女帝からは逃げないと。 作:霧江牡丹
なぜ、と思ったことだろう、と。
その男性……
「なぜ彼女……祭唄さんは、君をここに連れてきたのか。不幸が起きるとわかっていながら、なぜ、と」
「……どんどん"安心させたくて"からは離れていっているが、聞こう」
「つまり、彼女が君を裏切ったとか、彼女が君を理解していないとか、そういうことではない、と言いたいんだ。少々強引な手段ではあったけれど、私が君をここに手繰り寄せた。だから、安心させたくて、というのは」
「祭唄様への不信感を持つ必要はない、という意味での、か」
「ああ」
ごめんね、と。
優しく笑う男性。
「手繰り寄せる……とは、なんだ。どういうことだ」
「
なる、ほど?
起こるべくして起こることは必ず起こるけれど、過程は決まっていないから、原因を己にすることで事象のある程度をコントロールできるようにする、と。
ある種私の符合の呼応にも似ているな。私の場合は世界改変らしいが。
「さてそうした時、私の占に君のある行動が映った。それは先代青清君を調査する、というもの。いつの話なのか、なぜ行うのかは定かではなかったけれど、好機であると見た。なんせ、君が居住区画へ来ることは滅多にないからね。私達の道が交わるのはここしかないと考えたから、多少強引な方法で彼女……祭唄さんの選択肢を狭めた。……彼女の認識に干渉した、とかではないから安心してほしい」
「それ以外の方法がある、という方が怖いがな」
「特に難しいことではないさ。夜雀の親たる私が物知りである、ということを彼女が知っていればいい。そして物腰柔らかな相手である、ということもね。……輝術師の中には平民を見下すような貴族も少なくはない……というよりそれがほとんどだ。なれば、
「待て」
止めざるを得なかった。
その言葉を真だとするのなら、だって。
「いつから、だ? いつから……私のことを知っていた?」
「私が占師としての力を受け継いだその日から。……もう、四十年以上は前になるかな」
「この日のためだけに……動いていたと」
「ああ。そうして妻と番い、さらに州君が今の彼女となった機に、私を最下級の貴族にしてもらうよう行政に要請を入れたよ。必要なことだから、とね。……そのせいで娘たちには苦しい思いをさせたのかもしれないから、そこは……何の言い訳もできないかな」
「……」
「ああでも、さっき言った"何の成果を挙げることもできていないから"、も嘘じゃない。ただ正しい言葉でもなかったね。"少なくとも私の代では何の成果も挙げることができないとわかっていたから"、が正しい」
それで。
それでよく、何の力もないとでもいうかのような態度を取れたものだ。
ちゃんと未来予知じゃないか。
「そこまでして私に接触しなければならなかった理由はなんだ。あなたは……いや、お前は、私に何を見た」
「星々に焼き尽くされる君を
「──……。……いいのか。先程言っていただろう。輝術と星々と水を使うのが占であると。星々に牙を剥くような発言は……お前の命を削るのではないか?」
「その程度のことを気に留めるような存在ではないさ、アレは。私が占師だからこそ、
わかる。
言葉の節々に含まれている嘘が。
「……
「とても賢い
「それが……お前の四十年を犠牲にしてまで、伝えたかった言葉か?」
「犠牲にしたとは思っていない。この日のための調節は欠かさなかったけれど、それでもこれは私の人生だ。君のためのものじゃない」
「……そうか。そうだな。それは、悪かった。……だが……その言葉で私がどう変わる。お前の想像以上に頑固者だぞ、私は」
無論金言余りあるが……だからといって、という部分はある。
言われずともやるつもりだったし、そんなことのために、と。
「ああ……まぁ、君にわかりやすく言うのなら、この程度が最大限なんだ。これ以上を言えば、私は瞬く間にこの世から消えてしまうだろうから」
「なるほど。……であれば致し方ない。……医院へ、行かなくとも大丈夫か」
「大丈夫。ひと月ほど療養をすると職場には伝えてあるからね」
星々が奴らである以上、それを見て未来を視る者が、彼らを害しかねない私に助言を行う。
それがどれほどの代償を、など。
