女帝からは逃げないと。   作:霧江牡丹

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第七話「オイルタイマー」

 この世界、輝術があるからか、思いもよらない発展を見せているものがあったりする。

 その一つがこれ。

 

「これが黄州(オウシュウ)の工芸品、万華鏡(ワンファジン)、ね」

「黄州にある黄金城(オウジンジョウ)には、全面が鏡張りの部屋もあると聞いている」

「輝術で作る鏡は除外して、普通に作るってなるとどうしても土に秀でる黄州か、火に秀でる赤州(チィシュウ)が先を行くんだよね~。あ、でも青州(シーシュウ)にも水鏡があるから、負けてるってわけじゃないけど」

 

 万華鏡。手作り玩具の定番だけど、歪みない鏡の作成はそれなりに大変だし、モノ自体も地球じゃ近代に出て来ていたはず。

 けれどこの世界じゃ昔からある工芸品らしい。作りもしっかりしているし、安全性も充分。

 限らず、光に関するもの、反射や錯覚を利用した玩具はたくさんある。多分ミラーボールもどっかにあるんじゃないかな、この分だと。

 

 こう……なんというか、素材を用意するのは大変だけど、仕組み自体は単純なもの、というのは作られやすい傾向にあるらしい。

 逆にやじろべえや水中花のような素材自体の性質やこの世の法則を利用したものはまだまだ発展途上、という印象。輝術が発展の阻害をしているのだ。あと貧困。

 

「……夜雀(イェチュェ)様、祭唄(ジーベイ)様。ありがとう、参考になった」

「これくらいならいつでも言って~」

「私達は何もできないけど、応援してる」

「ああ」

 

 さて。

 では何個か作っていきますか。

 

 

 というのも、昨日、進史(シンシ)様より依頼があったのだ。

 青清君(シーシェイクン)を喜ばせる工芸品とは別に、青州の水を使った工芸品を作ることはできないか、と。

 なんでも、来週に控えている墓祭りにおいて、妃が持っていくものとは別に州君も帝への贈答品を用意する必要があるのだとか。

 詳しい話を聞けば、どうやらこの墓祭り、平民だけのお祭りではない……どころか、全州全てが一斉に行う祭りらしく、お貴族様はお貴族様で花街へ行ったり中央へ行ったりして羽目を外すのだと。それは州君も含まれる話で、帝へ何か物珍しいものを持っていくのが習わし……というわけでもなく、別に料理でも伝統工芸でもなんでもいいのらしいのだけど、青清君が「どうせなら誰も知らぬ物を出したい」と言い出したとかで。

 

 つまり、結局青清君を喜ばせる工芸品にはなるわけだ。

 

 で、私は無知である。

 この世にある工芸品の全てを知っているわけではない。だからできれば各州にある工芸品のサンプルが欲しいと進史さんにねだったところ、護衛の皆さんが自分の家から色々な工芸品を持ってきてくれた。

 中には私の知っているものや、工程に輝術があるせいで意味の分からん構造をしているものもそれなりにあったのだけど、最終的には冒頭の結論に落ち着いた。

 ので、やることは単純。

 水を使った、重心系統の玩具を作る。ちなみに水中花は水中花で普通に持っていくらしい。アレは綺麗だしな。

 

 パッと思いつくのは鹿威しだろう。

 水を使っていて重心関係の装置。ただ玩具かと言われると……まぁ、風流の……というかカラス避けの……うーん。

 

 一応、作った。作るのは簡単だ。この世界、竹林死ぬほどあるから。

 まずこれが一作目。

 設置系の装飾なら水琴窟とかきれいな音で良さそうだけど、手土産に持っていくには向かな過ぎるのでNG。あとで一応輝術による移動が可能かどうかだけ聞いて、可能だったら作ってもいいかもしれない。

 自由研究レベルのものでいいならアレだ。アルギン酸ナトリウム使う奴。膜を持った抓める水を作る奴。……でも輝術で代用できそうだし、素手で掴み上げるのは衛生的にNGか? これも保留。

 あと私が知ってるのだとオーシャンボトルとか……なんならアクアリウムとか……。

 

 ダメだな。ドツボだコレ。

 もっとフラットに行こう。

 

 ……水、に見えるもの、でもいいんじゃないか?

