“トランプ関税”狙いは?経済政策のキーパーソンに聞く

“トランプ関税”狙いは?経済政策のキーパーソンに聞く
大統領就任以降、各国への関税措置など、さまざまな経済政策を矢継ぎ早に打ち出すトランプ氏。

自動車関税、相互関税など、日本への大きな影響が懸念されています。

トランプ氏の狙いはどこにあるのか?今後日本に何を求めてくるのか?

トランプ政権に関税政策の強化を進言した政権ブレーンの一人、オレン・キャス氏(41歳)に話を聞きました。

(解説副委員長 飯田香織/政経・国際番組部ディレクター 藤田修平)
4月6日 NHKスペシャルで放送
↓↓↓NHKプラスで配信↓↓↓
配信期限 :4/13(日) 午後9:49 まで
オレン・キャス氏は、ワシントンのシンクタンク「アメリカン・コンパス」のチーフエコノミストを務めているかたわら、バンス副大統領(40歳)やルビオ国務長官(53歳)ら、トランプ政権の若手閣僚と近い関係で、政策の進言を行うブレーンでもあります。

今回、国際交流基金の招へいにより初来日しました。

(インタビューは3月21日に行いました)

トランプ政権 関税の狙いは?

飯田香織 解説副委員長:トランプ氏は特に関税にこだわりがあるように見えます。キャスさんから見て、関税の意図は何でしょうか?
オレン・キャス氏
「関税には2つの役割があります。1つ目は『交渉の道具』としての役割です。アメリカ政府は長い間、関税を交渉に使ってきませんでした。しかし歴史的に見れば、関税を交渉に使うのは普通のことです。トランプ氏の就任後、これがうまく行ったのが、コロンビアの例です。トランプ氏は、移民がアメリカに不法入国しているとして、強制送還したいと考えていました。そこで、輸入品に関税をかけると発表したのです。すると、すぐにコロンビア政府は考えを変え、移民の送還を受け入れたのです」
オレン・キャス氏
「もう一つは『経済政策』としての役割です。アメリカには1兆ドルの貿易赤字があります。背景には、外国がアメリカの製品を買ってくれないこと、そして、アメリカ人が海外の製品ばかりを多く使っていることがあります。貿易にはバランスが必要ですが、今はそれがない状態です。関税で、価格を少し調整し、アメリカ製のものを優遇することが必要です。また、関税でアメリカ国内の製造業を活性化させることもできると思います。製造業は、社会や雇用、景気の行方にとって重要で、経済の成長にとって不可欠なものなので、守らなければなりません」
アメリカ国内の製造業復活の重要性を訴えるキャス氏。

過去に、関税をディール(交渉)の材料にすることで、それに成功した例があるといいます。
オレン・キャス氏
「1980年代の自動車についての日本との交渉が最もいい例です。当時、アメリカの自動車メーカーは日本車の輸入の急増で苦境に立たされていました。そこで当時のレーガン政権は、関税を切り札に、日本と交渉しました。すると日本の自動車メーカーがすぐにアメリカに工場を建て、サプライチェーンにも巨額投資を始めました。そして今ではアメリカで研究開発まで行っています。何百億ドルの投資 何十万人の雇用など国内に新たな産業の繁栄がもたらされたのです」
トランプ氏が国内の製造業の保護に力を入れる背景には、労働者層が置かれている厳しい経済状況があります。

一部の富裕層に富が集中する一方で、労働者の所得は伸び悩み、格差が拡大。自殺や、薬物の過剰摂取で亡くなる人が増えており、社会問題となっているのです。
オレン・キャス氏
「大卒や管理職以外の一般的な労働者の収入は1970年代とほとんど変わっていません。若い男性は70年代よりも収入が少ないという見方もあります。トランプ政権が望むのはアメリカ経済がバランスよく成長し経済成長と繁栄が広く行き渡り、大学を卒業していない、大都市に住んでいない典型的なアメリカ人がまともな生活を築き、家族を支えるいい仕事を見つけ子どもたちにいい生活を提供できるようになることです。アメリカ経済は、よりバランスの取れた成長を遂げ、その繁栄が幅広い層に行き渡るべきだと考えます。おそらく日本の皆さんはアメリカの関税措置を理不尽に感じるでしょう。しかしアメリカの視点から物事を考えると、アメリカにとっての利益は日本が望むものとは異なると認識することが大事なんです」
飯田:ただ、関税分が輸入製品の価格に転嫁されると、アメリカの消費者は、その分を負担することで、生活がさらに苦しくなる可能性もあります。どう考えますか?
オレン・キャス氏
「2018年と2019年、トランプ氏は中国に関税を課しましたが、目に見える値上げはなく、影響もありませんでした。バイデン政権のインフレの方がよっぽど大きな問題です。もしトランプ政権が他国に高い関税を課した場合、物価は上がるかもしれませんが、多く見積もっても2~3年インフレ率がほんのわずか上昇するだけでしょう」