……そうだな。頑固者、などと言っている場合ではないか。
「言葉は重く受け止める。……それで、先代青清君についてなのだが」
「言わないでおこう。そうなるように手繰り寄せておいておかしな話であるのは自覚しているけれど、君が答えを知るべきは私や妻からではないよ。他に当たるべき人物がいる。……それが誰なのかは言えない。だから」
「ああ、己で探す。……何を偉そうに、と思うかもしれないが……労いの言葉を送ろう。四十年、大義だったな」
「波の立たぬ水面を眺め続けるよりは、良い代に生まれたと感じているよ」
調べなおす、か。
……ああ、と。そう答えようかね。
そうして、になるか。子供達を無事に保護したらしい朝烏さんと一緒に買い出しへ行って、帰ってきて、夜雀の家で昼餉を頂いての夕刻。
成果ゼロであることに間違いはないのだけど、必要な出会いだったのだと刻む。
「祭唄。青宮廷で最も高齢である人物は」
「会わない方が良い。平民嫌い」
「そうか。次点では」
「平民嫌い」
……うーむ。
当たるべき人物、というのは誰なのだろう。朝烏さんのことだった、とか? ……しっくりこないなぁ。
まぁ占いに行動を左右される、ということ自体が愚かであるという感覚もありつつ……ふぅむ。
「言うまでもないけど、私の家もダメ。私がまず嫌われているし、当然のように平民も嫌われている」
「まぁそこは聞くまでもない。玉帰様も家族との折り合いが悪い事は知っているし、あと年長者、というと……ううむ」
「……一人、心当たりがないこともない」
「今まで黙っていた理由は、何かしらの欠点があると」
「胡散臭い」
おお。
祭唄が言うということは、余程なんだろうなぁ。
俄然興味が湧いて来たぞぅ!
「……行かない、と。祆蘭が言うはずがないとも思っていた。だから言いたくなかった」
「なんだ、祭唄自身が苦手、というのもあるのか」
「ある。大いに」
「さらに興味が湧く話をするじゃないか。連れていってくれ」
「……。……。……──……──……わかった」
すんごい間があったけど、わかったらしい。
へー、気になるな。祭唄がそこまで苦手に思う人物。こういう調べ物の最中でなくとも会ってみたさがある。
最初に来たのは、凄まじい刺激物の匂い。
けれどそれはすぐに緩和した。恐らく祭唄の輝術が何かしらの対策を取ってくれたのだと思う。
中にいたのは……白髪を長く伸ばした、ご老人。
「──その足音ハ、ハハ、祭唄かネ? これハこれハ、要人護衛となったきリ疎遠も疎遠になっタ性悪女ガ、今更何用だト──」
「やっぱり帰ろう。益はない」
「ン? 他に誰かいるのカ。……聞いたことのない足音だネ。何者かナ」
かなり独特な発音。というか、発声。喉に傷でもあるのだろうか、ところどころ聞き取り難い。……まぁ私もそう思われているのだろうからとやかく言わないけど。
「いいから、帰ろう」
「私は祆蘭という平民だ。お前は?」
「……はぁ。絶対に興味を持つと思った……」
「平民? 平民だっテ? 平民がなぜ青宮廷ニ? ここハ貴族の遊び場だヨ。限りある時間を有意義に使うことのできル平民ハ、とっとと外に出たまえヨ」
「何分、無意味に無為な時間を過ごす貴族に会うのは初めてではなくてな。お前の心に余裕がないのならば、せめて会話をしてみないか。きっと楽しいぞ」
「独特ナ方言だネ。生まれハ
「ほう、それが推理ならば大したものだが、情報伝達がある以上何も信用できんな」
「面白いことを言うネ。ワタシのような天才が一般的ナ輝術師と繋がっていル、というのかイ? よしてくレ、あんなもの達と繋がるくらいなラ、ワタシは潔く死を選ぶヨ」
だろうな、とは思う。
天才であるかは知らんが、かなりの変人タイプだ。胡散臭いのもわかる。
が……。
「先代青清君について調べている。正確には、その者と逢瀬を遂げた者について」
「余程無駄な時間を過ごすことを好むと聞こえるネ。やァ、性悪女。その平民は要人なのかナ?」
「とうぜ──」
輝術の刃、ではない。
細く細く研ぎ澄まされた、糸と見紛うほどに鋭利な槍。
それをトンカチで殴打し、軌道を逸らす。
「──
「要人護衛失格だネ、祭唄。要人の方が強いじゃないカ。それにしてモ、なんダ今の感覚ハ。ワタシの制御に輝術が抗っタ……ふむ。ふむ」
