アメリカのトランプ政権は貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を課す措置を日本時間の9日午後1時すぎに発動し、日本には24%の関税が課されました。
この措置をめぐり、トランプ大統領は9日、ホワイトハウスで記者団に対し、75か国以上が交渉を希望していると明らかにしました。
そして「みんなが取り引きを望んでいる。報復措置をとらなかった人々のために、私は90日間、停止することにした」と述べて報復措置をとらず、問題の解決に向けて協議を要請してきている国などに対しては90日間、この措置を停止すると発表しました。
相互関税を停止している間は各国に課す関税率は10%に引き下げるとしています。
日本にも10%の関税は課せられたままとなります。
相互関税によって世界的な景気後退リスクへの懸念が高まっていましたが、措置の停止を受けてニューヨーク株式市場の株価は急上昇しました。
一方で、中国からの輸入品への追加関税については、中国が報復措置をとったとして、あわせて104%の関税率を125%に引き上げると明らかにし、中国に対しては一段と厳しい姿勢をとっています。
トランプ大統領は「中国は取り引きを望んでいる。ただ、どのように進めていけばよいのかがわからないだけだ」と述べて中国側の出方を注視する考えを示しました。
米大統領 相互関税措置を90日間停止 中国への追加関税125%に
アメリカのトランプ大統領は貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」について報復措置をとらない国などに対しては90日間、この措置を停止すると発表しました。一方で、中国からの輸入品への追加関税については、125%に引き上げると発表し、中国に対しては一段と厳しい姿勢をとっています。
トランプ大統領“市場の動向を見極めた判断”
トランプ大統領は9日、記者団から今回の決定の理由を問われ、「私は人々が少し行き過ぎているように思った。騒ぎすぎて少し怖がっていた」と述べました。
また、「債券市場はやっかいだ。ずっと見ていたが、今は美しい。昨夜は少し不安に感じる人もみられた」と述べました。
さらに、トランプ大統領は「柔軟性を持たなければならない。壁があるとして、突き破ろうと思っても突き破れないことがある。突き破れなかったら回り込む必要がある。金融市場は常に動いている」と述べ、市場の動向を見極めた判断だったことを示唆しました。
そして、大統領執務室での取材では、記者団に対し、今回の判断はベッセント財務長官やラトニック商務長官などと検討を進め、9日朝に決めたと明らかにしました。
ベッセント財務長官「トランプ大統領の交渉戦略 成功」
ベッセント財務長官は9日、ホワイトハウスで記者団に対し「私たちはトランプ大統領が実施した交渉戦略の成功を目にした。75か国以上が交渉のテーブルに着いた」と述べ、相互関税は各国と交渉するためのトランプ大統領の戦略だったと主張しました。
そのうえで「先週、報復しなければ報われるだろうと伝えたとおり、交渉を求めてやってくる世界中のあらゆる国の話にわれわれは耳を傾ける用意がある」と述べ、報復措置をとらなかった国とは協力する姿勢を示しました。
そして、交渉を求めている国々について触れて「日本が列の先頭にいる。彼らは交渉チームを派遣する予定なので様子を見よう」と述べました。
ラトニック商務長官「中国は世界と反対の方向を選んだ」
ラトニック商務長官は9日「国際貿易を立て直すため、世界はトランプ大統領と取り組む準備ができているが、中国は反対の方向を選んだ」とSNSに投稿し中国の対応を非難しました。
日本政府関係者「唐突感があり驚いている」
日本政府関係者は「唐突感があり驚いている。日本政府としては、石破総理大臣がトランプ大統領と電話会談を行い、事務レベルでも幹部を派遣して協議するなど、報復措置をとらずに努力をしてきたので、そうした取り組みが考慮された可能性がある。また、株価などアメリカ国内の経済状況を勘案した可能性もあるのではないか」と述べました。
また、別の政府関係者は「トランプ大統領のディールの一環である可能性もあり、一喜一憂はしない。すでに自動車への関税は発動されており、引き続き予断を持たずに粘り強く交渉を進めていくことに変わりはない」と述べました。
岩屋外務大臣「前向きに受け止めている」
岩屋外務大臣は衆議院安全保障委員会で「わが国はこれまでさまざまなレベルで懸念を説明するとともに措置の見直しを強く申し入れてきた。アメリカ政府の発表は前向きに受け止めている」と述べました。
その上で「一時停止の対象になっていない一律10%分の相互関税や、鉄鋼・アルミニウム製品、自動車、自動車部品に対する関税について引き続き措置の見直しを強く求めていく」と述べました。
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【解説】なぜ方針転換?中国の対応は?日本への影響は?
