トランプ政権のブレーン・エコノミスト オレン・キャスが語る「関税『改革保守の狙い』」を読んだ感想

 2022年に当時上院議員だった現国務長官マルコ・ルビオらと連携してシンクタンク「アメリカン・コンパス」を設立した若手論客オレン・キャスが注目される。副大統領バンスともつながりを持つ。

「トランプ大統領就任を受けて『米保守思想界 数十年ぶりの変革』2025年1月28日(火)読売新聞朝刊28面 会田弘継)

 トランプ大統領に「練りに練った関税政策」を進言した、「アメリカン・コンパス」の設立者にして「改革保守(リフォーモコン)」の旗手であるオレン・キャスが来日していたようである。
 他紙には載っていないようなので、朝日新聞の独占インタビューなのかな?

「サプライチェーンによって世界中がつながっているのだから、関税をかけたら米国にも甚大な被害が出るのでは」と思うが、「改革保守派」の人間たちが考えていることは逆である。
 サプライチェーンによって編まれた(グローバル化した)経済構造を壊すために関税をかけるのだ。そのためなら「多少の痛みを伴っても」仕方がないと考えている。

 グローバル化の下、米国の若者を海外での戦争に送り、失業と絶望を輸入し、大切な仕事を海外に送ってしまったのです。
 1980年代の保守の発想は「市場経済と自由貿易」でしたが、こうした状況を解決するのは有効ではありません。
 だから関税なのです。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者
  「大切な仕事を海外に送ってしまった」とはどの口が言うかな、と思わないでもないが日本にいる自分が言えることではないな。

 新自由主義によって格差は増大していく。米国内だけではなく安価な労働力を外部に求めた時点で、世界に格差は広がっている。
 だから米国内に製造業を戻し、部品の供給網も国内で完結させ、雇用は国内で行えば格差解消につながり経済安全保障の観点からも良い。

 考えたかたとしては一理ある……というより、前に↓の記事でそう出来るなら(出来るのであれば)そうしたほうがいいがそれは不可能だろうと書いた。

 世界に張り巡らせてつながっている経済構造をどうやって解消するのか、無理に崩そうとすればそれこそ世界恐慌が起こる。そう思っていた。

 オレン・キャスを始めとする「改革保守」は(少なくともインタビューを読んだ限りは)そういう痛みが起こることは百も承知で、彼らが目指す社会を作ると言っている。

ー仏文化人類学者のエマニュエル・トッドさんも(略)米国の現状認識についてはあなたと非常に近い考えでしたが、米国の国内産業の再生については「100年単位の歳月をかければ」と悲観的でした。

(前略)産業再生に100年かかるという意見には賛成できません。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)
 トッドも反グローバリズム主義だからな。

 彼らは「新自由主義・資本主義経済が行き着いた今の構造を壊すこと」を目的としているのではない。壊すことが「彼らが目指す社会を作る方法」なのだ。
 では目的は何か。
 ひとつは中国を米国の経済圏から外すこと。

ー矢継ぎ早の経済政策はトランプ大統領個人の思いつきではなく、2017年~21年の第一次政権の時期からこうした政策を練り、進言していたそうですね。

 その通りです(略)
 経済学者らは当時、米国経済は過去にないほど素晴らしい状況だと言っていましたが、賛成できませんでした。
 実際は01年の中国のWTO(世界貿易機関)加盟で、米国の産業基盤は(中国の輸出増などにより)加速度的に弱体化し、限界に達していました。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

 ここで注意しておきたいのは、日米を含む自由貿易が成立する領域に、中国は加わっていないだろうということです。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

 教科書で習ったアダム・スミスもデイビッド・リカードも、共産党が支配する大国との自由貿易について考える機会はなかったでしょう。
 中国と自由貿易を行うということは、共産主義の優先順位や政策を、私たちの社会が受け入れるということです。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

 自由貿易を行うことが「共産主義の優先順位や政策を受け入れることになる」という理屈がよくわからない。支配されるならともかく受け入れ入ること(共存すること)自体は構わないのではないか。
と思うけれど、さして長くないインタビューで「中国を受け入れるわけにはいかない」と力説している。

