女帝からは逃げないと。   作:霧江牡丹

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第十一話「走馬灯」

 青宮城(シーキュウジョウ)下に作った超巨大モビールを完成させて、一息を吐く。

 

 反省したのだ。

 やはり私にできるのは当てずっぽうと詭弁とこじつけだけ。真実はいつも一つ! を行ける頭は無いんだな、と。

 雨降って地固まる、終わり良ければ総て良し、みたいなことを雨妃(ユーヒ)から言われまくったけど、申し訳ない、私が一切立ち直れていないのでもう探偵役はやらないだろう。

 

 カコン、という静かな音が城内に響く。

 そう、少し前に作った鹿威しが、そのまま捨てるのは勿体ない、という理由で城内に置かれることになったのだ。

 しかも吹き抜けの滝のすぐそばとかいう重要地。加えてその滝から分水してもらって鹿威しに流すという……いいの? みたいな措置。いいらしい。

 私の御機嫌取りに必死なのか、ただ気に入っただけかは知らないけど、まぁ無音の城よりこっちの方が私は好きなので特に何も言わないでおく。

 

 そう。そうなのだ。

 私は誰かに意見できる立場ではないし、誰かを動かせる立場でもない。そして真相を解き明かす術も持っていない。

 であれば大人しくDIYしていろと。いやはやその通りだと。

 

 雨妃の呼び出しには政治的な話で応じるしかないので応じることはあるけど、基本は玩具作り職人……職人じゃないな、細工師……そんな大層なものではないか。

 まぁなんでもいいや。青清君のお気に入り。それだけ。

 

 今日も今日とて工作をする。小出しにしろと進史(シンシ)さんに言われてはいるけど、暇があると変に介入したくなるだろうから、もうガンガンに作っていく。

 

 まず厚紙を二枚用意します。これを丸くカットします。木串の先端をそれで挟みます。その時ちょっとだけ空洞を作ります。

 あとは厚紙の表裏に紙紐と錘を付けて、でんでん太鼓の完成~!

 

 ……。

 

 竹を輪切りにし、内径より外径の小さい竹を用意。小さい竹は短くもしておく。

 外側の竹と内側の竹の底部を糸で結び、外側の竹の出口を丸く切った木板で塞ぎ、錘を使って穴を作成。

 超簡易水鉄砲の完成~!

 

 ……。

 

 黒州から輸入した防腐剤と木串を組み合わせて、割り箸(木串)鉄砲の完成~!

 

 ……。

 

「わかってる……わかってる。そうじゃないのはわかってる……」

 

 別に、青清君が喜びそうなものを作るのはできる。私の頭にはまだまだ面白い原理のものが詰まっているから。

 だけどそれとは全く関係なく……気になる。

 

 偽周遠(ヂョウユェン)の短絡性。偽劾瞬(フェァシュン)の外法、及び詰めの甘さ。

 なぜ雨妃を狙ったのか。それはそれとして幽鬼を使った紋の精密さ。青宮廷(シーキュウテイ)にバレることなく運び込まれた薬物の存在。

 

 ちぐはぐが過ぎる。

 短絡的で目先の事しか考えられない駒と、緻密で潜伏の上手い指し手。

 その二存在がいるような気がしてならない。ならない、けど……。

 

 私の推理は外れるからなぁ……。

 

「……ちょいと真面目なモン作るか」

 

 モビールを作って、別に事件と呼応していない、ということが知れたので、なんとなーく避けていたものも作れるようになった。……はず。

 

 用意するのは以前おきあがりこぼしの時に使った糊と紙。ただし今度は一枚の紙を何度も重ねて、和紙っぽい灯りの通し方をするように調整。

 そこに馬や鳥といった適当な動物の形の型を作って置いて、短剣でザクザクと穴を開ける。角筒になるよう形を整えて、乾かしておく。同じ比率の角筒で、且つ一回り大きいものも作成。