◇なぜ方針転換?(ワシントン支局 篠田彩記者)
Q.トランプ大統領は相互関税の停止はないという姿勢を強調してきたが、なぜここに来て方針転換したのか。
A.トランプ大統領は、先ほどホワイトハウスでの取材で記者団に対し、「債券市場はやっかいだ。昨夜は少し不安に感じる人もみられた」と金融市場について語りました。
また、「柔軟性を持たなければならない。壁があるとして、突き破ろうと思っても突き破れないことがある。金融市場は常に動いている」と述べて相互関税発表後、金融市場が激しく動揺したことが判断材料の1つだったことを示唆しました。
そして、今回の判断はベッセント財務長官やラトニック商務長官などと検討を進め、けさ、決めたことも明らかにし、経済を担当する閣僚たちの意見も聞きながらギリギリの選択だったことがうかがえます。株価が急落する中、トランプ大統領としては、多くの国がアメリカに交渉を求めてきたことを一定の成果として、一呼吸置く判断したものとみられます。
Q.一方、中国には125%の関税を課すことになった。今後、どうなるのか。
A.中国に対しては一歩も引かない構えです。日に日に対応がエスカレートして異常な事態です。
中国側も譲歩する姿勢は見せず、米中の貿易摩擦については着地点が見えなくなっています。GDP世界1位と2位の国が関税の応酬になっています。
そして、世界各国に対する相互関税は一時停止されても一律10%の関税措置は維持されたままです。トランプ大統領が次、どのような手段に出るのかは予測がつかず、不透明感はぬぐえていません。
◇中国の受け止め・対応は?(中国総局 田中総局長)
Q.中国の受け止めは?
A.今のところ公式の反応はありません。ただ、トランプ大統領のターゲットが中国だということが鮮明になったと受け止めているものと見られます。
中国のネットメディアを見てみると、アメリカに、報復措置をとらなかった国に対し、90日間の措置の停止が発表されたことは伝えているものの、中国への追加関税が125%に引き上げられたことは、私が確認した範囲では伝えられていません。
数字だけがひとり歩きして、国民の間に動揺が広がらないよう、情報の扱いに慎重になっているという見方もできそうです。
Q.今後どう対応するか。
A.「奉陪到底」。中国外務省の会見で、毎日のように聞かれることばです。
「最後までお供する」という意味で、アメリカが関税の戦いを仕掛けてくるなら徹底してつきあいましょう、ということ。
中国外交の識者にきのう話を聞きましたが、アメリカの追加関税について「中国もダメージを受けるし、心配しているが、長年、中国は、アメリカの『いじめ』にあってきたので、慣れている」とも話していました。
こうしたこともあってか、中国ではトランプ政権の強硬な措置に対し、業界団体などが政府の対応を支持する声明を一斉に出すなど、いわば挙国一致の構えで、今の難局を乗り越えようという空気も感じられます。
ただ、経済の立て直しが目下最優先の中国にとって、トランプ政権の厳しい追加関税の嵐は、痛いというのも正直なところです。
このため、強気な姿勢を維持しながらも、トランプ大統領が発信するサインを分析し、交渉の糸口も模索することになりそう。
◇日本への影響は?(国際部 甲木デスク)
Q.トランプ大統領による相互関税の一時停止、日本への影響は?
A.トランプ政権の相互関税は世界同時株安につながりました。高い関税によって貿易の機能がマヒすれば日本経済にとっても大きな打撃となり、過去のリーマンショックなどに匹敵するという悲観的な見方も出ていたので、90日間=3か月間の停止は大きなプラス材料といえます。
9日のニューヨーク株式市場でもダウ平均株価は過去最大の上げ幅となりました。日経平均株価の先物も3000円以上、値上がりしています。
ただ、今月5日に発動した一律10%の関税措置については維持されることになります。そして、今月3日に発動された自動車への25%の関税も課された状態が続きます。
日本にとって、自動車産業は経済全体を支えてきた基幹産業。アメリカへの輸出額では、3割が自動車となっています。自動車メーカーだけでなく、部品や素材など関連するさまざまな産業への影響も懸念されるので、予断を許さない状況が続きます。
Q.発動の停止は90日間。今後はどうなる。
A.先行きは見通しにくいが、この停止期間は各国とアメリカの交渉期間になるとみられます。日本政府がアメリカ側を納得させる形で交渉をまとめられるかが焦点。
日本側は赤澤経済再生担当大臣が、トランプ政権ではベッセント財務長官とUSTRのグリア代表が交渉を担当しますが、グリア代表は、農産物のさらなる市場開放や工業製品に関する規制緩和について協議したいという意向を示しています。この中には、日本がこれまで自国の重要な産業として守ってきた部分もあると思います。
トランプ関税による打撃がやわらいでいる間にいかにアメリカ側と取り引きをまとめることができるのか、日本政府にとって正念場を迎えることになります。
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