 ここまでの話だと、イーロン・マスクやIT産業の人間たちとは明らかに同床異夢ではと思うが、その点についても説明している。

 私たちのグループは、ポピュリズム的な「MAGA(米国を再び偉大に)」運動の一員でも、イーロン・マスク氏に代表されるような規制緩和や技術革新に関心が高い「テクノ・リバタリアン」でもありません。
 いずれとも異なる「真正の保守」です。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」)
「真正の保守」……。「真正の保守」か……。

 経済構造を壊すことによって社会を作り直すこと。
 これが「真正の保守」のふたつめの目的である。

 普通の家族が自立して生活を営む能力、子どもを育てる能力が低下し、地域コミュニティーが弱くなっていることを何よりも問題視するのが保守派です。
 いくら株価が高く、シリコンバレーが繁栄しても、家族やコミュニティーが弱くなっては意味がありません(略)
 格差拡大、労働者と家族、コミュニティーに焦点を当てることが課題です。市場は手段であり目的ではない、という認識も必要です。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

「市場(関税による経済構造の転換)は手段であり、目的ではない」
 今の経済構造にとって壊滅的な打撃を与えるような手法を取るのは、すべては「格差を解消して、安定した地域コミュニティーの中で労働者が家族を持ち夢を持って働けて、国内で経済圏が完結して、余ったもの、必要なものだけを他国と売買して生きる」そんな国を復活させるためである。

「現在の構造下で経済を成長させること」を目的としている。
 そう考えると、矛盾だらけ何もわかっていないのでは、気が〇ったのではと思うが、今の経済構造を本気でぶち壊そうと考えているんだと思えば、話としては筋が通っている。

 その果てに「普通の家族」が集う「地域コミュニティー」で労働者が安心して暮らせる国が出来る……というのは、本当にそう思っているのか?と思うが。

ーそれを第二次トランプ政権の任期四年で達成できますか?

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」)

 それはぜひ聞きたい。

 私はトランプ氏は「過渡的な人物」と考えています。
 彼が非常に得意なのは、これらの全く違うグループを結集させることです。しかし、彼が全く不得意なのはこれらの対立をどのように解決するか自分で考えることです。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

 重要なのはトランプ後です(略)
 次の指導者たちは、「これが新しい保守です」と語るのにふさわしい存在になるでしょう。

(2025年4月4日(木)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

ートランプ政権の四年間さえ耐え忍べばいい、という発想では乗り切れないということですか。

(前略)旧モデルは選択肢ではない(略)
 これは経済政策というよりも政治的・心理的な問題です。
 関税政策が実施されたことは、その意味でも非常に重要だと感じています。

(2025年4月3日(水)朝日新聞11面「関税『改革保守』の狙い」/太字は引用者)

 要約すると、トランプに既存の経済構造を破壊するだけ破壊してもらってヘイトを引き受けさせて退場したあとに、平らな大地に「真正な保守」という新しい(?)建造物を建てる救世主として自分たち新世代の人間が登場するというシナリオを描いている、ということかな。
「過渡的な人物」←言われたくない。

 ここまではっきり言うということは、目的においても方法においても正しくない部分があるとはまったく思っていないんだろう。
 既存の経済構造を壊すことが目的なのだから、経済界が阿鼻叫喚になろうと知ったこっちゃないということか。
「株価が下がろうがシリコンバレーが悲鳴を上げようが、地域コミュニティーが元気になることが一番」
 ある意味まともと言えばまともだが……。
 自治会の人が国を運営しているような怖さを感じる。

 社会観の話はおいておいても、経済が上向くことを期待してトランプを選んだのに、「一時的な痛みに耐えてくれ」は話が違うとならないのかな。自分だったら思うけどな。
 さすがにしばらくたったら米国民も「これだと地域コミュニティーも復活しないのでは?」と思うと思う。
 そういう結果が出た二年後の中間選挙で、民主党が生まれ変わって奮起することに期待するしかない。
 それまで世界や日本が保つのだろうか。はあ……。

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