 次に風車を作る。これも紙。量角器で中心の角度が45度、両角が67.5度になる三角形を作図。その内側に羽となる三角形も作図。糊代も……まぁ私は感覚でやっちゃう派だけど、一応作図。

 あとはこれを型どおりに切って、折って、……なんていうのかな、サーカスの屋根、みたいな形にしたらOK。

 先程乾かしていた、切り絵のある方の角筒の上に屋根を取り付ける。

 内側には燭台。プラス、金属製の受け皿。これは煙管を分解して作った。軸受けとなるように三本脚に支えられたそれは、燭台の土台へと強く固定を行う。

 屋根側の頂点から針を落として固定し、やじろべえと同じ感じでバランスを取れるよう軸受け側と調整。

 一回り大きい紙箱を被せて、これも燭台の土台に固定。

 

 後は下から燭台に火を灯すだけで……回り灯篭のできあがり。走馬灯ともいう。

 内側の切り絵行燈が煙突効果でくるくる回って、切り絵の光を外側の行灯に映すのだ。うん、綺麗。

 

「……ひと月、か」

 

 ……もうすぐひと月が経つ。私が青宮城に来てから、だ。

 まだそれだけしか経っていないのか、という気持ちと、もうそんなにか、という気持ちが混在して……。

 

 いかんいかん。それこそ走馬灯を見ているような回想をするんじゃあない。死ぬ気か?

 

「祆蘭、進史だ。入っても構わないか」

「幽鬼絡みの思考労働はお断りだ」

「……そうか」

「ああもう、落ち込んだ声を出すな。とっとと入れ。話せ。そして間違えてやる」

 

 しょぼくれた雰囲気で部屋に入ってくる進史さん。

 傍らには白布と本。形状からしてまたでかいのは絵画だな。

 

「……その」

「で、なんだ。今度はどこがどうなんだ。言っておくが私はもう現地調査など行かんぞ」

「行く必要はない。というより、もう存在しない」

「……?」

「過去の幽鬼事件に関する資料なのだ。その……確かに前回の騒動においては、お前を頼った。だが……青清君に言われてしまったよ。"幽鬼が出るたび祆蘭祆蘭と、お前達はいつから赤子になったのだ?"と。……幽鬼に寄り添えるから、などという理由でお前を駆り出したのは、私が大義名分を得たと……心のどこかで安堵していたに過ぎない。お前の護衛につけた者達と同様、私も熱病に浮かされてしまっていたらしい。あの時の威圧が……お前を、見上げさせてしまっていた」

 

 だから、と。

 白布を置き、進史さんは……両手を頭の上で合掌し、深く深く、頭を下げる。

 エリート貴族が何やってんだ。平民だって言ってるだろこっちは。

 

「頼りすぎていた。期待を寄せすぎていた……は、良い言葉ではないな。あー……その。私達はお前を幽鬼相談役としてここに呼んだわけではないし、お前は幽鬼の専門家ではない。間違っていても当て推量でもこじつけでも詭弁でもいい、などと言って縋っておきながら……お前が真に間違えることを想定していなかった。そして、そうなった場合、お前の心がどれほどの傷を負うのかも」

「……」

「申し訳なかった。お前は……どこか超然としているし、どこか飄々としているし、どこか……浮世離れした雰囲気を持っているが、私達と同じ人間で、何よりも子供だ。人の生死にかかわる判別を下して、それが心労にならないはずがない。責任のある立場、というのはそれを目指し、それを担う覚悟を持って初めて就けるもの。成り行きでことを任せるなど……大人として、貴族として、恥じ入るべきだと判断した」

「……」

「だから」

「長い。それで、そこまで反省していてなんでまた幽鬼絡みの事件を持ってきた」

「──反省はした。だが……お前が特別であることに変わりはない。鬼に纏わることもそうだが、いつかまた、幽鬼に関する事件で……私がお前を頼ってしまう可能性がある。わかっている。情けの無いことを言っている自覚はある。だが……いや、だから……その、だな」