 

 よーし。

 では、以前水中花の酒瓶を貰いに行った時についでに貰った小さな瓶を用意。

 そして……そして。

 

 ……。

 

 部屋を出て、キョロキョロとあたりを見渡す。……いない?

 いないな。

 二層目へ上がる。……おや、来ない。そんなことあるか?

 

 じゃあ三層目へ。行ってなかっただけで行けるんだよね実は。

 

「……あまり、危ないことはするな」

「どわっ!? ……じゃ、なくて……あ、ええと、……玉帰(ユーグゥイ)様」

「……覚えていたのか」

 

 三層目の護衛の人。護衛っていうか暗殺者みたいな人。

 でも良かった、これで進史さんに取り次げる。

 

「いや、実は進史様に用があって……だが、一層も二層も誰もいないから」

「ああ……。墓祭りにおける人員配置の話し合いが行われている。……進史様もその中にいる。急ぎの用か?」

「ある程度は」

「俺には……手伝えないことか?」

「輝術で作ってほしいものがあって……ああいや、そもそも存在するなら問題はないのだが」

「必要なものは……なんだ」

「油と食紅」

「……? 一層の……調理場へ行けば、手に入る」

「いや、私はその、言葉がだな……」

「……理解した。俺がついて行ってやる」

 

 おお。それはありがたい。

 

 

 というわけで始まりました工作タイム。

 なぜか玉帰さんも一緒にいる。いや、調理場の人に油が欲しいということを伝えてもらったら、「子供が油……? 決して目を離さないようにしてくださいね」とか言われてたので、多分火を扱うんじゃないかと思われているんだろう。

 するワケ。

 

「ちなみにだが、玉帰様はこの瓶の形状を変える、ということはできるのか?」

「……無理だ。祭唄か、新空(シンコン)ならあるいは、といったところだが……」

「そうか。ああいや、そうでなくてはならない、というわけではなく、そうであった方が見栄えがいいというだけなんだがな。……まぁコレが気に入られたら新しいものを作ればいいか」

 

 さて、作るのはそう──オイルタイマーである。

 まず食紅で水に色を付ける。その水を油と七対三くらいの比率で瓶に注ぐ。次に、市場なんかで買える貝殻の装飾品──ネックレスなど──をトンカチで思い切り砕いてその中に入れる。

 最後に瓶いっぱいになるまで油をどろどろ注いで、蓋を閉める。

 

「……? それだけ、か?」

「これだけだ。まぁ、みていろ。できれば中心は窄めた方がサマになるんだが、試作品としては充分だろう」

 

 透明度の高い瓶の中で、青色に着色された油が……ゆったりと分離し、小さな粒となって一つ、また一つと上に登っていく。時折砕けた貝殻を含んだ油も、だ。キラキラしていて綺麗。

 それはさながら降る砂が時を巻き戻すかの如く。それでいて神秘的な光景。

 玉帰さんと二人でそれを眺めて、全ての色付き油が上に上がり切ったら逆さにする。酒瓶なので支える必要があるけど、形状の変化が今度は違った様相を瓶内に呈す。

 外側が早く、内側は遅く。空へ空へと舞い戻る青い粒。

 

「これと同じもの、あるいは似たものは存在するか?」

「いや……見たことは、無い。……美しいと、思う。まるで……空に還る、幽鬼の最期に……似ている」

 

 出す例えよ。

 ……ああでも確かに? 寧暁(ニンシャォ)を諭した時も、彼女は光の粒になって空に昇って行ったな。

 

 オイルタイマー、だと……直訳で油時計だと……水感ないし。

 うーん。まぁ吉凶占師(ジーシィオンヂャンシー)に倣って直感的で良いか。

 

