結婚式のバージンロード。新婦の”本音”を見抜いたプロデュ―サーが抱える「後悔」
配信
家族から預かった大事な手紙
ふたりが結婚式に求めていたのは2つのことでした。 ひとつは別々の家庭で育ってきたふたりが、決意をもって一つの家族になることの証明。翌日ご入籍予定だったので、式後のパーティーの中で婚姻届にサインをすることは決まっていました。 ふたつ目はご家族や大切な方々に感謝の気持ちを伝えること。そのふたつを際立たせるために、式自体はシンプルな形を理想としていました。ケーキカットも、余興もなし。家族やゲストとの時間を少しでも長く、濃く作りたい。それがふたりの希望でした。 ふたつの希望をどんな形にすればいいか。ふたりが生まれてから結婚に至るまで、どんな時間を過ごしてきたのか、何を大事にしてどんな方々と関わってきたのか、ご家族や友人の話、挫折や転機、ゲストに、家族に何を伝えたいのかなど、時間をかけて丁寧に伺いました。その中で、私からご家族にも連絡をさせてもらい、結婚式当日にお渡しする手紙を預かりました。 そこには、それぞれが生まれた日のことや、名前に込められた想い、幼い頃のエピソードなど、親から子へ伝えたいことがぎっしり詰まっていました きっと何度も書き直して、想いを込めたのでしょう。お預かりした手紙は私の判断で、結婚式当日にお渡しすることにしました。 その後も準備は滞りなく進みますが、私は少しだけ引っかかるものを感じていました。ふたりは本当に伝えたいことをすべて素直に話してくれたのでしょうか。何かを見過ごしている気がぬぐえないのです。 それは、ふたりが家族になる日なのに、すべてが「これをしたらみんな喜んでくれるかな」の軸だけで決まっていくことへの違和感だったかもしれません。本当にふたりがやりたいこと? それとも、「やった方がいい」と考えている? 家族に想いを伝えるベストな形になっているのでしょうか。
ふたりと“私”に共通すること
結婚式本番まで1週間を切っても、私はまだ迷っていました。すると信頼しているディレクターからこう言われました 「結婚式はいろいろな演出ができるけれど、本当に大切なのは、それぞれがどんな人生を経てきて、これからどんな人生をふたりで歩んでいくのかを伝えるかじゃないかな。決まったやり方にとらわれず、ふたりが伝えたい気持ちを形にするにはどうすべきか。素直に考えてみたら」 はっとしました。そしてこれまで交わしてきた言葉ひとつひとつを振り返り、打ち明けてくれた時の声や表情を思い返してみました。すると、私の中からプロデューサーとしてではない、別の、強い感情が沸き上がってきたのです。 それは強い感情移入でした。 お忙しい両親に代わって、祖父母と曽祖母に世話をしてもらったという雄大さん、お父様代わりのおばあさまとお母さまに愛されて育った夏季さん。おふたりの共通点はまた、私との共通点でもあったのです。 私は、祖母に育てられました。母はずっと忙しく、学校行事に来てもらった記憶は一度もありません。「父」という存在も知らなかった。 幼い頃は祖母のことがとても怖くて逃げ回っていたけれど、今になってわかります。祖母は、強く痛いくらいの愛情を注いでくれていました。今の私が好きなものは祖母が授けてくれたものでできています。 そんな祖母に感謝を伝える結婚式をしたかった。けれども、叶いませんでした。 以前、祖母とふたりで散歩をしていた時のことです。ふたりで、ただ、手を繋いで歩いただけなのですが、祖母の手があまりに小さくて、「かわいい」と感じたことを強烈に覚えています。幼い頃は怖かったけど、大きくて頼りになる、父親のような存在でもあった祖母。そんな祖母を「かわいい」と思ったのは初めてでした。 もう手を繋ぐことは叶わなくなってしまいましたが、あのときに祖母と手を繋いで歩いた時間は私の中で宝物のような、お守りになっています。 「もし、祖母が生きていたら……。私は一緒に歩きたかった。もっと見せたい景色があった。伝えたいことがあった」 その後悔が、今も残っていました。 夏季さんから、おばあさまが父親のような存在で、子どもの頃から大人になるまで、すごく厳しかったと聞いて、新婦と自分を重ね合わせていました。それが強烈な感情移入の原因でした。とはいえ、こんな話をどこまでしていいのか。自分を押し付けることにならないか。迷いに迷いましたが、 思い切って自分の気持ちを話しました。 そして、今も残る後悔について伝えた後で、「おばあさまと一緒にバージンロードを歩きませんか?」と提案しました。 ふたりは喜んで私の提案を受け入れてくれました。 ◇「おばさまと一緒にバージンロードを歩く」という、渡辺さんからの提案を喜んで受け入れてくれたふたり。けれども、当時はコロナ禍真っ只中。三密は絶対に避けるよう、繰り返し叫ばれており、特に高齢者への感染は危険とされ、誰もが外出を控えていた時期だった。 夏季さん、雄大さん、そして渡辺さんは、こうした状況をどう乗り越えたのか。実際の結婚式の様子は「祖母に育てられたウエディングプロデューサーが“優等生カップル”に伝えたかったこと」で詳しくお伝えする。
渡辺 優子(「トキハナ」ウエディングプロデューサー)