「過去の事例を私に見せて、私に学ばせて、私が失敗しないように経験を積ませたい。ただし現在起きている事件では二の舞だから、もう終わった事件を使って、たとえ間違えたとしてももうどうしようもないのなら問題ない。……こんなところか?」

「……ああ」

 

 要は突発抜き打ちお受験あるかもしれんから日頃から過去問を解いておけ、と。

 

 進史さんの顔を見る。……憔悴しているな。クマもできている。

 周遠さんと劾瞬さんの吉報はまだ耳にしていない。……これは、仕事の合間を縫って、入院中の二人に会いに行っているな。

 

 ……こちとら九歳のガキだぞ。わかってんのか。

 だとして、そんな疲れ果てた青年を見て……放って置けるワケないだろう。馬鹿にしてるのか?

 

「わかった。資料を貸せ。だが、説明はするな」

「いや、だがお前は文字が読めないだろう」

「なんとなくで察する。良いから口は出すな。いいな?」

「あ、ああ」

 

 進史さんを座らせる。そして異国情緒過ぎるけど、自分で縫ったカーテンを窓にかけて、外の光を消す。

 この部屋の光源はこれで走馬灯のみとなった。あとは薰衣草のお香を焚いて、と。

 

 さーて。……うん、読めない。

 読めないけど、やっぱり写真的な輝術があるのだろう。大きな絵画もそうだけど、現場写真みたいな絵が記載されている。

 

 これが幽鬼で、こっちがその幽鬼の死体があった現場。この割れた茶器は……証拠的な意味合いか?

 走馬灯が回る。進史さんの目が、壁に映る影を追っているのがわかる。

 

 あー、はー……なる、ほどね?

 服毒自殺なのか他殺なのか、みたいな判例で、結果的にこの……顎の出ている男がどうにかなって、輝術を使わずに幽鬼を消すことができた、という判例か、これ。……多分?

 幽鬼必殺悪即斬! の資料なんか私に持ってきても仕方がないからな。進史さんなりに配慮したというか、選びに選んだんだろう。選び抜いたもの……幽鬼が満足して消えた、というものを探したのだろう。

 馬鹿め、そういう気遣いをするから疲れるんだ。

 

 もう、こくりこくりと首が動いている彼。……縦の赤べこだな。赤べこってどういう作りだっけ? 今度作ってみるか、記憶にある限りでだから試行錯誤が必要になるだろうけど。

 伝統工芸ならともかく郷土工芸はなー。前世の私はそこまで工芸に興味津々だったわけじゃないから、知らんものも多いんだよなぁ。

 

 どさ、と。

 ちょっと心配になる倒れ方で……横になる進史さん。完全に寝たな。

 んじゃ掛け布団をかけて、と。

 

 へぇへぇ、せいぜい過去問のお勉強をしますよ。

 どうしようもなくなった時、あんたが私を頼れるようにね。

 

 

 文字は読めなかったけど概要は把握したので、とりあえずそれは終了にして、新たな工作を作っている。

 トンテンカンの音が出ない、削るだけの工作。竹を人間の背骨のような節状の形に削り、それをいくつもいくつも作っていく。

 ある程度の数を用意したら、中に糸を通し、外側にも布を……まるで一本の縄に見えるような縫い目を付けて、包んでいく。

 

 端と端を結んで……はい。

 ある一定の捻りではピンと張り、それ以外の角度では蛇のようにぐにゃぐにゃしなり、最初のひねりの反対ではだらんと垂れ下がる……インディアンロープとかヒンズーロープとか言われているものの完成である。

 

 ……。

 ん? 待てよ。

 

 一方向を持って支えると、自重が骨子となって一本線になる。

 だけど、支えが無かったり、方向が違うと容易く瓦解する。

 

 ……いや。私の考えるべき話じゃない。

 ふとソレが過ったけど……でも……。

 

