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ブログ仲間のNympheaさんの最近の記事について、インネンをつけている羽生ファンがいるらしいということを、別のブロ友さんから聞いた。

 

私は羽生ファンのツイッターをほとんどフォローしていないしブログもあまり読まないので、そういう事情には基本的に疎いが、どうやらツイッター上で羽生さんの演技動画をアップしている人たちを「取り締まろう」とする別のファンたちがいて、もめごとのようになっているというのである。

 

確かにアイスショーの演技などには著作権や放送権、版権などのコピーライトがあって、アップロードは違法、というものが多いだろう。

 

一方でファンによる利益の発生しないクリップ動画などの拡散は、イベントのPRになるから大歓迎、という場合もある。そこは権利保持者の判断になるということだろう。

 

 

Nympheaさんは、ブログ記事の最初に大前提として「私は違法アップロードが良いとは言っていない」としているし、「私は無断転載する海外ファンを擁護するものでも、それを非難する側に同調するものでもありません」とはっきり書いている。

 

ただ、「無断で動画を転載しているユーザーに削除を求めるリプライを付けて回ったり、海外ファンを一括りにして無法者扱いする傾向はどうか」と問題定義をしているだけなのだ。ここにも、「無断転載に我慢ならない日本のファンが、自分のTLで「無断転載はやめて!」と主張するのは個人の自由」と但し書きをつけている。

 

 

つまりNympheaさんの言いたいことは、以下につきる。

 

著作権侵害は確かに違法ですが、この違法行為に対して差し止めや賠償金を請求する権利があるのは著作者(個人または法人)だけであり、刑法上の罰則(悪質な場合は最大1000万円以下の罰金、10年以下の懲役が科せられることも)も定められていますが、著作者側から訴えがあった場合にのみ適用されます。」

 

つまり、第三者には「削除を求める」権利も資格も無いという点である。

 

上記の記事を読んで問題だと私が思う部分は、「海外ファンをひとくくりにして無法者扱いする傾向」である。 本当にそんな傾向があるのだとしたら、日本人の羽生ファンの評判は、海外で地に落ちるであろう。

 

「○○人は違法なアップロードをする」とか「日本ファンならしない」というような言い方は、これまでもアイスショーのマナーをうるさく言う人たちの間で「○○人ファンは、ウルサイ、マナーが悪い」と海外からのファンをひとくくりにした感想を平気で述べたり、SNSで発したりしているのと同じ言いぶりである。

 

これは根拠のない誹謗中傷であり、日本も人種差別撤廃条約に加盟している以上、国籍、人種、民族等を理由とする差別的言動は許されないとなっている。 また海外には人種差別に対してもっと厳しい法律があるので、人種差別的発言やヘイトは被害者からの訴えがあれば海外の警察から調査がはいるかもしれない。

 

フランスのサッカーのワールドの際に、パリのメトロで人種差別行動をとったイギリス人は、ロンドンの空港で逮捕されたが、別に被害者からの訴えはなかった。彼の言動が録画され、ツイッターに載ってしまったからである。日本人は人種差別的発言に無自覚なところがあるが、気を付けた方が良い。

 

 

ところで、羽生氏には世界中にファンがおり、各国のスポーツ鑑賞の仕方の文化はもちろんそれぞれだ。私は海外でスケートを見る機会が多いので、観客がかなり自由な態度で見ることに慣れている。演技中は静かにしていても、それ以外のところでは周りの人と結構大声で話したりするのだ。演技を終えた選手などもあいている客席に座って、隣の選手と大声で話したり笑ったりするような、そんな雰囲気。

 

日本で初めてアイスショーを見に行って、まだ演技が始まってもいない時に、一緒に行ったイタリア人の友人にリンクにでてくる日本人選手の説明をしていたら、隣席の日本人女性から犬にでもいうように「シーッ!!」と言われて大変に感じが悪かった。この女性は演技が始まると身を乗り出すので、視界を遮って大変に邪魔になった。その夜はその女性が隣にいたことで、せっかくのアイスショーの楽しさが50%は減ったのである。友人も鼻白んでいた。ちなみに、羽生さんは出演していないプリンスアイスワールドというショーであった。

 

アイスショーは芸術ではあるが、スポーツでもある。シーンとしてみなくてはならないオペラやバレエ、クラッシック音楽とはちょっと違う。一言も発するなと言わんばかりのマナー警察みたいなファンは、自分の態度が楽しみに来ている他の観客にダメージを与えていることには気が付かないのだろう。 自分が正しいと思うマナーを人に押し付けるばかりではいけないと思うのだ。こういう日本人ファンは、海外に来ていても周りの客に自分の正義を押し付けようとするから始末に悪い。

