祖母に育てられたウエディングプロデューサーが”優等生カップル”に伝えたかったこと
「おばあさまと歩きませんか」
私が新婦の夏季さんに違和感を持ったのは、夏季さんからおばあさまの話が出てこなかったことでした。結婚式で何をやるか。打ち合わせでは、家族、友人に対しては、何を伝えたいか、どう伝えるか、と話が進んでいくのに、おばあさんのことには触れないのです。注意して聴いていると、何か諦めのようなものを感じました。 かといって、当人が言わないということは、言いたくない話かもしれません。私だったら、どうするか、もし、言っても仕方がないと諦めているのだとしたら、「まだ時間がある」「何でもできる」と伝えたい。 そんな風に考えて、自分の祖母に対する想い、後悔の体験を伝え、「おばあさまと一緒にバージンロードを歩きませんか?」と提案したのでした。 ただ、当時はコロナ禍真っ只中のうえに、おばあさまの体調は優れず、歩くのもままならない状況。 出席できるかも分かりませんでした。それでも、夏季さんと歩くために、おばあさまはずっと練習を重ねてくださっていました。
「生きているとこんなことがあるのね」
結婚式当日は、穏やかな秋晴れが広がる朝でした。新郎新婦のお支度が整い、まずはふたりのファーストミート。緊張した面持ちの雄大さんと夏季さんは目が合うと、感極まりながら愛おしそうに言葉を交わしていました。 それからご家族とご対面。まだゲストも誰もいない時間です。 そこで事前にお預かりしていた親御様からの手紙を渡しました。ふたりからの手紙を渡し、親子水入らずの時間に、何を話していたかは分かりません。けれども親子の間で手を取り合い、目を見て気持ちを伝え合っている光景に、ふたりが大切な家族と向き合う準備が整えられたように見えました。 ついに挙式本番。まず雄大さんが少し緊張しながら入場します。ゲストが優しい眼差しで見守る中、続いて夏季さんがお母さまのベールダウンで送り出されます。ドレス姿の新婦の前に立った瞬間、おばあさまは顔を手で覆い、声をあげて泣かれました。 「綺麗ね。嬉しい。生きているとこんなことがあるのね……」。 おばあさまは杖を使わず、夏季さんと手をしっかりとつないで10mほどのバージンロードをゆっくりと進みました。この時間が1秒でも長く続きますように。この手の感触が、このあたたかさがずっと残り続けますように――。 祭壇の前に到着したおばあさまは雄大さんに一言、「よろしくね」。 まっすぐに手をとる雄大さんの姿がとても頼もしく、夏季さんの目にも涙が浮かんでいました。私は、ただその光景に見入っていました。感動のあまり、ずっと体が震えていました。 マスクをしての結婚式でしたが、大切な方々に見守られながら誓いを包み結びました。あたたかい拍手の真ん中にいるふたりの嬉しそうな顔を見て、私はやっとホッとしたのでした。 バージンロードは誰と歩くかを決めるだけの問題ではありません。そこには、深い想いが込められているのです。大切に思う人がいて、向き合う勇気を持てたなら、バージンロードは誰と歩いても良いですし、結婚式の形も内容も自由で良いのです。 コロナも落ち着き、結婚式から3年半が経ちましたが、いまだにおばあさまは結婚式の話をすると、泣きながら喜んでくださっているそうです。 【見学時見積もり額:28名320万円】 *トキハナへの相談料は無料です。
渡辺 優子(「トキハナ」ウエディングプロデューサー)