鎮魂水槽(ヂェンフンチーツァォ)。そのままだが、中々サマになる名だろう」

「ああ。……良いと、思う」

 

 ……何か。

 何か……どこかへ思いを馳せているような空返事。

 要人護衛になる貴族は様々だと夜雀さんは言っていたけれど、彼もまた何かを抱えているんだろう。

 

 そんなわけで、とりあえず依頼されたものは完成、と。

 

 

 

 モノを作り終わったので、散策タイムに移る。

 今回は玉帰さんが一緒に回ってくれるということで、三層目を歩く。

 ちなみに今更だけど、各部屋が音を遮断する輝術を使用しているから、廊下で私がどれほど汚い言葉を使おうと中には聞こえないのだとか。流石に同じ廊下にいたら聞こえるけど、だとしても私の事は「そういうもの」だと伝わっているので、あまり偉そうにさえしなければ問題ないと言われた。

 ので、雑談をしながらになる。

 

「聞いていい事なのかわかりませんが、どうして新空様や夜雀様たちまでもが墓祭りの警護の人員配置に関わるのですか?」

「別に俺達が行く、というわけではない。……墓祭りの間は、進史様と青清君を含む強力な輝術の使い手がこぞって城を空ける……。……つまり、お前の守りが……手薄になる」

「ああ」

 

 そういうことか。

 私についてくれている護衛は私専用の護衛ではあるけれど、元々は青宮城(シーキュウジョウ)に居なかった人たちだ。つまり、言い方は悪いけどこの城に勤めるお貴族様より輝術の腕では劣る。総合戦闘能力で考えたらどっちに軍配が上がるかはわからないけど、事実としてそうだ。

 そういう輝術師の上澄み+私専用護衛という形で成り立っていたこの城から、輝術師の上澄みがこぞっていなくなった場合……その隙を狙って鬼が私を食いに来るかもしれない。

 勿論護衛の人達だってただでやられるつもりはないだろうけど、万一は万事に付き物だ。だからこうして作戦会議、と。

 

「玉帰様は参加されないのですか?」

「無論、する。だが……作戦会議に熱中し……お前の護りを疎かにするようでは、本末転倒。俺は、別日だ」

「成程。確かに」

 

 色々考えられてんだなぁ、って。

 ……当たり前か。考えなしは私だけだ。

 

 ──音。

 

「玉帰様」

「なんだ?」

 

 聞こえていない? ……そういえば聞こえる人と聞こえない人があーだこーだみたいな話を。

 

「鬼が……近くにいる可能性があります」

「……今、全体へ通達をした。場所は……わかるか?」

 

 うわこの人有能だ。

 そして、場所。場所ね。音のする方……。

 

「あちらです。が」

「わかっている。先行しないし、お前の側を離れるつもりは無い」

「あら、そうなの? つまらない人間。魂も凡庸だし……ここで摘み取ってしまおうかしら」

 

 気付けば剣が抜かれていて、気付けばその剣が折れていた。

 いや、剣だけじゃない。

 

「っ……!」

「へえ……上手く避けるのね。けど、いいの? あなたが身を挺さなかったせいで、大事な大事なこの子が私の手に」

 

 腕を折られている。左腕だ。

 そして……私の首元にはしなやかな手。長い爪。

 

桃湯(タオタン)。どうせ宣戦布告だろう? 余計な被害を出すな」

「……はあ、こっちはこっちで。……ええ、そうよ。墓祭りの日、私達はこの城を襲って、祆蘭を()()()()。そうならないよう、せいぜい準備を頑張ることね」

「助け……出す……?」

「ふふ……わかっているクセに」

「……そんなことは、ないはずだ」

「あらあら」

「待てお前達。私の知らん私の話題で通じ合うな。なんのことだ」

 

 なんだ助け出すって。わかってるってなんだ。

 お前達が私の何をわかっているんだ。

 