 進史さんを起こさないよう細心の注意を払ってカーテンに潜り込み、窓を開ける。

 眼下に広がる青宮廷(シーキュウテイ)。雨妃の宮の位置だけは覚えたので、そこに想像上で件の紋様を描く。偽周遠が言っていたように、花を思わせる紋様。

 

 紋様は青宮廷の中心部をぐるりと囲んだ形になっている。

 中心には確かに雨妃の宮があるけれど、紋様の通っている場所もそれなりの重要施設が多い。特に外廷に重なる部分には、食糧庫や酒蔵などが存在していて……。

 

 私の考えが正しければ、なんて言葉はもう口にするつもりは無い。

 だけど。

 私の勘があたっているのなら……持ち手は、ここか?

 

 一か所だけ。

 綺麗に──内廷と外廷を隔てる水路というか堀と重なっている場所。

 ここで、何かが起きたから……秘密裡に行われようとしていた儀式が露見した、というのは……妄想か?

 いやだって、偽物たちが鬼になりたかったなら、あんな派手に幽鬼を配置する必要はないだろう。輝術師に殺させたかったのなら、土塊の雨妃に庇わせる、ということもしなかったはず。

 だからあれは全員が全員咄嗟の行動をしていて……そうなった理由は、持ち手が突然いなくなったか、指図できなくなったから。

 

 よし。

 

「進史様。進史様」

「……ぅ。……祆蘭……か。ああ、すまない……眠っていたか」

「調べてほしい場所がある。失敗続きの私の言にまだ信を置いてくれるのなら、頼めないか。杞憂ならそれでいいんだ」

「……詳しく話せ」

 

 おやすみはここまでだ。

 回り続ける走馬灯は、けれど蠟燭の火が消えれば止まるもの。

 

 負のスパイラルにはどこかで終止符を打たなければならない。

 杞憂なら容赦なく罵ってくれ。だから。

 

 

 

 そうして、私の指し示した位置から、例の黒い輝術によって巧妙に隠された水死体が上がる。

 身元はまだ判明していないが──青州の人間ではない可能性アリ、と。それだけ聞かされた。

 

 ……黄州(オウシュウ)。帝の治める、州君のいない州。中央。

 特産品は多種多様な土。……偽物たちの身体を固めていたものも、雨妃の偽物も。

 

 帝の母御、玻璃(ブァリー)。私が元鬼子母神ではないかと睨んでいる女性の住まう所。

 同時に、名声を欲さぬ何者かが何事かを未然に防いでくれた、ということにも……。

 

 いや。これ以上は……流石に妄想だ。輝霊院と青州そのものに期待しよう。

 

小祆(シャオシェン)、これ……難しいね~」

「切り絵。奥が深い」

 

 今は私の部屋で、夜雀(イェチュェ)さん、祭唄(ジーベイ)さんと切り絵をしている。

 部屋に入って早々走馬灯に気付き、「自分たちも欲しい」と言い出したのが始まりで、けれど私は元来青清君専用の玩具作り屋さんなので、だったら自分たちで作ってみよう、になったのだ。

 で、それはもう完成していて、だけど内側の行灯でやった切り絵が二人の美的情操に何かしらをうったえかけたらしく、厚紙を使っての切り絵をずーっとやっている。

 

 この分だとステンドグラスなんかも刺さりそうだな、と思いつつ、硝子をいっぱい用意するのがこの世界においてどれほど大変なのかがわからないので何も言わないでいる。

 あとパッチワークとかも良いか? 裁縫できるのかな、この二人。

 

「よし! 見て見て、祭唄!」

「……? 見た」

「そうじゃなくて、これ祭唄!」

 

 ……鬼?

 え、夜雀さんには祭唄さんがこうやって見えているのか?

