【第23回】<補適法第11条解説>―「返還命令」という最終手段の“濫用”が今、現実に起きている
■ 支援者こそ知ってほしい――補助金制度の「本当の構造」
補助金申請の現場では、士業やコンサルタント、中小企業診断士など、さまざまな支援者が関与しています。
しかし、補助金制度の本質的な法制度や行政的な性格を理解していないまま支援を行うと、
結果的に支援先の事業者を不当な処分や返還リスクに巻き込む可能性もあります。
補助金等適正化法は、その制度運用の根幹にある法律です。
今回は、その中でも返還命令を定めた第11条にフォーカスを当てます。
■ 補助金等適正化法 第11条とは?
「交付の決定の内容に違反する行為、または不正に補助金が支払われた場合、国は返還を命じることができる」
この条文は、一見もっともな内容に思えます。
しかし実際には、この「返還命令」は行政による一方的な“処分”として発せられ、
事業者にとっては数百万円~数千万円の負担を突如突きつけられる極めて重大な判断なのです。
■ 「契約」と「処分」のあいだで揺れる補助金行政
補助金交付は、形式的には「交付決定」により締結される準契約的な構造です。
つまり、行政(国や中小機構)と事業者との間に合意のもとで成立しています。
しかし、返還命令はその枠組みを超えて行政側が一方的に強制力をもって実行できるもの。
まさに「行政処分」として、裁量的に下されてしまうのです。
この“性格の違い”が、現場での重大な摩擦を生んでいます。
■ 本件訴訟における返還命令の問題点
当社が現在争っている訴訟では、
設備投資約2,000万円のうち約70万円に関する軽微な報告相違を理由として、
全額返還命令が出されました。
しかも、変更届を必要としない範囲だったこと、
形式的な不備でしかなかったことを考えると、
この“返還命令”はまさに第11条の濫用であるといわざるを得ません。
■ 返還命令の行使には明確なルールが必要
本来、返還命令が出されるためには、次の3点が満たされている必要があります:
交付決定条件の明確な違反があること
是正措置・警告等の手順が適正に踏まれていること
返還額が妥当かつ必要最小限に抑えられていること
しかし、現場では「説明なし」「恣意的判断」「全額返還」の三拍子が揃うケースが後を絶ちません。
これは明らかに補助金等適正化法の本来の趣旨に反しています。
■ 他の事業者にも通じる「闘い方のポイント」
同じように返還命令を受けた、または受けそうな状況にある事業者の方は、以下を確認してください:
交付決定の内容に対する違反が具体的に明示されているか?
目的外使用や虚偽報告とされる根拠が、契約文書に書かれているか?
変更の届出義務がない場合に返還を求めるのは違法ではないか?
これらをもとに、反論の準備と証拠整理を行うことが重要です。
■ 結論:第11条の「濫用」は補助金制度の根幹を揺るがす
返還命令は、補助金制度における最後の強制手段です。
これが恣意的に行使されれば、誰も安心して補助金を活用することはできません。
いま制度そのものが問われています。
支援者・事業者・政策関係者がいま一度、法律の基本と行政の正義を思い出す時ではないでしょうか。


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