体験談を読む
心の準備期間も「必要な時間」 夫婦ふたりが納得してこどもを迎え入れるために
平本典昭さん
夫婦が特別養子縁組へ一歩踏み出すとき、必ずしも足並みがそろっているわけではありません。夫婦の一方がとても前向きでも、もう一方が心の中にまだ迷いを抱えている場合もあります。平本典昭さんは、元アナウンサーの久保田智子さんとともに女の子を迎え入れましたが、あっせん機関に特別養子縁組を希望するまでの間、夫婦の足並みをそろえるのに少し時間がかかったといいます。心の準備が出来るまでにかかった時間について、平本さんは「必要で、大切な時間だった」と振り返ります。
「こどもが生めない」と結婚前に告げられて
日本テレビ記者の平本さんと、元TBSアナウンサーで当時は記者だった久保田さんが結婚したのは2015年のとき。20代前半で、自分が不妊症でこどもを授かるのが難しいと知っていた久保田さんは、結婚前にその事実を平本さんに伝えました。
「忘れもしません。こどもができないが、それでも結婚するかどうかという話を告げられました。僕自身は『久保田智子』個人と結婚したいのであって、こどもが欲しいから結婚するわけではないという気持ちだったので、そのこと自体は結婚に何の影響も感じなかった。どんな人生をふたりで歩むかということは、ふたりで考えていきましょうという気持ちでした」
ふたりで渡航した平本さんの海外赴任を経て帰国というところで、若い頃から特別養子縁組について考えていた久保田さんから、改めて提案があったといいます。
「アメリカにいる間は日本の養子縁組民間あっせん機関(以下、「あっせん機関」)への相談は時差などもあって難しかったので、帰国後に本格的に始めようということになりました」
「心のバー」を乗り越えるまでに
ご夫妻によると、渡航した2017年ごろは今よりも特別養子縁組に関する情報を集めることが難しかったそうです。帰国直前、まずはネット検索から始め、あっせん機関の情報を集めました。そのうちのいくつかのあっせん機関を一緒に見学したり研修を受けたりし、一つのあっせん機関に登録をしました。その後「タイミング良く、登録から比較的早い期間で」委託の話があり、縁組への道のりはスムーズに進んでいきました。
ただ「こどもを迎え入れたい」という思いは一致している一方で、久保田さんと平本さんとの間には、まだ温度差があったといいます。
「久保田が特別養子縁組について先行して調べているのでどうしても知識が豊富で、思いも強かった。もちろん僕も迎え入れたい気持ちはありましたが、当時は温度差がすごくありました。
パートナーとして久保田さんと一緒にこどもを育てたい。特別養子縁組をすることにも、もちろん同意している。でも、実際にこどもを迎え入れるには、心の準備や知識、思いも必要で、早くから特別養子縁組を思い描いていた久保田さんとの間には、まだまだ大きな差があったそうです。
「勉強会や見学に行くにしても、行くことにちゅうちょはないのですが、どうしても久保田に引っ張られていくようなかたちで……。『本当にこどもを迎え入れるんだ』ということへの『心のバー』を乗り越えるのに、少し時間がかかりました。久保田は『あんたもっと早くちゃんと真剣に考えなさいよ』って、思っていたと思います(笑)」
内心「早く色々考えなさいよ」と思いつつ、久保田さんは平本さんの心の準備が整うのを待ちました。そこには「ふたりで子育てをしていくのだから、ふたりが同じスタート地点に立っていないと」という思いがありました。
家族の言葉に背中を押され
あっせん機関への見学や研修を経て、少しずつ知識を増やし、特別養子縁組への「心のバー」が下がっていった平本さんですが、自身の親やきょうだいたちも、背中を押してくれたといいます。特に心動かされたのは、義理の姉のひと言でした。
「こどもを受け入れるからには僕の家族にも説明し、理解をしっかり得たいなという思いがありました。そのとき、男の子を育てる義理の姉から、こんな言葉をもらいました」
「『生むこともそうだけど、育てて初めて自分のこどもと感じることがあるからね』と。育てていくことで、初めて自分のこどもと実感できることもあると言ってもらえたこと、僕たち夫婦が特別養子縁組をすることを受け入れてもらえたことは、本当にうれしかったです」
「それに、久保田とは血縁関係があるわけではありません。でも夫婦で、家族です。血のつながっていないパートナーと一緒に暮らしていけるのなら、こどもだってそうなのではないか……そう思って、だんだんと自分の中で『腹落ち』していくことができました」
思いが深まるスピードは違っても、始めるときは必ず同じスタートに立って、同じ方向を向いて夫婦で子育てしたい。そんなふたりの心の準備が整った2019年、久保田さんと平本さんは新生児の女の子、ハナちゃん(仮名)を迎え入れました。
これからも話し合い、3人で歩んでいく
もうすぐ、ハナちゃんは小学1年生。けん玉が大好きな、元気な女の子に成長しました。
「話し方や理屈っぽいところは、久保田にそっくりです(笑)。周りの人からは笑顔がパパにすごく似ているねって言われます。久保田が姫路市の教育長に就任したので、いまは母子が姫路市に住み、僕は東京で仕事をしています。一緒に暮らしたい、寂しい思いはあるけれど、土日に会いに行ったり、朝出勤前にオンラインカメラで通話したりして、できる限り同じ時間を過ごすようにしています」
赤ちゃんだったハナちゃんの子育ては「大変だったけれど、それは養子も血のつながった子も同じ」と話す平本さん。特別養子縁組前だけでなく、子育て中も幾度となく久保田さんと話し合いをしてきたといいます。特に生い立ちを伝える「真実告知」や、養子であることを周囲にどこまで、どのように明かすかどうかについては、お互いの考えをしっかり伝え合って決めてきました。
「僕はやはり久保田より3歩4歩遅れていたので……真実告知は、最初は大きくなってから伝えるのかな? という認識で、知識を身につけていった感じです。ハナちゃんが養子であるということを周囲に明かすかということも、久保田は前向きに話していくという考えでしたが、僕は最初は反対でした」
「ハナちゃんにも考えがあり、ハナちゃんが大人になったときに、『オープンにするなんて聞いていないよ』と言われたらどう説明しようと。そこが自分の中で腹落ちしていませんでした」
オープンにすることも、普通だと思ってもらえる社会になってほしい。ハナちゃんがそれを理解してくれるように伝える――そんな久保田さんからの説得を受け、平本さんも納得して同意することができました。
3人の手元には、赤ちゃんのころから現在に至るまでのハナちゃんの写真を貼った家族アルバムがあります。幼い頃から言い聞かせた「生みの母」の存在も、ハナちゃんは自然に受け入れ、保育園で「うみのハハ」の話をお友達にすることもあるそうです。平本さん自身は、友人や同僚に娘が養子であることを伝えることもあります。
「オープンにすることで、特別養子縁組の制度を多くの人に知ってもらい、そういった選択肢も世の中にあることを、1人でも多くの人に認識してもらえたらと思っています」
特別養子縁組に踏み出すまでに、夫婦間で最初温度差があった平本さんだからこそ、養親希望者の方たちに伝えたいことがあります。
「前を進むパートナーの横で、『自分も早く決断しなくちゃいけない』と思われる方が多いかもしれませんが、焦る必要はないと思います。僕は心の準備ができて初めて、ハナちゃんと出会い、向き合えました。それまでの時間は、僕にとって必要で大切な時間でした。焦らず、ゆっくり、腹落ちするまで考えながら、家族のかたちをつくっていくのが大事かなというのが、経験者の僕からのメッセージです」
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