 

「……うぅ。どうせ私には絵の才はありませんよーだ……」

「祭唄様は、相変わらず上手だな。構想力の差か」

「まだ切り出してないのに、何かわかるの?」

「青宮城だろう?」

「そう。祆蘭は予測が上手」

 

 泣き真似をする夜雀さんへのフォローを一切入れずに、祭唄さんとお互いを褒め合う。

 だんだんこの人の扱いが分かって来た。

 

「夜雀様にはこれを貸しておく。青清君へ献上するものの一つだが、進史様に小出しにしてくれ頼むからと必死の懇願を受けてな。来月か再来月に出す予定のものだ」

「え……っと、いやそれを私が先に見ちゃうのは……色々と」

「似たものが存在しないかの確認も兼ねて、だ。市井とは距離が近かったのだろう?」

 

 言いながら放り投げるは、木板の重なったもの。

 ヤコブのはしご、と呼ばれる玩具だ。木板と糊と紐で作る知育玩具だけど、大人でも楽しめる。

 

 最初は恐る恐るだったけど、途中からパタパタと音を立てて、「おもしろーい!」なんて言いながら遊ぶ姿が見えた。うん、失礼だけど年相応に見えるのはなぜだろう。年側が相応になっているという意味で。

 

「それにしても……よく、思いつく。祆蘭の想像力は……凄い」

 

 いや。その。

 人類の歴史が凄いのであって。

 

「あ、そうだ。二人は青宮廷に降りることはできるのか?」

「申請を出せばできる。どうして?」

「墓地、というものは……存在する、よな? そこの敷地の、どこでもいい。これを飾ってきてほしいんだ」

 

 取り出したるは、紙で作った風車。

 プラスチックなんかないので、厚紙の風車にはなるけど……できるだけ長持ちするように作った。

 

「できれば屋根のある場所が良い。雨風にはとことん弱いから」

「……なら、輝術で保護する?」

「輝術か。……何ができて、何ができないんだ、輝術」

「命は蘇らせられない。傷や病は治せない。それ以外の事は大抵できる。ただし、術師の力量に大きく左右される」

「大抵というと……たとえば、空から火の玉を降らせる、なんてこともできるのか?」

「州君やその付き人くらいにもなれば、そのくらいはできると思う。私は……掌に火の球を出すことはできる。普通に光らせた方が便利だから光源として使うことはないけど」

 

 そうなんだよな。

 そもそも輝術のこの……実体も熱も持たない光、とかいう意味の分からないものがデフォルトで使えるのが……本当に意味わからん。

 加えて腐食や風化対策の防護をしたり、不可視の何かを飛ばして斬撃を行ったり、浮遊したり……。

 

「あー。話が逸れたが、頼む」

「うん。それで、これは何?」

「まぁ……供養だよ」

 

 水子供養。聞いた限りでは、雨妃の妹は生まれる前に死んでしまったらしいから。

 そういう概念があるのか知らないけど、気持ちの問題だ。

 

「前々から思ってたけど、小祆って優しいよね。すぐ悪ぶるけどさー」

「優しいか優しくないかについて論ずる気はないが、私には私の倫理観があって、それに従っているだけだ。とはいえ目先の益のためなら倫理観もかなぐり捨てる程度の奴だぞ、私は」

「うんうん、そうだねー」

 

 ……。

 まぁ、善意だし、本心で馬鹿にしているわけではないのは知っているが。

 

 これでもくらえ。

 

「わっ!? ……っと……なに、これ? 箱?」

魔方(モーファン)という玩具だ。これも青清君の先取りだが、これについては青清君はあまり興味を示さないだろうな」

 

 早い話、ルービックキューブである。

 内側の枝構造を木で再現するのに苦労した。でも最初のルービックキューブは木製だったって話を聞いたことがあるので、できないことはないはずだと根気を詰めた。

 少量の油を用いて滑りを良くしたり、どうしても引っかかる部分は面取りをするなどして調整はしたけれど、出来は良い自負がある。

 

「祆蘭、私には無いの?」

「祭唄さんは頭が良いからな……」

「え!? それって私のこと言外に」

「ああ、その魔方は頭が良い者でも中々解けない遊び細工だ。全ての面の色を揃えろ」

 