 

同じものを好きなファン同士、こんなにギスギスしないでもっとおおらかにできないのだろうか。

 

 

動画の違法アップロードについては、言い出したらキリがないだろうが、Nympheaさんと同じ、「私は違法アップロードが良いとは言っていない」ということを大前提として言いたい。

 

フィギュアスケートファンで、ニコ動やYoutubeで、押しスケーターの過去演技の動画を一度も見なかった人がいるだろうか。

 

例えばソチオリンピック以来、羽生ファンになったけれど、彼の13歳の時の演技が観たい!となった時、動画サイトにアップされている彼の過去演技の動画をありがたく見たんじゃないだろうか。これは誰かが昔の放送から「違法アップロード」しなければ、どこにも残されていなかった映像だ。実は私はそういうアーカイブをしてくれるアップローダーに感謝したいぐらいだ。スケートファンでなければ払わない労力を彼らは払って、貴重な資料を、整理して取っておいてくれている。

 

なにより、スケートのコーチたちが動画サイトにアップロードされているトップ選手たちの過去演技動画を使って、若手選手たちに見せて指導をしている。動画サイトにアップされている動画のおかげで、フィギュアスケーターたちの技術が躍進的に進歩した、と私はイギリスのコーチたちから聞いているのだ。

 

そして選手たち自身だって、自分が持っていない過去の自分の演技の動画を誰かが動画サイトにアップしてくれているのを見つけて、喜んでいたりする。動画サイトに自分の動画がいくつ上がっているか、アクセスがいくつついているか、それも人気のバロメーターになるかもしれない。

 

それに、フィギュアスケートの試合やアイスショーなど、一切放送しない国だってあるのである。そういう国にだって、オリンピックで彼を見てファンになった羽生ファンはいるのだ。彼らが羽生さんの演技をアップデートする唯一の手段が動画サイトやXだろう。

 

もっとも、日本のようにテレビ局が放送権を買うと、中途半端に深夜などに録画を放映し(しかも選手全員は見せないし、放映は関東だけだったりする)、その上でISUの無料のライストをブロックしたりするし、フジテレビなど、よその国で他局が放映した映像まで動画サイトでブロックするので大変に迷惑な場合もあるが、羽生さんに限れば、いまは有料の配信で日本では金さえ払えば観ることができる。

 

しかしだいぶ改善されてきたとはいえ、海外ではこの有料配信ですら見られないこともあるのだ。現に私もイギリスにいた時に羽生さんのアイスショーを見られないことがあった。

 

フィギュアスケートがスポーツとして生き残るためには、広く一般の人々の間にプレゼンス(存在感)が必要なことは確かである。 テレビが放映しなかったり、放映したとしても深夜だったり一部地域だったりするなら、このスポーツはどんどんすたれていくだろう。

 

それを知っているから、ISUも無料のライブ放送をしているんだろうし、ファンがそれを切り取ってSNSに使うことをうるさく指摘しないのだろう。

 

 

ここで上記のNympheaさんの指摘にもどる。

 

「著作権侵害は確かに違法だがこの違法行為に対して差し止めや賠償金を請求する権利があるのは著作者(個人または法人)だけ」という部分である。 まったくそのとおり、Nympheaさんは事実を指摘しているだけだ。

 

確かに違法かもしれない。しかし、いくら私たち外野が騒いだところで、事態は何も変わらないのだ。そして、当事者がこれを問題だと思うのなら、フジテレビやオリンピックがやっているように動画サイトでブロックをするはずだ。 それをしていないのは(BBCやユーロスポーツなどは、ほぼ放置である)、もう放映してしまったコンテンツについて、ファンのコミュニティでシェアするぐらいのことは、かまわないと考えているからではないか。

 

それどころか、労せずしてPRの効果があるから、大いにやってくれと思っているかもしれない。ショービズもスポーツも、人の口の端にのぼらなくなったら、そこにお金は集まらない。すたれていく一方だろう。

 

かつて美術館や個展で、作品の撮影をすることは禁じられていることが多かった。(今でも、フラッシュをたくことは禁止である。作品を傷めるので)しかし今では撮影は自由、SNSにアップロードもOK,そうしてもらうことで、彼らはお金もエネルギーもかけずにたいへんなPR効果があることをよく知っているのだ。

 

数年前にロンドンにX Japanが来て公演した時、「撮影OKです、ソーシャルメディアにばんばん載せてください!」とやっていた。 写真も動画もOKで、ツイッターはXファンの撮った動画であふれた。 

 

