週刊エコノミスト Online サンデー毎日
充分な成長が実感できた悠仁さま「成年」会見 成城大教授・森暢平
◇社会学的皇室ウォッチング!/146
秋篠宮家の悠仁さまの記者会見が行われた。歴史と平和に関する言及や、学びへの意欲の具体性など18歳の青年として充分な成長が分かる会見であった。(一部敬称略)
記者会見は3月3日午後2時から約30分、赤坂御用地内の赤坂東邸で行われた。私が注目したのは筑波大附属高2年生であった2023年11月の沖縄への修学旅行についてである。「沖縄を訪れ、歴史や平和について考える機会となりました。(略)離島に行った際にはホームステイも経験しました。洞窟や海岸を案内してくださったり、海の幸を豊富に使ったバーベキューを振る舞ってくださったりしたことは忘れられない思い出です」
離島とは、沖縄の伊平屋(いへや)島のことだろう。沖縄戦が開始された2カ月後の1945年6月3日朝、米海兵隊は沖縄本島から北西約32㌔離れたこの島を100隻以上の船団で囲み約2時間、山の形が変わるほどの激しい艦砲射撃を加えた。直後、約6000人の兵士がこの島に上陸した。島民は約2000人であり、島に日本兵はいなかった。それにもかかわらず、約20平方㌔㍍の小さな島は突然戦場になった。特攻攻撃に苦しむ米軍が、レーダー施設などを設置する拠点としてこの島に目を付けたのである。「オペレーション・イヘヤ」と呼ばれる作戦だった。悠仁さまが言う洞窟とは、島北部の「くまや洞窟」のことであろう。ビーチバレーやシュノーケリングだけでなく、島の歴史に思いを寄せることは悠仁さまにとって大切な経験だっただろう。
悠仁さまは今年2月12日、京都府の舞鶴引揚記念館もひとりで訪れている。昭和20年代、ソ連・シベリアや朝鮮半島から帰国した人のうち、約66万人が引き揚げ者として舞鶴に上陸した。「苦難の引き揚げ」と一言で語られることが多いが、帰国後、実は「厄介者」扱いされたその後など、今も語りづらい歴史がある。記者会見で、悠仁さまは「引き揚げのお出迎えの経験者の方や学生語り部の方からお話を伺う機会がありました。その中で当時の人々の思い、そして当時の状況をしっかりと深く受け止め次の世代に語り継いでいくことの重要性を感じました」と語った。
◇広がる知的関心 「水田」が契機
「秋篠宮家では『帝王教育』がなされていない」と主張する人たちがいる。戦前、昭和天皇が受けたような帝王教育を理想とする思想に基づく。しかし、何をもって帝王教育と呼ぶのか、今の時代に天皇として必要な資質は何かを論じる前に、昔と違うことだけをもって「帝王教育が不充分」と断ずる主張に私は同意できない。広島、長崎、小笠原など戦争の被害を受けた主要な場所を訪れ、そこで過去に思いをはせる。それは21世紀を生きるすべての若者に必要なことであり、ことさら「帝王教育」と称する必要もない。
学問的関心の変化についても知ることができた。
「幼少の頃から昆虫には興味を持っておりましたが、最近は植物にも関心を持っています。昆虫と植物を観察していますと、虫が食べる草である食草や、生息環境、受粉などの観点で多く関連があると思います」と述べたことからである。
赤坂御用地に水田が造成され、米作りが始まったのは2016年、悠仁さまが小学校4年生のときだ。面積約25平方㍍、畦道(あぜみち)で2つに分かれた小さな水田は、「杏(あんず)水田」と名付けられた。いわゆる赤トンボは、田に水が入ると卵が孵化(ふか)して幼虫(ヤゴ)となり、このヤゴは水のなかで成長し、稲が育った初夏、稲の茎につかまって羽化してトンボになる。悠仁さまの研究によって、赤トンボが「杏水田」で産卵、孵化していることが確認された。今回、成年にあたって小学校4年生の悠仁さまが稲刈りをする写真などが公開された。
悠仁さまの当初の興味は、トンボという昆虫そのものであった。しかし、例えば、農薬による環境の悪化が市街地のトンボの減少に影響するなど、生物と植物の連関(エコシステム)に悠仁さまの関心は広がっている。小学生時代の水田づくりを起点とするものだ。
会見での悠仁さまの発言によれば、米作りと野菜栽培は趣味であるという。「(収穫したお米や野菜を)おいしく家族で食べることができたときはうれしく感じます」と付け加えた。母・紀子妃の記者会見(18年)でも、野菜栽培は「私たちがリクエストをすると、それにけなげに応えてくれます」と紹介されたことがある。秋篠宮ご夫妻が求めると、栽培する作物を増やしてくれるというのである。
◇成長こそが重要 残念な結婚質問
もうひとつ注目したのは、悠仁さまが、関心範囲としてバイオミミクリーという分野に言及したことである。生物の優れた性質を模倣して、新しいテクノロジーを生み出す考え方である。bio(生物)とmimicry(模倣)を組み合わせた造語だ。悠仁さまはトンボの翅(はね)をプロペラに応用する例を挙げた。自然界の形状、プロセスなどを学び、模倣していくことで、持続可能なイノベーションを生み出そうという発想は近年、注目を集めている。悠仁さまはどちらかといえば、基礎生物学に関心があるかと思っていたが工学との隣接分野にも興味を持つことが分かった。
大学入学前の知的な若者の興味関心が広がるのは自然なことで、頼もしさを感じる。教育とは、若者の成長を促し、豊かな人間性を育む営みのことであるから悠仁さまへの教育は年齢以上の成果があるといってよい。一方、徳を学んだ君主を抱くことへの幻想を追究する帝王教育は、教育される側の関心を度外視してしまう。多様性を重視する現代教育の理念からも乖離(かいり)する。
記者からは「結婚についてのお考えと理想とする時期やお相手像」という定番質問も出た。宮内記者会としては皇位継承第2位の皇族に聞かざるを得ないという考えなのだろうが、いかにも低次元で旧時代的である。18歳になったばかりの悠仁さまが答えようもない質問を投げかける記者たちの見識を疑った。
<サンデー毎日3月23日特別号(3月12日発売)より。以下次号>
■もり・ようへい
成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など