「この場ではっきりさせてもいいのよ? ──ね、祆蘭。目の前に幽鬼が出たら……あなたは、どうする?」

「また曖昧な質問をするな……。状況説明はそれだけか? 何か、危機的状況にあるとか、誰かの命が質にされているとか、ないだろうな」

「ええ、無い。ただあなたの前に幽鬼が現れて、ただただ立ち尽くしている。そんな場面に遭遇したら……あなたは、どうする?」

「……ふむ。まぁとりあえず話を聞くか。声が聞こえるわけではないから、唇を読むか……あるいは筆談でも、と思ったが私は字が読めないんだった。だからまぁ、唇を読んで、未練があるならそれの解消を、恨みが有るなら……私にはどうにもできん。恨みの対象が恨まれるに値するのであれば、私は放逐するよ」

「害ある幽鬼になるかもしれないのに、逃がすの?」

「死んでまで祟られる悪事を為した奴が悪いだろう。なぜ私が悪人のために幽鬼の恨みを解かねばならん」

「……!」

「ふふふ……」

 

 ……んー?

 なんだ、私今、至極真っ当なことを言ったよな? ……いや待て、この国の宗教観は完全に把握できていない。

 幽鬼は絶対悪で、滅ぶべし! なのか?

 

 でも、化け物とはいえ人間の延長線上で、ぶっちゃけ生きてる輝術師の方がよっぽど──。

 

「その幽鬼が関係のない人間を襲ったとしたら?」

「何を言わせたいのかは知らんが、知らん、としか言えん。襲われた奴は可哀想だろうし、襲った幽鬼は何を血迷っているとは思う。幽鬼でいる間の苦痛があるのかないのかは知らんが、誰しもが幽鬼や鬼になりたくないと思っているということは、苦しいか、外道か、あるいは哀れであるのだろう? 憐れまれる者が本懐も果たせずに自身を見失えば、そこらにいる野犬とそう変わらん。言葉の通じる内は諭してやりたくもなるが、そうでなくなれば討伐されるのが関の山だろう」

「見逃したあなたに責はないの?」

「あるやもしれんが、裁く法が無いだろう。法に詳しくはないがな。幽鬼を見つけたものは、己が力量如何に問わず必ず殺せ、さもなくば罪とする、なんて法があるのか?」

「法がないから、罪を犯していいの?」

「その辺りは己が良心と倫理の天秤だろう。裁かれぬからと他者の尊厳を損なえば、それこそ他者が幽鬼となったあとに襲われるんじゃないか? ……まぁ、そういう意味では、私の見逃した幽鬼に襲われた何某かが私に恨みを持ち、幽鬼となりて私を襲い来ることもあるだろうが……それは逆恨みであると同時に、摂理だろうよ。くだらんと吐き捨てるし、命尽きるまで抵抗する。だが安心しろ、私が死んだとしても、幽鬼にはならん」

「どうして?」

「恨むのも固執するのも疲れるからだ。ふん、仲間に引き込みたいならアテが外れたな。そしてもう一つ、長話ご苦労だった、桃湯」

「──ッ!?」

 

 ヘッドショット。

 桃湯の頭がぐわんと弾かれ……その衝撃で、首筋に添えられていた爪が私の首を掠める。……いやいや鋭利過ぎるだろ。というか直接攻撃あるじゃん。

 え、私今までコイツに直接攻撃が無いものだと思って喋ってたけど、もしかして全然強いか? そういえば玉帰さんの腕折ってんじゃん危な。

 

「……時間稼ぎ、だったの?」

「いつ来るかわからんものを時間稼ぎと呼ぶかは知らん。語った言葉は本音だし、語らい合うくらいならいくらでもしてやるが、青宮城は御冠のようだ。……しかし頑丈だな、鬼というのは。狙撃した者とて一撃で殺す意思があっただろうに、その程度で済むのか」

 

 その程度。

 ──左側頭部から、ダラダラと血を流す……って、血、出るのか。鬼。

 じゃあほとんど人間と変わらなくない?