YOSHIKIさんと仕事でお会いした時も、私の私的ブログに載せる写真については、細かいことは一切言わず、どれを載せてもらっても結構です、と非常におおらかだった。そこは、営業上のスタンスとははっきりと分けていたように思う。

 

 

今やイベントのプロは、イベントを企画したところが出すPRよりも、一般人がTikTokなどに乗せるショート動画の方が効果があることを知っているのだ。アマ〇ンで購入者のリビューを読んでから商品を買う人がほとんどのように、我々は一般人の感想を知ってから行動する。「口(くち)コミ」ほど強いPRはないのである。現代の「口コミ」は、SNSである。情報はネットを介して伝わっていく。

 

 

ところで、これまで動画サイトでさんざん過去の演技動画を見てきた人が、ここにきて急に違法アップロードや無断転載を攻撃しているのはなぜだろうか。その理由として挙げられているのが「野村萬斎さんに迷惑をかける」ということらしい。

 

今回、Xで野村萬斎さんとの共演の映像が出回り、それは確かに無断転載であって、狂言という日本の伝統的芸能を軽んじたと考えた人々もいたかもしれない。

 

しかし、こうは考えられないか。

 

海外の人に限らず日本人だって、これまで狂言に興味の無かった人たちが萬斎さんの羽生さんとの共演により、狂言というものに興味を持った可能性が大変に大きかったということを。 ああ狂言ってこういう舞なんだ、こういうことなんだ、と。

 

ショート動画がXで世界に拡散したこと、たとえ無断転載だったとしても、世界のつづうらうらの羽生ファンのところへ萬斎さんの狂言との共演が届けられたことの意義は大きいんじゃないか、と私は思っている。

 

オリンピックのSEIMEIで羽生さんが陰陽師を演じたことで、日本の文化が世界に広まった。音楽や衣装だけではない。この作品のテーマはなんだ、陰陽師って何だ、という興味である。あのあと、萬斎さんの陰陽師の映画を観たという人も多いんじゃないか。

 

私が萬斎さんなら、著作権うんぬんをうるさく言うよりは、ファンのやることには片目をつむって、それが生み出すポジティブな効果の方に目を向ける。

 

おそらく、多くのコンテンツの著作者が、そのファンが悪意や儲け目的ではなく、彼らの作品をちょっと借りて(ショー全編とかはもちろんアウトだが)動画サイトやXで短い動画を発信することで、失うものよりも得るものの方が大きいことを知っているんだろうと思う。だから、著作権侵害ということをいちいち言わないのだろう。

 

もちろん相手がプロだったり、盗作をすることで儲けを出したりしている場合は別である。これらが厳しく裁判になっていることは、東京オリンピックのエンブレムなどの件でもわかる。

 

私は2012年に、初音ミクの生みの会社、クリプトン・フューチャー・メディアのCEOの伊藤氏をロンドンに呼んで、講演をしてもらった。テーマは「リーダーシップとイノベーション」である。 ここでは、著作権についても話していただいた。

Leadership and Innovation - 大和基金

 

 

初音ミクは、今は良く知られるボーカロイドのソフトであるが、クリプトン・フューチャー・メディアは当時そのソフトに可愛い女の子のキャラと声をつけて発表し、それについて著作権を解放した。つまり、初音ミクのソフトを使ってニコ動などで発表するファンたちが、ミクをどのように使用しても、著作権侵害を問わない、ということにしたのである。

 

 

 

 

そして、それこそが初音ミクが世界中で爆発的にヒットした理由であった、と伊藤氏は話した。当時、ちょうど日本ではニコ動、世界ではYoutubeが一般人の発信ツールになりつつあったのだ。

 

初音ミクの特徴を持ったキャラを、ファンたちは自由にデフォルメしたり、自分がコスプレしたりして、SNS上で自分の作曲を発表したり、「うたってみた」を発表したのである。 そういう中からADOや米津玄師が生まれたのだ。

 

 

もちろん、日本の車のメーカー、トヨタが初音ミクをキャラクターとして使った時には、著作権料が発生した。相手は企業であり、ミクを営利目的に使うからである。 そこはしっかりと分けるスタンスである。

 

【海外展開】初音ミクが TOYOTA USA「COROLLA」のCMに登場です! – 初音ミク公式ブログ

 

このセミナーの時、イギリス人聴衆の中には政府の著作権担当の人たちも何人かいて、「それでは御社はどのように利益を出しているのか」「どんなビジネスモデルなのか」と質問が相次いだ。

 