今後の世界経済の秩序と“同盟国の役割”

トランプ氏の就任後、先行きの不透明感を増している世界経済。今後、どう変化していくのかについて、キャス氏は見通しを語りました。
オレン・キャス氏
「国際秩序はリセットされつつあります。『アメリカ側』『中国側』『どちらにも属さない国』に分かれていくでしょう。中国が世界経済に協力的で誠実ならいいですが、実際には違うからです。中国は、自由貿易や世界秩序の一員ではなく、そこに入り込み、利用しながら弱体化させようとしています。世界は多極化しています。アメリカがリーダーの役割を果たし、国際システムを決定できる世界は変化しつつあるのです」
キャス氏は、今後アメリカは、自分たちの側につく国に対し、貿易赤字などアメリカが抱える問題に共に向き合うことを求めるだろうといいます。
オレン・キャス氏
「なかでも同盟国には、多くのことを要求すると見ています。各国とアメリカが強固な同盟関係を実現するために必要なことが3つあると思います。1つ目はバランスのある貿易です。2つ目は防衛。防衛費をいくら払えばいいという話ではなく、各国が自国の防衛への責任を主体的に負う覚悟を持つべきです。そして3つ目は中国との関係です。多くの国が、中国から経済的な利益を得る一方、アメリカに安全保障を提供してもらい、経済的なコストもすべて負担してもらっています。両国から利益を享受している状態です」
オレン・キャス氏
「今後、日本も、アメリカか中国か、どちらかを選ぶ必要が出てくるでしょう。トヨタがアメリカ寄り、ホンダが中国寄りみたいなことはありえません。もし日本や他の同盟国がアメリカを第一に考えるなら、より多くのリスクをいとわないはずです。経済や安全保障の面で協力し、自国の利益のためにアメリカに不利益をもたらしてはなりません。重要なのは、アメリカ人を最優先にし、世界がアメリカをサポートするシステムを作ることです。日本が現状維持を望んでいることは理解していますが、そのような選択肢は、すでにテーブルにはないのです。今の関係を変える覚悟があるのかないのか、どちらかを選ぶ必要があります」
飯田:アメリカをサポートすることが必要ということですが、日本製鉄はUSスチールの買収にあたって、アメリカで投資を増やして雇用を維持すると主張しています。トランプ政権は買収を認めると思いますか?
オレン・キャス氏
「もし日本製鉄が『160億ドルで新規の製鉄所をアメリカで建設する』と言ったら、誰も反対せず、スタンディングオベーションが起きたでしょう。しかし、その資金でUSスチールを買収するというのであれば、それはまったく違います。日本はこれまでアメリカに多くの鉄鋼製品を売って利益を得てきました。その対価としてアメリカから何かモノを買うのではなく、アメリカの鉄鋼会社そのものを買収しようとしています。つまり『日本が鉄鋼をアメリカに売り、アメリカは鉄鋼会社を日本に売る』という構図になり、これは長期的に見て、ひどい戦略です」