 

「というか、自分の長話で忘れていたが、結局助け出すとはどういう意味だ」

「……それを教えるには、時間の稼ぎ方が下手だったみたいね。──さようなら。墓祭りの日にまた会いましょう」

「ここで足を引っかけてみる」

「ふふ、私に足は無いのよ。それじゃあ」

 

 反物を払うように足払いをしてみたのだけど、確かに当たらなかった。

 ……幽鬼は普通に足あるのに、鬼には無いの? それとも桃湯だけ?

 

 よ、よくわからん。

 よくわからんぞ異世界古代中華か古代和風かわからんファンタジー……!

 

「祆蘭!」

「無事か!」

「ああ、私は文字通り首の皮一枚だが、玉帰様が重傷だ。早く処置してやってくれ」

「……俺は、後で良い。……首に、鬼の爪を、受けている。穢れが、入っている……可能性がある。早く、医院で診せろ」

「──! 小祆(シャオシェン)、こっち!」

 

 蒼白顔の夜雀さんに連れられ、医院……つまり医務室へと放り込まれる。

 あたふたと、けれど的確に事情を説明した夜雀さんと、聞いている内にどんどん蒼白顔になっていく医院の人達。

 

 鬼の爪の穢れ? ってそんなに危ないのか?

 

 とか思っていたら、全身が光に包まれた。

 ま、眩しい。

 そしてなんだ、これは。強い眠気……まさか麻酔? ……ぐ、ぬぬぬぬ。

 鬼の穢れで死ぬとかそういう話か? ふん、馬鹿め。命数尽き果てるまで抵抗してやると言っただろう!

 

「それは輝術による麻酔だ。眠っておけ、祆蘭」

 

 進史様の声。

 ……まぁ、そういうことなら。

 

 

 

 起きた。

 首に巻かれた包帯。大げさな、とは思う。

 

「ここは……」

「医院の医務室だ。……回復が早いな。あれほどの穢れに侵されていたというのに、もう浄化したのか」

「進史様。……んー、ふむ。……穢れというのは、結局なんだ。毒か何かか?」

「そう考えてくれて構わん。毒と違うところは体内で増殖する、という所だ。輝術で自ら押し返しでもしなければ、平民なぞ瞬時に全身を穢れに侵し尽くされ、死に至る」

「凶悪だな、中々」

「……詳しいことはまだわかっていないが、一部の鬼の証言によると、その方法では魂を奪えないという。だから鬼は基本的に迂遠な手段を取るのだ、と」

「鬼と交流があるのか?」

「いや、前に捕らえた鬼が命乞いに話していった話だ」

「その後殺した、と」

「当然だろう」

 

 ……なるほどねぇ。

 体質的に相容れない種族……って感じなのか。ただ、鬼は果たして人間の成れ果てなのか、という部分に関しては……少しばかり疑念に思い始めたが。

 

「もう浄化した、とは?」

「普通、穢れに侵された者は己が輝術と外部からの輝術でその穢れを駆逐し、それを浄化と呼ぶ。ただ、穢れに侵された者の意識が無い場合や、平民である場合はいくら外側から輝術で処置をしても意味がない。内側へ内側へと穢れを追いやるだけになる。抗い得るのは強い意志。つまり魂、あるいは存在の強さ、というものだ。穢れによる変質を受け付けない強い強い意志があれば、輝術による浄化を上回る速度で穢れを駆逐し、健康な状態へと恢復する」

「輝術の才が無くともそれはできるのか?」

「ああ。理論上は全ての命に可能なことだ。ただし、輝術を使えぬ身でそう強い魂を持っている者などそうそういないが」

 

 まぁ。

 死んでも不変だったわけだし。世界を跨いでも壊れなかったわけだし。

 強いだろうなぁ、私の魂は。

 

「玉帰様の容態は?」

「玉帰は輝術を扱い得る。穢れは問題なく浄化できたが、折れた骨はどうにもならん。しばらくは添え木が必要だろうな」

「そうか。……しかし」

「実力不足。言い淀む必要はない。はっきり言え」

「……まぁ、そう言わざるを得ないな」

 