 よし。

 で。

 

「……本来は鉄で作るべきなんだが、鉄の加工技術をもっていないのでな、木で作った。これ、壊さずに外して見てくれ」

「これは、変な形の鎖?」

「智慧の輪という玩具だ。力を込めずとも、すんなり外れる解法が存在している」

 

 ルービックキューブと知恵の輪、どっちが解きやすいか、については空間把握能力と記憶力の差なので、頭の良さとは直結しないけれど。

 暇つぶしには丁度いいだろう。

 

 しばらく……カツコツという木と木の当たる音が響く。

 

 その間、私は勉強だ。

 過去の幽鬼絡みの事件ファイル。過去問。

 

 今回の事件は、無害な幽鬼が三体同じところに現れた、という事件。

 数字だけはなんとなくわかるので、なんとなく察するけど……多分五十年前とかの事件。

 

 一見して関連性の見つからない三人の男女が、立て続けに同じ場所に幽鬼となって現れた。

 ただし、男、女、女、という順番で死んでいるのに、女、男、女、の順で幽鬼が現れたという。

 

 真相を初めに話すなら、最後に現れた女の幽鬼は、他の二人が死んだことを見届け、満足して消えた、という……所謂痴情の縺れ。最初に現れた男女を殺したのもその最後の幽鬼だったとかで、何やら罪の告解文のようなものが書き連ねられている様子だけど、読めない。

 

「……こんな時に聞く話題じゃないのはわかっているんだが、二人は鬼を相手取ったことはあるのか?」

「無いよ。むりむり」

「私はあるけど、命からがら逃げ出せた、が真相。倒すことはおろか、傷を与えることもできなかった」

「殺した事例はどれほどあるんだ?」

「ほとんどない。あるのは青清君が倒した鬼と、かつてあった死霊院という所が倒した記録だけ」

「死霊院……とは、物騒な名前だな」

「輝霊院の前身というか、併合吸収した施設だね。やっていることは……なんていうのかなぁ、あんまり子供に聞かせる話じゃないけど……こう、自らの命を度外視して鬼を滅する、みたいな組織で」

「早い話が特攻。生きて帰るという発想の無い狂人集団が死霊院だった。けど、そんな場所が長続きするわけがない。だから今は、輝術に関する総合専門施設である輝霊院に吸収されて、その中でも幽鬼を祓う部隊となっていることが多い」

 

 ほー。

 でも、それで鬼を殺せるなら充分なんじゃないか?

 死を覚悟した蟻が象に真正面からぶつかって勝つ、みたいなことだろう。普通に偉業に聞こえるが。

 

「でも、どうしたの突然。そんなこと聞くなんて」

「いや……なんだ、私はお前達が戦っているところをほとんど見ていない。玉帰(ユーグゥイ)様が桃湯(タオタン)に腕を折られたところ、しか知らん。だから……なんだ」

「本当に私達は護衛として役に立つのか、ってこと?」

「まぁ、言葉を取り繕わないでいうのなら、そうだな」

 

 この人たち本当に強いのか? って。

 特に……ヤコブのはしごと知恵の輪で遊ぶ二人を見ていると。

 

 ……そんな目線を向けたら、二人は顔を見合わせた。

 

「青宮城の地下。浮層岩(フソウガン)の中に、練兵場がある」

「久しぶりの手合わせ! やろっか!」

 

 ふむ。

 いいかもしれない。気分転換として……つまり殺陣、という奴だろ? それも超本格的な。

 

「じゃあ行こう! これ解けないし!」

「私は解けた。面白い。こういうの好き」

「おお。早いな。新たなもの、幾つか作っておくから、暇なときにやりに来てくれ。そっちの魔方も祭唄様なら」

「あげない! 私が解くの~!!」

 

 らしい。青清君の献上前までに解けると良いね。

 

 

 