アメリカは日本に何を求めるのか

キャス氏は、アメリカが日本などの同盟国に対し、これまで以上に強い圧力をかける状況は、トランプ氏の任期中、そしてその後も長く続くと考えています。
オレン・キャス氏
「去年の大統領選挙では多くの人がトランプ氏を支持しました。若い男性やさまざまな人種の有権者、さらに都市部の有権者など、本来、民主党を支持する人たちまでもトランプ氏を応援しました。共和党の政治家はみな、過去には戻らず、トランプ氏が行ってきた以上のことをするのが重要だと考えています。アメリカの中でも、第1次トランプ政権の最初の4年間をただ耐え忍べばいいと考える人が大勢いました。しかしその考えは、トランプ氏が再任されたことで、あてが外れました。再び、事が過ぎ去るのを望んでいる人もいますが、その可能性はほとんどないと思います。近年、アメリカの保守派の考え方は、『世界をどう見るか』ではなく、『国内の状況をどう考えるか』に基づくようになってきました。長い間、アメリカは壮大な国際ビジョンを掲げ、それが国内の人々にどのような影響を与えるかは二の次でしたが、今は、何よりもまずアメリカ国民の生活を優先すべきだという考え方が強まっています」
オレン・キャス氏
「この視点から考えると、理想的な国際秩序とは、アメリカの繁栄を支える仕組みです。アメリカは、真の意味で対等なパートナーを求めています。一方的にアメリカの負担となるような政策を取る国とは異なる、経済・安全保障の面でバランスの取れた新しい関係を構築する必要があるのです。今回の日本滞在中、私が特に印象的だったのは、日本の多くの人たちが、アメリカの行動を『理不尽』と思っていることです。なぜ理不尽なのかと質問をすると『アメリカはこの世界秩序から利益を得ているし、変えようとするのはおかしい』という答えが返ってきます。しかし、アメリカはこの秩序からどのような利益を得ているでしょうか?この秩序から移行することで、アメリカは何を失うのでしょうか?この質問に対して、明確な答えを私はまだ聞いていません。まずは各国がアメリカの視点に立ち、アメリカが考えるコストと利益が自分たちが望むようなものではないかもしれないということを理解する努力をするべきです」

取材を終えて

キャス氏は「日本の皆さんはアメリカの関税措置を理不尽に感じるでしょう」と述べましたが、まさに理不尽です。それだけ、今のアメリカに国際秩序を考える余裕がなくなっていると感じました。

4年間嵐が過ぎるのを待てばよいのか、と言えば高齢のトランプ氏を支えているのは意外と若い人たちで、“ポスト・トランプ”も保護主義的な動きが続く可能性がありそうです。

これまでの自由貿易体制の“ガラガラポン”が起きようとしている中で、日本はどうしていくのか?長期的な戦略が必要になっています。
解説副委員長
飯田香織
1992年入局
京都放送局、経済部を経て、ワシントン支局やロサンゼルス支局で取材
ニュースウオッチ9の編集責任者などのあと24年より現職
政経・国際番組部ディレクター
藤田修平
2020年入局
政経・国際番組部や秋田局を経て、24年から現所属
“トランプ関税”狙いは?経済政策のキーパーソンに聞く

WEB
特集
“トランプ関税”狙いは?経済政策のキーパーソンに聞く

大統領就任以降、各国への関税措置など、さまざまな経済政策を矢継ぎ早に打ち出すトランプ氏。

自動車関税、相互関税など、日本への大きな影響が懸念されています。

トランプ氏の狙いはどこにあるのか?今後日本に何を求めてくるのか?

トランプ政権に関税政策の強化を進言した政権ブレーンの一人、オレン・キャス氏(41歳)に話を聞きました。

(解説副委員長 飯田香織/政経・国際番組部ディレクター 藤田修平)

4月6日 NHKスペシャルで放送
↓↓↓NHKプラスで配信↓↓↓
配信期限 :4/13(日) 午後9:49 まで
オレン・キャス氏は、ワシントンのシンクタンク「アメリカン・コンパス」のチーフエコノミストを務めているかたわら、バンス副大統領(40歳)やルビオ国務長官(53歳)ら、トランプ政権の若手閣僚と近い関係で、政策の進言を行うブレーンでもあります。

今回、国際交流基金の招へいにより初来日しました。

(インタビューは3月21日に行いました)

トランプ政権 関税の狙いは?

飯田香織 解説副委員長:トランプ氏は特に関税にこだわりがあるように見えます。キャスさんから見て、関税の意図は何でしょうか?
オレン・キャス氏
「関税には2つの役割があります。1つ目は『交渉の道具』としての役割です。アメリカ政府は長い間、関税を交渉に使ってきませんでした。しかし歴史的に見れば、関税を交渉に使うのは普通のことです。トランプ氏の就任後、これがうまく行ったのが、コロンビアの例です。トランプ氏は、移民がアメリカに不法入国しているとして、強制送還したいと考えていました。そこで、輸入品に関税をかけると発表したのです。すると、すぐにコロンビア政府は考えを変え、移民の送還を受け入れたのです」
オレン・キャス氏
「もう一つは『経済政策』としての役割です。アメリカには1兆ドルの貿易赤字があります。背景には、外国がアメリカの製品を買ってくれないこと、そして、アメリカ人が海外の製品ばかりを多く使っていることがあります。貿易にはバランスが必要ですが、今はそれがない状態です。関税で、価格を少し調整し、アメリカ製のものを優遇することが必要です。また、関税でアメリカ国内の製造業を活性化させることもできると思います。製造業は、社会や雇用、景気の行方にとって重要で、経済の成長にとって不可欠なものなので、守らなければなりません」
アメリカ国内の製造業復活の重要性を訴えるキャス氏。

