「朝食はコンビニで」温泉旅館で素泊まりが増加 旅館は困ると思いきや…宿泊客と”ウィンウィンの関係”? 有馬温泉で徹底調査
温泉街に生まれた「素泊まり限定の宿」
1泊2食付きが当たり前だった有馬温泉で、素泊まり限定の宿が生まれています。 有馬温泉のメインストリート湯本坂に面する老舗旅館「上大坊」では、2018年から素泊まり限定の宿「八多屋」を運営しています。8部屋のうち、7部屋は家族やカップル向けで1室2万円ほど。1部屋だけベッドを置いたシングルルームがあり、1室1万2千円ほど。こちらはワーケーションにも最適です。 (上大坊 堂加雅丈代表)「海外の人も2食付きを求めない人も多いですし、(素泊まり限定で)いけると思いました」 部屋に風呂はなく、シャワールームのみ。その代わり、歩いて1分の場所にある上大坊の温泉に無料で入ることができます。他の外湯も徒歩圏内にあり、部屋にある浴衣や下駄を身に着けて、温泉街の風情を楽しむこともできます。全体の稼働率は6〜7割程度で、インバウンド客や若いカップルの利用が多いとのことです。
素泊まり限定が増える背景に”夜の賑わい”
有馬温泉では、八多屋のような素泊まり限定の宿がこの10年で新たに5軒ほど生まれました。背景には、温泉街に“夜の賑わい”が生まれてきたことがあります。 (堂加さん)「私らみたいな小さなところ(宿)は街中ですし、部屋だけ提供して、老舗の店いっぱい並んでますから、土産はそこで買ってください、食事も近くに美味しい店があるので食べてくださいと。自由に自分で組み立てられるんじゃないかなと思います」 宿泊と食事。これまでセットだった2つのサービスを切り分けて提供する考え方は”泊食分離”(はくしょくぶんり)と呼ばれ、旅館業界で徐々に広がっています。
”泊食分離”に必要な温泉街の魅力とは
観光協会長の金井啓修さんは、旅館業界で働いて約50年の大ベテラン。現在は老舗旅館「陶泉 御所坊」の社長です。人手不足に悩む旅館業界は、”泊食分離”をどう受け止めているのでしょうか。 (金井会長)「例えば100人、お客さんを1泊2食で泊めようとすると、100人従業員が必要。50人は食事出すけど、残り50人は料理出しませんという素泊まりプランで売り出すと、従業員は60人か65人ぐらいで回せる。稼働率は高いけど人手がないという意味で、あえて素泊まりだけにしているというのが有馬の場合は確かなんじゃないかな」 金井会長によると、大阪や神戸から気軽に来られる有馬温泉でも、地元の食事を手軽な価格で楽しみたいという人が多いようです。
(金井会長)「街の受け入れ態勢や雰囲気が、夕食を外で食べてもいいような温泉街になっているかどうかで、各地の温泉街でだいぶ差が出てきている。街の魅力ができていないと素泊まりの魅力もないということになりますね」 旅館業界にとっては”食事ナシ”のプランを売り出すことは、人手不足でも稼働率を上げる工夫となります。まさに泊食分離は旅館とお客さんにとって、ウィンウィンなのかもしれません。