「暴力に出るのなら、こちらも出るが、構わないな輝術師」
「野蛮だネ。流血以外の会話を知らなイ獣かイ?」
「知性を語って知性を騙るか? 獣と人を区別する程度の低さを露呈したいのなら止めはせんがね」
「剣気……。はァ、昔は散々向けられて来たものだけド、これほどに強いものは久方ぶりだネ。平民は平民でモ歴戦の兵士か何かかナ」
未だなお、である。
尚も振り返らず、何か……刺激物らしきものの調合を進めている老人。秀玄という名であるらしい彼は、私に興味の一切を向けない。
「歴戦の猛者である声をしているように聞こえるか? 医院の予約を取ってやってもいいぞ」
「医院に入るくらいなら死を選ぶヨ。まったく、輝術ニ治癒はないト諦めるのであれバ、受けた傷も摂理として潔く死ねばいいものヲ」
「そこまでの刺激物を作っておいて薬学には理解がないのか」
「これは香辛料といってネ。まァ、平民に手を出し得るものではないのはわかるガ」
「だから刺激物だろうに。……で? 先代青清君については何も知らんのか」
この人物との会話は好ましくあるほうだけど、無い腹を探る趣味はない。痛くないかどうかは知らん。
まだ早いだの過去を見ろだのと言われているけれど、目先のことくらいは片づけたいからな。
「目的と理由をはっきりさせたまえヨ。香辛料を求めに来たのでもないのなラ、ほかを当たればいイ。何の理由があってワタシの時間を食い潰しニ来たのカ」
「耳が腐っているのか? 先代青清君の逢瀬を遂げた相手についてを聞くことが目的で、理由は祭唄がお前を選んだから、だ。お前の都合に興味はない」
「腐り切った思考をしているねェ。ワタシは目的と理由をはっきりさせろト言ったんだヨ。もう一度よく考えてから話しなヨ、平民」
「先代青清君の恋人は
「どちらも是だネ」
「お前は鬼と接触しているか? いや、個人的な繋がりがあるか? ……現在なお、だ」
「否、だヨ」
「過去には?」
「是を返そウ」
成程。付き合い方を理解した。
であれば。
「先代付き人は鬼となった。そうだな」
「是だヨ」
「お前と付き合いのあった鬼はそいつ。そうだな」
「是だネ」
「その付き人は──お前の息子か」
「──……是だガ、今、何を根拠ニそこへ辿り着いたのかナ。それとも平民というのは嘘デ、腐った奴ラと繋がっていル?」
ようやく見えた感情に、口角が上がる。
ちなみに今のは直感でも勘でもなくカマかけだ。娘か息子かで迷ったけど、そこは直感で息子に行った。結局直感じゃんと言われたらそれはそう。
「先代青清君を恨んでいるな。が、当人は死んでいるし、鬼となった息子ももういない。これで息子の名が鼬林であれば楽だったのだが、流石に違いそうだ」
「……祭唄。その平民は、"何"だネ」
「あなたを苦手に思う私の心をおしてまで、あなたに会わせるべきだと思った人」
「いいだろウ」
くるりと、回転椅子というわけではないから、丸椅子の座面で尻を滑らせて……老人がこちらを向く。
……なんだろう、おどろおどろしい黒のペイントの為された、けれどつるりとした仮面をつけた老人だ。
あー……。ギリ、山伏。いや歌舞伎? 変面にも見えなくもない、そんな仮面は、まぁ、その。
「すまないな、私に芸術的感覚は無い」
「素直におかしいと言っていい。変人だから」
「やれやレ、若者はこれだかラ。演劇ノ鑑賞もしないのかネ」
「演劇?」
というと。
「『輝園』の、か?」
「ほゥ、案外教養があるじゃないカ。そうダ。アレに出てくる鬼の面。五十年も前の貴重品だヨ。記念品でもあル」
「ほー。いいじゃないか。それならばおかしくはない。鬼の面であるのなら、おどろおどろしいと感じた私の感性に間違いはないし、それの製作者の感性も褒め称えられるべきだ」
「……祆蘭がそっちに行ってしまうと、困る」
「ま、そんなことより」
「そんなことよリ、ダ」
肌が粟立つ。けれどその前に、向ける。
互いに最大限の威圧を。範囲を絞った、指向性のある威圧を。
「へェ……へェ! 平民! 見た目ハ祭唄よリ幼イ! 水生なんテなにも無いことが唯一の特徴と言っテ差し支えなイ場所から生まれタ……次代の神子カ!!」
「惜しいな。当代だ」
「──楽土より帰りし神子!