 そうだ。

 桃湯に対して何もできなかった玉帰さん。要人護衛の人達の序列というか、誰がどう強いのか、がまだよくわかっていないのでなんとも言えないけど、あれが平均なら──まぁ、全滅は必至だろう。桃湯、鬼達って言ってたし。

 

「案は三つある。一つは、城の警備の強化。青宮廷(シーキュウテイ)からも指折りの貴族を集め、警備を固める。……だが正直これは得策とは言えない。この城に勤める貴族より強き者など青宮廷にはいないからだ」

「ついでに、青宮廷の貴族も墓祭りに行くから、だろう?」

「ああ。二つ目の案も同じ理由で得策ではない。お前が青宮廷に降り、厳戒態勢で守られる、というもの。やることは変わらないが、高空にある以上逃げ場のないこの城よりかはまだ安全だ。兵が命を賭してお前を逃がす、ということができる」

「逃げた所で、だろう」

「返す言葉はない。だから、三つ目の案が最も適した案となる」

「──私も青清君と共に墓祭りに行く、だろう?」

「そうだ」

 

 ま、それが一番安全だ。

 青清君が行く墓祭りの会場は中央。帝のいる場所。

 精鋭も精鋭が集まっているし、青宮城の精鋭も、他の州城の精鋭も集まる。何より州君が全員いる場となる。

 そこなら鬼も迂闊な手出しはできない。

 

 ただし。

 

「ただし、次なる脅威が出てくる」

「人間、か」

「そうだ」

 

 それは人攫いがどうの、という話じゃない。そういうのは流石に警邏に弾かれるだろうし、護衛がなんとかできる。

 問題は私が貴族ではないということと、私に目を付ける他州の者がいる可能性があるということ。

 別に私そのものに他州が危険を冒してまで欲するほどの価値がある、なんて自意識は持っていないが、私の立場はかなり面倒だ。

 

 他州にどれほど伝わっているかは知らないが、言ってしまえば「青清君の退屈を紛らわすことのできる玩具」が私。それを取り上げれば青州がどうなるか。

 青清君の行動如何によっては青州の妃の信用度にも影響が出ると進史さんは言っていた。それを故意に起こせると他州が知ったら。

 

 どこまでバチバチなのかは知らないけど、選ばれた妃の出身州は、それはもう大きな発言力を得るのだろう。

 それを狙って……なんてのは容易に考えつく話で。

 

「鬼も怖けりゃ人も怖い。が、戦力差を考えると人の方がまだ対処しやすいだろう。進史様、現時点から予め新たなお気に入り候補を探しておくべきでは?」

「物騒なことを言うな。……それに、いなくなった、連れていかれたからと納得する青清君ではない。誘拐の場合、最悪それを行った州に戦争を仕掛けに行く可能性もある」

「穏やかじゃないな、本当に」

「だから……政治的に、且つ青清君のことを考えると、この城に残っていて欲しい。……しかし護衛の戦力では鬼からお前を守ることができない。悩ましい話だ」

 

 ふむ。

 ……。

 

「仮にだが、私が青清君についていったとして……もぬけの殻となったこの城を鬼が攻めて来ることになる。そうなったら、どうなる?」

「残った者は皆殺し。あるいはお前がいないことに気づいて撤退。……鬼の思考などわからぬ。ただ、中央の墓祭りに攻めて来ることだけは無いと予測できる。流石に四州君と帝が相手では、鬼も引かざるを得ないだろうからな」

「だったら私は残る。残るし、護衛も要らん。他、城勤めの貴族も要らん。一人で良い」

「馬鹿を言うな。私達にお前を売れとでも?」

「鬼は私を助け出しに来るそうだ。そして、穢してしまっては魂が獲れんのだろう? つまるところ今回のは単なる事故で、奴らに私を傷つける意志はない。あくまで自分たちの下へ来させようとするような気概を感じられた。よって私は安全だ。安全に鬼によって連れ去られる」