過去に、関税をディール(交渉)の材料にすることで、それに成功した例があるといいます。
オレン・キャス氏
「1980年代の自動車についての日本との交渉が最もいい例です。当時、アメリカの自動車メーカーは日本車の輸入の急増で苦境に立たされていました。そこで当時のレーガン政権は、関税を切り札に、日本と交渉しました。すると日本の自動車メーカーがすぐにアメリカに工場を建て、サプライチェーンにも巨額投資を始めました。そして今ではアメリカで研究開発まで行っています。何百億ドルの投資 何十万人の雇用など国内に新たな産業の繁栄がもたらされたのです」
当時の日本メーカー アメリカ工場
トランプ氏が国内の製造業の保護に力を入れる背景には、労働者層が置かれている厳しい経済状況があります。

一部の富裕層に富が集中する一方で、労働者の所得は伸び悩み、格差が拡大。自殺や、薬物の過剰摂取で亡くなる人が増えており、社会問題となっているのです。
オレン・キャス氏
「大卒や管理職以外の一般的な労働者の収入は1970年代とほとんど変わっていません。若い男性は70年代よりも収入が少ないという見方もあります。トランプ政権が望むのはアメリカ経済がバランスよく成長し経済成長と繁栄が広く行き渡り、大学を卒業していない、大都市に住んでいない典型的なアメリカ人がまともな生活を築き、家族を支えるいい仕事を見つけ子どもたちにいい生活を提供できるようになることです。アメリカ経済は、よりバランスの取れた成長を遂げ、その繁栄が幅広い層に行き渡るべきだと考えます。おそらく日本の皆さんはアメリカの関税措置を理不尽に感じるでしょう。しかしアメリカの視点から物事を考えると、アメリカにとっての利益は日本が望むものとは異なると認識することが大事なんです」
飯田:ただ、関税分が輸入製品の価格に転嫁されると、アメリカの消費者は、その分を負担することで、生活がさらに苦しくなる可能性もあります。どう考えますか?
オレン・キャス氏
「2018年と2019年、トランプ氏は中国に関税を課しましたが、目に見える値上げはなく、影響もありませんでした。バイデン政権のインフレの方がよっぽど大きな問題です。もしトランプ政権が他国に高い関税を課した場合、物価は上がるかもしれませんが、多く見積もっても2~3年インフレ率がほんのわずか上昇するだけでしょう」

今後の世界経済の秩序と“同盟国の役割”

トランプ氏の就任後、先行きの不透明感を増している世界経済。今後、どう変化していくのかについて、キャス氏は見通しを語りました。
オレン・キャス氏
「国際秩序はリセットされつつあります。『アメリカ側』『中国側』『どちらにも属さない国』に分かれていくでしょう。中国が世界経済に協力的で誠実ならいいですが、実際には違うからです。中国は、自由貿易や世界秩序の一員ではなく、そこに入り込み、利用しながら弱体化させようとしています。世界は多極化しています。アメリカがリーダーの役割を果たし、国際システムを決定できる世界は変化しつつあるのです」
キャス氏は、今後アメリカは、自分たちの側につく国に対し、貿易赤字などアメリカが抱える問題に共に向き合うことを求めるだろうといいます。
オレン・キャス氏
「なかでも同盟国には、多くのことを要求すると見ています。各国とアメリカが強固な同盟関係を実現するために必要なことが3つあると思います。1つ目はバランスのある貿易です。2つ目は防衛。防衛費をいくら払えばいいという話ではなく、各国が自国の防衛への責任を主体的に負う覚悟を持つべきです。そして3つ目は中国との関係です。多くの国が、中国から経済的な利益を得る一方、アメリカに安全保障を提供してもらい、経済的なコストもすべて負担してもらっています。両国から利益を享受している状態です」
オレン・キャス氏
「今後、日本も、アメリカか中国か、どちらかを選ぶ必要が出てくるでしょう。トヨタがアメリカ寄り、ホンダが中国寄りみたいなことはありえません。もし日本や他の同盟国がアメリカを第一に考えるなら、より多くのリスクをいとわないはずです。経済や安全保障の面で協力し、自国の利益のためにアメリカに不利益をもたらしてはなりません。重要なのは、アメリカ人を最優先にし、世界がアメリカをサポートするシステムを作ることです。日本が現状維持を望んでいることは理解していますが、そのような選択肢は、すでにテーブルにはないのです。今の関係を変える覚悟があるのかないのか、どちらかを選ぶ必要があります」
飯田:アメリカをサポートすることが必要ということですが、日本製鉄はUSスチールの買収にあたって、アメリカで投資を増やして雇用を維持すると主張しています。トランプ政権は買収を認めると思いますか?
オレン・キャス氏
「もし日本製鉄が『160億ドルで新規の製鉄所をアメリカで建設する』と言ったら、誰も反対せず、スタンディングオベーションが起きたでしょう。しかし、その資金でUSスチールを買収するというのであれば、それはまったく違います。日本はこれまでアメリカに多くの鉄鋼製品を売って利益を得てきました。その対価としてアメリカから何かモノを買うのではなく、アメリカの鉄鋼会社そのものを買収しようとしています。つまり『日本が鉄鋼をアメリカに売り、アメリカは鉄鋼会社を日本に売る』という構図になり、これは長期的に見て、ひどい戦略です」