「捻じ伏せた。説いてどうにかなる相手でもあるまい」
「そしテ、祭唄。見違えたネ。この威圧の中デ、気を失わないとハ。肉体の強さハ変わっていないガ、精神の成長が著しイ」
「……秀玄が他人を褒めるのは珍しい、と思ったけど、そもそも私以外の人と話しているのを見たことがない」
ピシリ、という……焼き物に罅が入るような音がした。
「物質界に干渉する威圧だっテ? ……とりあえず収めたまエ。そしテ……捻じ伏せたと言ったガ……」
「なりつつあることは認めよう。そのために先代の情報を集めている。お前の息子の話も、お前の感情の行く先も、私の目的に利用せんがため、だがな」
「ふム。良いヨ。良イ。そんな君が要人として扱われていることガ何よりも良イ。時代は変わったのかネ?」
「物分かりの悪い奴だな。私が変えると言っているんだ」
「へェ。ならバ、何を欲ス。何を求ム。次なる帝ヨ、ワタシに何を望ム」
何度言わせる気なんだコイツ。
何がどう天才なんだ。
「お前の知っている情報を全て寄越せ。感情は抜きで、だ。状況次第ではなんとかしてやらんでもない」
「構わないガ、もう一度名前を聞かせてくれるかナ」
「祆蘭」
「シェンラン。ナルホド、らしい名前だネ」
では、と。
秀玄から聞いた話は、やはり想像通りのものだった。
先代青清君の不祥事。逢瀬の相手は紊鳬。付き人が暗殺され、鬼となった事実。ただしその鬼……秀玄の息子は既に討滅されている、という話。
ただし。
「……ここで
「ワタシの息子ハ、名前ごと存在を抹消されたからネ。むしろ君達が知っていタことの方が驚きだヨ」
時系列も大体合致する。
雲妃の年齢を把握しているわけじゃないけれど、子が産める身体で……鈴李が青清君となった年代を考えて、そのあたりにいた者であるのなら。
調べ直せ、とはまさにこれか。
雲妃の幻覚ではない。閣利は確かにいた。だが……
加えて私が紊鳬に感じていた警鐘も、
玻璃が見逃している部分もあるし……。
なんだろうな、これは。この違和感は。
……リセットだ。
久しぶりに使うべきはオッカムの剃刀だろう。多分この二つか三つの事件は繋がっていない。だから余計な登場人物を削ぎ落す。
「先代青清君の付き人、閣利。その名を覚えている者は、生者では雲妃とお前、秀玄しかいない。幽鬼であれば
少し考えて。
すぐに思い至った。
「
「……あア。だからワタシは、やめたんダ。あの腐ったやつラと繋がっていたラ、ワタシの中から閣利が消えてしまウ」
輝術ネットワーク、いや、共有ファイルか、クラウドサーバーとでも呼ぶべきものになるのか?
なるほど……消えたデータは全員から消える。忘れ去られたから、だけじゃないんだ。消されたから、でも消えるんだ。
ああ、なら。
「お前は大霊害のことを覚えているか。その原因を」
「……いヤ。でも、知っているはずだネ。けれド……知らなイ。あア、もっと早くに気付くべきだっタ」
そういうことだ。
恐らく雲妃も何らかの手段で輝術サーバーから切り離されていた。だからずっと覚えていられた。絹美は雲妃から教えられただけだから関係ない。
つまり、これはこれ、だ。閣利が忘れられた理由はこれで完結する。
問題は、忘れさせた人物が誰なのか、ということ。
当然先代青清君だろうが、ではなぜ先代青清君はそれを行うことができたのか。
……紊鳬と繋がりがあったから、としか思えんな。
相手にしたものが鬼だろうが天体だろうが感じなかった怖気。最大級の警鐘は、彼女が記憶に関する操作術を持っていたから、か?
もっとも敵に回してはいけないものだったから……であれば、少しは納得が行く。
恐ろしいのは、紊鳬が現帝陣営であった場合か。……玻璃が今に至るまで……その前まで現帝を疑えなかった理由が紊鳬にあるとしたら。
「先代青清君のことは覚えている者が多い。恐らく消されていない。記録としては消されていたが、大分無理矢理だった。恐らく記録さえ消せばどうにかなると思っての犯行だろう。言うなれば素人仕事だ」
「けれド、閣利の件は違ウ。つまり先代青清君は捨て駒だネ」
「ああ。……鬼となった閣利を殺したのは誰だ、秀玄」
「今の輝霊院院長だヨ。……当時ハ憎んだけれド、息子モ息子デ暴走していたからネ。鬼となってしまったのなラ、仕方のない討滅だったのかもしれなイ」
買い出しの時、先代青清君についてを朝烏さんに聞いた時、少しだけ間があった。本当に刹那の間ではあったけど……私がしようとした質問に、最大限の警戒を払っていた。
あれは聞かれたくない情報を……今聞かれたくない情報を手に入れてしまって、それを聞かれることを恐れていた顔だ。
恐らく輝霊院でも資料のほとんどが隠滅されていたのだろう。
……。
「先代青清君の名は?」
「……今、思い出そうとしていたヨ。けれど……無いネ。……あア、なゼ気付けなかっタ。そういうことをしてくルとわかっていたのニ」
「悪い事じゃない。お前が輝術師たちからその繋がりとやらを絶ったのはいつの話だ」
「鬼となっタ閣利が殺されテ、すぐ後だネ。だかラ……七年前かナ」
七年前。これは削ぎ落とすべきか?