「……矛盾している。何も安全ではない」

「そして、墓祭りが終わった後、青清君と進史様で私を奪還しに来い。上手くやれば鬼の居城が割れるやもしれん」

 

 水と油が混ざらないのなら、完全に分離してからもう一度掠め取りに行けばいい。

 それまでの間、私は鬼共と談話でもしていよう。あるいはそれが鬼という存在の理解へも繋がるだろうから。

 

「認可できない。危険すぎる」

「ハ、どの案も危険すぎるだろう。だが、被害が最も少なく、そして最も実があるのがこの案だ」

「私達の力を以てしてもお前を奪い返せなかったらどうする」

「その時は見捨てろ、非情になれ。……とはいえ、青清君が付きっきりで私の部屋にいるわけでもないのに鬼が私を攫いに来ないことを見るに、鬼とて青清君は怖いのではないか? そう考えれば青清君の力で私を取り戻すことは容易だろう」

「墓祭りの間にお前が殺されない保証はない。お前の言う安全は、お前が知っている情報においての安全だ。私達の知らぬこともあるだろう」

「だからなんだ。それで殺されていたらそれまでだろう。生憎と私は薄情でな、私が死した後の青州に然したる興味はない。水生(チーシン)の皆へ申し訳ないとは思うだろうが、それも摂理だろう。戦火の無い平定たる世を望む者こそが戦火を世に落とす。くだらんが、それが人間の性だ。時代が変われど世界が変われどそこだけは変わらん」

 

 今だって前世の家族や友達に思うことは何も無い。もしかしたら日本は他国の侵略や隕石の衝突とかで滅んでいるのかもしれないけれど、それが私に何の関係がある。

 死とは誰しもに訪れるモノなれば、生まれ直しという奇蹟を体現した今、もはや生者への寂寥など存在しない。

 

「青清君の気に入った退屈しのぎがこのような珍妙な魂の持ち主だったことを恨むが良いさ、進史様。気苦労痛み入るが、望んで得た立場だろう。せいぜい苦しんで、せいぜい幸福を掴め」

「……そういうところが、より青清君に似ていると……私はそう思うよ」

「失礼な。私は退屈だからって失踪したり芸ある者を呼びつけたりしない。自分で作る」

「その不敬極まりない言葉は聞かなかったことにしよう。……()()()()。お前の案に乗る」

「そう来なくてはな。散々詭弁を述べたが、人生ある程度の刺激は必要だ。死が隣り合わせの生活を好ましいとは言わんが、一切の挑戦無き生に意味があるとも思っていない。──作戦の要、どのようにして私の連れ去られた場所をお前達が見つけるか、についてを話す。……一応聞くが、輝術での位置特定はできるのか? できるのならこの策は必要ないんだが」

「範囲が絞られる。遠くへ行けば行くほどできなくなる。だから、策を話せ」

「良いだろう。──ではまず、人払いを。医院の者にも聞かれたくはない」

「なぜだ? ……なりすましではないと保証するぞ」

「彼らが鬼に攫われ、情報を吐けと拷問をされたらどうする」

「……はぁ。いいだろう、今回ばかりは全てお前の言う通りにするさ」

 

 口調を崩したな。

 良いぞ、進史さん。そうだ、ストレスをため込み過ぎない秘訣は、一定の所で妥協することだ。気を張り詰めすぎると短命になるからな。

 

 さて──作戦名は、まぁ。

 ヘンゼルとグレーテル作戦……だと流石に直訳ができないので……ええと。

 

 まぁ、大鋸屑作戦とかでいいか。

 

 

「ああそうだ、水を使った工芸品はもうできている。できているが、種類を用意したいから輝術で瓶を作ってほしい」

「そういう頼みばかりであれば、こちらの心労も少ないんだがな……」

 

 あれ、もしかしてむしろ気苦労増やしてたりする?




注意:
逆さオイルタイマーの本来の作り方だと、水+テトラブロモエタンを使う方が一般的です。というか多分現実世界だとこっちじゃないと作れません。
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