 練兵場。

 お貴族様の中でもあんまり戦わない者達ばかりの青宮城になぜこんなものがあるのかと問うたら、「え? むしろここの人達すっごく戦うよ?」と「輝術も体術もできてこそ。青宮城勤めでも、赤積君(チィジークン)を目標にしている人は多い」との返答が。

 

 ……武闘派多いんだ、輝術師って。

 

「じゃあ、最初は軽く行くよー」

「うん。全力で来て良い」

 

 消える。

 ……消えた。いや、土埃は見える。だけど……目で追いきれない。

 速いな。そういえば偽劾瞬の拳もだったけど……もしかして輝術に身体能力向上みたいなのがあったりするのか。

 

「練兵場に申請。……誰かと思えば、あの二人? 護衛……忘れてる」

「あ、玉帰様。腕はもう大丈夫か?」

「完治した。……見える?」

「いや、まったく。なんというか……ちゃんと強いんだな、と」

「腕、折られた。……俺が、不安にさせた」

「まぁ直接の原因はそうだが、相手は鬼だろう。仕方がないと言えば仕方がないのではないか?」

「……進史様。不意打ちの、本気の攻撃で……頭を潰せなかった。あの鬼が強いのは、確かだと思う」

 

 そういえば。

 桃湯にはあの場にいた鬼全員が束になっても敵わない、なんて言われていて、けれど進史様の狙撃は彼女の頭部にしっかりとダメージを与えていたな。

 あれは良い指針かもしれない。強さの基準の。

 

「……あの時の威圧。今、できるか?」

「いや、自覚がないんだ。どうやったのかはわからない」

「そうか」

 

 威圧ねぇ。

 まずもってする意味がないからなぁ。何があったら威圧になるのやら。

 

「邪魔をするな、という意志。それが……威圧だと、赤州(チィシュウ)で聞いた。先日の墓祭りで……旧知に会った」

「ああ。そういえば、あの時」

 

 ──黙っていてくれよ。

 とか、思ったな。余計なことをする奴に対して。

 

「……ん? どうした、もう終わりか、夜雀様、祭唄様」

「え……いや」

「玉帰……? 祆蘭に何をさせた……?」

「俺は、少し助言をしただけだ。……こんなにも早くコツを掴むとは、考えていなかった」

 

 はて。

 ……え、今の? 黙っていてくれよ、って念じればいいの?

 黙っていてくれよ。……特に変わった様子無いけど。

 

「自然と頭を下げかけた。今のは紛れもなく威圧」

「私も、心臓が……凄く跳ねてる」

 

 それは申し訳の無いことをした。

 ……どうにか制御できるようになれば、アレか。ひと繋ぎの大秘宝を手に入れられるまであるか、これ。

 

 しかし……自然と頭を下げかけた、という言い回しが引っかかるな。

 まるで、全てを導くうんたらかんたらみたいじゃないか。……使えば使うほどそれっぽくなっていく気がしてならない。

 

 よーし、封印!

 

「ところで、だ。二人とも」

「なに?」

「なーに?」

 

 腰に佩いていたトンカチを取り出し……練兵場の真ん中へ行く。

 そして、それを正眼に構えた。

 

「私も」

「あのね、小祆。私達はあなたの護衛でね」

「護衛が、護衛対象を傷つけるわけがない。考えてほしい、少しは」

「祆蘭……輝術の使えない平民と貴族では、地力からして隔絶した差がある。無様に腕を折られた俺が言うのもおかしな話だが……その無様が、お前に還る」

「だろうな。だが、先日鬼になりかけた人間と戦って、痛感したんだ。私には戦う力が無いと」

「だから、私達がその力になる」

「というか小祆は戦うんじゃなくて、基本は逃げるの! 戦っちゃダメ!」

 

 えー。

 

「あ、そうか。じゃあ部屋から鋸を持ってくるから」

「そういう問題じゃない」

 

 ……その後、どれほど頼み込んでも相手はしてくれなかった。

 

 まぁ。

 そりゃそう。

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