七年前は……"
「秀玄。どうやって他の輝術師とつながりを断っているの?」
「遮光鉱だヨ。この仮面、裏側に遮光鉱が塗られていてネ。先程輝術を使った時も分かっただろウけれド、昔のようナ広範囲攻撃はできなくなっていル。それでも遮光鉱が肌にふれていル状態で輝術を使う術ハ上達した方だヨ」
遮光鉱もまた、現帝陣営と繋がる言葉だ。
剃刀の刃を替えないといけないほどに関連事項が、登場人物が繋がっていく。
遮光鉱を携帯していても、努力次第では輝術を使えるようになる。
……ならば、付き人最弱、なんて呼ばれていた彼女は……もしや、と。
そうだ、それならば混幇が……まぁそれらの仕業と決まったわけではないけれど、それららしきものが青宮城にチャフを撒いたのも、盗み聞きをしていたのも、色々な部分が繋がっていく。
「祆蘭。……我儘を、言っても良い?」
「ん、どうした。珍しいな」
「やめたまえヨ祭唄。今、智者が考え事をしているんダ。まぁワタシのことだガ」
「……朝烏さんを心配している私がいる。もし……彼女が何かを掴んでいたら、彼女の性格上」
「良い我儘だ。杞憂であればそれで良いのだからな。──というわけで話の続きはまた今度だ。次は初めから歓迎しろ、秀玄」
失念していた。
そうだ。その可能性は大いにある。
朝烏さんが──輝霊院院長にカチコミに……もとい突撃しに行っている可能性など、大いに、だ。
「待ちたまエ。これを分けてやル。必要になったラ使うといイ」
「これは?」
「ワタシの特別調合香辛料ダ。吸ったが最後、顔面から汁という汁が一刻半は零れ続けるヨ」
……十二分に刺激物じゃないか。
なーにが香辛料だ。
「礼を言う」
「あア」
いない。
輝霊院に残っていた職員曰く、数刻前に二人とも出て行ったきりである、と。
「祭唄、どうだ」
「私の感知範囲内にはいない。いないか、偽装をしている。……これは緊急事態であると判断する」
「ああ、責任は私に押し付けろ。私の直感のせいだと言えば誰もが頷く。頷かざるを得ない状況を作ってある」
「うん。進史様に伝達を入れる」
が、だとしても時間が惜しい。
だから……棒を一本持って。
縦に立てて……当然倒れるそれの方向を指差す。
「あっちだ」
「……本気?」
「少し前の私ならそっち側だった」
符合の呼応とかいう奇妙な力が備わっているのなら。
たとえそれが不幸を世に作りあげるものであったとしても、だ。
そんなものは──私が防げばいい。
「とりあえず伝達はした。……わかった、行こう」
「ありがとう」
ありがとう、素直に信じてくれて。
そして、間違っていたらすまん。遅かったらすまん。間に合わなかったら……今日、あなたにそれを聞いた私を恨め。
「──本気なのであれば正気を疑います。だから正気な私が教えてあげましょう。
「ハ──ま、それなりに信じてはいたよ、匿名の
「ありがとうございます、匿名の次女さん」
「あなたにそう呼ばれる筋合いはありませんが、後先を考えられない馬鹿なあの人をお願いします、とだけ」
あらぬ方向へ向かおうとしていた私と祭唄……というか祭唄の足が踵を返し、急転換する。
背負った私にGをかけないよう気を付けつつ、走る……のではなく、飛翔した。Gは普通にかかった。
「結構真剣な場面。なぜ笑っている?」
「姉妹仲が美しいからだ。あれもまた、だな」
ツンデレ腹黒宮女め。今度会ったら弄り倒してやろう。
そのためにも──死なせはせんぞ、朝烏さん!