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マイナンバーカード活用で不正転売がゼロに。ハロプロなどのライブチケットで実証実験

平澤寿康[フリーライター]編集:小林優多郎

Apr 8, 2025, 8:00 AM

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Hello! Project ひなフェス 2025
29日に開催された「Hello! Project ひなフェス 2025」のライブの様子。
撮影:平澤寿康
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人口に対する保有枚数率が78%に達した「マイナンバーカード」だが、民間企業の活用事例も徐々に増えてきている(2025年3月28日時点)。

デジタル庁と、「モーニング娘。’25」などが所属する芸能プロダクション・アップフロント、電子チケット発券システムなどを開発するplaygroundは、マイナンバーカードを活用し、チケット不正転売防止と業務効率化を目的とした実証実験を、実際のライブイベントで実施した。

実証実験の会場となったイベントは、3月21日に開催された「モーニング娘。小田さくらバースデーイベント ~さくらのしらべ14~」と、3月29、30日に開催された「Hello! Project ひなフェス 2025」の2つ。

そのうち、3月29日の様子を取材した。マイナンバーカードが民間イベントでどのように活用されているのか解説しよう。

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本人認証電子チケットは「不正転売なし」

対象となるイベントでは、チケットの一部を、購入時にマイナンバーカードによる本人認証と顔情報の登録を経た電子チケットとして販売した。

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具体的には、電子チケットの抽選販売申込時に、デジタル庁の「デジタル認証アプリ」とマイナンバーカードを利用した本人認証と、顔情報の登録を実施し、その双方が完了したアカウントのみ抽選対象とした。

これにより、1人が複数アカウントを利用したチケット抽選応募や、購入したチケットの本人以外の利用を排除し、チケットの不正転売を防止できるか検証した。

今回、この方式で販売された電子チケットの割合は以下の通り。

  • 「モーニング娘。小田さくらバースデーイベント ~さくらのしらべ14~」全2公演:2000人分のチケットのうち約28%
  • 「Hello! Project ひなフェス 2025」全4公演:約2万2000人分のチケットのうち約13%
電子チケット
今回の実証実験で抽選販売された電子チケット(こちらはダミー)。デジタル認証アプリとマイナンバーカードを利用した本人認証と、顔情報登録の双方を完了したアカウントのみが抽選対象とされた。
撮影:平澤寿康

今回、マイナンバーカードによる本人認証と顔情報登録を経て販売された電子チケットでは、不正転売は一切確認されなかったという。同時に、抽選応募についても、1人が複数アカウントを利用した応募は確認されなかったそうだ。

一方、取材した「Hello! Project ひなフェス 2025」では、上記以外の方法で販売された紙チケットのうち約300枚が不正転売されていることを把握していたという。

このことから、主催者のアップフロントプロモーション、電子チケット発券クラウドシステム「MOALA Ticket」を運営するplaygroundともに、「(認証済み電子チケットは)不正転売防止に大きな効果があった」とコメントした。

待機列とシステム開発の両面で業務効率化

電子チケットの列
マイナンバーカードで認証した電子チケット利用者は、専用レーンを通って会場に入場。
撮影:平澤寿康

今回の認証済み電子チケットは、抽選時に顔情報の登録も必須としたが、顔情報はイベント会場入場時の本人確認に利用されている。

チケット購入時には専用のQRコードを発行し、入場時には顔の横にQRコードを表示したスマートフォンを掲げてもらい、入場ゲートのスタッフが入場者の顔とQRコードをタブレットで同時に読み込むことで、本人確認とチケット確認を実施している。

タブレットで入場者を確認
入場時には、係員がこのようなタブレットで入場者の顔と電子チケットのQRコードを読み取って、本人確認とチケット確認を行った。
撮影:平澤寿康
読み取りシーンのイメージ
入場者は、このように顔の横にQRチケットを表示したスマートフォンを掲げてもらい、顔とQRコードを同時に読み取る。
撮影:平澤寿康

この確認フローにより、イベント運営時の省人化や業務効率化につながるかどうか検証された。



従来、不正転売防止の観点から会場入場時に身分証明書の提示を求める場合があった。

ただ、東京ドームクラスの大規模イベントでは100人以上の人員を追加投入する必要がある上に、身分証明書の確認に時間がかかり開演時間の遅れにつながるなど、運営側に多大な負担がかかっていたそうだ。

今回のイベントでは、紙チケットについては本人確認は実施されなかったが、チケットに記載されている公演日時を係員が目視で確認する必要があり、その分時間がかかってしまう。

対して顔認証の入場は、タブレットで入場者の顔とQRコードのチケット情報を同時に読み取り、ほぼ瞬時に本人確認とチケットの確認が完了できるため、紙チケットよりも短時間でスムーズな入場が可能だった。

実際の入場の様子を見ても、わずか3名の係員で非常にスムーズに対応できており、省人化や業務効率化のいずれも効果があると確認できた。

電子チケット購入者
電子チケット購入者のほとんどが、スムーズに入場できていた。
撮影:平澤寿康
穂坂泰デジタル副大臣
イベントを視察した穂坂泰デジタル副大臣は「実証実験から得られたデータを今後に活かし、アーティストを純粋に応援できる環境作りを支えていきたい」とコメントした。
撮影:平澤寿康

同時に、顔認証での入場で認証エラーとなった例は、電子チケット入場者の約0.3%と非常に少なかった。

また、従来の顔情報登録チケットでは、顔認証の突破を試みる不正利用者が少なからず見られるそうだ。

今回はマイナンバーカードの本人確認が必須のため、そういった試みはなかったと見られる。

業務効率化という面では、システム開発においても確認できたという。

今回の電子チケット販売は、マイナンバーカードによる本人認証を連携させる部分を、デジタル庁が提供するAPIを利用して「MOALA Ticket」に追加実装している。

通常、こういったシステム開発には半年から1年ほどかかることも珍しくない。しかし今回は、開発期間は約1カ月、事前の準備などを含めても約3カ月と短期間で実現できている。

APIをシステムへ組み込むだけで実現でき「不具合も全く発生しなかった」と、playgroundの開発担当者も驚くほど簡単だったと語った。

「誰でも気軽にチケットを入手できる世界」

電子チケットで認証できた時の様子
顔認証の入場で認証エラーとなったのは、電子チケット入場者の約0.3%と非常に少ない。
撮影:平澤寿康

現在、アイドルグループなどのイベントは、ファンクラブの会員に優先してチケットを販売する例が多い。

購入者から見ると、チケットの販売時期を認識し、それに合わせてファンクラブに入会、チケット購入方法を把握するといった手順が必要になる。

この手順が新規ファンの獲得を阻害する要因になっていると運営側も把握はしている。

そもそも不正転売を完全に阻止できれば、より幅広い方法でチケットを販売できるようになる。イベントに参加したいファンが正規の価格でチケットを入手できる機会が増えれば、新規のファンも参加しやすくなる。

同時に、本人確認が進めば不正転売防止にとどまらず、病気などでイベントに参加できなくなった場合などのチケットの「公式リセール」(他人への売却)についても、実現に近づく。

取材の中で、関係者が「従来(の販売方法)と比べると制限は厳しいかもしれないが、その先には不正転売を撲滅し、誰でも気軽にチケットを入手できる世界が待っているので、そこまで持っていきたい」と強く語っていたのが印象的だった。

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