アメリカは日本に何を求めるのか

キャス氏は、アメリカが日本などの同盟国に対し、これまで以上に強い圧力をかける状況は、トランプ氏の任期中、そしてその後も長く続くと考えています。
オレン・キャス氏
「去年の大統領選挙では多くの人がトランプ氏を支持しました。若い男性やさまざまな人種の有権者、さらに都市部の有権者など、本来、民主党を支持する人たちまでもトランプ氏を応援しました。共和党の政治家はみな、過去には戻らず、トランプ氏が行ってきた以上のことをするのが重要だと考えています。アメリカの中でも、第1次トランプ政権の最初の4年間をただ耐え忍べばいいと考える人が大勢いました。しかしその考えは、トランプ氏が再任されたことで、あてが外れました。再び、事が過ぎ去るのを望んでいる人もいますが、その可能性はほとんどないと思います。近年、アメリカの保守派の考え方は、『世界をどう見るか』ではなく、『国内の状況をどう考えるか』に基づくようになってきました。長い間、アメリカは壮大な国際ビジョンを掲げ、それが国内の人々にどのような影響を与えるかは二の次でしたが、今は、何よりもまずアメリカ国民の生活を優先すべきだという考え方が強まっています」
オレン・キャス氏
「この視点から考えると、理想的な国際秩序とは、アメリカの繁栄を支える仕組みです。アメリカは、真の意味で対等なパートナーを求めています。一方的にアメリカの負担となるような政策を取る国とは異なる、経済・安全保障の面でバランスの取れた新しい関係を構築する必要があるのです。今回の日本滞在中、私が特に印象的だったのは、日本の多くの人たちが、アメリカの行動を『理不尽』と思っていることです。なぜ理不尽なのかと質問をすると『アメリカはこの世界秩序から利益を得ているし、変えようとするのはおかしい』という答えが返ってきます。しかし、アメリカはこの秩序からどのような利益を得ているでしょうか?この秩序から移行することで、アメリカは何を失うのでしょうか?この質問に対して、明確な答えを私はまだ聞いていません。まずは各国がアメリカの視点に立ち、アメリカが考えるコストと利益が自分たちが望むようなものではないかもしれないということを理解する努力をするべきです」

取材を終えて

キャス氏は「日本の皆さんはアメリカの関税措置を理不尽に感じるでしょう」と述べましたが、まさに理不尽です。それだけ、今のアメリカに国際秩序を考える余裕がなくなっていると感じました。

4年間嵐が過ぎるのを待てばよいのか、と言えば高齢のトランプ氏を支えているのは意外と若い人たちで、“ポスト・トランプ”も保護主義的な動きが続く可能性がありそうです。

これまでの自由貿易体制の“ガラガラポン”が起きようとしている中で、日本はどうしていくのか?長期的な戦略が必要になっています。
解説副委員長
飯田香織
1992年入局
京都放送局、経済部を経て、ワシントン支局やロサンゼルス支局で取材
ニュースウオッチ9の編集責任者などのあと24年より現職
政経・国際番組部ディレクター
藤田修平
2020年入局
政経・国際番組部や秋田局を経て、24年から現所属

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