そして「著作権侵害を問わなければ、中国やブラジルにすぐに真似られてしまう」という意見が出た時、「文化とは模倣することから広がっていく。真似られたら、次のアイデアを出せばよい。」と伊藤さんが答えていて、「へえ、かっこいいな!」と思ったのを覚えている。まさに、「リーダーシップ&イノベーション」というテーマにぴったりのスピーカーさんであった。

 

ところで、Kポップのダンスを真似てTik Tokに載せたりしている人も多いが、振付師の著作権侵害になるのだろうか。 では、羽生氏の写真を使ったファンアートについてはどうだろうか。写真家さんは、自分の写真を使ったといって羽生ファンを訴える権利があるかもしれないし、羽生さんは肖像権を侵害されたと言えるかもしれないが、そういう話は私はこれまで聞いたことがない。

 

一方、日本では学校の音楽の授業で使う楽曲や、ピアノ教室で使う楽曲まで著作権料を取るということを言い出した人たちがいて、論議を呼んでいた。

 

つまり、著作権侵害を訴える権利は著作者にあり、著作者がこれはダメ、これは見過ごそうと思う範囲は人によって違う、ということなのである。

 

アイスショーの2時間半にわたる演技すべてを録画し、それをまるまるアップロードすれば、その悪質性に疑問の余地はないだろうが、2-3分の短い動画をファン同士がシェアすることの害はどのぐらいあるのだろうか。

 

他にアイスショーを見る手段の無い人がそれを見て、DVDが出たら輸入して買おう、と思うかもしれないではないか。私も浅田真央さんのアイスショーを見に行けなかったが、そのDVDは1万円以上も出して手に入れた。どこかでショーの一部の動画を見て、気に入ったからである。

 

私の夫は自分の好きなスケーターさんのDVDを集めているが、海外から高い関税を支払ってオンラインで直接買う方法だってあるのだ。

 

またXに載せられた短い動画をみて、日本に来た時に野村萬斎さんの狂言を観たい、という外国のファンだっているかもしれない。日本の伝統文化は、羽生さんとの共演であきらかに客層が世界に広がったのである。

 

 

著作権についてはグレーゾーンも多いし、著作権を持っている人たちもそれぞれの考え方をしていると思う。ファンのすることであれば宣伝にもなるしOK、という人もいるだろうし、上記のように学校の授業で使うことにも料金が発生するという考えの人もいるだろう。 どちらも、著作権者がどう感じているか、ということにかかっていると思うのだ。

 

ちなみに、アイスショーなどの著作権を持っているのは、スケーターさんや演者ではなく、アイスショーを企画運営し、放映権などを持っている会社であることが多い。彼らはもちろん著作権に関するプロを雇っていて、必要とあればフジテレビがやっているように、動画サイトやSNS上の動画をつぶしまくることは可能だ。

 

 

 

なので、Nympheaさんの言うように、「著作権侵害は確かに違法ですが、この違法行為に対して差し止めや賠償金を請求する権利があるのは著作者(個人または法人)だけであり、刑法上の罰則(悪質な場合は最大1000万円以下の罰金、10年以下の懲役が科せられることも)も定められていますが、著作者側から訴えがあった場合にのみ適用されます」ということを忘れてはいけないと思うのだ。

 

だれも、他の人の頭の中は分からない。 誰かの気持ちを代弁しようというのは、危ういことだと思った方が良いと私は考えている。

 

たとえ親子と言えども、相手の気持ちや考えを尊重するには、彼らが何かを口にする、あるいは行動をとる前に、勝手にこちらで決めて勝手に動かないことだ。

 

「○○のために」あるいは「○○は私が守る」といった気持ちでうかつに行動をとることで、相手にとって、実は有難迷惑になっていないか、それは常に考えた方が良い。

 

 

 

ちまたで悪評の、迷惑な「私人逮捕系」ユーチューバーとはいわないが、自分の考える「正義」だけで人を犯罪者扱いして弾劾したり、相手の行動を支配しようとしたりすることには問題があると思う。

 

ましてや批判したい相手を人種で十把ひとからげのようにして公共のメディア(SNS)で非難すれば、今度は自分が違法行為を働くことになるという点を考慮した方が良い。

 

無断投稿に対し、自分がどういう感想を持っているかを発表することは誰も止められない(人種差別的な言及はアウト)し、それはNympheaさんも最初に断っているが、相手に「投稿を取り下げろ」ということを命令する(差し止め)ことができるのは、著作権者あるいは版権・肖像権などを持つ当事者だけだということは、忘れない方が良い。

 

…ということで、私はNumpheaさんの理路整然としたご意見に100%同意したいと思っている。

 

また、しょこらあでさんのブログもためになる情報が満載なので、ぜひ読んでみていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

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