っている。一様考えていることはあるが喜んでくれるか不安だった
「ヘファイストス。盾を作ってくれるかい?」
「盾?その子、盾仕えるの?」
「わからないけど、おそらく使えると思う」
「あんたねぇ…まあ、いいわ。言っとくけどちゃんと対価は払ってよね。何十年、何百年かかっても」
「ああ、わかってるよ」
ついでにイクスは昨日「祭りなのだから、ダンジョンに行かなくてもよくないか?」と言い起きなかった
その道中【豊穣の女主人】の前に通りがかったところ店員に話しかけられた
「そこの白髪頭!頼みがあるニャ~!おミャーにはこの財布をおっちょこちょいのシルに渡してほしいのニャ!」
「え、えーと…ごめんなさい、まだ話が見えないんですが…」
「アーニャ。それでは説明不足です」
「リューはアホニャ。店番さぼって祭りを見に行ったシルに、忘れた財布を届けてほしいニャんて。いちいち言わなくても話かることニャ」
「というわけです」
店員…アーニャは内容を無自覚に話す。アーニャのほうがアホっぽいとは言っていけない
「無論シルはさぼったわけではなく休暇を取っての祭り見物です。今頃財布がなくて困っているでしょう。お願いします、クラネルさん」
「分かりました。任せてください」
「これでナイフのほうは完成ね」
「ありがとうヘファイストス!」
「まだ盾は完成してないけどせっかくの
「すごい人ごみだなぁ。シルさんを見つけるの大変そうだな…」
「ベル君!」
ベルがシルを探しながら街を散策しているとヘスティアと出会った
「神様!どうしてここに?」
「それは君たちに会いたかったから、かな。…あれイクス君は?」
「それが、起きなくかったので今日は僕一人だけです…」
「あ~彼、寝起き悪いからねぇ。というか君に合わせて起きてたことがボクとしては驚きだったよ」
イクスの寝起きは悪い。一度ヘスティアが無理やり起こそうとしたら送還されかけたほどには危険である
「う~ん、丁度いいや。デートしようぜベル君!」
「待ってください。僕、人探しを頼まれているんです!それにイクスもいないのに…」
「そうなのかい?じゃあデートしながら人探しをしようか。それにイクス君なら自分を理由に楽しまなかった方が嫌じゃないかな?」
「いや、そういうわけには…」
「おじさん、クレープふたつ!」
「か、神様…」
コツンコツンと闘技場の地下、モンスターが収容されている場所に足音が響く
女神は檻を開け、モンスターを解き放つ
「さあ、貴方たち行きなさい。私を楽しませて」
モンスターたちの鳴き声があたりに響く。女神の計略が動き出した──
「きゃあぁぁっ!」
「モ、モンスターだぁっ!」
デートの最中あたりが騒がしくなり先ほどの悲鳴を聞き、ソレが目の前に現れたことで理解する。
「なんでこんなところにモンスターが!?理由はわからないけど戦うしかない!」
「で、どないな奴や。お前の狙っとる子供ちゅうのは」
「とても頼りなくて、少しのことで泣いてしまうそんな子」
人目のない店で2大派閥の神が揃っていた。より正確に言えば尋問と言ってもよかった
「でも、きれいだった。透き通っていた。私が今まで見たことのない色をしていた。見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ」
フレイヤと外を丁度見ていたアイズは白髪を見つけた
「ごめんなさい。急用ができたわ。また会いましょう」
「なんやあいつ…って、感情こっちかいな!…ん?どないしたアイズ」
「いえ…」
(しかし、酒場の時のあいつっちゅうわけやないんか。いや、まだ見つかってないだけか?)
ロキはロキで豊穣の女主人でベートを投げた冒険者を探していた。自分の眷属に怪我はなかったが倒した未知が気になっていた。
ふたりが探しているのが同じファミリアなのは何の因果か…
「べ、ベル君!なんでボクは狙われてるんだろ!?」
ふたりはシルバーバックに追いかけられていた
(はっきりと僕たちを、いや、神様を追ってきている。まるで何かに操られているような…っ!)
「ここはダイダロス通り……!?」
ダイダロス通り。オラリオに存在するもう一つの迷宮。一度迷い込んだら最後、二度と出られないとまで言われていた
前門の迷宮、後門のシルバーバック。絶体絶命のピンチだった
「行くしかありません!」
ベルは迷わずダイダロス通りに飛び込んだ。複雑奇怪なダイダロス通りを進みモンスターからの追跡から逃げる。だが、離すことはできず、ついには追いつかれたしまった
「ぐっ…!」
「ベル君!」
(どうすれば!この状況から抜け出せる!?)
『どうすれば強くなるか?か。観察しろ。相手の一挙手一投足から周りの状況まで、そのすべてを。そして考えろ。思考を止めるな、最善を尽くせ』
探索中、イクスに聞いた質問を思い出す。
「神様!今のうちに!」
近くにあったランタンを投げつけ目くらましにし、その隙にヘスティアの手を取り再度、走り出す
(ダメだ…このままじゃ神様を守り切れない…!このままじゃ追いつかれる!考えろ、考えろ!)
「…ごめんなさい神様」
ヘスティアを小道に通し、扉に鍵をかけで戻ってこないようにする
「僕が時間を稼ぎます」
「ベル君!何を言ってるんだい!?今すぐここを開けるんだ!」
「僕はもう、家族を失いたくないです。それに神様にはイクスがいるからきっと大丈夫です」
「ベル君!ベル君!ベルくぅぅぅんっ!」
ヘスティアは必死にヘスティアを止めようとするが彼を止めることはできなった。