好きな芸能人やスポーツ選手らのライブやイベントに頻繁に参加したり、グッズを大量購入したりして熱烈に応援する「推し活」。応援される側は「推し」と呼ばれ、ファンの熱意を支えに活躍の場を広げている。ただ最近は、ファンから過剰な要求を押し付けられたアイドルが活動縮小や休止に追い込まれるケースが少なくない。「ウィンウィン」の関係が、なぜ崩壊するのか。専門家の分析を交えながら解決の糸口を探った。
目立つマナー違反や過剰な要求
今年1月、人気アイドルグループ「乃木坂46」の岩本蓮加さんは、SNS上で異性と親密そうな雰囲気の画像が流出。ファンから批判を浴び、自身のブログで謝罪した上で、1カ月余り活動を自粛した。
岩本さんはブログで「ファンの皆様の応援と支えがあり、12歳から8年間、乃木坂46として活動ができているのにも関わらず、裏切るようなことになってしまったことを深く後悔しています」とコメントした。
「モーニング娘。‘25」の北川莉央さんも1月、岩本さんと同様に画像が流出した。活動自粛には至らなかったものの、自身のブログで一連の騒動を陳謝した。
「推し」とファンのトラブルに詳しく、「清く楽しく美しい推し活 ~推しから愛される術~」(東京法令出版)の共著がある河西邦剛弁護士は、背景についてこう指摘する。
「推しが異性と交遊している画像がSNSに上がれば、ファンは『芸能活動をおろそかにしている』と批判し、『アイドルとしての自覚が足りない』といった中傷に転じてしまいがちだ」
「推し」とファンとのトラブルは、表面化しなくても数多く起きているのが実情だ。
「君のことを思って」気色ばむ男性
「さまざまな要求を押し付けられることがあった」
アイドルグループ「にっぽんワチャチャ」の元メンバーで、ツインテールと笑顔が売りの鈴木Mob.さん(25)は、過去にファンの要求に悩んだことを明かす。
20歳でデビューしてまもないころ、ファンと交流する特典会で、それまでに受け取ったプレゼントの内容を男性ファンから問い詰められた。「全部は覚えていない…」と答えると、男性は気色ばんだ。
「俺はこれだけ働いて、君のことを思ってプレゼントを買っているんだよ。お客さんを大切にしないから売れないんだよ」
アイドルとしての売り出し方にもクレームがあった。鈴木さんといえば、「面倒だから」と入浴をやめてしまう人々を指す「風呂キャンセル界隈」のアイドルとして雑誌やテレビに引っぱりだこだ。
だが、一部のファンから苦情が寄せられた。
「『にっぽんワチャチャといえば、風呂キャンセル界隈の子』というイメージが定着するのは、本当にストレス。にっぽんワチャチャが汚れる」
「曲とダンスがいいんだから、そっちでバズって」
鈴木さんは「まるで彼氏のように振る舞うファンもいた」と振り返る。とはいえ、大切なファンの求めを無視するのは難しい。
潮が引くようにファンが離れ…
「にっぽんワチャチャ」に所属していた当時の鈴木さんの収入は、コンサート終了後に開かれる特典会で、ツーショットで撮影する「チェキ撮影」に参加するファンが購入する1枚1000円ほどの券の枚数によって決まる歩合制だ。アイドルにとって、特典会に駆け付けてくれるファンの人数は、自身の人気を反映する指標であり収入源でもある。
だからこそファンを大切にしたい。鈴木さんは「推し活があるから自分の生計が成り立っている」「ファンの要望にはまじめに応えなければいけない」と自身に言い聞かせたが、心身ともに疲れ果て、2年前にユーチューブなどの発信を大幅に減らした。コンサートライブでも体調不良を訴えるようになった時期がある。
「もう本当に力が入らなくなった」
同時に、潮が引くようにファンが離れるのを実感したという。
個人情報の提供を迫るケースも
河西さんによると、駆け出しのアイドルの収入が歩合制であることに乗じて、経済的に豊かなファンが大量にCDを買い込み、その交換条件として応援するアイドルに対し、自身や仲間のメンバーの連絡先など私的な情報を教えるよう強要するケースもある。
一方でアイドル側は、ファンと個人的な関係を結ぶことを所属事務所から禁じられている。だが方針に反し、やむなく応じてしまうケースが少なくないという。
過剰な要求にまでエスカレートした場合は、さすがにファンとの連絡を遮断。すると今度は「自己否定された」と怒り心頭のファンが、それまでに得た個人情報をSNSで暴露するなどし、アイドルが活動休止に追い込まれることもあるという。
自己肯定感が不足、推し活に自尊心
ファンはなぜ、アイドルら「推し」に過剰な要求を押し付けるのか。人間環境大学講師の二宮有輝さんは、推し活にはまるファンの特性について「実生活で充足感が不足しているような人が目立つ。自分の生きる意味や存在意義を、推し活を通じて見いだそうとしている」と指摘し、こう分析する。
「彼らにとって『推し』は自分の理想を投影した存在。だから推しが理想から少しでも逸脱すると、自分の安心できる世界観が崩れてしまい、推しへの理想の押し付けが生じる。つまり、彼らは推しを人間ではなく、自分の価値や自尊心に必要なモノとしてみているのだろう」
河西さんは、過剰な要求を押し付けやすいファン層について「40~50代の独身男性が多い。握手会で推しから『いつもライブで見えていますよ』と感謝されると、自己肯定感が不足しているファンほど高揚し、ドーパミン中毒になっている」と指摘する。
「推し活に多額の資金を投じているファンほど『お金でCDを買える自分が評価されている』と思い込みやすい。だから、推しが自分の意に沿わない行動をすれば、精神依存の反動から、推しへの敵意が芽生えやすくなる」とも話す。
「売り上げ至上主義」の改善を
アイドルとファンは、どうすれば良好な関係を持続できるのか?
河西さんは、売り上げのためにメンバー同士を過度に競わせる運営手法を改善するべきだと指摘する。売り上げ至上主義では、「推し」は収入アップのためにファンの過剰な要求を受け入れざるを得ない。逆にファン側としては、アイドルで自己肯定感を満たそうとするのは危険という自己認識を持つことが重要だという。
過剰な要求に苦しみ、2年前に活動縮小に追い込まれた鈴木さんは、その1年後、通常のペースで発信を再開した。
「ファンの要求を全て聞くんじゃなくて、もっと自分の思いを発信していこう」と気持ちを切り替えた。すると、特定のファン以外の「いろいろな人に知ってもらえ、好きになってもらうことができた」と笑みを浮かべた。
「本来、推しはステージで輝き、その姿を通じてファンに勇気を与える存在。ファンの要求をなんでも聞く存在ではない。自分が成長するような助言なら受け入れるが、単なるファンの欲求を満たすような内容は無理」
吹っ切れた様子で話す鈴木さん。「推し活」との距離感に苦悩した末に導き出した自分なりの「答え」だった。(植木裕香子)